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真実を知りたい

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「日下部さん、帰りも送って行ってあげてね。佐藤さん、結構酔っているみたいだし……」

案の定、三人で飲んではしゃいでしまった。そんな中、私達を見ては、オロオロしている人物が居る。秋葉さんだ。秋葉さんはお酒が飲めない訳では無いが、この後は副社長とデートらしく、一滴も飲まずに過ごした。芋煮会は終了したが、何となく飲み足りない。

「えー、二次会行こうよー!」
「やったー!居酒屋行こー!」

澪子ちゃんと綾美ちゃんも飲み足りないのか、二次会に行きたいらしい。行く流れになりそうだったのだが、澪子ちゃんの彼氏からの電話で一転した。彼氏が終わる時間を見計らって、お迎えに来てくれたみたいだ。我に返った澪子ちゃんは、あっさりと退散する。そして私も二次会に行こうとしたのだが日下部君に強制連行され、車の中に閉じ込められた。

「お前、飲み過ぎなんだよ!」

日下部君は自分のシートベルトを締めると私に向かって、強い口調で言った。いつもよりもハイペースで飲んだから、酔いが回るのが早かった。日下部君が私のことをどう思っているのかを考えていたら、飲んで紛らわすしかなかったから。

「いいでしょ、楽しかったんだからっ!久しぶりに女の子同士で飲んで、楽しかったのっ!」

私は啖呵をきった。日下部君は溜め息をついてから、何も言わずに車を走らせる。私は日下部君を見ないように窓の外を見つめた。

「……秋葉さんって本当に良い人ね。気配りが上手で可愛いし、惚れちゃうのが分かるなぁ」

ボソリと呟く。芋煮会の最中に日下部君と秋葉さんが接触する度に私は心の中がチクチクと痛んだ。そんな事を思い出して心の声が漏れ出してしまう。

秋葉さんには日下部君への恋愛感情なんてないのは知っているのだけれど、二人の仲の良さがひしひしと伝わってきて辛かった。お互いがお互いの事を理解しているような、そんな関係。

「今、秋葉の話は関係ないだろ?」

また誤魔化した。もう恋愛感情はないって言ったくせに、私には本音ではない気がしてならない。もう、いいや。実に辛くて切ない。もう何も話す気力もない。自然に頬に涙がつたってきたから、私はさっと拭い、寝たフリをする。

虚しくて、ハートのゲージは空っぽな私。唇を噛み締めて、溢れ出しそうな涙をこらえた。

マンション付近に近づいた時に「どこかに寄るか?」と訪ねられたが、無気力な私はどこにも寄らずに真っ直ぐに帰宅をしたいと望んだ。帰宅した後、酔いを覚ましたいからと言ってシャワーを浴びる。シャワーのお湯が頭から全身に流れ落ち、涙も一緒に流れていった。

日下部君と一緒に過ごしていても、何度抱かれても、気持ちが手に入らないとただ虚しいだけ。秋葉さんの影を気にしている内は、日下部君と一緒に居るのは不合理なんだ。早い内に引越ししなくちゃ。

もう、とっくに限界は超えてるんだ。

いつまで待っても、好きだと言って貰えないなら、私から離れよう。せめて、今だけは恋人で居させて──

「日下部君もシャワー浴びる?」

髪も乾かして、ルームウェアにも着替えた私は何事も無かったかのように演じる。

「まだ、いいよ」

ソファーに座り、テレビを見ながらビールを飲んでいた日下部君の隣に座る。肩にコツンと頭を乗せる。

「ねぇ、日下部君……。私、今、すっごく、したい気分なんだよね」

「琴葉から誘うなんて、やっぱり、酔っ払いじゃん」

「……うん、まだ酔ってるよ」

本当は酔いなんて覚めている。無理矢理に日下部君の顔を私の方向に向けて、唇を重ねた。

この温もりを、いつまでも覚えていたい。日下部君の唇の感触も、骨ばった長い指も、細いけれど筋肉質な身体も……、全部を脳裏に焼き付ける。

「今日の琴葉は、やけに積極的だな」

日下部君のトップスを脱がせた後、カチャカチャと日下部君のベルトを外す。

「やっぱり、ベッドでしようか?行こうよ、ベッドに」

日下部君の手を取り、ベッドまで連れ出す。日下部君の頭の片隅に秋葉さんが居たとしても、今、この瞬間だけは忘れていて。今は私だけを見て、考えていて欲しい。

ベッドに来た途端に私は押し倒され、形勢逆転する。濃厚に絡み合い、時間が過ぎていく。日下部君の全てが心地好くて、気持ちが高ぶる。

大好きだよ、日下部君。

今は大好きでも、いつか必ず、大好きだったと過去になる。忘れる事の出来ない恋愛を胸の内に秘めて、違う誰かを好きになる日がきっと来るから、その時まで好きで居させてね──
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