33 / 59
ひと夏の思い出
1
しおりを挟む
お盆期間の前後を含めて、一週間は休暇がある。その期間を利用して、日下部君がリゾートホテルのビアガーデン宿泊プランを予約してくれた。リゾートホテルは避暑地と呼ばれる自然に囲まれている場所にある。
「ビールもカクテルも飲み放題って凄いなぁ!こんなにオシャレなビアガーデンに初めて来たよ」
サラリーマンのおじ様方が沢山居る屋上ビアガーデンとかならば、前の職場の方々に誘われて行ったことがある。おじ様達が沢山居る屋上ビアガーデンも開放感が溢れていて好きなのだが、このビアガーデンは家族連れも居るし、若いカップルから年配の御夫婦も楽しんでいる。そんな和やかな雰囲気を持ちつつ、場所は緑に囲まれている事が、とてつもなく良い……!
「連休中はお互いに予定がなかったから、琴葉と来られて良かったよ」
「予定なんて毎年ないよ。だって、おひとり様だから……」
本当はおひとり様の私の為に毎年、友達が一日は予定を空けといてくれるのだけれど……、今年は予定があると言って断ってしまった。『彼氏が出来たの?』と聞かれたが、彼氏では無いので仕事が忙しいとか適当な事を言ってはぐらかした。
「琴葉はもう、おひとり様じゃないでしょ?目の前に未来の旦那様が居るって言うのに……」
日下部君は地ビールを飲み干しながら、小さな声でボソボソと呟いた。私は聞こえないフリをして、目の前にあるチョリソーを口に運ぶ。こんな時、どう答えたら良いのかが分からない。彼女ならば、『そうだね』と答えられるのに。
「じ、地ビールって美味しいよね。今飲んでるのは一般的なビールよりも美味しいと思うなぁ」
小さな製造所で作られたクラフトビールと呼ばれる、生産者が選び抜いた麦が使われている地ビールも飲み放題なプラン。ここの地ビールはフルーティーな喉越しで飲みやすく、ほのかな甘みも感じて虜になりそう。
「そうだな。……酒、オカワリして来る」
返答に困り、はぐらかしてしまった。日下部君は、そんな私に対して溜め息を落とすとオカワリをしにバーカウンターへと向かった。
日下部君が本当に私をお嫁さん候補として見てくれているのならば、気持ちを素直に受け取りたい。しかし、日下部君からは『好きだ』とは言われないままに身体を重ねては、生活を共にしている。
たった一言なのに、日下部君の口からは聞けない。だから、いつまで経っても宙ぶらりんのままな関係。私から言おうにも、関係が壊れてしまう事を恐れてしまい、言い出せない。
日下部君が以前、無意識のままに口に出した『あきば』とは、秋葉さんの事だ。秋葉さんは私よりも年下で天然美人な女性らしい人。それに比べて私ときたら、酒好きだし、可愛げも無い30オーバーな人。自分で言うのも何だけれど、お肌は荒れてないと思うんだよね。それだけは自信がある。
お肌が荒れてないとはいえ、年齢はどうする事も出来ないし、秋葉さんみたいに女性らしくも振る舞えない。私の外見は女性だとしても、内面はおじさん寄りなのかもしれないよなぁ……。カフェよりも居酒屋大歓迎だし、一人でラーメン屋も構わず入れるし。秋葉さんなら、きっと一人でしない事も私は一人でも出来る。秋葉さんと比べる事が間違っているのかもしれないが、どうしても比べてしまう。
自分とはどこが違って、どういう所が日下部君が好きなのか、想像する。答えは明確だから、比べなくても良いのにね……。
カタンッ。
日下部君が戻って来て、ロックグラスをテーブル上のコースターに乱暴に置く。ロックグラスに注がれている透明な液体がテーブルに飛び散った。
「な、何を怒ってるの……?」
恐る恐る尋ねる。
「怒ってない」
「いやいや、怒ってるでしょ?」
日下部君は明らかに顔がムスッとしていて、私の方を見ようともしない。原因は私自身だと知っているけれど、私はあくまでも知らない振りをする。
「ビールもカクテルも飲み放題って凄いなぁ!こんなにオシャレなビアガーデンに初めて来たよ」
サラリーマンのおじ様方が沢山居る屋上ビアガーデンとかならば、前の職場の方々に誘われて行ったことがある。おじ様達が沢山居る屋上ビアガーデンも開放感が溢れていて好きなのだが、このビアガーデンは家族連れも居るし、若いカップルから年配の御夫婦も楽しんでいる。そんな和やかな雰囲気を持ちつつ、場所は緑に囲まれている事が、とてつもなく良い……!
「連休中はお互いに予定がなかったから、琴葉と来られて良かったよ」
「予定なんて毎年ないよ。だって、おひとり様だから……」
本当はおひとり様の私の為に毎年、友達が一日は予定を空けといてくれるのだけれど……、今年は予定があると言って断ってしまった。『彼氏が出来たの?』と聞かれたが、彼氏では無いので仕事が忙しいとか適当な事を言ってはぐらかした。
「琴葉はもう、おひとり様じゃないでしょ?目の前に未来の旦那様が居るって言うのに……」
日下部君は地ビールを飲み干しながら、小さな声でボソボソと呟いた。私は聞こえないフリをして、目の前にあるチョリソーを口に運ぶ。こんな時、どう答えたら良いのかが分からない。彼女ならば、『そうだね』と答えられるのに。
「じ、地ビールって美味しいよね。今飲んでるのは一般的なビールよりも美味しいと思うなぁ」
小さな製造所で作られたクラフトビールと呼ばれる、生産者が選び抜いた麦が使われている地ビールも飲み放題なプラン。ここの地ビールはフルーティーな喉越しで飲みやすく、ほのかな甘みも感じて虜になりそう。
「そうだな。……酒、オカワリして来る」
返答に困り、はぐらかしてしまった。日下部君は、そんな私に対して溜め息を落とすとオカワリをしにバーカウンターへと向かった。
日下部君が本当に私をお嫁さん候補として見てくれているのならば、気持ちを素直に受け取りたい。しかし、日下部君からは『好きだ』とは言われないままに身体を重ねては、生活を共にしている。
たった一言なのに、日下部君の口からは聞けない。だから、いつまで経っても宙ぶらりんのままな関係。私から言おうにも、関係が壊れてしまう事を恐れてしまい、言い出せない。
日下部君が以前、無意識のままに口に出した『あきば』とは、秋葉さんの事だ。秋葉さんは私よりも年下で天然美人な女性らしい人。それに比べて私ときたら、酒好きだし、可愛げも無い30オーバーな人。自分で言うのも何だけれど、お肌は荒れてないと思うんだよね。それだけは自信がある。
お肌が荒れてないとはいえ、年齢はどうする事も出来ないし、秋葉さんみたいに女性らしくも振る舞えない。私の外見は女性だとしても、内面はおじさん寄りなのかもしれないよなぁ……。カフェよりも居酒屋大歓迎だし、一人でラーメン屋も構わず入れるし。秋葉さんなら、きっと一人でしない事も私は一人でも出来る。秋葉さんと比べる事が間違っているのかもしれないが、どうしても比べてしまう。
自分とはどこが違って、どういう所が日下部君が好きなのか、想像する。答えは明確だから、比べなくても良いのにね……。
カタンッ。
日下部君が戻って来て、ロックグラスをテーブル上のコースターに乱暴に置く。ロックグラスに注がれている透明な液体がテーブルに飛び散った。
「な、何を怒ってるの……?」
恐る恐る尋ねる。
「怒ってない」
「いやいや、怒ってるでしょ?」
日下部君は明らかに顔がムスッとしていて、私の方を見ようともしない。原因は私自身だと知っているけれど、私はあくまでも知らない振りをする。
0
お気に入りに追加
123
あなたにおすすめの小説
【完結】もう一度やり直したいんです〜すれ違い契約夫婦は異国で再スタートする〜
四片霞彩
恋愛
「貴女の残りの命を私に下さい。貴女の命を有益に使います」
度重なる上司からのパワーハラスメントに耐え切れなくなった日向小春(ひなたこはる)が橋の上から身投げしようとした時、止めてくれたのは弁護士の若佐楓(わかさかえで)だった。
事情を知った楓に会社を訴えるように勧められるが、裁判費用が無い事を理由に小春は裁判を断り、再び身を投げようとする。
しかし追いかけてきた楓に再度止められると、裁判を無償で引き受ける条件として、契約結婚を提案されたのだった。
楓は所属している事務所の所長から、孫娘との結婚を勧められて困っており、 それを断る為にも、一時的に結婚してくれる相手が必要であった。
その代わり、もし小春が相手役を引き受けてくれるなら、裁判に必要な費用を貰わずに、無償で引き受けるとも。
ただ死ぬくらいなら、最後くらい、誰かの役に立ってから死のうと考えた小春は、楓と契約結婚をする事になったのだった。
その後、楓の結婚は回避するが、小春が会社を訴えた裁判は敗訴し、退職を余儀なくされた。
敗訴した事をきっかけに、裁判を引き受けてくれた楓との仲がすれ違うようになり、やがて国際弁護士になる為、楓は一人でニューヨークに旅立ったのだった。
それから、3年が経ったある日。
日本にいた小春の元に、突然楓から離婚届が送られてくる。
「私は若佐先生の事を何も知らない」
このまま離婚していいのか悩んだ小春は、荷物をまとめると、ニューヨーク行きの飛行機に乗る。
目的を果たした後も、契約結婚を解消しなかった楓の真意を知る為にもーー。
❄︎
※他サイトにも掲載しています。
アクセサリー
真麻一花
恋愛
キスは挨拶、セックスは遊び……。
そんな男の行動一つに、泣いて浮かれて、バカみたい。
実咲は付き合っている彼の浮気を見てしまった。
もう別れるしかない、そう覚悟を決めるが、雅貴を好きな気持ちが実咲の決心を揺るがせる。
こんな男に振り回されたくない。
別れを切り出した実咲に、雅貴の返した反応は、意外な物だった。
小説家になろうにも投稿してあります。
甘やかしてあげたい、傷ついたきみを。 〜真実の恋は強引で優しいハイスペックな彼との一夜の過ちからはじまった〜
泉南佳那
恋愛
植田奈月27歳 総務部のマドンナ
×
島内亮介28歳 営業部のエース
******************
繊維メーカーに勤める奈月は、7年間付き合った彼氏に振られたばかり。
亮介は元プロサッカー選手で会社でNo.1のイケメン。
会社の帰り道、自転車にぶつかりそうになり転んでしまった奈月を助けたのは亮介。
彼女を食事に誘い、東京タワーの目の前のラグジュアリーホテルのラウンジへ向かう。
ずっと眠れないと打ち明けた奈月に
「なあ、俺を睡眠薬代わりにしないか?」と誘いかける亮介。
「ぐっすり寝かせてあけるよ、俺が。つらいことなんかなかったと思えるぐらい、頭が真っ白になるまで甘やかして」
そうして、一夜の過ちを犯したふたりは、その後……
******************
クールな遊び人と思いきや、実は超熱血でとっても一途な亮介と、失恋拗らせ女子奈月のじれじれハッピーエンド・ラブストーリー(^▽^)
他サイトで、中短編1位、トレンド1位を獲得した作品です❣️
愛のない政略結婚で離婚したはずですが、子供ができた途端溺愛モードで元旦那が迫ってくるんですがなんででしょう?
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「お腹の子も君も僕のものだ。
2度目の離婚はないと思え」
宣利と結婚したのは一年前。
彼の曾祖父が財閥家と姻戚関係になりたいと強引に押したからだった。
父親の経営する会社の建て直しを条件に、結婚を承知した。
かたや元財閥家とはいえ今は経営難で倒産寸前の会社の娘。
かたや世界有数の自動車企業の御曹司。
立場の違いは大きく、宣利は冷たくて結婚を後悔した。
けれどそのうち、厳しいものの誠実な人だと知り、惹かれていく。
しかし曾祖父が死ねば離婚だと言われていたので、感情を隠す。
結婚から一年後。
とうとう曾祖父が亡くなる。
当然、宣利から離婚を切り出された。
未練はあったが困らせるのは嫌で、承知する。
最後に抱きたいと言われ、最初で最後、宣利に身体を預ける。
離婚後、妊娠に気づいた。
それを宣利に知られ、復縁を求められるまではまあいい。
でも、離婚前が嘘みたいに、溺愛してくるのはなんでですか!?
羽島花琳 はじま かりん
26歳
外食産業チェーン『エールダンジュ』グループご令嬢
自身は普通に会社員をしている
明るく朗らか
あまり物事には執着しない
若干(?)天然
×
倉森宣利 くらもり たかとし
32歳
世界有数の自動車企業『TAIGA』グループ御曹司
自身は核企業『TAIGA自動車』専務
冷酷で厳しそうに見られがちだが、誠実な人
心を開いた人間にはとことん甘い顔を見せる
なんで私、子供ができた途端に復縁を迫られてるんですかね……?
時間を止めて ~忘れられない元カレは完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な人でした 【完結】
remo
恋愛
どんなに好きになっても、彼は絶対に私を愛さない。
佐倉ここ。
玩具メーカーで働く24歳のOL。
鬼上司・高野雅(がく)に叱責されながら仕事に奔走する中、忘れられない元カレ・常盤千晃(ちあき)に再会。
完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な彼には、悲しい秘密があった。
【完結】ありがとうございました‼
憧れのあなたとの再会は私の運命を変えました~ハッピーウェディングは御曹司との偽装恋愛から始まる~
けいこ
恋愛
15歳のまだ子どもだった私を励まし続けてくれた家庭教師の「千隼先生」。
私は密かに先生に「憧れ」ていた。
でもこれは、恋心じゃなくただの「憧れ」。
そう思って生きてきたのに、10年の月日が過ぎ去って25歳になった私は、再び「千隼先生」に出会ってしまった。
久しぶりに会った先生は、男性なのにとんでもなく美しい顔立ちで、ありえない程の大人の魅力と色気をまとってた。
まるで人気モデルのような文句のつけようもないスタイルで、その姿は周りを魅了して止まない。
しかも、高級ホテルなどを世界展開する日本有数の大企業「晴月グループ」の御曹司だったなんて…
ウエディングプランナーとして働く私と、一緒に仕事をしている仲間達との関係、そして、家族の絆…
様々な人間関係の中で進んでいく新しい展開は、毎日何が起こってるのかわからないくらい目まぐるしくて。
『僕達の再会は…本当の奇跡だ。里桜ちゃんとの出会いを僕は大切にしたいと思ってる』
「憧れ」のままの存在だったはずの先生との再会。
気づけば「千隼先生」に偽装恋愛の相手を頼まれて…
ねえ、この出会いに何か意味はあるの?
本当に…「奇跡」なの?
それとも…
晴月グループ
LUNA BLUホテル東京ベイ 経営企画部長
晴月 千隼(はづき ちはや) 30歳
×
LUNA BLUホテル東京ベイ
ウエディングプランナー
優木 里桜(ゆうき りお) 25歳
うららかな春の到来と共に、今、2人の止まった時間がキラキラと鮮やかに動き出す。
Promise Ring
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
浅井夕海、OL。
下請け会社の社長、多賀谷さんを社長室に案内する際、ふたりっきりのエレベーターで突然、うなじにキスされました。
若くして独立し、業績も上々。
しかも独身でイケメン、そんな多賀谷社長が地味で無表情な私なんか相手にするはずなくて。
なのに次きたとき、やっぱりふたりっきりのエレベーターで……。
極道に大切に飼われた、お姫様
真木
恋愛
珈涼は父の組のため、生粋の極道、月岡に大切に飼われるようにして暮らすことになる。憧れていた月岡に甲斐甲斐しく世話を焼かれるのも、教え込まれるように夜ごと結ばれるのも、珈涼はただ恐ろしくて殻にこもっていく。繊細で怖がりな少女と、愛情の伝え方が下手な極道の、すれ違いラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる