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恋人みたいな過ごし方

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一番近い駅まで歩き、次の目的地を考える。今日のお出かけは行き当たりばったりのノープラン。

「夕食は私が行きたい場所でも良い?」

「うん。佐藤が好きな場所に行こう」

最初で最後かもしれない、恋人みたいなデートだからこそ、思う存分に楽しみたい。一度行ってみたかったんだ、大切な人と一緒に夜景の見えるレストランに。ムーディな雰囲気にカクテルなんか飲んで、語り合いたい。

私はスマホから良さげな場所を探し出し、当日予約を入れた。なるべく自宅に帰りやすい場所で夜景の綺麗な食事の評価も高いレストラン。

「佐藤、危ない!……良かった、落ちなくて」

駅の階段を登っていると上から降りてきた人が私に衝突しそうになった。日下部君が咄嗟に私の肩を抱き寄せてくれたから助かった。日下部君とのお出かけに舞い上がり過ぎていて、私の注意力も散乱している。勢いよく降りてきたので、日下部君が居なければ落ちて居たかもしれないと思うとゾッとした。

「ありがとう……」

「ほら、危ないから。歩く時は繋いでな」

「……うん」

日下部君に右手を差し出され、素直に受け取る。ホームに着いてから、日下部君は何の前触れもなく手繋ぎの仕方を変えた。俗に言う恋人繋ぎに直される。日下部君の骨ばった長い指に私の指を絡ませる。不意に日下部君の顔を見上げてしまったら、顔がほんのりと赤くなっていた。自分から手を繋いで照れている日下部君、凄くツボにハマる。可愛い。

「何で笑うんだよ」

「あまりにも日下部君が可愛くて、つい……」

微笑ましくて笑みを浮かべたら、日下部君に気付かれて睨まれる。そのタイミングで電車が到着し、乗る前に「ばぁーかっ!」と言われた。電車内では立って居たからか、手繋ぎのままだった。

『美男美女だね、素敵!』『いーなー、羨ましい!』と側に座って居た20代前半位の女の子達にジロジロ見られながら、呟かれた。私達の事を言ってるのだろうか?私は兎も角として、確かに日下部君はカッコイイもんね、憧れるのは分かる。

目的地まで着いたら、辺りはすっかり暗くなっていた。予約していたお店はショッピングモールの中にある。

「ここは美味しい地中海料理と本格カクテルのお店なんだって。当日だったけど、夜景が見える窓際の席を予約出来て良かった」

「普段、こんな場所には来ないからな。女は夜景とか好きだもんな」

窓際の席は恋人達が横並びに座れるようになっている。少し間をかけて別の恋人が座っているので、恋人又は二名専用の座席かもしれない。私達はお互いに食べてみたい地中海料理とお酒をオーダーした。

「日下部君って本当にビール好きだね。とりあえず生ビール的な」

「そうだよ、とりあえず生ビールなんだよ。二杯目はカクテルをオーダーするから」

「別に合わせなくて良いよ」

私は食前酒に最適なキール・ロワイヤルをオーダーした。シャンパンベースが美味しい。目の前に広がる綺麗な夜景に魅力されながら、日下部君との時間を堪能する。周りから見たら私達は完全に恋人同士だよね?

「……日下部君はさ、元カノとのデートってどこに行ってた?」

「んー?俺、思い出深い元カノとか居ないけど……。大学時代に付き合ったって言っても、年上とかだから相手からしても暇つぶし程度だったのかもな」

食事を楽しみながら三杯目のカクテルの酔いに委ねて勇気を出して聞いてみたいのは良かったのだが……意外な返事だった。私にはこんなにも尽くしてくれているのに、思い出深い元カノが居ないってどういう事?

「暇つぶし?」

「うん、多分、そう。彼氏と喧嘩した時とかの埋め合わせみたいな関係。俺も本気になれる人は見つからなかったからな……」

「そっか……」

それなら、私も暇つぶしなんじゃない?詳しくは聞かないけれど、日下部君の歴代の彼女達とは身体の関係もあったように聞こえるし。私はグラスを手に持ちながら俯いた。

「佐藤はね……、初めての”特別枠”ね」

私の顎に指をかけて、クイッと上を向かせた。日下部君の方に顔を向けたら、流し目で微笑まれた。ヤバイ、これはヤバイやつだ。ドキドキが止まらない。日下部君はお酒が入ると甘くなるから、私は常にキュン死に寸前で、所詮は流されてしまうのだ。

人気のお店なので予約の席は二時間までしかチャージ出来ない事になっていて良かった。時間内に食事を済ませ、予定通りに私が会計を済ませた。

「期間限定のショッピングモールキャンペーンをしておりまして、スクラッチクジが引けます。お客様は5枚引けますので、こちらからどうぞ」

帰り際に店員さんにスクラッチクジを引かせてもらって、指示に従ってコインで削る。

「おめでとうございます、系列のホテル宿泊施設利用券が当たりましたね!全体で3枚しか入っていないので凄いですよ!お帰りの際にサービスカウンターにて利用券と交換して行って下さいね!」

「ありがとうございます、嬉しいです」

私よりも店員さんのテンションの方が高かった。サービスカウンターに寄り利用券を受け取り、利用方法の説明を受けた。

「すっごい、系列ホテルのツイン宿泊利用券だって!わー、有名な高級ホテルじゃん!」

「良かったな」

「日下部君、一緒に行こう!」

「うん、喜んで」

ショッピングモールを出て駅まで歩いている途中、私は墓穴を掘った。嬉しさに舞い上がり、日下部君を誘ってしまった。

「またデートしような」

頭をグリグリと撫で回し、再び恋人同士の手繋ぎをされる。本当に今日は幸せな一日だった。ありがとう、日下部君───……
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