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雨に打たれる

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日下部君と一緒に居ると落ち着く。たまたま再開して一緒に居るようになって、好きだった想いが再熱する。以前よりも距離は近いけれど、恋仲には程遠い関係。

明日もお互いに仕事があるので、程よく二人飲みを切り上げて電車に乗り込む。同じ沿線と言っていた。カレカノだとしたら、どちらかの家に泊まれたのにな。途中でお別れだなんて寂しい。

「俺、二駅先だからホームに戻るから。ここから自宅まではきちんとタクシーに乗って帰ること」

「……うん」

居酒屋では沢山話をしていたのに、外に出てからは会話がなくなった。何故だろう?楽しかった雰囲気も束の間、どちらともなく口を開かなくなり、しまいには無言になった。ほろ酔い気分で家まで帰りたい。このままでは、帰る前に酔いが冷めてしまう。人間と言うのは不思議なもので、些細な出来事が影響して心の中が寂しくなると一気に酔いが冷めてしまう。私だけかもしれないけれど……。

「じゃあ、またな。今日はありがとう……」

「こちらこそ……」

電車の中では隣通しに座っていた。私が降りる駅に着き、ドアが開く。日下部君は私を自宅までタクシーに乗せるためだけに一緒に降りた。自宅は駅に近いから歩いて帰れると言ったけれど、夜遅いからと心配されタクシーに乗せられた。別れの挨拶をした日下部君は振り向かずに歩き出した。日下部君が行ってしまう……!小さくなって行く背中を見つめていたら急激な寂しさに襲われ、私は乗せられたタクシーから降りて駆け寄る。

「な、何でタクシーから降りたんだよ?」

「わ、分からないけど……日下部君、傘持ってないでしょ?……って、あれ?私の傘、どこに置き忘れちゃったんだろう?」

「……傘忘れたら意味ないじゃん」

衝撃的な私の行動に驚いていた日下部君も次第に笑みが零れた。傘は多分、電車の中かもしれない。座っていたのが一番端だったので、電車と椅子の部分を繋いでいるステンレスの部分に傘の柄をかけていたのだ。そこに置いてきたような気がする……。

「あ、でもね、折り畳み傘があるの。これを日下部君に貸してあげる」

バッグの中から折り畳み傘を取り出して、日下部君に手渡す。

「明日も仕事だから早く帰りたいって言ってたけど、本当はまだ帰りたくないの?」

無理矢理に手の内に収められた折り畳み傘を持ちつつ、日下部君は呆れ顔で言った。

「……分からない。だって、帰っても一人だもん」

「だったら、……俺んち、来る?もう遅いし、泊まってけよ。俺はソファーで寝るから。まぁ、無理にとは言わないけどな……」

私は日下部君から誘われるとは思わずに目を丸くした。返答に困り、数秒後に首を縦に振る。私の反応を見てから折り畳み傘は再び私のバッグの隙間から返された。日下部君は前髪をかきあげて、私の右手を左手で包む。

なにこれ、何コレ??手を繋がれてる??本物のカレカノみたいだわ。年甲斐もなく、ドキドキしちゃう。

「タクシーに乗る前にコンビニ寄って、必要な物を買って行こうか?」

日下部君の自宅周辺の駅に着き、コンビニに立ち寄る。泊まるからには下着買わなきゃ行けないよね……。あと急だったからお泊まりセットに、日下部君とあと一本位はお酒飲むとしてお酒も買おう。色々とカゴに入れてレジで会計をしていると日下部君に電話がかかって来た。

「あ、何だよ。お前かよ。茶系で良いけど、デザインは何パターンか用意出来るか?」

親しい人物のようだったが、相手がすぐに判明する。仕事中の関係と日下部君が嬉しそうに笑って話せる相手はきっと"秋葉さん"だ。日下部君はコンビニの外に出て、雨に濡れないような場所で電話していた。

会計を済ませた私が日下部君の元へ行くとまだ話していた。私と話すよりも会話が弾んでいる。もう既に仕事の用事の電話じゃないじゃない?

「待たせてごめん……って、何してるんだ?馬鹿だな、風邪引くぞ」

私は降りしきる雨の中に立っていた。秋葉さんに対する"好きだ"と言う心情が日下部君から溢れ出していて、目の前で見せつけられているようで耐えられなかった。涙が落ちて来て止まらないから、雨が降っていて良かった───……
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