上 下
12 / 59
雨に打たれる

4

しおりを挟む
「俺はビールにしようかな……」

「私は青リンゴサワーにしよ」

私達は焼き鳥などのツマミも注文し、お酒が届いた直後に乾杯をした。爽やかな甘さの青リンゴサワーが喉に通っていく。

「居酒屋に来てからで申し訳ないけど、車は置いて行くの?」

「うん、明日の朝は電車で行くからいいや。今年に入ってから引越ししたんだけど、偶然にも委員長と同じ沿線の電車」

「え?そうなんだ。日下部君って実家に住んでいるのかと思ってた」

「部長職に就いた時には引越ししたんだ。流石に実家には居たくないな……と思って」

引越し前はまだ弟も小学生で日下部君を慕っていて、引越しするのに迷っていたらしい。弟も中学生になった事を機に引越しをして、今は一人暮らし。

「委員長は大学から一人暮らし?」

「そうだよ、ずっと一人暮らし。結婚するまでは仕送りも続けようと思ってる」

大学時代の生活費は、仕送りとアルバイト代でどうにか間に合わせていた。今まで育ててくれた分、仕送りしている。

「俺も結婚するまでは仕送りしようと思ってるんだ。……って、義理の弟に先を越されて独り身なんだけどな」

そう言いながら日下部君はビールを飲み干し、ジョッキの中身を空にした。私達はおかわりのお酒を注文し、ツマミを頬張る。

「……日下部君なら、結婚相手はすぐに見つかるよ」

私はボソリと呟く。日下部君がその気になれば、器量が良くて可愛いお嫁さんなんてすぐに見つかる。

「それが……、そうでもないんだ」

私の顔をじっと見つめながら言われた。言葉の間は何だろう?私はお嫁さん候補ではないよって言いたかったのかな?

「……委員長は?選り好みしてるからおひとり様なの?」

「し、してないよ!」

「委員長がおひとり様だなんて信じられない。委員長こそ、真面目で誠実な人……例えば医者とかと結婚しそうだったんだけどな」

私は真面目で誠実だけが取り柄の人は、きっと飽きてしまうと思う。日下部君には私はいつまでも優等生の委員長のままにしか見えてないんだろうな。

「余計なお世話だから!それからもう委員長じゃないんだから、委員長って呼ぶのは止めて!」

「はいはい、ごめんって」

私は右手に持っていたグラスをドンッと勢い良くテーブルに置く。また可愛げのない一言を発してしまった。

「い、……佐藤の好みのタイプってどんな人?」

日下部君は委員長と言いかけて、慌てて私の名字を呼んだ。私のタイプを聞かれても、目の前の貴方でしかない。ずっとずっと憧れの存在。時を経て再開しても尚、それは変わらない。

「教えない。色んな意味で詮索されたくないから。好みなタイプを教えると友達紹介するよ、とかお見合いどう?とか言われるから」

日下部君だなんて、流石に言えないから誤魔化すように答える。

「……随分とひねくれ者になったな、佐藤は」

「だって私、皆が思ってるよりも優等生じゃないもの。こっちが素の私。可愛げがなくて、お酒が大好きな私が今の私なの」

「そっか。……今の佐藤の方が前よりも好きだな」

「え?」

「高校生の時は真面目が制服を着て歩いてるみたいな人だったから、冗談言ってもあんまり笑ってくれなかったりしたけど、今の方が親しみやすくて良いよ」

咄嗟に聞き直してしまったけれど、友達としての"好き"だよね?Loveじゃなくて、likeの方。……だとしても素直に喜ばしくて、舞い上がってしまう。

「……あ、ありがとう」

ニコッと不意打ちの笑顔を向けられる。日下部君はお酒が入ると甘くなる人なんだな。当人は無自覚だろうけれど。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

2人のあなたに愛されて ~歪んだ溺愛と密かな溺愛~

けいこ
恋愛
「柚葉ちゃん。僕と付き合ってほしい。ずっと君のことが好きだったんだ」 片思いだった若きイケメン社長からの突然の告白。 嘘みたいに深い愛情を注がれ、毎日ドキドキの日々を過ごしてる。 「僕の奥さんは柚葉しかいない。どんなことがあっても、一生君を幸せにするから。嘘じゃないよ。絶対に君を離さない」 結婚も決まって幸せ過ぎる私の目の前に現れたのは、もう1人のあなた。 大好きな彼の双子の弟。 第一印象は最悪―― なのに、信じられない裏切りによって天国から地獄に突き落とされた私を、あなたは不器用に包み込んでくれる。 愛情、裏切り、偽装恋愛、同居……そして、結婚。 あんなに穏やかだったはずの日常が、突然、嵐に巻き込まれたかのように目まぐるしく動き出す――

同居人以上恋人未満〜そんな2人にコウノトリがやってきた!!〜

鳴宮鶉子
恋愛
小学生の頃からの腐れ縁のあいつと共同生活をしてるわたし。恋人当然の付き合いをしていたからコウノトリが間違えて来ちゃった!

【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~

蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。 嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。 だから、仲の良い同期のままでいたい。 そう思っているのに。 今までと違う甘い視線で見つめられて、 “女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。 全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。 「勘違いじゃないから」 告白したい御曹司と 告白されたくない小ボケ女子 ラブバトル開始

冷たい外科医の心を溶かしたのは

みずほ
恋愛
冷たい外科医と天然万年脳内お花畑ちゃんの、年齢差ラブコメです。 《あらすじ》 都心の二次救急病院で外科医師として働く永崎彰人。夜間当直中、急アルとして診た患者が突然自分の妹だと名乗り、まさかの波乱しかない同居生活がスタート。悠々自適な30代独身ライフに割り込んできた、自称妹に振り回される日々。 アホ女相手に恋愛なんて絶対したくない冷たい外科医vsネジが2、3本吹っ飛んだ自己肯定感の塊、タフなポジティブガール。 ラブよりもコメディ寄りかもしれません。ずっとドタバタしてます。 元々ベリカに掲載していました。 昔書いた作品でツッコミどころ満載のお話ですが、サクッと読めるので何かの片手間にお読み頂ければ幸いです。

遠回りの恋の行方は

国樹田 樹
恋愛
――二年付き合った人に別れを告げた。告白されたからという理由だけで付き合える様な、そんな女だった筈なのに、いつの間にか胸には想う人が居て。 「お前、別れたんだって?」 かつての恋人と別れてから一週間後。 残業上がりのオフィスでそう声をかけてきたのは、私が決して想いを告げる事の無い、近くて遠い、上司だった。

あまやかしても、いいですか?

藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。 「俺ね、ダメなんだ」 「あーもう、キスしたい」 「それこそだめです」  甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の 契約結婚生活とはこれいかに。

甘い束縛

はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。 ※小説家なろうサイト様にも載せています。

処理中です...