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ブラックアウト

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週末、おひとり様を満喫しようと仕事帰りにたまたま立ち寄ったショットバー。扉を開けると同時にカウンターで一人飲みをしている泥酔寸前の男が目に入った。

紺色のスリムスーツを身に纏うその男に見覚えがあり、思わず声をかけずには居られなかった。

「もしかして……日下部君?」

「……何だよ?」

「やっぱり!日下部君でしょ?久しぶりだね」

「……はぁ?……っるさいんだよ、委員長はぁ!」

ショットグラスを片手に持ち、溜息をつきながら飲み干した男は高校時代の同級生である。高校卒業後、成人式の式典で再会したが、それ以降は会った事などなかった。

高校時代は確かに学級委員長をしていた。かれこれ十年は会っていないのに自分の存在を当てられた事に胸の鼓動が高まる。

「相当酔ってるみたいだけど、何かあったの?」

私は隣の椅子にそっと腰をかけた。

「んー?……、別に…何もない」

「ない訳ないじゃない?そんなに酔ってるんだから。せっかく久しぶりに会えたんだからさ、少し話をしようよ?」

私はシャンパンと日下部君用にお冷を注文した。お冷を出された日下部君は私を睨みつけたが、渋々と喉に流し込んでいた。

「……てゆーか、委員長は何してるの?」

カウンターテーブルに頬ずえを付きながら、私の事をじっと眺めてくる。

「仕事帰りにね、たまたま寄ったの。おひとり様だから、週末は一人でお仕事お疲れ様会だよ」

「……おひとり様ねぇ。俺もそうだから、カンパーイッ!」

不意打ちに見せられた、笑顔は反則だ。酔っているせいか、目がトロンとしているが、男の色気と言うものを感じる。

「日下部君もおひとり様なの?」

「そうだよ、俺はずぅーっと、おひとり様」

端正な顔立ちをしている目の前の男が、今、この瞬間だけは私だけを見ている。高校時代、日下部君が好きだった私。甘酸っぱい青春時代の思い出が蘇る。

私達は成績の上位を争い、委員会や生徒会で一緒に役員をしたり、正に戦友と言う関係。容姿端麗、成績優秀で更には性格も良かった日下部君は女の子ならず、教師や同性にもモテまくりだった。私も想いを寄せていた一人だったが、気持ちを告げる事も出来ずに友情のカテゴリーからは抜け出せなかった。

気持ちを告げてしまったら、築いてきた友情が壊れてしまう。そう思ったら、行動を起こすことは出来なかった。

───あの時、気持ちを告げていたら私達はどうなっていたのだろうか?

「……弟にさ、好きな女、かっさわられて……格好悪いだろ?」

「ん?日下部君の弟って、今は高校生位?」

「違う。離婚した母親の子供。義理の弟って奴が居たんだよ、そいつに奪われた」

「そ、そうなんだ。……色々と衝撃的な話だね」

日下部君の家は幼い頃に離婚している。日下部君は父親に引き取られ、その後に再婚して弟が産まれたと聞いている。高校時代にまだ小学生に成り立てと言っていたので、現在は高校生だと推測する。その子ではないとしたら、義理の弟の話は初耳だ。

「義理の弟って奴が、また憎めない奴でさ。俺に母親の会社を継いでくれ、とか、これからは仲良くしようとか言って来る訳!マジでふざけんなって思うんだけど……、頼ってくるから可愛いとも思うけどな、やっぱり、アイツ、許せないわー」

支離滅裂な上、状況が上手く飲み込めないから、どっちが本当の気持ちなのか理解出来ない。

「……それで、日下部君は一人飲みしてたの?」

「そうそう、そうなんだよ!今度、アイツらは結婚するんだってさ」

「そうなんだ……」

義理の弟ならば、祝福するべきか、否か。分からずに言葉が詰まる。つまり、日下部君は失恋のヤケ酒ってところなんだろうな?

「女々しいし、馬鹿みたいな話だけど、ずっと傍で見守って来たんだ。妹みたいな存在だったけど、俺には可愛くて可愛くて仕方なかった……」

"妹みたいな存在"か……。強がってばかりいて、素直じゃない私には程遠い存在なのかもしれない。

小さい頃から女の子よりも男の子と遊ぶ方が多く、気分的にも楽だった。遊び方の内容もお人形遊びよりも、鬼ごっこやサッカーとかの身体を動かす遊びの方が好きだった。

男勝りで生きてきた私だったけれど、成人式の前撮りは可愛く映りたいとか、式典に参加した際には可愛く見られたいとか、欲が出てきて短い髪を伸ばす決心をする。その事がきっかけになり、ショートボブを伸ばし始め、今でもふわふわウェーブを継続している。

成人式には編み込みをしてアップをした髪型で参加したが、今日は下ろしている。ショートボブではない私を日下部君が見るのは二回目だと思うのだが、酔っているせいか、何も言われない。

化粧も程よくして、髪型も変わって、女らしくなったと自画自賛しているのだけれども日下部君には興味がないのかも?

酔っているとはいえ、何だか虚しい。
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