57 / 73
糖度12*決断すべき、お別れの時
4
しおりを挟む
「…でも、今のところ、良い返事は貰えてない。アイツにとって、天秤にかける物が2つあるから迷ってるんだと思う。お前と同じく寂しいんだって。迷ってるから、お前に言い出せないんだと思う」
"天秤にかける物が2つ"───1つ目が私だとしたら、もう1つは高橋さんだと思うんだ。
バイヤーに興味を持っていたのは何となく知っていた。
色んな国を飛び回る綾美、想像出来なくもないな。
どちらにしても、仕事の出来る女の綾美なら上手く行くはずだ。
綾美の夢なら、背中を押してあげなきゃいけない。
「…高橋さんの名前もありませんでした?」
「あぁ。アイツも誘おうと思っだけど、良く考えたら、企画とか営業は向いてないからやめた。総務部がのんびりしてるからちょうどいい」
確かに…高橋さんはデスクワーク向きの人。
日下部さんは高橋さんが大好きだから、一緒に仕事したかったのかもしれないけれど…拠点が本社なら、いつでも会える。
「…日下部さんはいつ居なくなっちゃうの?」
「…来年の4月には正式に辞令が出るはずだ。まだ企画開発部に所属しているが、しばらくは同時進行」
「そうなんですね…」
来年の4月には違う誰かが部長の席に座るのか・・・。
日下部さんとの言い合いも、綾美とのコソコソした手紙のやり取りも、佐藤さんと隣り合わせのデスクも・・・皆、なくなってしまうんだ。
物事は日々、進化していくけれど・・・別れも付き物だって事だ。
皆が居ない未来を考えて涙目になっている自分を見られたくないから、窓の外を眺めている振りをした。
涙がこぼれないように唇をキュッと噛みながら───・・・・・・
予定通りの14時にクライアントのLUPINUSバス株式会社に到着し、商談を終えた。
女子社員にって沢山の入浴剤を頂いた。
アロマバスソルトのパッケージが可愛く、袋を鼻に近づけると本の僅かながら、良い香りがする。
「商談が上手くまとまって良かったですね」
「そうだな…」
頂いた入浴剤を車の後部座席に積み、助手席へ座る。
帰りの車の中は話が弾まず、無言も多かった。
新しい店舗の事とか、本当は聞きたい事も沢山あって、けれども・・・言葉を発する事が出来なくて黙る。
同期の立場として聞けば良いんだろうけれど、今の状況を素直に喜べないから上手く聞き出せない。
新しい門出を応援はしてあげたい、でも頭の中の整理が出来てない。
ブラコン、卒業しなきゃなぁ。
日下部さんに頼らない為にも、部署は別々な方が良いに決まってる。
こんな私でも好きになってくれたなら、今のままじゃ駄目だ。
決断すべき、お別れの時。
「…日下部さん」
「…何?」
しばらくの沈黙の後に話しかけたら、いつになく優しい言い方で聞き返された。
「私、ブラコン卒業しますから、日下部さんが部長じゃなくなっても大丈夫です。お兄ちゃんに頼らなくても頑張ります!」
「……うん、そうしてくれたら助かる。安心して移動出来る。俺が居なくても、お前は1人で歩いて行けるから大丈夫」
言葉を選びながら伝える。
今まで見守っていてくれた分、今度は私が見守る立場に立つ。
「それから…え、…っと、お嫁さん候補が出来たら真っ先に紹介して下さいね。妹として、相応しくなかったら反対します!」
「…何でそんなに偉そうなんだよ」
「妹だからです!」
「…まぁ、義理の妹になる日も近いだろうから…もう、それでいいよ」
運転しながらクスクスと笑う日下部さんは、
「俺は妹として見た事は一度もなかった。
今日の商談はお前はほぼ必要なかったけど、新しい店舗の話も出来ないままだったから、職権乱用して連れ出したんだ」
と続けて話をした。
「…前からの約束でしたから、ドライブ行くのは…。商談なら、誰も何も言いませんよ?
日下部さん…ずっと気付けなくてごめんなさい。…好きになってくれて、ありが、と…!?」
べチッ。
「…いたっ!」
「自惚れてんじゃねーよ、バーカッ!」
誠心誠意を込めて、その上、恥ずかしさを忍んで伝えたのに言葉を掻き消すかの様におでこを叩かれた。
こないだまでは運転もままならなかったクセに、片手ハンドル(右)で左手で叩くとは恐るべし。
「…奪ってやろうって思ってたけど、有澄と居る時のお前は本当に楽しそうに笑うから、戦意喪失した。まぁ、俺なら、お前以上の女だって簡単に落とせるから、有澄にくれてやるよ」
うぅっ、まぁ、日下部さんなら簡単に女性が着いて行くでしょうよ?・・・分かってるよ、そんな事は・・・!
「……有澄と破談したら、おいで。第2か、第3夫人位にはしてやる」
「破談しません!それに日本は一夫多妻制じゃないしっ!」
人が真面目に話してるのに茶化して、誤魔化して笑ってるし・・・!
私が膨れっ面をしていると、ふわりと左手が頭の上に触れた。
「…幸せになれよ」って小さく聞こえたので、何も言わずにうなづいた。
"天秤にかける物が2つ"───1つ目が私だとしたら、もう1つは高橋さんだと思うんだ。
バイヤーに興味を持っていたのは何となく知っていた。
色んな国を飛び回る綾美、想像出来なくもないな。
どちらにしても、仕事の出来る女の綾美なら上手く行くはずだ。
綾美の夢なら、背中を押してあげなきゃいけない。
「…高橋さんの名前もありませんでした?」
「あぁ。アイツも誘おうと思っだけど、良く考えたら、企画とか営業は向いてないからやめた。総務部がのんびりしてるからちょうどいい」
確かに…高橋さんはデスクワーク向きの人。
日下部さんは高橋さんが大好きだから、一緒に仕事したかったのかもしれないけれど…拠点が本社なら、いつでも会える。
「…日下部さんはいつ居なくなっちゃうの?」
「…来年の4月には正式に辞令が出るはずだ。まだ企画開発部に所属しているが、しばらくは同時進行」
「そうなんですね…」
来年の4月には違う誰かが部長の席に座るのか・・・。
日下部さんとの言い合いも、綾美とのコソコソした手紙のやり取りも、佐藤さんと隣り合わせのデスクも・・・皆、なくなってしまうんだ。
物事は日々、進化していくけれど・・・別れも付き物だって事だ。
皆が居ない未来を考えて涙目になっている自分を見られたくないから、窓の外を眺めている振りをした。
涙がこぼれないように唇をキュッと噛みながら───・・・・・・
予定通りの14時にクライアントのLUPINUSバス株式会社に到着し、商談を終えた。
女子社員にって沢山の入浴剤を頂いた。
アロマバスソルトのパッケージが可愛く、袋を鼻に近づけると本の僅かながら、良い香りがする。
「商談が上手くまとまって良かったですね」
「そうだな…」
頂いた入浴剤を車の後部座席に積み、助手席へ座る。
帰りの車の中は話が弾まず、無言も多かった。
新しい店舗の事とか、本当は聞きたい事も沢山あって、けれども・・・言葉を発する事が出来なくて黙る。
同期の立場として聞けば良いんだろうけれど、今の状況を素直に喜べないから上手く聞き出せない。
新しい門出を応援はしてあげたい、でも頭の中の整理が出来てない。
ブラコン、卒業しなきゃなぁ。
日下部さんに頼らない為にも、部署は別々な方が良いに決まってる。
こんな私でも好きになってくれたなら、今のままじゃ駄目だ。
決断すべき、お別れの時。
「…日下部さん」
「…何?」
しばらくの沈黙の後に話しかけたら、いつになく優しい言い方で聞き返された。
「私、ブラコン卒業しますから、日下部さんが部長じゃなくなっても大丈夫です。お兄ちゃんに頼らなくても頑張ります!」
「……うん、そうしてくれたら助かる。安心して移動出来る。俺が居なくても、お前は1人で歩いて行けるから大丈夫」
言葉を選びながら伝える。
今まで見守っていてくれた分、今度は私が見守る立場に立つ。
「それから…え、…っと、お嫁さん候補が出来たら真っ先に紹介して下さいね。妹として、相応しくなかったら反対します!」
「…何でそんなに偉そうなんだよ」
「妹だからです!」
「…まぁ、義理の妹になる日も近いだろうから…もう、それでいいよ」
運転しながらクスクスと笑う日下部さんは、
「俺は妹として見た事は一度もなかった。
今日の商談はお前はほぼ必要なかったけど、新しい店舗の話も出来ないままだったから、職権乱用して連れ出したんだ」
と続けて話をした。
「…前からの約束でしたから、ドライブ行くのは…。商談なら、誰も何も言いませんよ?
日下部さん…ずっと気付けなくてごめんなさい。…好きになってくれて、ありが、と…!?」
べチッ。
「…いたっ!」
「自惚れてんじゃねーよ、バーカッ!」
誠心誠意を込めて、その上、恥ずかしさを忍んで伝えたのに言葉を掻き消すかの様におでこを叩かれた。
こないだまでは運転もままならなかったクセに、片手ハンドル(右)で左手で叩くとは恐るべし。
「…奪ってやろうって思ってたけど、有澄と居る時のお前は本当に楽しそうに笑うから、戦意喪失した。まぁ、俺なら、お前以上の女だって簡単に落とせるから、有澄にくれてやるよ」
うぅっ、まぁ、日下部さんなら簡単に女性が着いて行くでしょうよ?・・・分かってるよ、そんな事は・・・!
「……有澄と破談したら、おいで。第2か、第3夫人位にはしてやる」
「破談しません!それに日本は一夫多妻制じゃないしっ!」
人が真面目に話してるのに茶化して、誤魔化して笑ってるし・・・!
私が膨れっ面をしていると、ふわりと左手が頭の上に触れた。
「…幸せになれよ」って小さく聞こえたので、何も言わずにうなづいた。
0
お気に入りに追加
178
あなたにおすすめの小説
社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
俺様系和服社長の家庭教師になりました。
蝶野ともえ
恋愛
一葉 翠(いつは すい)は、とある高級ブランドの店員。
ある日、常連である和服のイケメン社長に接客を指名されてしまう。
冷泉 色 (れいぜん しき) 高級和食店や呉服屋を国内に展開する大手企業の社長。普段は人当たりが良いが、オフや自分の会社に戻ると一気に俺様になる。
「君に一目惚れした。バックではなく、おまえ自身と取引をさせろ。」
それから気づくと色の家庭教師になることに!?
期間限定の生徒と先生の関係から、お互いに気持ちが変わっていって、、、
俺様社長に翻弄される日々がスタートした。
甘い束縛
はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。
※小説家なろうサイト様にも載せています。
10 sweet wedding
国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。
月城副社長うっかり結婚する 〜仮面夫婦は背中で泣く〜
白亜凛
恋愛
佐藤弥衣 25歳
yayoi
×
月城尊 29歳
takeru
母が亡くなり、失意の中現れた謎の御曹司
彼は、母が持っていた指輪を探しているという。
指輪を巡る秘密を探し、
私、弥衣は、愛のない結婚をしようと思います。
出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜
泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。
ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。
モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた
ひよりの上司だった。
彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。
彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる