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糖度7*ちょっと遠出のお仕事

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私は皆の分の飲み物を買って、外でタバコを吸っていた日下部さんに近寄る。

「タバコ…吸わないんじゃなかった?」

「たまに吸いたくなるから…」

スタンド式の灰皿の横で、コンビニの壁に寄りかかってタバコを吸っている日下部さんは初めて見た姿。

会社の中は基本は禁煙で、隔離された喫煙部屋でしか吸う事が出来ないのだが、休憩中に通りかかっても日下部さんの姿をソコで見た事がない。

「ふぅん、そう。日下部さんさぁ、何で急に車を運転しようと思ったの?ずっと運転してなかったでしょ?」

「普段は電車で済んでたけど…家族が増えたら車も必要だろ?」

「そうだけど…。まるで結婚でもするような口ぶりだね」

「…………」

意味深な事を言っておきながら、突然、無言になるの止めて下さい!

会話が続かないから逃げちゃおうっと。

「高橋さん、もう行きます?」

「そうですね。そろそろ出発しましょうか?」

コンビニから出てきた高橋さんに声をかけて、車に乗り込んだ。

行きと同じ、日下部さんと一緒の後部座席。

多少気まづいけれど、運転されるよりはマシかな?

そう言えば、行きの車の中で"日下部さんの人間らしい部分"って二人が言ってたのを思い出したけれど・・・まさかの・・・。

「そっか、日下部さんの人間らしい事って、運転が下手な事だったんですね!」

「遠慮なく言うんじゃない!」

思い立ったのでつい口に出して言ってしまい、日下部さんに睨まれる。

綾美と高橋さんの笑い声が車内に響く。

たわいもない話をしていたら、いつの間にか夕暮れの時間。

薄暗くなってきた車内、高橋さんの運転ってやっぱり心地よくて眠くなるんだよなぁ・・・。

「ゆかり、ゆかりっ」
「日下部さん、起きて!」

目を擦りながら、うっすらと目を開けると辺りは真っ暗でレンタカーのサービス店に着いていた。

「高橋さんの運転が心地よくて眠ってしまいました…ごめんなさい」

寝ていたせいで頭の回転が悪いが、バックを持って車から降りる。

日下部さんも寝起きが良くないのか、タブレットを車内に置き忘れて、高橋さんが慌てて取りに戻る。

「二人とも寝すぎだから!」

「ごめんなさい…」
「悪かった…」

綾美に怒られながらレンタカーのサービス店を後にして、駅前のチェーン店の居酒屋へと向かう。

今日の帰りは皆で飲もうと計画していた。

有澄とは今日は会わない。

・・・と言うのも、女の子の日の予定日3日前位から1週間から10日位は泊まらないからと有澄と決めたのだ。

その3日前が今日だったから、昨日から自宅アパートに帰って来ていた。

今日はブライダルフェアに行く予定だったから丁度良かったとも思う。

女の子の日をあからさまに伝えるのは恥ずかしい事だったけれど、急に来てしまい、慌てふためくよりはマシかな・・・との決断だった。

寂しさはあるけれど、たまには1人のんびりまったりと落ち着く事も大切だなと思った。

「かんぱーいっ!お疲れ様でした!」

綾美が音頭を取り、グラスがぶつかり合ってカチンと音がする。

「ゆかりって凄いよね。やっぱり、ゆかりは"いろは"の看板デザイナーねっ」

褒めてくれる綾美に対して、

「秋葉は本当にデザイン馬鹿だから。予算書は杉野に任せっきりだし、有望なデザイナー様は偉くて困りますね」

と言う日下部さんは悪魔か鬼か・・・。

「予算書も自分で作っても構わないんですけど…。綾美の方が正確で早いし、つい頼りにしちゃうんですよ、高橋さん」

日下部さんは無視して、高橋さんに話を振る。

「綾美さん、仕事出来そうですもんね」

「高橋、裏を返せば、今のは秋葉が仕事出来ないって言ってるのと同じだからな」

「そ、そんなつもりで言った訳じゃないですよ!」

「大丈夫、分かってます。日下部さんが意地悪言ってるだけですから…!」

本当に日下部さんは意地悪ばっかり言うんだから。

高橋さんに意地悪ばっかり言って、裏を返せば"小学生男子みたいに好きな人虐めてます"みたいなのは自分でしょ!

「あっ、何で私の飲むんですか?」

「ビールが飽きてきたから…」

「自分で頼んで下さい!」

届いたばかりの私のシークヮーサーサワーを勝手に飲んでしまうし、おまけに倒してこぼすし・・・日下部さんは何処か、おかしい。

「いつものハイスペック男子じゃないですね、日下部さん」

店員さんからお借りしたダスターで、テーブルを拭く。

残り少なかったから良かったものの、私の甘めなカクテルをこぼしたのでテーブルはベタベタになってしまった。

「…もう酔ってます?」

「…まだ酔ってない」

そんな会話をしつつ、テーブルを綺麗にする。

私達はもう少しだけ居酒屋に滞在し、21時には駅で解散した。

皆それぞれ違う沿線なのだが、綾美は高橋さんが家まで送ってくれるので私達は二人きり。

「今日は香坂君来ないの?」

ふと聞かれた一言にキョトンとする私。

「ま、まさかとは思いますが、こないだの忘年会の時に跡つけました?」

「被害妄想半端ないな…俺は私鉄だから、JRの改札前通らないと帰れないだけ」

そうだった。

日下部さんちは私鉄の沿線だから、JRの改札口前を通った方が私鉄の改札口に近いんだった。

今日も会社付近の降り口の駅に集合解散としたから、送るって言われるのかな?

JRの改札口付近まで来ると、

「気をつけて、また明日」

と言って、頭を優しく撫でられて、2回ポンポンと軽く叩かれた。

あっ、今日は送るって言わないんだ・・・。

「お疲れ様でした。今日はありがとうございました」

ペコリッと軽くお辞儀をして、改札口を通り抜けてから手を振る。

私は後ろを振り向かずに進んだが、ホームへと向かう柵の隙間から日下部さんが見えた。

まだ見送っていたので、再度、手を振ったが気づいたのか、気づかない振りをしたのか、私鉄の改札口に向かって方向転換をした。

『送る』って言われなくて、物悲しく思う私は最低だ。

逆に『送る』って言われても、拒むくせに。

私は日下部さんが居なくなるのも嫌だし、かと言って異性として好きなの?と聞かれたら、有澄を思い出すだろう。

電車に揺られてモヤモヤした気持ちのまま、有澄にメッセージを送る。

駅に着いたら直ぐに、自宅まで歩きながら電話しよう。

電車に乗っている間は、ずっと有澄とメッセージ交換していた。

日下部さんの事を思い出さない様に───・・・・・・
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