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糖度2*主回路の誤作動に要注意!
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日下部さんとは二人で御飯を食べに行く事はごく稀にあったけれど、仕事の話とか会社の噂話とかをしていて恋愛の話なんてした事はなかった。
・・・・・・なのに、昨日は少しだけ恋愛の話になって、今日の行動も妙な優しさも違和感を感じる。
「本当は女の子の日なんて嘘だから…。昨日は飲み過ぎたのか、二日酔いで仕事にならなかっただけだから…」
黙っておくつもりだったが、いつもとは違う日下部さんの優しさが辛くて嘘を突き通せなくなった。
「…全く厄介な馬鹿真面目な奴だな、お前は。黙ってれば分からなかったのに…」
大きな手で優しく、私の頭を撫でる。
「…もう終わった事なんだから、泣くな」
泣いてるのは誰のせいだと思ってるの?
女の子の日だと信じて優しく接してくれたのに、二日酔いを隠していた罪悪感。
「…日下部さん、ありがとう…そして、ごめんなさい」
「別にいいよ、もう。その代わり…」
急に肩を抱き寄せられて、私は日下部さんに抱き抱えられるような体制になった。
「寒いから、少しだけ暖めて」
私はうなづきもせずにただじっとして、胸の高鳴りを静めようにしていた。
それから私達は何も話さず、助けが来てくれるのを待つ。
今までで一度もなかった、この距離感。
不思議と嫌じゃなく、体温の心地良さすら感じ始めた時、『大丈夫ですか?もうすぐ開きますね』と外側から声が聞こえた。
日下部さんの左腕を掴み、腕時計で時間を確認すると閉じ込められてから一時間以内だった。
「お前、腕時計位しろよ」
「仕事中、邪魔なんだもん。バッグにつけてるからいーのっ」
日下部さんの腕から解放されて立ち上がろうとしたら、力が抜けていたのか、上手く力が入らない。
思ったより、エレベーターの中でのダメージは大きかったようだ。
隣ではクスクスと笑っている日下部さんが居て、私だけがパニックを起こし、余裕がなかったんだと改めて気付かされる。
その後は10分もしない内にエレベーターの扉が開いて、日下部さんと二人きりの秘め事は終止符を迎えた。
普段からの日下部さんからは誰も想像出来ないような一面を垣間見たけれど、彼女にだけはそんな顔を見せていたのかな?と思うと、羨ましい様な気もする。
本当の顔はとても優しくて頼りがいのある男の人だったのかもしれない。
そんな人だから、若くして部長職なのだろう。
五年間も一緒に仕事していて気付かなかったのが失礼だったと反省。
会社の外に出ると帰宅途中のサラリーマンやOLが行き交っている。
オフィス街を通り抜けると飲食店が広がり、通りかかったラーメン店から良い匂いがした。
「日下部さん、ラーメン食べましょ!今日は私が奢りますっ」
「…二日酔いのクセに」
「何か言いました?」
「いや、別に…」
日下部さんが返事をしたのかしないのか分からないが、お腹が空いていた私は勝手にラーメン店に入る。
ラーメンを待つ間に、日下部さんは注文したビールを飲みながら、
「…そう言えば、お前は昨日、男と出かけたんだった。そして、二日酔いで仕事サボって昼寝して同僚にも迷惑をかけて…
上司が俺だったから良かったものの、他の人だったら大問題だからな」
と今更の説教じみた事を言う。
「さっきはもう気にするなって言ったのに、今更説教ですか!?」
「二日酔い良くなったからって、ラーメンに餃子を頼む気が知れない!少しは反省しろよっ」
「反省してますぅっ」
先程のエレベーターの中での激甘な日下部さんはどこに消えたのか、今はガミガミ煩い仕事中の日下部さんに戻った。
私にはコッチの方が気楽で居られるから、しょうに合っている。
「…エレベーターの中での事、セクハラ行為をバラしますよ」
「勝手にどうぞ。五年間も一緒に居たのに噂も立たないし、お前がいくら騒いだ所で誰も相手にしないでしょ?」
冗談で言ったのに相手の方が更に上手で、私は言い負かされた。
この後、香坂君の事を追求される訳ではなく、ラーメンを食べたら駅で別れた。
電車に乗り、スマホを手に取るとトークアプリに綾美からの多数の連絡があった。
着信もあった。
仕事中はサイレントにしていて、今日はずっとスマホを確認してなかったから気付かなかった。
今日の電話は長くなりそうな予感・・・。
あっ、香坂君からもメッセージ来てた・・・!!
綾美と香坂君に返信しながらも、エレベーターの中での出来事を思い出していた。
日下部さん、自宅に着いたかな?
複雑な思いを抱えながら、家路に向かう。
翌日、エレベーターの点検が入り、押しボタンや電源の主回路の接触不良だったのでは?との見解だったみたいだが、詳しい原因は分からなかったらしい───・・・・・・
・・・・・・なのに、昨日は少しだけ恋愛の話になって、今日の行動も妙な優しさも違和感を感じる。
「本当は女の子の日なんて嘘だから…。昨日は飲み過ぎたのか、二日酔いで仕事にならなかっただけだから…」
黙っておくつもりだったが、いつもとは違う日下部さんの優しさが辛くて嘘を突き通せなくなった。
「…全く厄介な馬鹿真面目な奴だな、お前は。黙ってれば分からなかったのに…」
大きな手で優しく、私の頭を撫でる。
「…もう終わった事なんだから、泣くな」
泣いてるのは誰のせいだと思ってるの?
女の子の日だと信じて優しく接してくれたのに、二日酔いを隠していた罪悪感。
「…日下部さん、ありがとう…そして、ごめんなさい」
「別にいいよ、もう。その代わり…」
急に肩を抱き寄せられて、私は日下部さんに抱き抱えられるような体制になった。
「寒いから、少しだけ暖めて」
私はうなづきもせずにただじっとして、胸の高鳴りを静めようにしていた。
それから私達は何も話さず、助けが来てくれるのを待つ。
今までで一度もなかった、この距離感。
不思議と嫌じゃなく、体温の心地良さすら感じ始めた時、『大丈夫ですか?もうすぐ開きますね』と外側から声が聞こえた。
日下部さんの左腕を掴み、腕時計で時間を確認すると閉じ込められてから一時間以内だった。
「お前、腕時計位しろよ」
「仕事中、邪魔なんだもん。バッグにつけてるからいーのっ」
日下部さんの腕から解放されて立ち上がろうとしたら、力が抜けていたのか、上手く力が入らない。
思ったより、エレベーターの中でのダメージは大きかったようだ。
隣ではクスクスと笑っている日下部さんが居て、私だけがパニックを起こし、余裕がなかったんだと改めて気付かされる。
その後は10分もしない内にエレベーターの扉が開いて、日下部さんと二人きりの秘め事は終止符を迎えた。
普段からの日下部さんからは誰も想像出来ないような一面を垣間見たけれど、彼女にだけはそんな顔を見せていたのかな?と思うと、羨ましい様な気もする。
本当の顔はとても優しくて頼りがいのある男の人だったのかもしれない。
そんな人だから、若くして部長職なのだろう。
五年間も一緒に仕事していて気付かなかったのが失礼だったと反省。
会社の外に出ると帰宅途中のサラリーマンやOLが行き交っている。
オフィス街を通り抜けると飲食店が広がり、通りかかったラーメン店から良い匂いがした。
「日下部さん、ラーメン食べましょ!今日は私が奢りますっ」
「…二日酔いのクセに」
「何か言いました?」
「いや、別に…」
日下部さんが返事をしたのかしないのか分からないが、お腹が空いていた私は勝手にラーメン店に入る。
ラーメンを待つ間に、日下部さんは注文したビールを飲みながら、
「…そう言えば、お前は昨日、男と出かけたんだった。そして、二日酔いで仕事サボって昼寝して同僚にも迷惑をかけて…
上司が俺だったから良かったものの、他の人だったら大問題だからな」
と今更の説教じみた事を言う。
「さっきはもう気にするなって言ったのに、今更説教ですか!?」
「二日酔い良くなったからって、ラーメンに餃子を頼む気が知れない!少しは反省しろよっ」
「反省してますぅっ」
先程のエレベーターの中での激甘な日下部さんはどこに消えたのか、今はガミガミ煩い仕事中の日下部さんに戻った。
私にはコッチの方が気楽で居られるから、しょうに合っている。
「…エレベーターの中での事、セクハラ行為をバラしますよ」
「勝手にどうぞ。五年間も一緒に居たのに噂も立たないし、お前がいくら騒いだ所で誰も相手にしないでしょ?」
冗談で言ったのに相手の方が更に上手で、私は言い負かされた。
この後、香坂君の事を追求される訳ではなく、ラーメンを食べたら駅で別れた。
電車に乗り、スマホを手に取るとトークアプリに綾美からの多数の連絡があった。
着信もあった。
仕事中はサイレントにしていて、今日はずっとスマホを確認してなかったから気付かなかった。
今日の電話は長くなりそうな予感・・・。
あっ、香坂君からもメッセージ来てた・・・!!
綾美と香坂君に返信しながらも、エレベーターの中での出来事を思い出していた。
日下部さん、自宅に着いたかな?
複雑な思いを抱えながら、家路に向かう。
翌日、エレベーターの点検が入り、押しボタンや電源の主回路の接触不良だったのでは?との見解だったみたいだが、詳しい原因は分からなかったらしい───・・・・・・
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