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17 強欲な面々(大神殿にて他視点)
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一方、大神殿ではミリアが居なくなったことに初日は誰も気がついていなかった。
もともと平民出身の聖女であるミリアには側仕えの下女はいなかったのでミリアの所在を正確に把握している者はいなかった。
その日の食事も誰かが運んだものと思っていた。
平民の聖女であるミリアはお腹が空いたら勝手に台所に食事にくるので食事の用意さえ誰も気にかけていなかったのだ。高位貴族ならそんなことをしたら大変なことだが、平民のミリアには誰も敬意を払っていなかった。
他の貴族令嬢の聖女見習いは豪華な食事を用意され、給仕までついていたが、平民の聖女であるミリアにはそのような扱いをしたことは無かった。
大神殿を総括する神殿長もミリアをここに来た時から知っていたが、特に気遣うこともなかった。
それに前聖女は自宅の侍女達を連れてきていたのもあった。
神殿長は平民で後ろ盾のないミリアを侮り、聖女としてのお手当てさえも神殿長は理由を付けて大半は自分のものとして着服していたのだ。
だからミリアのことを気にするといえばこの大神殿では神殿長ぐらいだったと言えよう。ただし、自分の都合の良い場合においてに限るものだった。
ミリアの部屋の掃除や身の回りのこともそれが聖女の修行なのだと言って自分でさせていた。
実際、それはどの神殿でも聖女の修行の一つであるとされていたが、他の貴族の令嬢である聖女見習いには下女をつけていてそれらを代わりにさせていた。
ただ平民の貧しい出の聖女であるミリアにつきたい下女もいなかったのでミリア自身にさせるしかなかった。
だから、大神殿の者達がミリアの不在と置手紙に気づいたのはミリアが国境を越えようとする直前だったのだ。
それも皮肉なことにヘンリー王太子が女神教の大神殿にサマンサと共に訪れたことから判明したのだ。
「これはヘンリー王太子殿下。今日はどのようなご用件でしょうか?」
「ああ、これから新聖女であるサマンサのお披露目をするのでその打ち合わせに参った」
「は? 聖女はミリアですが……」
……そう言えばそのミリアの姿を見かけないな。
ヘンリー王太子の申し出に神殿長も直ぐには意味が分からなかったため通りがかった下女にミリアを呼ぶように言いつけた。
「とりあえず立ち話もなんですからどうぞ奥へ」
ヘンリー王太子とサマンサを神殿の応接室に案内した。
「数日前にミリアに言っておいたはずだぞ?」
「ええとミリアとはまだ今日は会っていませんので、その……」
「はああ。あいつは最後まで全く使えないな。あのような平民が我が国の代表でもある聖女とは嘆かわしいと私は常々感じていた。そこでだ。この優秀で美しいサマンサを次の聖女に任命する!」
「は、え? 王太子殿下といえどもそのような勝手なことは……」
「ええい! うるさい! 私の命令が聞けないのか?」
「そうですわ。神殿長。王太子殿下のご命令です! あのような平民をいつまでも聖女としておくなんてどうかしていましたわ」
神殿長がヘンリー王太子とサマンサの勝手な言い分を否定しようとしたところ、ダンとヘンリー王太子は机を叩いた。
「ひぃっ。そもそも聖女は祈りを捧げて水晶を光らせる聖女の資格認定の儀式が必要なのです。サマンサ様もご存じでしょう? 何といっても女神様からの祝福がないと認められませんよ。それに大結界に魔力を流せる者でないと務まりません」
「そんなものどうとでもできるだろう? 前の平民の聖女が何をしていたというのだ。いつもぼんやりしていただけではないか。話しかけても返事もしない。大方祈りながら眠っていたのだろう」
「で、ですがサマンサ様は聖女見習いでも一番下で魔力はあまりありませんので聖女としては難しいかと思われます……」
本当はサマンサには全くないのだがとてもそんなことを言える雰囲気ではなかった。
「酷いわ。神殿長。そのようなことを仰るなんて……ねえ。ヘンリー様ぁ」
ヘンリー王太子は自分にしなだれかかるサマンサに鼻の下をだらしなく伸ばしていた。
「ほほう。お前は次期国王であるこの私に逆らうというのか?」
ヘンリー王太子は神殿長の態度に苛立ったのか帯剣していた柄に手をかけた。
「ひぃぃぃっ」
そこへ、バタバタと下女が走って戻ってきた。
「大変です。聖女様の部屋がもぬけの殻で置き手紙がありました!」
「なんだと?」
神殿長がひったくるようにしてミリアの手紙を読み上げた。
「なになに、『ヘンリー王太子に偽聖女だと言われ、国外へ出るように言い渡されたので出ていきます。今までお世話になりました。次の聖女はサマンサ様だそうです。詳しくはヘンリー王太子殿下にお尋ねください。本来ならする前聖女から新聖女への魔力の引継ぎもヘンリー王太子殿下から必要ないと言われました。それではさようなら。ミリア』……なんということだ」
「その通りだ。手紙を見ていなかったとは神殿側の不手際だな。だが今回は特別に許してやるのでさっさとサマンサを新聖女として認め国民に広めよ」
「馬鹿な! 聖女の魔力の引継ぎがなければ大結界はどうなるのだ!」
「ふん。今更何を。ミリアが出て行ってから何日も経つ。何も起こってはないではないか。きっとあいつも祈っているふりをしていただけなのだ。歴代聖女だってきっとそうなのだろう。だからサマンサでも問題ない。早くサマンサを聖女と認定して私の妃にするのだ」
「現役聖女を娶るなど前例はありません! 婚姻できるのは聖女を引退したあとです!」
世間には知られていないが、聖女は清らかな乙女でなければならない。
特に大結界を通す魔力は穢れのない聖なる乙女の清らかなものでなければならないのだ。建国以来そう決まっていた。
だからこの神殿にいる聖女見習いはほとんど聖女にはなれない。
それを知っているのは今のところ神殿長と一部の神官だけだった。
こんなことはとても表沙汰にはできなかった。
乙女でないと聖女になれないし、在任中は結婚もできないとなると聖女の志願者が減ると危惧されて昔から公にはされていなかった。
だから聖女に選出される気満々の女性にはそれとなく伝えるようにしていたのだった。
だがそれも年月が過ぎると忘れさられて、聖女見習いの肩書は適齢の女性のステータスのように思われていた。
それがこの国の貴族令嬢達による聖女見習いなのだった。
だが、神殿長が知る限り今まで王国に張られた大結界が破られたことは無かった。
神殿長は今までこの王都で凶悪なモンスターの襲撃など見たこともなかった。
そもそも大昔の大聖女様が張ったという結界を自分には見えないし感じないので全く分かっていなかった。ただ聖女が祈りを捧げると天空から祝福の光が降りてくることだけ。それもまやかしのように思っていた。
神殿長の地位にありながら賄賂で上り詰めた男だった。ミレニア王国に長く平和な時代が続いたせいで魔力があまりなくても高位神官の地位につけたのだった。
「……だが確かに、ミリアが何日も前に出ていって何もおかしなことが無いというなら……」
外を見ても喧騒はあるけれどいつもの平和な王都の風景だった。
ヘンリー王太子の言うように古の聖女の大結界など元々なかったのではないかと神殿長も思ってしまった。
実際に女神様の祝福の光を見ていながら、神殿長は結局ミリアを探すことを止めてしまった。
もちろん、大結界にサマンサからの聖女の魔力の引継ぎなどはしなかった。
このことを後になって神殿長が激しく後悔したときには遅かったのだった。
そもそも、大結界の仕組みは本来聖女が一人で維持しなくても稼働するように出来ていた。
古の聖女が作り上げたとき、一人の負担を減らすように複数の聖女候補者達が祈りを捧げれば維持できるようにしていたのだが、ミリアが歴代でも稀にみる力の持ち主だったので結局たった一人で維持してしまっていたのだった。
大神殿ではミリア以外の聖女候補者や見習い達は神殿長に賄賂を渡し女神像を光らせてない者まで見習いとして受け入れていたのだ。今いる見習いや聖女補佐の彼女らは清らかな乙女でない者、もしくは魔力が無い者達だけだったのだ。
大結界が無くなったミレニア王国の壊滅まであと……。
もともと平民出身の聖女であるミリアには側仕えの下女はいなかったのでミリアの所在を正確に把握している者はいなかった。
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他の貴族令嬢の聖女見習いは豪華な食事を用意され、給仕までついていたが、平民の聖女であるミリアにはそのような扱いをしたことは無かった。
大神殿を総括する神殿長もミリアをここに来た時から知っていたが、特に気遣うこともなかった。
それに前聖女は自宅の侍女達を連れてきていたのもあった。
神殿長は平民で後ろ盾のないミリアを侮り、聖女としてのお手当てさえも神殿長は理由を付けて大半は自分のものとして着服していたのだ。
だからミリアのことを気にするといえばこの大神殿では神殿長ぐらいだったと言えよう。ただし、自分の都合の良い場合においてに限るものだった。
ミリアの部屋の掃除や身の回りのこともそれが聖女の修行なのだと言って自分でさせていた。
実際、それはどの神殿でも聖女の修行の一つであるとされていたが、他の貴族の令嬢である聖女見習いには下女をつけていてそれらを代わりにさせていた。
ただ平民の貧しい出の聖女であるミリアにつきたい下女もいなかったのでミリア自身にさせるしかなかった。
だから、大神殿の者達がミリアの不在と置手紙に気づいたのはミリアが国境を越えようとする直前だったのだ。
それも皮肉なことにヘンリー王太子が女神教の大神殿にサマンサと共に訪れたことから判明したのだ。
「これはヘンリー王太子殿下。今日はどのようなご用件でしょうか?」
「ああ、これから新聖女であるサマンサのお披露目をするのでその打ち合わせに参った」
「は? 聖女はミリアですが……」
……そう言えばそのミリアの姿を見かけないな。
ヘンリー王太子の申し出に神殿長も直ぐには意味が分からなかったため通りがかった下女にミリアを呼ぶように言いつけた。
「とりあえず立ち話もなんですからどうぞ奥へ」
ヘンリー王太子とサマンサを神殿の応接室に案内した。
「数日前にミリアに言っておいたはずだぞ?」
「ええとミリアとはまだ今日は会っていませんので、その……」
「はああ。あいつは最後まで全く使えないな。あのような平民が我が国の代表でもある聖女とは嘆かわしいと私は常々感じていた。そこでだ。この優秀で美しいサマンサを次の聖女に任命する!」
「は、え? 王太子殿下といえどもそのような勝手なことは……」
「ええい! うるさい! 私の命令が聞けないのか?」
「そうですわ。神殿長。王太子殿下のご命令です! あのような平民をいつまでも聖女としておくなんてどうかしていましたわ」
神殿長がヘンリー王太子とサマンサの勝手な言い分を否定しようとしたところ、ダンとヘンリー王太子は机を叩いた。
「ひぃっ。そもそも聖女は祈りを捧げて水晶を光らせる聖女の資格認定の儀式が必要なのです。サマンサ様もご存じでしょう? 何といっても女神様からの祝福がないと認められませんよ。それに大結界に魔力を流せる者でないと務まりません」
「そんなものどうとでもできるだろう? 前の平民の聖女が何をしていたというのだ。いつもぼんやりしていただけではないか。話しかけても返事もしない。大方祈りながら眠っていたのだろう」
「で、ですがサマンサ様は聖女見習いでも一番下で魔力はあまりありませんので聖女としては難しいかと思われます……」
本当はサマンサには全くないのだがとてもそんなことを言える雰囲気ではなかった。
「酷いわ。神殿長。そのようなことを仰るなんて……ねえ。ヘンリー様ぁ」
ヘンリー王太子は自分にしなだれかかるサマンサに鼻の下をだらしなく伸ばしていた。
「ほほう。お前は次期国王であるこの私に逆らうというのか?」
ヘンリー王太子は神殿長の態度に苛立ったのか帯剣していた柄に手をかけた。
「ひぃぃぃっ」
そこへ、バタバタと下女が走って戻ってきた。
「大変です。聖女様の部屋がもぬけの殻で置き手紙がありました!」
「なんだと?」
神殿長がひったくるようにしてミリアの手紙を読み上げた。
「なになに、『ヘンリー王太子に偽聖女だと言われ、国外へ出るように言い渡されたので出ていきます。今までお世話になりました。次の聖女はサマンサ様だそうです。詳しくはヘンリー王太子殿下にお尋ねください。本来ならする前聖女から新聖女への魔力の引継ぎもヘンリー王太子殿下から必要ないと言われました。それではさようなら。ミリア』……なんということだ」
「その通りだ。手紙を見ていなかったとは神殿側の不手際だな。だが今回は特別に許してやるのでさっさとサマンサを新聖女として認め国民に広めよ」
「馬鹿な! 聖女の魔力の引継ぎがなければ大結界はどうなるのだ!」
「ふん。今更何を。ミリアが出て行ってから何日も経つ。何も起こってはないではないか。きっとあいつも祈っているふりをしていただけなのだ。歴代聖女だってきっとそうなのだろう。だからサマンサでも問題ない。早くサマンサを聖女と認定して私の妃にするのだ」
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だからこの神殿にいる聖女見習いはほとんど聖女にはなれない。
それを知っているのは今のところ神殿長と一部の神官だけだった。
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「……だが確かに、ミリアが何日も前に出ていって何もおかしなことが無いというなら……」
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ヘンリー王太子の言うように古の聖女の大結界など元々なかったのではないかと神殿長も思ってしまった。
実際に女神様の祝福の光を見ていながら、神殿長は結局ミリアを探すことを止めてしまった。
もちろん、大結界にサマンサからの聖女の魔力の引継ぎなどはしなかった。
このことを後になって神殿長が激しく後悔したときには遅かったのだった。
そもそも、大結界の仕組みは本来聖女が一人で維持しなくても稼働するように出来ていた。
古の聖女が作り上げたとき、一人の負担を減らすように複数の聖女候補者達が祈りを捧げれば維持できるようにしていたのだが、ミリアが歴代でも稀にみる力の持ち主だったので結局たった一人で維持してしまっていたのだった。
大神殿ではミリア以外の聖女候補者や見習い達は神殿長に賄賂を渡し女神像を光らせてない者まで見習いとして受け入れていたのだ。今いる見習いや聖女補佐の彼女らは清らかな乙女でない者、もしくは魔力が無い者達だけだったのだ。
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