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11 僕の聖女様(テオ視点)
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ミリアさんと知り合ってあっという間に四年が過ぎた。
最初の印象は寂しそうな少女。話してみるとやはり人懐っこい子だった。
家族のことは聞いたことが無いけれど聖別して離れて暮らしているなら寂しいのだろうと思う。
僕の市の出す日を教えて必ず来てくれる。
一緒に魔道具のことや新人の時の苦労話なんかで話が尽きない。
彼女は聖女見習いではなく聖女候補者。
聖女候補が聖女に選ばれるのは今なら二十分の一。
それだけの候補者がいるのだから、ミリアさんが選ばれなくてもいいと願うようになっていた。
正直、大神殿でのミリアさんの扱いは酷かったのだ。
大神殿での一年の修行が終わるとミリアさんも一般の祈願者や参拝者の祈りや治癒も行うようになったけれど取り分を他の聖女見習い達に奪われていた。
どうにかしてあげたいと考えたのがアクセサリーに収納を付与する魔道具の開発だった。
最初はバッグなどを考えたけれど僕に魔力が少ないので作成が難しかった。
次に身に付けられるものなら派手でないものをと考えた。
それがブレスレットに付与することだった。
シンプルなもので試作してみる。これなら他の人に取り上げられないだろう。
無生物を入れるだけなら比較的に簡単だからなんとか出来上がった。
渡すタイミングも考えながら、やっと彼女に渡すことが出来た。
とても喜んでくれたので、収納効率を上げたものや他のアイテムボックスも開発してみた。
魔力が少ない僕を気にしてミリアさんが魔力の提供を申し出てくれた。一緒に魔道具の開発を手伝ってくれる。だけどミリアさんは魔力が膨大だから細かい作業は難しいみたいだった。
魔道具を作るのを親に反対されたことがあるので力を貸してくれる彼女を見ているととても暖かい気持ちになった。
――ああ、これが愛おしいという気持ちなんだろうな。
会える回数は多くないけれど僕にとってはかけがえのない時間になっていった。
そうして、迎えた十四歳。成人まであと一年、僕は見習いを卒業できる。
いろいろと大人の人に話を聞くとミリアさんが聖女見習いなら僕と結婚とかも出来そうだった。
ミリアさんは平民だから許可も下り易いとも言われた。
ミリアさんに告白してこれからも一緒に頑張っていきたいなとか考えていたら、現聖女様が引退を表明した。
十年間聖女を務めてきた方だ。聖女様の任期はあまり長くない。大結界を維持するために大変な魔力を消費するためと言われている。
年々魔力が衰えてくるため結界の維持の為に早めに交代する。
ミリアさんが選ばれるのは二十分の一。
低いと言えばそうだろう。
もし、彼女が聖女に選ばれたら……。考えたくない。
聖女は王族や高位貴族に降嫁すると言われている。どうしてか知らないけれどそんな不文律があった。
――だけど女神様が選んだのはミリアさんだった。
やっぱりという気持ちとどうしてという気持ちが綯い交ぜる。
「……ミリアさんが次期聖女様か」
口にするとやりきれなさでいっぱいになった。
どうして彼女が……、神殿での彼女の扱いは最低じゃないか。
それでも村での生活より良いんだと話すミリアさん。
「だって、きちんとご飯があるんだよ。腐ってもいないの。村でいたときはね。野菜の屑とかを齧っていたんだ。だから今は十分だよ」
そう言ってパサパサのパンや冷えたスープでも喜んでいる。
幸せにしたいなんて僕のそんな気持ちも聖女様に対しておこがましいかもしれない。
できればミリアさんにはいつも笑っていて欲しい。
だけど来月、彼女が十五歳を迎えて成人となるのと合わせて聖女になる。
「うん。この一年頑張ったよ。聖女様だって、大丈夫って言ってくれたもの」
彼女は健気な様子で話している。
ここに来て五年間、大神殿で彼女がどんな扱いを受けたか知っている。
平民の小娘が聖女になるのは到底喜ばれるものではないようだった。
今まで聖女に選ばれたのは最低でも騎士の娘かそれなりに裕福な家や貴族の位を持ったものばかりだそうな。
僕は表情を曇らせた。すると、ミリアさんは別の意味に解釈したみたいだった。
「テオ君も私が聖女なんて無理だって思うの?」
泣きそうな声で俯いてしまった。僕は慌てて否定した。
「ち、違うよ。そんなんじゃなくて。こんなふうに話すことが無くなってミリアさんが遠くなるなって」
――嫌だ。こんなふうに話していたい。僕だけなのかもしれないけど。ミリアさんは僕の事なんてどうも思っていないだろう。ただの一介の見習い商人としか思っていない。
もっと早く勇気を出して告白していれば良かった。そうすれば何かが……、このままでは彼女はこの国のヘンリー王太子との婚約は決まっている。神殿内部は別として王国の人々は新しい聖女の誕生を期待していた。
……ミリアさんだってリアル王子様の方が良いだろうな。
たかが一介の行商人なんて。
「え? 遠くなるって、テオ君は何処か行くの? もう買い物できないの?」
「いや、そんなことはないけど。ああ、聖女様って呼ばないといけないし、敬語だって使わないと、それに忙しくなるだろうし、こんなふうにもう話せないかもしれない……」
僕だってぐちゃぐちゃになった気持ちの整理がついていない。
「なんだ。そんなこと敬語とか呼び名は人前では分かんないけど忙しくなったってテオ君のところでお買い物できるようにするよ。なんたって、私がテオ君のお店の一番のお客様だもんね」
俯いていた彼女は面を上げると胸を逸らせていた。
なんだか出会った頃と変わらないあどけない様子の彼女をやっぱり可愛いと思った。
「……ミリアさん。うん。忙しくなって市に来られなくなったら、聖女様特権で僕を自室に呼びつけてよ。聖女様の御用商人になってみせるから」
「うふふ。テオ君は神殿御用達でなく、聖女様の御用達ね!」
彼女は力強く宣言した。
僕は届かない想いがつい口に出てしまった。
「……でも、聖女様は大体王族か高位貴族と婚約するようになっているんだよね」
彼女は気がついていなくて目指せ、御用達と叫んでいた。
ミリアさんが聖女様となって手の届かなくなっても側で見守っていよう。
――それだけいい。
そして、ミリアさんはミレニア王国の聖女になって、ヘンリー王太子と婚約を発表した。
僕はその日恋心をそっと封印した。
最初の印象は寂しそうな少女。話してみるとやはり人懐っこい子だった。
家族のことは聞いたことが無いけれど聖別して離れて暮らしているなら寂しいのだろうと思う。
僕の市の出す日を教えて必ず来てくれる。
一緒に魔道具のことや新人の時の苦労話なんかで話が尽きない。
彼女は聖女見習いではなく聖女候補者。
聖女候補が聖女に選ばれるのは今なら二十分の一。
それだけの候補者がいるのだから、ミリアさんが選ばれなくてもいいと願うようになっていた。
正直、大神殿でのミリアさんの扱いは酷かったのだ。
大神殿での一年の修行が終わるとミリアさんも一般の祈願者や参拝者の祈りや治癒も行うようになったけれど取り分を他の聖女見習い達に奪われていた。
どうにかしてあげたいと考えたのがアクセサリーに収納を付与する魔道具の開発だった。
最初はバッグなどを考えたけれど僕に魔力が少ないので作成が難しかった。
次に身に付けられるものなら派手でないものをと考えた。
それがブレスレットに付与することだった。
シンプルなもので試作してみる。これなら他の人に取り上げられないだろう。
無生物を入れるだけなら比較的に簡単だからなんとか出来上がった。
渡すタイミングも考えながら、やっと彼女に渡すことが出来た。
とても喜んでくれたので、収納効率を上げたものや他のアイテムボックスも開発してみた。
魔力が少ない僕を気にしてミリアさんが魔力の提供を申し出てくれた。一緒に魔道具の開発を手伝ってくれる。だけどミリアさんは魔力が膨大だから細かい作業は難しいみたいだった。
魔道具を作るのを親に反対されたことがあるので力を貸してくれる彼女を見ているととても暖かい気持ちになった。
――ああ、これが愛おしいという気持ちなんだろうな。
会える回数は多くないけれど僕にとってはかけがえのない時間になっていった。
そうして、迎えた十四歳。成人まであと一年、僕は見習いを卒業できる。
いろいろと大人の人に話を聞くとミリアさんが聖女見習いなら僕と結婚とかも出来そうだった。
ミリアさんは平民だから許可も下り易いとも言われた。
ミリアさんに告白してこれからも一緒に頑張っていきたいなとか考えていたら、現聖女様が引退を表明した。
十年間聖女を務めてきた方だ。聖女様の任期はあまり長くない。大結界を維持するために大変な魔力を消費するためと言われている。
年々魔力が衰えてくるため結界の維持の為に早めに交代する。
ミリアさんが選ばれるのは二十分の一。
低いと言えばそうだろう。
もし、彼女が聖女に選ばれたら……。考えたくない。
聖女は王族や高位貴族に降嫁すると言われている。どうしてか知らないけれどそんな不文律があった。
――だけど女神様が選んだのはミリアさんだった。
やっぱりという気持ちとどうしてという気持ちが綯い交ぜる。
「……ミリアさんが次期聖女様か」
口にするとやりきれなさでいっぱいになった。
どうして彼女が……、神殿での彼女の扱いは最低じゃないか。
それでも村での生活より良いんだと話すミリアさん。
「だって、きちんとご飯があるんだよ。腐ってもいないの。村でいたときはね。野菜の屑とかを齧っていたんだ。だから今は十分だよ」
そう言ってパサパサのパンや冷えたスープでも喜んでいる。
幸せにしたいなんて僕のそんな気持ちも聖女様に対しておこがましいかもしれない。
できればミリアさんにはいつも笑っていて欲しい。
だけど来月、彼女が十五歳を迎えて成人となるのと合わせて聖女になる。
「うん。この一年頑張ったよ。聖女様だって、大丈夫って言ってくれたもの」
彼女は健気な様子で話している。
ここに来て五年間、大神殿で彼女がどんな扱いを受けたか知っている。
平民の小娘が聖女になるのは到底喜ばれるものではないようだった。
今まで聖女に選ばれたのは最低でも騎士の娘かそれなりに裕福な家や貴族の位を持ったものばかりだそうな。
僕は表情を曇らせた。すると、ミリアさんは別の意味に解釈したみたいだった。
「テオ君も私が聖女なんて無理だって思うの?」
泣きそうな声で俯いてしまった。僕は慌てて否定した。
「ち、違うよ。そんなんじゃなくて。こんなふうに話すことが無くなってミリアさんが遠くなるなって」
――嫌だ。こんなふうに話していたい。僕だけなのかもしれないけど。ミリアさんは僕の事なんてどうも思っていないだろう。ただの一介の見習い商人としか思っていない。
もっと早く勇気を出して告白していれば良かった。そうすれば何かが……、このままでは彼女はこの国のヘンリー王太子との婚約は決まっている。神殿内部は別として王国の人々は新しい聖女の誕生を期待していた。
……ミリアさんだってリアル王子様の方が良いだろうな。
たかが一介の行商人なんて。
「え? 遠くなるって、テオ君は何処か行くの? もう買い物できないの?」
「いや、そんなことはないけど。ああ、聖女様って呼ばないといけないし、敬語だって使わないと、それに忙しくなるだろうし、こんなふうにもう話せないかもしれない……」
僕だってぐちゃぐちゃになった気持ちの整理がついていない。
「なんだ。そんなこと敬語とか呼び名は人前では分かんないけど忙しくなったってテオ君のところでお買い物できるようにするよ。なんたって、私がテオ君のお店の一番のお客様だもんね」
俯いていた彼女は面を上げると胸を逸らせていた。
なんだか出会った頃と変わらないあどけない様子の彼女をやっぱり可愛いと思った。
「……ミリアさん。うん。忙しくなって市に来られなくなったら、聖女様特権で僕を自室に呼びつけてよ。聖女様の御用商人になってみせるから」
「うふふ。テオ君は神殿御用達でなく、聖女様の御用達ね!」
彼女は力強く宣言した。
僕は届かない想いがつい口に出てしまった。
「……でも、聖女様は大体王族か高位貴族と婚約するようになっているんだよね」
彼女は気がついていなくて目指せ、御用達と叫んでいた。
ミリアさんが聖女様となって手の届かなくなっても側で見守っていよう。
――それだけいい。
そして、ミリアさんはミレニア王国の聖女になって、ヘンリー王太子と婚約を発表した。
僕はその日恋心をそっと封印した。
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