上 下
5 / 31

05 王都の大神殿へ

しおりを挟む
 そして、二年が過ぎ、私は十歳になった。

 あれから結局一度も村に帰ることは無かった。

 お母ちゃんや妹や村の皆がどうしているのか分からない。

 お母ちゃんの顔を思い出すことも少なくなった。お父ちゃんの顔は……。

 私がいた村はかなり田舎だったみたい。

 村の名前さえ定かでないくらいのレベルなので地方神殿の巡回に行く人が嫌がるほどだった。一緒についていくには神殿での不在の期間が長すぎるので難しかった。

 こんな私でも神殿では女神の祝福を賜るのが一番多かったからだ。

 私が祈りを捧げると神殿がキラキラとして光に包まれてとても美しい。

 そうすると一般の参拝者も増え寄進も多くなる。

 「素晴らしい。女神様に感謝を……」

 そう言われると私も嬉しかった。ここでは私を必要としてくれる、たとえ女神様の祝福の力だとしても……。

 できれば家に手紙でも書いて託そうかと思ったけれどお母ちゃんは字なんて読めなかった。

 年一回行くぐらいの村の一家族の様子を訊ねるのも憚られたので家がどうなっているのか何も分からなかった。

 そして、十歳を過ぎると聖女見習いの中から聖女候補と認められたものは王都の大神殿に推薦されるシステムになっている。

 ジョイみたいに地方都市で見習いのまま終える人も多い。

「ミリアなら大神殿で聖女候補になれるかもね。そしたら、聖女候補と一緒に修行したって自慢するわ! もしか、ミリアが聖女様? あはは。楽しみ」

 ジョイがバンと背中を叩いてきた。

「ジョイはもう少し落ち着きなさい。粗忽ものでは玉の輿になど無理ですよ」

 神官のお兄さんからお小言を言われるのも日常風景だった。

「ミリアなら確かに聖女候補として推薦できますね。正直手離すのは痛手になるけれど……」

 そう言われるけれど、ここを離れるのは私もとても不安だった。

 大神殿で本格的な聖女候補者としての生活が始まる。いずれはその中から聖女として女神様から選ばれるのだ。

 数日、他の見習い達も推薦の話を聞いていく。魔力は成長と共に増えることもあるので十歳を過ぎている者は推薦の時期に訊ねられることになる。

 ジョイは私より一年先輩でやっぱり今回もこのまま地方神殿で聖女見習いとして残るみたいだった。相変わらず目指すは玉の輿とも言っていた。

「ミリア、君には聖女候補になる資格は大いにある。だから王都の大神殿へ推薦しようと思うがどうだろう?」

 神官のお兄さんはいつも何かと心配して世話をしてくれた。今回も神殿の意向より私の意見を聞こうとしてくれる。

「王都の大神殿……」

「もちろん嫌だったら、ここでいていいんだよ」

 私はこの優しい神官のお兄さんの期待に応えたいと思った。

「私はここでの経験を生かして大神殿でも頑張りたいと思います」

 そう答えると神官さんは穏やかに微笑んでくれた。

 ――これで良いのよね?

 ジョイが横から顔を挟んできた。

「ミリアなら聖女だってなれるよ! いつも頑張っているし、可愛いし、魔力だってここの誰よりも多いもの。私は都会の堅苦しいのは嫌だからここで十分」

「可愛いとか……、でも魔力は確かに……」

 私はジョイや神殿の皆から励ましてもらって王都の大神殿と各地方神殿を定期的に行き来する便に一緒に同行させてもらった。




 そうして私は王都にある女神教会の大神殿へ向かった。それでも一週間以上かかった。

「マルクト神殿から来ました聖女見習いのミリアです」

 一緒に来た神官さんと入り口で挨拶をする。神官さんは顔パスなので話が早い。神官さんから渡された聖女候補者の推薦の書類を見せる。

「あちらで手続きをしてください」

 神殿奥の関係者立ち入り禁止ゾーンにある部屋の一室で女神様の選別を受けた。

 地方神殿のより大きな女神像を使って行われた。

 私が触れると部屋一面に祝福の光が満ち溢れた。

「これは……」

 立ち会っていた大神殿の神官さんや聖女見習いの方々から魔力量の多さに驚かれた。私はそんなものかとあまり実感は沸かなかった。

 マルクトから連れて来てもらった神官さんが帰り際に頑張れよと励まされて私の大神殿での生活は始まった。

 他にも同じ時期に入った聖女見習いは数名いたけれど良い所のお嬢さんで私が平民の出身と分かるとあまり話してくれなくなった。







 ◇◇◇あとがきめいたも◇◇◇

 遅出ヒーローの作者ですが、次こそヒーローでます。お待たせしました!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されなかった私が幸せになるまで 〜旦那様には大切な幼馴染がいる〜

高瀬船
恋愛
2年前に婚約し、婚姻式を終えた夜。 フィファナはドキドキと逸る鼓動を落ち着かせるため、夫婦の寝室で夫を待っていた。 湯上りで温まった体が夜の冷たい空気に冷えて来た頃やってきた夫、ヨードはベッドにぽつりと所在なさげに座り、待っていたフィファナを嫌悪感の籠った瞳で一瞥し呆れたように「まだ起きていたのか」と吐き捨てた。 夫婦になるつもりはないと冷たく告げて寝室を去っていくヨードの後ろ姿を見ながら、フィファナは悲しげに唇を噛み締めたのだった。

虐げられた落ちこぼれ令嬢は、若き天才王子様に溺愛される~才能ある姉と比べられ無能扱いされていた私ですが、前世の記憶を思い出して覚醒しました~

日之影ソラ
恋愛
異能の強さで人間としての価値が決まる世界。国内でも有数の貴族に生まれた双子は、姉は才能あふれる天才で、妹は無能力者の役立たずだった。幼いころから比べられ、虐げられてきた妹リアリスは、いつしか何にも期待しないようになった。 十五歳の誕生日に突然強大な力に目覚めたリアリスだったが、前世の記憶とこれまでの経験を経て、力を隠して平穏に生きることにする。 さらに時がたち、十七歳になったリアリスは、変わらず両親や姉からは罵倒され惨めな扱いを受けていた。それでも平穏に暮らせるならと、気にしないでいた彼女だったが、とあるパーティーで運命の出会いを果たす。 異能の大天才、第六王子に力がばれてしまったリアリス。彼女の人生はどうなってしまうのか。

優秀な姉の添え物でしかない私を必要としてくれたのは、優しい勇者様でした ~病弱だった少女は異世界で恩返しの旅に出る~

日之影ソラ
ファンタジー
前世では病弱で、生涯のほとんどを病室で過ごした少女がいた。彼女は死を迎える直前、神様に願った。 もしも来世があるのなら、今度は私が誰かを支えられるような人間になりたい。見知らぬ誰かの優しさが、病に苦しむ自分を支えてくれたように。 そして彼女は貴族の令嬢ミモザとして生まれ変わった。非凡な姉と比べられ、常に見下されながらも、自分にやれることを精一杯取り組み、他人を支えることに人生をかけた。 誰かのために生きたい。その想いに嘘はない。けれど……本当にこれでいいのか? そんな疑問に答えをくれたのは、平和な時代に生まれた勇者様だった。

華麗に素敵な俺様最高!

モカ
BL
俺は天才だ。 これは驕りでも、自惚れでもなく、紛れも無い事実だ。決してナルシストなどではない! そんな俺に、成し遂げられないことなど、ないと思っていた。 ……けれど、 「好きだよ、史彦」 何で、よりよってあんたがそんなこと言うんだ…!

私が聖女になったからって、男と出て行ったあなたが今更母親面しないでください。

木山楽斗
恋愛
父が亡くなってからすぐに、母は男と出て行った。 彼女にとって、私は邪魔でしかない存在だったのである。それはわかっていたため、特に悲しみも湧いてこなかった。 しかしながら、どうやって生きていけばいいかはわからなかった。母の影響で、町の人々からも嫌われていた私は、迫害同然の扱いを受けていたのだ。 そんな私を助けてくれたのは、貴族であるキルスタインさんとラーンディスさんだった。 所用で町を訪れた二人は、私の境遇を見かねてある孤児院に入れてくれたのである。 その孤児院で育った私は、魔法使いの道を進んだ。 幸いにも私は、秀でた才能があった。その才能もあって、私は王国の聖女に選ばれたのだ。 それを聞きつけた母は、私のことを訪ねてきた。 驚くべきことに、彼女は今更母親面してきたのだ。 当然のことながら、私がそんなことを認める訳がなかった。 私は補佐となったキルスタインさんと協力して、母を追い返したのである。

運命の選択が見えるのですが、どちらを選べば幸せになれますか? ~私の人生はバッドエンド率99.99%らしいです~

日之影ソラ
恋愛
第六王女として生を受けたアイリスには運命の選択肢が見える。選んだ選択肢で未来が大きく変わり、最悪の場合は死へ繋がってしまうのだが……彼女は何度も選択を間違え、死んではやり直してを繰り返していた。 女神様曰く、彼女の先祖が大罪を犯したせいで末代まで呪われてしまっているらしい。その呪いによって彼女の未来は、99.99%がバッドエンドに設定されていた。 婚約破棄、暗殺、病気、仲たがい。 あらゆる不幸が彼女を襲う。 果たしてアイリスは幸福な未来にたどり着けるのか? 選択肢を見る力を駆使して運命を切り開け!

魔法が使えなかった令嬢は、婚約破棄によって魔法が使えるようになりました

天宮有
恋愛
 魔力のある人は15歳になって魔法学園に入学し、16歳までに魔法が使えるようになるらしい。  伯爵令嬢の私ルーナは魔力を期待されて、侯爵令息ラドンは私を婚約者にする。  私は16歳になっても魔法が使えず、ラドンに婚約破棄言い渡されてしまう。  その後――ラドンの婚約破棄した後の行動による怒りによって、私は魔法が使えるようになっていた。

没落した元名門貴族の令嬢は、馬鹿にしてきた人たちを見返すため王子の騎士を目指します!

日之影ソラ
ファンタジー
 かつては騎士の名門と呼ばれたブレイブ公爵家は、代々王族の専属護衛を任されていた。 しかし数世代前から優秀な騎士が生まれず、ついに専属護衛の任を解かれてしまう。それ以降も目立った活躍はなく、貴族としての地位や立場は薄れて行く。  ブレイブ家の長女として生まれたミスティアは、才能がないながらも剣士として研鑽をつみ、騎士となった父の背中を見て育った。彼女は父を尊敬していたが、周囲の目は冷ややかであり、落ちぶれた騎士の一族と馬鹿にされてしまう。  そんなある日、父が戦場で命を落としてしまった。残されたのは母も病に倒れ、ついにはミスティア一人になってしまう。土地、お金、人、多くを失ってしまったミスティアは、亡き両親の想いを受け継ぎ、再びブレイブ家を最高の騎士の名家にするため、第一王子の護衛騎士になることを決意する。 こちらの作品の連載版です。 https://ncode.syosetu.com/n8177jc/

処理中です...