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二章 緑の貴婦人の館
二十三 プロポーズ
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私は寝台に座り足を差し出した。アシュレイ様がその足を確かめるように触っていく。アシュレイ様の武骨な手が自分の足を撫でていくとぞくぞくする何かが私の腰に集まってきた。
「っつ」
「痛いのか?」
つい声が漏れたのは痛みのせいではないので、私は慌てて首を横に振った。でもアシュレイ様は手を休め心配そうに覗き込んできた。息がかかるほど間近で見つめ合っていまいどぎまぎした。
「とりあえず大したことはなさそうだ。一体、君はこんな時間に何をしようと……」
アシュレイ様は神妙な面持ちで尋ねてきた。
「あの、それはメロウ様がけ、け」
「け?」
声が上ずってしまって言葉が続かない私にアシュレイ様は思いっきり怪訝そうな顔をした。
「私とアシュレイ様が結婚なんて仰るのです。そんなのありえませんよね」
私は顔を伏せて笑いながら続けて自分でも虚しいと少し肩を落とした。
「何故ありえないんだ?」
それは今まで聞いたことのないアシュレイ様の少し低くて怖い感じの声がふってきた。
「え?」
蝋燭の灯だけしかないが、間近にみるアシュレイ様の顔が怖いことだけは分かる。
「それは私は孤児ですし、身寄りなどありません。そもそも両親も何処の誰だか分からないのです。私なんかどうあっても王国騎士であるあなた様とは身分違いなんです」
私は胸がちくんとしたがそう答えた。私はふとその痛みにこれが悲しいという気持ちなのかもしれないと考えた。
今までこんな感情は持ったことはなかった。彼が自分の世界をどんどん広げていってしまうのは困ってしまう。
こんな私が彼の側にいられるとすればよい所で愛人だろう。でも修道院で過ごした自分にはそんな立場はとてもできそうにない。
「身分違いか」
何かを噛み締めるような苦い顔をアシュレイ様はすると私の言った言葉を繰り返していた。
どちらがと仰ったような気がしたが、私はアシュレイ様の言葉のそれの意味も気づかず、当然だと思って肯いた。
「そうです」
「そうか」
重苦しい沈黙が部屋を覆い尽くしていた。暫くしてアシュレイ様の方が口を開いた。
「君は修道女だろう? 教えてくれ、神は愛を身分で隔てるのか?」
「私は正式ではなく見習いですが、神は愛を惜しみなく与えたもうものだと思います」
「それでは君は私の側でそれを与えて欲しい」
それはどういうことだろう。私はその言葉を振り払うように続けた。
「とても許されません。私はとても醜いです」
「君が醜いだって? どうしてそんな」
「だって、あなたも最初に看病したときに私が支えるのを避けたじゃないですか。盗賊からも老婆のようだと言われましたし、ずっと修道院でも醜いと言われていましたから」
「ああ、あれは君があまりにもガリ、か細いから、私がうっかりもたれて踏みつぶしやしないかと心配して。それに私が誰かに寄りかかるなどできやしない。自分のスープを差し出して来た時から君の行いは素晴らしいと思っていた」
その言葉に何も言えなくなってしまった。
「そう言えば、私は最初はアシュレイ様を盗賊の一味と思っていました」
返事のないアシュレイ様に私は精一杯伝えようとした。
「もし盗賊だったら、私は喜んで一緒について行ったかもしれません」
アシュレイ様は私の言葉に少し目を見開いた。
少しだけ言っても許されるだろう。どうせ、ここだけ、今だけの彼と自分の時間は私だけのものにしてもいいだろう。
「私の説得であなたを盗賊から足を洗わせて、全うな道に戻すのです」
説得を愛と言いたかったが、流石に恥ずかしかった。そしてどうだと少し笑ってみた。
「それはいいな」
アシュレイ様もやっと少し微笑んだ。だがすぐ厳しい顔つきになった。
「しかし、君がこんな夜中に出かける理由が分からないが」
「……」
再び私は窮地に立たされた。
「まさか、私との結婚が嫌で出て行こうとしたのか?」
アシュレイ様のまた低くなった声で確認してきた。
「い、嫌なんて、そんなことは!」
上ずった声でつい本音で答えてしまったが、それでもアシュレイは納得しかねるようだった。
「では、何を?」
「いや、だからあなたと自分の結婚なんてありえないと考えるうちにどうしようもなくなったので、ここを出て一人で生活しようと……」
その言葉を聞いてアシュレイ様は額を押さえていた。自分で言って冷静になると自分の行動のはた迷惑さに気がついた。
「こんな夜中に?」
「すみません。もうしません」
私は申し訳なさそうに謝った。アシュレイ様はなんと私の足元に膝をついて真っ直ぐ見つめてきた。
「私を、いや嫌われていてもいい。私の側にいて欲しい。一生を共にしたいんだ」
「愛人ではなくて?」
「どうして愛人などになるんだ? 私には妻も恋人もいない」
アシュレイ様の間の抜けた顔を見るのは楽しいがそのままほっとくとまた怖くなるのでなんとかしなければいけない。
「でも、あの、はい」
私の返事も間が抜けてしまったが、アシュレイ様が嬉しそうに抱きしめてきたので大丈夫だろう。
「っつ」
「痛いのか?」
つい声が漏れたのは痛みのせいではないので、私は慌てて首を横に振った。でもアシュレイ様は手を休め心配そうに覗き込んできた。息がかかるほど間近で見つめ合っていまいどぎまぎした。
「とりあえず大したことはなさそうだ。一体、君はこんな時間に何をしようと……」
アシュレイ様は神妙な面持ちで尋ねてきた。
「あの、それはメロウ様がけ、け」
「け?」
声が上ずってしまって言葉が続かない私にアシュレイ様は思いっきり怪訝そうな顔をした。
「私とアシュレイ様が結婚なんて仰るのです。そんなのありえませんよね」
私は顔を伏せて笑いながら続けて自分でも虚しいと少し肩を落とした。
「何故ありえないんだ?」
それは今まで聞いたことのないアシュレイ様の少し低くて怖い感じの声がふってきた。
「え?」
蝋燭の灯だけしかないが、間近にみるアシュレイ様の顔が怖いことだけは分かる。
「それは私は孤児ですし、身寄りなどありません。そもそも両親も何処の誰だか分からないのです。私なんかどうあっても王国騎士であるあなた様とは身分違いなんです」
私は胸がちくんとしたがそう答えた。私はふとその痛みにこれが悲しいという気持ちなのかもしれないと考えた。
今までこんな感情は持ったことはなかった。彼が自分の世界をどんどん広げていってしまうのは困ってしまう。
こんな私が彼の側にいられるとすればよい所で愛人だろう。でも修道院で過ごした自分にはそんな立場はとてもできそうにない。
「身分違いか」
何かを噛み締めるような苦い顔をアシュレイ様はすると私の言った言葉を繰り返していた。
どちらがと仰ったような気がしたが、私はアシュレイ様の言葉のそれの意味も気づかず、当然だと思って肯いた。
「そうです」
「そうか」
重苦しい沈黙が部屋を覆い尽くしていた。暫くしてアシュレイ様の方が口を開いた。
「君は修道女だろう? 教えてくれ、神は愛を身分で隔てるのか?」
「私は正式ではなく見習いですが、神は愛を惜しみなく与えたもうものだと思います」
「それでは君は私の側でそれを与えて欲しい」
それはどういうことだろう。私はその言葉を振り払うように続けた。
「とても許されません。私はとても醜いです」
「君が醜いだって? どうしてそんな」
「だって、あなたも最初に看病したときに私が支えるのを避けたじゃないですか。盗賊からも老婆のようだと言われましたし、ずっと修道院でも醜いと言われていましたから」
「ああ、あれは君があまりにもガリ、か細いから、私がうっかりもたれて踏みつぶしやしないかと心配して。それに私が誰かに寄りかかるなどできやしない。自分のスープを差し出して来た時から君の行いは素晴らしいと思っていた」
その言葉に何も言えなくなってしまった。
「そう言えば、私は最初はアシュレイ様を盗賊の一味と思っていました」
返事のないアシュレイ様に私は精一杯伝えようとした。
「もし盗賊だったら、私は喜んで一緒について行ったかもしれません」
アシュレイ様は私の言葉に少し目を見開いた。
少しだけ言っても許されるだろう。どうせ、ここだけ、今だけの彼と自分の時間は私だけのものにしてもいいだろう。
「私の説得であなたを盗賊から足を洗わせて、全うな道に戻すのです」
説得を愛と言いたかったが、流石に恥ずかしかった。そしてどうだと少し笑ってみた。
「それはいいな」
アシュレイ様もやっと少し微笑んだ。だがすぐ厳しい顔つきになった。
「しかし、君がこんな夜中に出かける理由が分からないが」
「……」
再び私は窮地に立たされた。
「まさか、私との結婚が嫌で出て行こうとしたのか?」
アシュレイ様のまた低くなった声で確認してきた。
「い、嫌なんて、そんなことは!」
上ずった声でつい本音で答えてしまったが、それでもアシュレイは納得しかねるようだった。
「では、何を?」
「いや、だからあなたと自分の結婚なんてありえないと考えるうちにどうしようもなくなったので、ここを出て一人で生活しようと……」
その言葉を聞いてアシュレイ様は額を押さえていた。自分で言って冷静になると自分の行動のはた迷惑さに気がついた。
「こんな夜中に?」
「すみません。もうしません」
私は申し訳なさそうに謝った。アシュレイ様はなんと私の足元に膝をついて真っ直ぐ見つめてきた。
「私を、いや嫌われていてもいい。私の側にいて欲しい。一生を共にしたいんだ」
「愛人ではなくて?」
「どうして愛人などになるんだ? 私には妻も恋人もいない」
アシュレイ様の間の抜けた顔を見るのは楽しいがそのままほっとくとまた怖くなるのでなんとかしなければいけない。
「でも、あの、はい」
私の返事も間が抜けてしまったが、アシュレイ様が嬉しそうに抱きしめてきたので大丈夫だろう。
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