上 下
22 / 40
第一章 覚 醒

二十一 公式設定からのズレ

しおりを挟む
 正直、真面目に受け止めないと思っていたけれど、やはり世界を制覇するエードラムの意向は無視できないようだった。

「まあ、これで、リルアの意に染まない相手の政略結婚は逃れられるだろう」

「一部の者達からは苦情がでそうですけどね」

 お父様とお母様が苦笑されていた。

 私は何となく自分の指にある指輪を眺めた。流石、エードラム魔道帝国の指輪。何と指に合うサイズに変わったのよ。だから今は私の左手薬指にアラス様から貰った指輪がはめられている。

 私の婚約は内々で広められた。主に誰に対してとは言わないけれど。
 

 あれから直ぐ、マドラに会うと目聡く指輪まで確認された。

「王女様! 私と言うものがありながら、エードラムの皇子などと」

 そう叫んで指輪を奪おうとしたけれど、指輪にマドラが触れると、

「ふんギャ!」

 バチッと火花が飛んでマドラが慌てて離れた。勿論私には別に何も痛みは無い。

「な、なな、何ですか? 今のは!」

 マドラは忌々し気に指輪を睨みつけるだけだった。

 ――へえ。便利な指輪ね。流石エードラム帝国の物だわ。これでマドラも迂闊に私に近寄ってこられないわね。アラス様には感謝しかない。名を使えと言いつつこうして物理的にも使えるなんて。



 それから、一年ほどエードラム帝国も政情を安定させるため、アラス様が訪問されることはなく、丁寧な求婚の正式な書状と贈り物が届いただけだった。けれど一年が過ぎ、落ち着いたのか、早速アラス様が挨拶に訪れると盛大な歓迎会とまではいかないけれど歓迎パーティや婚約を祝う席を設けられた。それから何か月かに一度アラス様は訪れるようになっていた。

 私はもう直ぐ十歳になろうとしていた。アラス様は十八歳に。でも彼はエードラム帝国の皇帝位には就いていない。今は第一皇子の補佐とされつつ、実質は第一皇子は病床であるので内情は彼がほぼ皇帝の執務の補佐を執り行い次の皇太子と目されている。それがどういうことなのか、世界にどう影響を与えるのか分からない。

 争いを起こした第二皇子と第三皇子は今上陛下に粛清された。陛下は御存命だが、この政変で子どもたちを処刑したため気落ちして早めにアラス様に帝位を譲りたいとのこと。そんな重要なことまで私が聞かせていただいているのは――、

「どうだ、リルア、そなたの夢の予言はどうなっている?」

「ええとですね。アラス様が十六歳で皇帝になるということでしたので、違ってきましたわね」

「なあに皇帝になるとこうしてそなたに気安く会うことが出来ぬのでな。もう少し父上や兄上に頑張ってもらうつもりだ。魔道船の試作も取り掛かっているので出来上がればもっと会うことが叶うようになる」

「まあ! 魔道船が、そうでしたのね。それは素晴らしいことですわ」

 ――だって、闇の神との最終決戦で天空城に魔道船で乗り込まないといけないもの。アラス様には魔道船を製作していただかないとなりません。

「しかし、あのようなところに黒竜剣があったとは」

「でしょう? 目の前にあるのに気が付かない。そのミスリードが……」

 何度目かにいらしたときにアラス様が黒竜剣がまだ見つからないと仰っていたので、私は攻略で得ていた知識からヒントを出してみた。それが当たっているかどうか不安だったけれどこうして本物の黒竜剣を見せられると『薔薇伝』の設定と同じこともあるのだと安心していた。

 アラス様も順調に黒竜剣を使いこなせているみたい。

 


 それから私は十歳になったので、大神殿で司祭長と相談した。そもそもファルク様が話してくれた光の使い手というものが何なのか。

「光の使い手とは光の魔術の頂点にある存在といった方が早いじゃろう。息をするように光の魔術を使えるはずじゃ。そして光の魔術ならほとんど魔力を使わず行使できるといわれておる。王女様が……」

「まだファルク様がそう言っただけで」

「いえいえ。ファルクがそう申したなら間違いないじゃろう。ただ……」

「ただ?」

「光の使い手は男性なら勇者、女性なら……、聖女と呼ばれますのじゃ」

 ……聖女。確か『薔薇伝』では二周目以降に選べるキャラの中に聖女がいたわよね。

「しかし、今聖地で聖女が降臨したと言われておるのじゃ。当代に勇者は一人、聖女もまた然り。王女様がもしそうなればあちらが偽物ということになりかねない」

「私はその光の使い手とかではありませんわ。大神殿でおられる方が聖女に間違いありません。それに光の勇者は……」

 ――フォルティスお兄様に決まっています。

「……そうですかのう。でもまあ、光の勇者候補は我がエイリー・グレーネ王国のフォルティス王子に間違いないじゃろう。幼い頃にあれだけの光の量は近年稀にしかみられなかったからのう」

「フォルティスお兄様が光の勇者様なのは間違いありませんわ」

 私は自分事のように自慢げに胸を張ってみせた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉

Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」  華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。  彼女の名はサブリーナ。  エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。  そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。  然もである。  公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。    一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。  趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。  そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。 「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。  ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。  拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。    

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

【短編】冤罪が判明した令嬢は

砂礫レキ
ファンタジー
王太子エルシドの婚約者として有名な公爵令嬢ジュスティーヌ。彼女はある日王太子の姉シルヴィアに冤罪で陥れられた。彼女と二人きりのお茶会、その密室空間の中でシルヴィアは突然フォークで自らを傷つけたのだ。そしてそれをジュスティーヌにやられたと大騒ぎした。ろくな調査もされず自白を強要されたジュスティーヌは実家に幽閉されることになった。彼女を公爵家の恥晒しと憎む父によって地下牢に監禁され暴行を受ける日々。しかしそれは二年後終わりを告げる、第一王女シルヴィアが嘘だと自白したのだ。けれど彼女はジュスティーヌがそれを知る頃には亡くなっていた。王家は醜聞を上書きする為再度ジュスティーヌを王太子の婚約者へ強引に戻す。 そして一年後、王太子とジュスティーヌの結婚式が盛大に行われた。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

処理中です...