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第一章 覚 醒

五 ステータスは……

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 あの頃の私は攻略本を片手にゲームを攻略するタイプの、それもかなり読み込んで、必ず抜け道というか、あり得ない手を考えて攻略するのが好きだった。

 この『暁の薔薇の伝説~光と闇の神々の聖戦~』は最後の闇の主神であるラスボスが滅茶苦茶強くて、諦めたりする人が続出したのだけど、私は魔法の裏技を使って何とかやっつけた。

 それを聞いた友人は何だそれはと散々文句を言ってきたものだったけれど。その攻略知識を元にどうにか滅亡を回避できないかな?

 私はそろそろお茶会も終わりかけたので、そっと一人で人の輪から外れてみた。いつもなら側仕えの者達が側に張りついているけれどお母様主催のお茶会だから参加者も厳選されているし、護衛も多いので監視の目も緩くなっている。

 そっと私は呟いてみた。

「ステータス」

 だけどゲームのように文字が何処かに浮かんでくることはなかった。

「本当にこれから、どうしようかしら……」

「どうなされましたか? リルア様」

 ふいに背後から声をかけられてびくりとした。

「え、ああ、バルド、少し、その人に酔ってしまって」

「大丈夫でしょうか? 先程もお倒れになられましたし、少し休まれますか?」

 いつの間にか護衛騎士の見習いバルドが私の背後に控えていた。

 思わずひゃあと悲鳴を上げかけてしまった。その気配の無さはまるで忍者のよう。でも彼はいつも私の侍女よりも私の行動に良く気がついていた。私達が危険のないように気をつけてくれている。

 バルドはお兄様より一つか二つ上くらいのはず。バルドは自分のことはあまり語らないので良く分からないけれど。

 薄めの金髪に青銀色の瞳の端正な優し気な顔立ちの美少年だ。それにお兄様よりやや上背があるけれど二人並ぶと兄弟のように似ている。

 でも、それは公言してはいけないことらしい。昔、バルドにフォルティスお兄様と似ているというと酷く困った様子をして、人前では言わないように釘を刺されたことがあったからだ。

「ありがとう。バルド、でも、もう直ぐ終わりそうだから大丈夫です」

 私は微笑んで見せると彼も優しい笑みをみせた。彼はとても私達に対して献身的だった。お兄様や私の身に危険が及ぶと我が身を呈して庇ってくれる。私にとってはもう一人の兄のように思っている。

「バルドもフォルティスお兄様の護衛はよろしいのですか?」

「ええ、あちらはガラハド卿もいらっしゃいますし、それよりリルア様の方がお一人の方が危険です。今日は人員も厳選されていますが、会場でもこのような人気のないところにお一人でいらっしゃるのは悪意を持った者の恰好の的になりますよ」

 バルドに叱られて私はしゅんとしてしまった。でも、バルドを嫌とは思わない。それは私を心底心配しているということが分かるからだ。彼は私を置いて逃げたりしない。そんな安心感。でも、お兄様と私のどちらかを選ばなければならないとき、彼はどちらを選ぶのだろう……。

 フォルティスお兄様の方を見遣ると筆頭騎士のガラハドをはじめ、側近たちがお兄様の周囲を固めていた。魔術師見習いのマドラなんて意気揚々と隣で大きな顔をしている。お兄様の周囲には次代の国王に渡りをつけようとする大人から子どもまで群がっていた。

「そうですね。私が軽率でした」

 ―ー圧倒的に私には力が足りない。魔力の使い方も分からない。家同士の駆け引きも分からない。ましてや国同士のなんて到底。

「分かっていただけると……」

「リルア様ぁ。こちらにいらしたのですね。探しましたよぅ。はい。お菓子。生クリームたっぷりのパンケーキとビスケットをお持ちしました」

 アナベルが美味しそうなパンケーキの皿を抱えてこちらにやってきた。

「まあ、美味しそう!」

「さあさあ、姫様。バルドのお小言は置いといてふかふかのパンケーキに熱々のビスケットをいただきましょう」

「お、お小言では……」

 アナベルは侍女なので戦闘能力はない。バルドは私の側を離れず。呆れたように苦笑すると私達がパンケーキを頬張るのを眺めていた。

「バルドは?」

「甘いのは苦手ですから」

 そこへ不思議なメロディとともに空中に白煙が打ち上がった。白煙が丸い形や楕円系になる。

「マドラ様の魔術ですね!」
 
「あれは風と火の魔術を組み合わせている。流石だな」

 ――普通の打ち上げ花火程度よね。それも家庭用のレベルよ。でもあの程度でもて囃されるのね。

「バルドは何か使えるの?」

「私は水の初級と風ですね。でも、姫様。あまり人の魔術は詮索してはいけませんし、自分のも教えてはなりません」

「え? そうなの?」

「マドラ様のように魔術師の家系として有名な方は仕方ありませんが、本来は秘匿するものです。魔術の呪文や型は口伝で教えられるものですから」

 あれ? ゲームでは魔術屋で魔法を買えばセットできたよね。水晶みたいなのを売ってくれてステータス画面にセットすれば使える。

 あ、でもステータス画面は見つからなかったんだ。

「うう、じゃあ。私が魔法を使えないのって」

「それはリルア様が魔術師を怖がって授業を受けて無かったからです。我が国の筆頭魔術師のマドラ様のお父様が、お忙しい中にリルア様の個人授業をされたのに」

 ――ああ、そういえば昔そんなことがあったわね。確かに。だって、部屋を暗くして顎の下から蝋燭で自分の顔を照らして怖がらせるんだもん。にたあって笑ってね。あれは小さな子にはしてはいけない。



 ゲームの設定ではキャラによって、魔法の覚える種類が決まっていたり、経験値によるレベルの上がり方が違ったりするんだけどリルアの上がり方は割と早かったのでそれだけが取り柄だったんだけどな。

 でも覚えられるのは回復魔法中心だったし、剣も細剣とかなのよね。火力が無いから一人で戦うのは難しいキャラだったのよ。
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