6 / 40
第一章 覚 醒
五 ステータスは……
しおりを挟む
あの頃の私は攻略本を片手にゲームを攻略するタイプの、それもかなり読み込んで、必ず抜け道というか、あり得ない手を考えて攻略するのが好きだった。
この『暁の薔薇の伝説~光と闇の神々の聖戦~』は最後の闇の主神であるラスボスが滅茶苦茶強くて、諦めたりする人が続出したのだけど、私は魔法の裏技を使って何とかやっつけた。
それを聞いた友人は何だそれはと散々文句を言ってきたものだったけれど。その攻略知識を元にどうにか滅亡を回避できないかな?
私はそろそろお茶会も終わりかけたので、そっと一人で人の輪から外れてみた。いつもなら側仕えの者達が側に張りついているけれどお母様主催のお茶会だから参加者も厳選されているし、護衛も多いので監視の目も緩くなっている。
そっと私は呟いてみた。
「ステータス」
だけどゲームのように文字が何処かに浮かんでくることはなかった。
「本当にこれから、どうしようかしら……」
「どうなされましたか? リルア様」
ふいに背後から声をかけられてびくりとした。
「え、ああ、バルド、少し、その人に酔ってしまって」
「大丈夫でしょうか? 先程もお倒れになられましたし、少し休まれますか?」
いつの間にか護衛騎士の見習いバルドが私の背後に控えていた。
思わずひゃあと悲鳴を上げかけてしまった。その気配の無さはまるで忍者のよう。でも彼はいつも私の侍女よりも私の行動に良く気がついていた。私達が危険のないように気をつけてくれている。
バルドはお兄様より一つか二つ上くらいのはず。バルドは自分のことはあまり語らないので良く分からないけれど。
薄めの金髪に青銀色の瞳の端正な優し気な顔立ちの美少年だ。それにお兄様よりやや上背があるけれど二人並ぶと兄弟のように似ている。
でも、それは公言してはいけないことらしい。昔、バルドにフォルティスお兄様と似ているというと酷く困った様子をして、人前では言わないように釘を刺されたことがあったからだ。
「ありがとう。バルド、でも、もう直ぐ終わりそうだから大丈夫です」
私は微笑んで見せると彼も優しい笑みをみせた。彼はとても私達に対して献身的だった。お兄様や私の身に危険が及ぶと我が身を呈して庇ってくれる。私にとってはもう一人の兄のように思っている。
「バルドもフォルティスお兄様の護衛はよろしいのですか?」
「ええ、あちらはガラハド卿もいらっしゃいますし、それよりリルア様の方がお一人の方が危険です。今日は人員も厳選されていますが、会場でもこのような人気のないところにお一人でいらっしゃるのは悪意を持った者の恰好の的になりますよ」
バルドに叱られて私はしゅんとしてしまった。でも、バルドを嫌とは思わない。それは私を心底心配しているということが分かるからだ。彼は私を置いて逃げたりしない。そんな安心感。でも、お兄様と私のどちらかを選ばなければならないとき、彼はどちらを選ぶのだろう……。
フォルティスお兄様の方を見遣ると筆頭騎士のガラハドをはじめ、側近たちがお兄様の周囲を固めていた。魔術師見習いのマドラなんて意気揚々と隣で大きな顔をしている。お兄様の周囲には次代の国王に渡りをつけようとする大人から子どもまで群がっていた。
「そうですね。私が軽率でした」
―ー圧倒的に私には力が足りない。魔力の使い方も分からない。家同士の駆け引きも分からない。ましてや国同士のなんて到底。
「分かっていただけると……」
「リルア様ぁ。こちらにいらしたのですね。探しましたよぅ。はい。お菓子。生クリームたっぷりのパンケーキとビスケットをお持ちしました」
アナベルが美味しそうなパンケーキの皿を抱えてこちらにやってきた。
「まあ、美味しそう!」
「さあさあ、姫様。バルドのお小言は置いといてふかふかのパンケーキに熱々のビスケットをいただきましょう」
「お、お小言では……」
アナベルは侍女なので戦闘能力はない。バルドは私の側を離れず。呆れたように苦笑すると私達がパンケーキを頬張るのを眺めていた。
「バルドは?」
「甘いのは苦手ですから」
そこへ不思議なメロディとともに空中に白煙が打ち上がった。白煙が丸い形や楕円系になる。
「マドラ様の魔術ですね!」
「あれは風と火の魔術を組み合わせている。流石だな」
――普通の打ち上げ花火程度よね。それも家庭用のレベルよ。でもあの程度でもて囃されるのね。
「バルドは何か使えるの?」
「私は水の初級と風ですね。でも、姫様。あまり人の魔術は詮索してはいけませんし、自分のも教えてはなりません」
「え? そうなの?」
「マドラ様のように魔術師の家系として有名な方は仕方ありませんが、本来は秘匿するものです。魔術の呪文や型は口伝で教えられるものですから」
あれ? ゲームでは魔術屋で魔法を買えばセットできたよね。水晶みたいなのを売ってくれてステータス画面にセットすれば使える。
あ、でもステータス画面は見つからなかったんだ。
「うう、じゃあ。私が魔法を使えないのって」
「それはリルア様が魔術師を怖がって授業を受けて無かったからです。我が国の筆頭魔術師のマドラ様のお父様が、お忙しい中にリルア様の個人授業をされたのに」
――ああ、そういえば昔そんなことがあったわね。確かに。だって、部屋を暗くして顎の下から蝋燭で自分の顔を照らして怖がらせるんだもん。にたあって笑ってね。あれは小さな子にはしてはいけない。
ゲームの設定ではキャラによって、魔法の覚える種類が決まっていたり、経験値によるレベルの上がり方が違ったりするんだけどリルアの上がり方は割と早かったのでそれだけが取り柄だったんだけどな。
でも覚えられるのは回復魔法中心だったし、剣も細剣とかなのよね。火力が無いから一人で戦うのは難しいキャラだったのよ。
この『暁の薔薇の伝説~光と闇の神々の聖戦~』は最後の闇の主神であるラスボスが滅茶苦茶強くて、諦めたりする人が続出したのだけど、私は魔法の裏技を使って何とかやっつけた。
それを聞いた友人は何だそれはと散々文句を言ってきたものだったけれど。その攻略知識を元にどうにか滅亡を回避できないかな?
私はそろそろお茶会も終わりかけたので、そっと一人で人の輪から外れてみた。いつもなら側仕えの者達が側に張りついているけれどお母様主催のお茶会だから参加者も厳選されているし、護衛も多いので監視の目も緩くなっている。
そっと私は呟いてみた。
「ステータス」
だけどゲームのように文字が何処かに浮かんでくることはなかった。
「本当にこれから、どうしようかしら……」
「どうなされましたか? リルア様」
ふいに背後から声をかけられてびくりとした。
「え、ああ、バルド、少し、その人に酔ってしまって」
「大丈夫でしょうか? 先程もお倒れになられましたし、少し休まれますか?」
いつの間にか護衛騎士の見習いバルドが私の背後に控えていた。
思わずひゃあと悲鳴を上げかけてしまった。その気配の無さはまるで忍者のよう。でも彼はいつも私の侍女よりも私の行動に良く気がついていた。私達が危険のないように気をつけてくれている。
バルドはお兄様より一つか二つ上くらいのはず。バルドは自分のことはあまり語らないので良く分からないけれど。
薄めの金髪に青銀色の瞳の端正な優し気な顔立ちの美少年だ。それにお兄様よりやや上背があるけれど二人並ぶと兄弟のように似ている。
でも、それは公言してはいけないことらしい。昔、バルドにフォルティスお兄様と似ているというと酷く困った様子をして、人前では言わないように釘を刺されたことがあったからだ。
「ありがとう。バルド、でも、もう直ぐ終わりそうだから大丈夫です」
私は微笑んで見せると彼も優しい笑みをみせた。彼はとても私達に対して献身的だった。お兄様や私の身に危険が及ぶと我が身を呈して庇ってくれる。私にとってはもう一人の兄のように思っている。
「バルドもフォルティスお兄様の護衛はよろしいのですか?」
「ええ、あちらはガラハド卿もいらっしゃいますし、それよりリルア様の方がお一人の方が危険です。今日は人員も厳選されていますが、会場でもこのような人気のないところにお一人でいらっしゃるのは悪意を持った者の恰好の的になりますよ」
バルドに叱られて私はしゅんとしてしまった。でも、バルドを嫌とは思わない。それは私を心底心配しているということが分かるからだ。彼は私を置いて逃げたりしない。そんな安心感。でも、お兄様と私のどちらかを選ばなければならないとき、彼はどちらを選ぶのだろう……。
フォルティスお兄様の方を見遣ると筆頭騎士のガラハドをはじめ、側近たちがお兄様の周囲を固めていた。魔術師見習いのマドラなんて意気揚々と隣で大きな顔をしている。お兄様の周囲には次代の国王に渡りをつけようとする大人から子どもまで群がっていた。
「そうですね。私が軽率でした」
―ー圧倒的に私には力が足りない。魔力の使い方も分からない。家同士の駆け引きも分からない。ましてや国同士のなんて到底。
「分かっていただけると……」
「リルア様ぁ。こちらにいらしたのですね。探しましたよぅ。はい。お菓子。生クリームたっぷりのパンケーキとビスケットをお持ちしました」
アナベルが美味しそうなパンケーキの皿を抱えてこちらにやってきた。
「まあ、美味しそう!」
「さあさあ、姫様。バルドのお小言は置いといてふかふかのパンケーキに熱々のビスケットをいただきましょう」
「お、お小言では……」
アナベルは侍女なので戦闘能力はない。バルドは私の側を離れず。呆れたように苦笑すると私達がパンケーキを頬張るのを眺めていた。
「バルドは?」
「甘いのは苦手ですから」
そこへ不思議なメロディとともに空中に白煙が打ち上がった。白煙が丸い形や楕円系になる。
「マドラ様の魔術ですね!」
「あれは風と火の魔術を組み合わせている。流石だな」
――普通の打ち上げ花火程度よね。それも家庭用のレベルよ。でもあの程度でもて囃されるのね。
「バルドは何か使えるの?」
「私は水の初級と風ですね。でも、姫様。あまり人の魔術は詮索してはいけませんし、自分のも教えてはなりません」
「え? そうなの?」
「マドラ様のように魔術師の家系として有名な方は仕方ありませんが、本来は秘匿するものです。魔術の呪文や型は口伝で教えられるものですから」
あれ? ゲームでは魔術屋で魔法を買えばセットできたよね。水晶みたいなのを売ってくれてステータス画面にセットすれば使える。
あ、でもステータス画面は見つからなかったんだ。
「うう、じゃあ。私が魔法を使えないのって」
「それはリルア様が魔術師を怖がって授業を受けて無かったからです。我が国の筆頭魔術師のマドラ様のお父様が、お忙しい中にリルア様の個人授業をされたのに」
――ああ、そういえば昔そんなことがあったわね。確かに。だって、部屋を暗くして顎の下から蝋燭で自分の顔を照らして怖がらせるんだもん。にたあって笑ってね。あれは小さな子にはしてはいけない。
ゲームの設定ではキャラによって、魔法の覚える種類が決まっていたり、経験値によるレベルの上がり方が違ったりするんだけどリルアの上がり方は割と早かったのでそれだけが取り柄だったんだけどな。
でも覚えられるのは回復魔法中心だったし、剣も細剣とかなのよね。火力が無いから一人で戦うのは難しいキャラだったのよ。
10
お気に入りに追加
191
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな
カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界
魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた
「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね?
それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」
小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く
塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう
一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが……
◇◇◇
親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります
(『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です)
◇◇◇
ようやく一区切りへの目処がついてきました
拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです
旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉
Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」
華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。
彼女の名はサブリーナ。
エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。
そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。
然もである。
公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。
一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。
趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。
そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。
「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。
ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。
拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる