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15 ソードラーン男爵家

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 帰ってきた男爵夫妻にスニーザとのやり取りを家令や使用人から伝えられた。
 お二人は子爵家に厳重注意をすると申し立てて怒っていた。
 仕事帰りのエイベルも男爵家にやってきてその話を聞くと、侯爵家からも連名で抗議しようと男爵に伝えると嬉々としながら二人で書面にサインをしていた。
 そして二人だけで話がしたいと言われたので客間にエイベルと私は残された。扉は全開だけどね。
「それで、アニーはこれからどのようにするつもりです?」
「そうだな。この割れたネックレスはメルティア嬢が手に入れたものだが、何でも日記に書かれていたのは願いを叶えてくれるという触れ込みなんだ。だからこれを売ったという占い師を尋ねてみようと考えている。マギーなら知っているだろう」
 最近のマギーとはあまり話さなくなった。何か観察されているような視線まで感じる。私がメルティアかどうか疑っているようだ。
 男爵夫妻でさえ気がついていないのにマギーはある意味凄い観察力だ。是非偵察部隊に欲しい人材だと思う。ああ、こんな時にまで鬼隊長としての考えになるな。そう思うと頭の片隅でくすりと笑う気配がした。
「じゃあ、俺も一緒に行く」
「エイベル。騎士団の総副団長補佐様はお忙しいのでは?」
「補佐役は一人ではないので逆に余裕があります。それに婿入りするなら騎士団は辞めるつもりです」
「はへっ? ど、どうして……、貴族は騎士団にいるのは肩書にもなるはずだけど」
 私は各騎士団の構成員を思い浮かべた。
 庶民が多い第三騎士団でも例外ではなくて団長は貴族階級だ。
「ソードラーン男爵家は古くからの名門で、いろいろと手広く事業もしているから執務の手伝いをして覚えないとね。多分、アニーではとても難しいと思うよ。それにソードラーン男爵家は今までの功績を認められて子爵どころか伯爵くらいまで叙爵されてもおかしくないほどなんだよ。今まで辞退していたようだけどね」
 にこりとエイベルが微笑んだ。
「は? 子爵どころか伯爵だと? た、確かに私は貴族社会については全く……」
 このままメルティア嬢で居るならば貴族の付き合いだってしなければならないだろう。だが、それは今までの騎士団の執務をこなすのと意味が違う。
「うぐぐ」
 私はつい頭を抱えて呻いた。
「それに、今の状態ではあなたはまだ社交界デビューもしていない下位の貴族令嬢。何の力もない。ソードラーン男爵家を守るためにはこれからデビューをして社交をしなければならないし、貴族学院も入学して卒業しないと跡継ぎとは認められない。もしアニーのこの状態が解き放たれて、メルティア嬢に戻ったときメルティア嬢はさぞかし困るだろうね。跡継ぎの貴族令嬢として育てられただろうから」
 スラスラとエイベルの口から出る貴族社会の常識に更に頭が痛くなる。
「……うう。そうなのか。エイベルはさすが侯爵家の令息だな」
 私が言うとエイベルはとても良い笑顔をしたので私は再び頭を抱えてしまった。
「とりあえず。アニー、その占い師のことを解決しましょう」
 いつまでも頭を抱えていても仕方がないので私は呼び鈴を鳴らしてマギーを呼んだ。 
「マギー。少し話がある」
「メルティアお嬢様。改まってどうなされましたか?」
 ここのところすっかり他人行儀になったマギーに少し寂しく感じていた。
「メルティアが買ったネックレスの占い師のところへ案内して欲しい」
「……分かりました」
 そう言うとマギーは馬車の手配やお出かけの準備をしてくれた。両親にエイベルと街に出かけると伝えると、
「エイベル殿、くれぐれもメルティアを頼みますぞ」
「アニー。うふふ。デートを楽しんでいらっしゃいね。若いっていいわね」
 父親と母親の様子が違い過ぎて、唖然としたがエイベルは気になっていないようだ。
「ええ、メルティア嬢を大切にいたします。お任せください」
「……エイベル」
 なんとも言えないまま、マギーの用意してくれた馬車に護衛らとともに乗り込んだ。正直護衛は必要ないが万が一のことがないとは限らないので、ありがたくお願いする。あのスタンピードだって突然起きたのだ。何があるか分からない。少しでも危険に備えておいた方がいい。
「それではマギー、案内を頼みます」
 私の言葉にマギーは頷いてくれた。そして、馬車は城下町へと向かったのだった。
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