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 グレイシー様に快く承諾していただけたので、私は後日公爵家のお宅に向かいました。ご挨拶と突然の訪問のお詫びを告げてから私はあの日の招いた流れの民のことについて尋ねてみました。

「あのときの流れの民が今何処にいるのか分からないわ。それがどうしたの? マーシャ様」

 私はグレイシー様にお話するかどうか悩みましたが、流れの民から貰ったネックレスのことを打ち明けました。そして、アルフレド様の心の声のようなものが聞こえることも……。

 グレイシー様は神妙な面持ちで聞いてくださり、

「まあ、なんて不思議なことがあるのでしょう。本当のこととは思えないけれど冗談や嘘をいうあなたじゃないしね」

 グレイシー様はここのところ第二王子との惚気話ばかりされて浮ついた様子でしたが、元々王太子妃にと望まれるほどの知性や品格をお持ちですから私の話も頭ごなしに否定されることはありませんでした。それが今の私にとってとても安心いたしました。

 私自身こんな話を聞いたら頭がおかしくなったのかと思いますもの。

 あのネックレスを取り出してグレイシー様にお見せしました。それをじっと手に取り、グレイシー様は身に着けられたましたけれど声が聞こえるといったことはありませんでした。私も使用人の声は聞こえずアルフレド様の声だけが聞こえましたのでそのことも伝えました。

 そして、ネックレスは私がもらったのだからと返されてしまいました。私は話を続けました。

「それに……、アルフレド様には確かに他に愛する方がいらしたようです。うちの使用人に後を付けさせて確認いたしましたの……」

「なんですって?!」

 消え入るように言った私の言葉にグレイシー様は怒りを露わにされました。

「あのアルフレド様が不実なことをされていたなんて!」

「グレイシー様、私はもうどうしたらいいのか分からなくなって……」

「私の大切なお友達のマーシャ様になんてことを。でもそうね。マーシャ様はどうしたいの? このままアルフレド様と結婚して、お相手を黙認するのか……、関係を解消するのか」

 私はその言葉にやっと現実として捉えることが出来たように思います。

「わ、私は貴族として醜聞は……」

 そう言いかけて、はっとして言葉を濁しました。グレイシー様はそれをご経験なのです。グレイシー様は私の言葉を気になさった様子はなく。

「でもそうなれば、いずれはその女性と会うこともあるでしょうし、もしかしたら、その方とアルフレド様の間にお子もできるかもしれない。あなたはその子を育てられるの?」

 私は考えていなかったことまでグレイシー様に指摘されて……。

「子どもなんて……。無理です。私は……」

 でも、私達も婚約も家同士の政略的なものです。婚約解消したいと言ってもアルフレド様は周囲には悟られないように慎重に密会されてきたようなので、両家に解消が認められるか分かりません。貴族として愛人の存在は公にしなければ黙認されるところがありますもの。

「でも、私から婚約解消なんて言い出せません。言っても、きっとアルフレド様は認めませんでしょうし、お父様だって、貴族の愛人は表立って問題を起こさなければいいじゃないかと言うに決まっています」

「……まあ、そうでしょうね。でもマーシャ様のご両親には一言相談すべきよ。私の場合とは違うわ。だって、あなたは……」

「そうでしょうか?……だったら」

「あとは、そうね。私もいろいろと情報を集めてみましょう。それでもう一度マーシャ様の意思を確認してもいいかしら? そうしておかないと動きようがないわ。別れたいのか、続けたいのか」

 別れる……。そう考えると今までの優しいアルフレド様の姿を思い浮かべてしまいました。

「……この目で浮気だと確認したら、……婚約を解消したいと思います」

 まだ、私はアルフレド様に未練があるのかもしれません。優しく微笑む姿を思い出します。この目で不貞の現場を確かめればそれも無くなるのでしょうか……。

「本当に? アルフレド様とお別れしたら、他にお相手は現れないかもしれなくてよ? 私は偶々第二王子様から求婚されましたが……」

 グレイシー様はお優しい方なので語尾を濁されました。私から婚約を解消をしたらきっと貴族社会では評判を落とすでしょう。でも、このまま、騙されて表面上は穏やかな生活を送るのか、それとも婚約破棄してどこに着くのか分からない荒海に飛び出すのか……。

 ――貴族令嬢なら騙されたふりをして婚約を継続することが正しいのでしょう。今更ながら、グレイシー様の優しく労わるような視線に胸が詰まってきました。

「私は家同士の政略だから仕方ないと思っておりました。誠実に仲良くしようと……、だけどあの声の内容はあんまりです。今まで信じていただけに……。直接現場に乗り込んで、はしたなく泣き喚きたいくらいですわ」

「直接不貞の現場に踏み込むなんておやめなさい。あなたが傷つくことになるだけよ」

 グレイシー様は私の肩を抱いて優しく慰めてくださいました。グレイシー様は本当にお優しくお強い方ですわ。王太子妃に相応しい方です。
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