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三十三 ミーシャ商会にて
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ミーシャ商会へ行くことは反対はされず、侍女や付き添いの者の出かけることに。付き添いは勿論ルークお兄様よ。何でも今までこのために頑張ったらしく長期の休暇が取れたみたい。だから、夜会にお茶会とルークお兄様がいらっしゃるのでユリアン様とはろくろくお話も出来ず、ジョーゼットや他のご令嬢方に囲まれ王太子様とお話する羽目になってしまっている。
――王太子様は絶対無理だって。そもそもユリアン様さえも無理なんだからね。
お茶会の合間にミーシャ商会に行くとこができた。そこは街の広場前の大きなお店だった。『ゆるハー』では街イベントの場所になるところよ。
「これはようこそ、ルーク様。今日はこちらまでご来店頂き光栄の極みであります」
「いつもは来て貰っているが、アーシアがお店に行きたいと言ってね」
「おお、これはお美しい妹君もご一緒で益々……」
お店の方は破顔していた。含みの有りそうなのは連日の記事で、私が王太子妃候補に入ったなどと恐ろしいことが書きたてられていたのよ。勘弁してよね。
「あの、孔雀の扇とか、その……、ガブリエラちゃんに会いたくて」
「おお、流行には敏感でいらっしゃる。早速特別の物をいくつかお持ちしましょう。それとガブリエラ様ですね。お呼び致しますがこちらにおいでになるかは……」
曖昧に誤魔化されたけれど私はダメもとで言っただけだから。だけど暫くして足音高らかにドアをけ破るようにガブちゃんはやって来た。
「ルーク様がいらしてるって?」
その勢いに流石のルークお兄様も目を細められたけれど貴公子然とした態度を崩さなかったのは流石だわ。
「ご令嬢とは初めてお会いすると思いますが、以前どこかでお会いしたことが?」
「は、はい! お茶会のときに。私はガブリエラ・ミーシャと申します。お見知りおきを」
顔を真っ赤にしてちょこんと挨拶するガブちゃんはなんというか、恋する乙女って感じで可愛かった。恋は人を変えるのね。ガサツな感じのガブちゃんったのに……。
私はついほくそ笑んでしまいそうになり、出されたお茶を飲むふりをして誤魔化した。
「今日はどういったご用ですか? うちに無い物でもルーク様のためにはどんなものでもお取り寄せ致しますわ」
商談にかなりの私情が入っている気もするけれどルークお兄様もご機嫌よさそうだし、私はガブちゃんをうちの別荘に誘ってみた。
「あの、ガブリエラちゃんが良かったら、この夏、うちの別荘にお誘いしようかと」
「夏の別荘に……、素晴らしいお誘いですわね。それにご挨拶が遅れましたわ。アーシア様。私はガブリエラ・ミーシャです。どうぞ、宜しくお願いします。ルーク様の妹君で今王太子様のお妃候補として話題のアーシア様から、直接のお誘いを断るなど、是非私で宜しければ伺わせて頂きますわ」
ガブちゃんのにたりとした笑い顔に私も良かったと微笑み返したの。お店の方も黙ってこのやり取りを見ていてくれた。
無事、孔雀の扇やらなにやら手に入れて、お店を出るとルークお兄様が馬車の中で話し掛けてきた。
「どうやら、お前はあのお嬢さんと知り合いらしいな。何を企んでるのだ? まあ、お前の浅知恵では大したことはないだろうが、くれぐれも身の振り方には気を付けなさい」
「べ、別に企んでなんか……。ただ、彼女と話するのは何と申しましょうか、ユニークで安心致します」
私がそう言うとルークお兄様は思う節があるのだろう、黙ってしまわれた。そして、目をお閉じになったのですが、その目元にはお疲れのようでクマができていた。ルークお兄様も私の王太子妃候補のことでさぞかしお忙しいことでしょう。お父様は苔のことしか頭にないから実質の領地のことや今回のデビューのもろもろはお兄様の負担ですものね。その上、外交職として諸外国を回られていたのだから……。
「お兄様……。ご無理なさらず。私は王太子様の候補など望みません……。ユリアン様だって、私にはもったいなく……」
揺れる馬車の音に紛れてそっと呟いてみた。ルークお兄様の耳に届いてはないだろうけどね。ただ、それから、あまりルークお兄様は煩く言わなくなったのよ。それどころか、早めに夏のバカンスに行くことになったわ。私には良かったんだけどね。
それは夏のバカンスの準備を考えてベッドで寝ころんでいた夜にお母様が部屋にいらしたのよ。
「アーシア、ちょっといいかしら?」
「はい。海辺の別荘に行くので準備とかを考えていただけです」
お寝間着姿のお母様は美しかった。お手入れもさることながら、成人女性というか母の輝きでしょうか。私の側にいらして私の頭を撫でてくれました。
「アーシアが嫌なら、ルークが言ってもしなくていいのよ。あなたが幸せに過ごせるのが一番なのですからね」
「は、……」
突然のことに私は起き上がって美しいお母様のお顔を見返した。そこにはただ私を心配するといった表情しかなかった。
「……お母様。私は……」
優しい言葉につい言葉が詰まってしまいました。だって、本当にこんなに優しくされたのは久しぶり……。日本での母親を思い出してしまった。お母様は私をぎゅっと抱きしめてくださいました。お母様ってもう呼べないかもしれない。そう思うと私は鼻がつんとしてしまった。
「私の可愛いアーシア。難しく考えないであなたの好きなように……。別荘には後から行くことになるけど、気を付けなさいね」
私は涙が零れないようにそっと肯いた。お母様の優雅で素敵な香りが私を小さい子に戻してくれた気がした。
そして、いよいよ。海辺の別荘に私はお兄様と向かった。ガブちゃんやジョーゼットもくるのよ。楽しみだわ。
――王太子様は絶対無理だって。そもそもユリアン様さえも無理なんだからね。
お茶会の合間にミーシャ商会に行くとこができた。そこは街の広場前の大きなお店だった。『ゆるハー』では街イベントの場所になるところよ。
「これはようこそ、ルーク様。今日はこちらまでご来店頂き光栄の極みであります」
「いつもは来て貰っているが、アーシアがお店に行きたいと言ってね」
「おお、これはお美しい妹君もご一緒で益々……」
お店の方は破顔していた。含みの有りそうなのは連日の記事で、私が王太子妃候補に入ったなどと恐ろしいことが書きたてられていたのよ。勘弁してよね。
「あの、孔雀の扇とか、その……、ガブリエラちゃんに会いたくて」
「おお、流行には敏感でいらっしゃる。早速特別の物をいくつかお持ちしましょう。それとガブリエラ様ですね。お呼び致しますがこちらにおいでになるかは……」
曖昧に誤魔化されたけれど私はダメもとで言っただけだから。だけど暫くして足音高らかにドアをけ破るようにガブちゃんはやって来た。
「ルーク様がいらしてるって?」
その勢いに流石のルークお兄様も目を細められたけれど貴公子然とした態度を崩さなかったのは流石だわ。
「ご令嬢とは初めてお会いすると思いますが、以前どこかでお会いしたことが?」
「は、はい! お茶会のときに。私はガブリエラ・ミーシャと申します。お見知りおきを」
顔を真っ赤にしてちょこんと挨拶するガブちゃんはなんというか、恋する乙女って感じで可愛かった。恋は人を変えるのね。ガサツな感じのガブちゃんったのに……。
私はついほくそ笑んでしまいそうになり、出されたお茶を飲むふりをして誤魔化した。
「今日はどういったご用ですか? うちに無い物でもルーク様のためにはどんなものでもお取り寄せ致しますわ」
商談にかなりの私情が入っている気もするけれどルークお兄様もご機嫌よさそうだし、私はガブちゃんをうちの別荘に誘ってみた。
「あの、ガブリエラちゃんが良かったら、この夏、うちの別荘にお誘いしようかと」
「夏の別荘に……、素晴らしいお誘いですわね。それにご挨拶が遅れましたわ。アーシア様。私はガブリエラ・ミーシャです。どうぞ、宜しくお願いします。ルーク様の妹君で今王太子様のお妃候補として話題のアーシア様から、直接のお誘いを断るなど、是非私で宜しければ伺わせて頂きますわ」
ガブちゃんのにたりとした笑い顔に私も良かったと微笑み返したの。お店の方も黙ってこのやり取りを見ていてくれた。
無事、孔雀の扇やらなにやら手に入れて、お店を出るとルークお兄様が馬車の中で話し掛けてきた。
「どうやら、お前はあのお嬢さんと知り合いらしいな。何を企んでるのだ? まあ、お前の浅知恵では大したことはないだろうが、くれぐれも身の振り方には気を付けなさい」
「べ、別に企んでなんか……。ただ、彼女と話するのは何と申しましょうか、ユニークで安心致します」
私がそう言うとルークお兄様は思う節があるのだろう、黙ってしまわれた。そして、目をお閉じになったのですが、その目元にはお疲れのようでクマができていた。ルークお兄様も私の王太子妃候補のことでさぞかしお忙しいことでしょう。お父様は苔のことしか頭にないから実質の領地のことや今回のデビューのもろもろはお兄様の負担ですものね。その上、外交職として諸外国を回られていたのだから……。
「お兄様……。ご無理なさらず。私は王太子様の候補など望みません……。ユリアン様だって、私にはもったいなく……」
揺れる馬車の音に紛れてそっと呟いてみた。ルークお兄様の耳に届いてはないだろうけどね。ただ、それから、あまりルークお兄様は煩く言わなくなったのよ。それどころか、早めに夏のバカンスに行くことになったわ。私には良かったんだけどね。
それは夏のバカンスの準備を考えてベッドで寝ころんでいた夜にお母様が部屋にいらしたのよ。
「アーシア、ちょっといいかしら?」
「はい。海辺の別荘に行くので準備とかを考えていただけです」
お寝間着姿のお母様は美しかった。お手入れもさることながら、成人女性というか母の輝きでしょうか。私の側にいらして私の頭を撫でてくれました。
「アーシアが嫌なら、ルークが言ってもしなくていいのよ。あなたが幸せに過ごせるのが一番なのですからね」
「は、……」
突然のことに私は起き上がって美しいお母様のお顔を見返した。そこにはただ私を心配するといった表情しかなかった。
「……お母様。私は……」
優しい言葉につい言葉が詰まってしまいました。だって、本当にこんなに優しくされたのは久しぶり……。日本での母親を思い出してしまった。お母様は私をぎゅっと抱きしめてくださいました。お母様ってもう呼べないかもしれない。そう思うと私は鼻がつんとしてしまった。
「私の可愛いアーシア。難しく考えないであなたの好きなように……。別荘には後から行くことになるけど、気を付けなさいね」
私は涙が零れないようにそっと肯いた。お母様の優雅で素敵な香りが私を小さい子に戻してくれた気がした。
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