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二十八 期末試験のイベント
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そんなこんなで早くも始業式から二月程経ってしまった。世間では社交シーズンに突入している。シーズンに合わせて早めにお家に戻るご令嬢もいらして、段々授業に出席される方が減ってきていた。ジョーゼットはぎりぎりまでいるみたい。今日も朝の清々しい食卓の席でジョーゼットと朝食を召し上がるの。
「アーシアはこの夏どうするの?」
――え? 夏、どうするって聞かれても。ぼっちな私はルークお兄様と避暑地の別荘で使用人をいじめていましたわ。ええ、毎年ね。恒例でしたのよ。
私の内心とは別にジョーゼットは微笑を浮かべていた。そして、可愛らしく人差し指を唇に当てたのよ。絵になるわね。
「ふふふっ。夏の社交が終わったらうちは毎年高原に行くのよ。アーシアが良かったら是非招待したいわ。でも、そう言えば、アーシアのお家からデビューのお知らせも届いているみたいね」
――ああ、そんなのあったわね。忘れてたというか、忘れたかったというか。それより、友達の家に招待ですって、これよ。これ。お友達との思い出作り。避暑地でのひと夏の思い出よ。今までのようなルークお兄様との馬鹿の巣じゃなくて、お友達とバカンスなのよ。
「あら、いいのかしら? お邪魔じゃないの?」
「ええ、是非いらしてね」
可愛らしい表情のジョーゼットを見ながら考えていた。――私がこの夏、社交界にデビューなんてするの? もういっそ入れ替わりをバラして、庶民の生活を送りたいわ。なんだったら私からバラそうかしら。
私は『ゆるハー』でどういう風に入れ替わりが判明するのか思い出そうとした。でもそれはエンドロールのように出産した病院で入れ替わりが分かったとだけ文章が画面に流れるだけだった。次には私がヒロイン達から糾弾されて床に崩れ落ちてるシーンになるのよ。私が病院に調べに行けばいいのかしら?
そんなことを思いつつ、一応ここも学校だから期末試験のようなものがあるのよ。でもペーパーでなく諮問形式が多いのは助かるわ。ええ、私は日本での知識も動員したものだから余裕だったわ。
そう言えば、プリムラ学園では成績が廊下に発表されていた。よくあるシュミュレーション系のゲームに倣って試験のイベントが学期ごとにあったわ。『ゆるハー』に毎回あった試験での番数争いシーン。
各ステータスを上げていると自然と上位になるんだけどね。最初は低いけれどステータスを頑張ってあげると万年一番のユリアン様を抜くというエピソードが出てくるの。
ヒロインに抜かれて悔しがるかと思えば、清々しいほどの笑顔でライバルだと認めるとユリアン様は宣言するのよね。それで、そこから一緒に勉強しようとか誘ってくるようになるの。これでヒロインとの絆が深まり好感度が上がるイベントの一つ。放課後、図書館でのお勉強デートやノートの貸し借りという甘酸っぱいやり取りが待っている!
「……お嬢様。紅茶のお代わりをお持ちいたしましょうか?」
私の『ゆるハー』妄想タイムは食後のお茶で終わった。
「え、ええ。ミルクティでお願いね。お砂糖は無しでね」
そう言うと僅かに侍女は目を細めた。
……アーシアの時はお砂糖一杯だったものね。い、いえね。ちょっと腰回りがきつくなって……。そうじゃなくても日本でいる時からお砂糖は抜いてたの。お茶本来の味が薄れちゃうし。
「私はハーブティがいいわ。ローズピップのね」
ジョーゼットが侍女に頼んでいた。ハーブティも好きだったわ。ローズヒップは美容に良いらしいのよね。ちょっと酸っぱいけど。薔薇の実から抽出されてるのだっけ?
今日の授業はシーズンに向けてのマナーやダンスが主だった。ダンス? メヌエットとかブランルはオートモードよ。勿論女性のパートですわ。悪いけど先生からはお褒めの言葉をいただいたくらいよ。私が素で踊れる訳ないじゃないの。いいところ体育祭の最後に踊るマイムマイムくらいよ。あと盆踊り?
そして、放課後になると私は皆様に見つからぬようにいつもの所に……。そう、あの塔の上。
ガブちゃんの動向が知りたいの。幸いプリムラ学園の間取りはゲームのときと似ているから探しやすいわ。まあ、学校は良く似た造りになるからね。
――さて、どこに成績を張り出しているんだろう? 持ってきたオペラグラスでお隣を覗く。勿論侍女は側に控えている。私がしていることはルークお兄様に報告するのよ。まあ、いいけれど。あ、ガブちゃん見つけた。どうやら成績は今一つだったみたい。しょんぼりしているとなんとジル様がガブちゃんに話しかけていた。そして、二人で何処に歩いて行く。それ以上は建物の中だから見えなくなった。
ユリアン様は文句無しの一位だったようで周囲から褒め称えられていた。流石ユリアン様だわ。横にはレイン子爵のクリス様も控えていた。仲が良いのかしら? まあ生徒会の副会長だしね。
こうなると今回ガブちゃんは図書館デートやノートの貸し借りイベントまで行かないのね。攻略はどこまで進んでいるのかしら? 私の方もこんな初期でユリアン様の好感度がカンストというある意味異常事態だし。普通の『ゆるハー』なら好感度はライバルと分け合うので減ったり増えたりを繰り返す。最後の方でやっとということが多かったのよね。だから、こんな始まりの段階でカンストとかは有り得ないわよ。
あまりここにいて誰かに見つかると大変だから、私は名残惜しいけれど塔から出て部屋に戻った。途中で私を探していたジョーゼットに呼び止められた。
「ああ、アーシア。ここにいたの? 探したのよ。明日の授業の下調べをしたいの。だから、一緒に図書館に行かない?」
――そうそう、こんな風にユリアン様がヒロインに話しかけるのよ。可愛いジョーゼットの頼みだから私は快諾して一緒に向かった。
図書館デートの定番は分からない所を教えてもらって二人の仲が深まるの。王道の図書館でのデートよ。片方が勉強中に寝てしまって寝顔が可愛いというシチュエーションや、高いところにある本がとれなくて困っているのを取ってもらうなど様々なものがあるの。だけど今私は静かな筈の図書館でご令嬢達に囲まれていますのよ。おかしいですわ。
「――まああ。流石、アーシア様ですわ。そんなことまでご存じなんですのね」
「はぁぁ。美しさといい賢さといい、アーシア様には天から二物も三物も与えられていますわ」
……だからね。お嬢様方、図書館では静かにね。この知識は日本での大学までの知識なの。
私はいくつか興味深い本を手に取って借りて部屋に戻ったわ。だってね。あれ以上いると勉強どころではないじゃない? アーシアも苦笑しつつ、同じように本を選んでいた。
「アーシアはこの夏どうするの?」
――え? 夏、どうするって聞かれても。ぼっちな私はルークお兄様と避暑地の別荘で使用人をいじめていましたわ。ええ、毎年ね。恒例でしたのよ。
私の内心とは別にジョーゼットは微笑を浮かべていた。そして、可愛らしく人差し指を唇に当てたのよ。絵になるわね。
「ふふふっ。夏の社交が終わったらうちは毎年高原に行くのよ。アーシアが良かったら是非招待したいわ。でも、そう言えば、アーシアのお家からデビューのお知らせも届いているみたいね」
――ああ、そんなのあったわね。忘れてたというか、忘れたかったというか。それより、友達の家に招待ですって、これよ。これ。お友達との思い出作り。避暑地でのひと夏の思い出よ。今までのようなルークお兄様との馬鹿の巣じゃなくて、お友達とバカンスなのよ。
「あら、いいのかしら? お邪魔じゃないの?」
「ええ、是非いらしてね」
可愛らしい表情のジョーゼットを見ながら考えていた。――私がこの夏、社交界にデビューなんてするの? もういっそ入れ替わりをバラして、庶民の生活を送りたいわ。なんだったら私からバラそうかしら。
私は『ゆるハー』でどういう風に入れ替わりが判明するのか思い出そうとした。でもそれはエンドロールのように出産した病院で入れ替わりが分かったとだけ文章が画面に流れるだけだった。次には私がヒロイン達から糾弾されて床に崩れ落ちてるシーンになるのよ。私が病院に調べに行けばいいのかしら?
そんなことを思いつつ、一応ここも学校だから期末試験のようなものがあるのよ。でもペーパーでなく諮問形式が多いのは助かるわ。ええ、私は日本での知識も動員したものだから余裕だったわ。
そう言えば、プリムラ学園では成績が廊下に発表されていた。よくあるシュミュレーション系のゲームに倣って試験のイベントが学期ごとにあったわ。『ゆるハー』に毎回あった試験での番数争いシーン。
各ステータスを上げていると自然と上位になるんだけどね。最初は低いけれどステータスを頑張ってあげると万年一番のユリアン様を抜くというエピソードが出てくるの。
ヒロインに抜かれて悔しがるかと思えば、清々しいほどの笑顔でライバルだと認めるとユリアン様は宣言するのよね。それで、そこから一緒に勉強しようとか誘ってくるようになるの。これでヒロインとの絆が深まり好感度が上がるイベントの一つ。放課後、図書館でのお勉強デートやノートの貸し借りという甘酸っぱいやり取りが待っている!
「……お嬢様。紅茶のお代わりをお持ちいたしましょうか?」
私の『ゆるハー』妄想タイムは食後のお茶で終わった。
「え、ええ。ミルクティでお願いね。お砂糖は無しでね」
そう言うと僅かに侍女は目を細めた。
……アーシアの時はお砂糖一杯だったものね。い、いえね。ちょっと腰回りがきつくなって……。そうじゃなくても日本でいる時からお砂糖は抜いてたの。お茶本来の味が薄れちゃうし。
「私はハーブティがいいわ。ローズピップのね」
ジョーゼットが侍女に頼んでいた。ハーブティも好きだったわ。ローズヒップは美容に良いらしいのよね。ちょっと酸っぱいけど。薔薇の実から抽出されてるのだっけ?
今日の授業はシーズンに向けてのマナーやダンスが主だった。ダンス? メヌエットとかブランルはオートモードよ。勿論女性のパートですわ。悪いけど先生からはお褒めの言葉をいただいたくらいよ。私が素で踊れる訳ないじゃないの。いいところ体育祭の最後に踊るマイムマイムくらいよ。あと盆踊り?
そして、放課後になると私は皆様に見つからぬようにいつもの所に……。そう、あの塔の上。
ガブちゃんの動向が知りたいの。幸いプリムラ学園の間取りはゲームのときと似ているから探しやすいわ。まあ、学校は良く似た造りになるからね。
――さて、どこに成績を張り出しているんだろう? 持ってきたオペラグラスでお隣を覗く。勿論侍女は側に控えている。私がしていることはルークお兄様に報告するのよ。まあ、いいけれど。あ、ガブちゃん見つけた。どうやら成績は今一つだったみたい。しょんぼりしているとなんとジル様がガブちゃんに話しかけていた。そして、二人で何処に歩いて行く。それ以上は建物の中だから見えなくなった。
ユリアン様は文句無しの一位だったようで周囲から褒め称えられていた。流石ユリアン様だわ。横にはレイン子爵のクリス様も控えていた。仲が良いのかしら? まあ生徒会の副会長だしね。
こうなると今回ガブちゃんは図書館デートやノートの貸し借りイベントまで行かないのね。攻略はどこまで進んでいるのかしら? 私の方もこんな初期でユリアン様の好感度がカンストというある意味異常事態だし。普通の『ゆるハー』なら好感度はライバルと分け合うので減ったり増えたりを繰り返す。最後の方でやっとということが多かったのよね。だから、こんな始まりの段階でカンストとかは有り得ないわよ。
あまりここにいて誰かに見つかると大変だから、私は名残惜しいけれど塔から出て部屋に戻った。途中で私を探していたジョーゼットに呼び止められた。
「ああ、アーシア。ここにいたの? 探したのよ。明日の授業の下調べをしたいの。だから、一緒に図書館に行かない?」
――そうそう、こんな風にユリアン様がヒロインに話しかけるのよ。可愛いジョーゼットの頼みだから私は快諾して一緒に向かった。
図書館デートの定番は分からない所を教えてもらって二人の仲が深まるの。王道の図書館でのデートよ。片方が勉強中に寝てしまって寝顔が可愛いというシチュエーションや、高いところにある本がとれなくて困っているのを取ってもらうなど様々なものがあるの。だけど今私は静かな筈の図書館でご令嬢達に囲まれていますのよ。おかしいですわ。
「――まああ。流石、アーシア様ですわ。そんなことまでご存じなんですのね」
「はぁぁ。美しさといい賢さといい、アーシア様には天から二物も三物も与えられていますわ」
……だからね。お嬢様方、図書館では静かにね。この知識は日本での大学までの知識なの。
私はいくつか興味深い本を手に取って借りて部屋に戻ったわ。だってね。あれ以上いると勉強どころではないじゃない? アーシアも苦笑しつつ、同じように本を選んでいた。
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