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二十二 クリスのガーデン・パーティ
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そして、ガーデンパーティの日、うちまで迎えに来てくれたユリアン様とルークお兄様の間ではバチバチと何かが飛んでいた。
「(大事な)アーシアを頼んだよ(貴様になぞ託すのはやはり心配だ)」
「勿論、心得えております。ルークお義兄さん」
「……(貴様に)兄呼ばわりをされる言われは、まだ無いようだが? (いやこれからもな)」
――隣で見ていると何だか二人の内心がだだ漏れのような気がします。
私は強張りきった笑みのままユリアン様を促して馬車に乗り込んだ。
――それより、私は気になるのよ。クリス様の性別。早く行って確かめたいわ。
子爵家の中でも名門であるレイン家のガーデンパーティは盛況だった。正式な社交イベントではないもののデビューしている名門子息や令嬢方も参加して華やかな雰囲気を醸し出していた。
――流石にガブちゃんは参加してないみたい。まあ、お兄様ルートとか言ってたし。お兄様はここにこられないからね。それよりも確認したいのは……。
ユリアン様にエスコートされて子爵家の中庭に着くとそこは素晴らしい花々の庭だった。クリス様は私達に気がつくと直ぐに挨拶にいらした。
「ユリアン様、アーシア様。我が家のパーティにお出でていただけて光栄です」
そういうとクリス様は洗練された優雅な礼をなさったのでこちらも礼を返した。
「本日はお招きいただいて……」
今日の私は令嬢のドレス姿だから淑女の礼をしても全然おかしくないわ。今日はガーデンパーティ用に動きやすいデザインだけどね。
でも、やっぱりコルセットが何気に苦しい! キツイ! 特に今日は侍女に思いっきり締め上げられた。うう、ここのところずっと男装していたから、どうにも苦しい。
今日のドレスは白を基調としたものでフリルとレースを贅沢に使った逸品。お母さまとお兄様御用達のお店よ。リボンも素敵で可憐な出来映え。鏡で見ると我ながら芸術的な作品に仕上がっています。うちの使用人の技術は卓越しているわ。素晴らしい出来栄えよね! でも今日の頭はドリルに近いけど。小ドリルを沢山盛った頭になってるわ。
そんな完璧な令嬢姿なのにクリス様からの視線は痛いくらいだったの。
――ええ? 今日の私は完璧な令嬢姿の筈ですよ? 男装ではふぉざいません。服装コードには何ら問題は無いと思いますわ。あ、ひょっとして、もしや、……クリス様は男性の方がお好みだったのかしら? それは忌々しき問題ですわね。
「……どうそ、お楽しみください。今日は様々な花で趣向を凝らせております」
クリス様はふいと視線を逸らせて、他の方々の挨拶に向かった。
でも私達もユリアン様の知り合いの方々に囲まれて挨拶することに忙しく、私はクリス様の性別を確かめるチャンスはこなかった。
やっと一通り挨拶を終えると私はクリス様を探した。そして、クリス様を見つけるとじっとその姿を観察してみた。客人の中を確認するように歩くクリス様は女性のような線の細さの美貌の持ち主で肩をまでのふわふわのストロベリーブロンドの髪は光を受けて一層煌いている。クリス様もそこだけスポットライトが当たってるような美形。
――一体どちらなのかしら? クリス様の性別次第ではここが異世界なのか乙女ゲームの『ゆるハー』の中かどうか分かるのよね。
私はやや伏せた視線の先でクリス様の動向を窺い続けた。その内、クリス様はゆっくりと人々の中を外れて何処かに向かっているようだった。私もその後に続いた。
いつの間にか庭奥の薔薇園まで来ていて、そこは迷路のような造りになっていた。私はそれに何故か既視感があって、つい周囲に気を取られて、いつの間にかクリス様を見失ってしまった。私は足を止めて周囲を見遣った。
――ああ、これって見覚えがあるような気が……。
「アーシア様。お一人では危険ですよ。我が家もセキュリティには十分気をつけておりますが、ご令嬢が付き添いもなく歩かれるのはあまり感心しませんね」
それは私の真後ろから聞こえてきたのだった。私は驚いて思わず飛び上がりそうになった。そして、後ろを振り返ってるとクリス様がいらっしゃった。
「ご、ごめんなさい。つい……」
「つい?」
クリス様はその幼げながらセクシーな面立ちに怪訝そうな表情を浮かべていた。
――ええ、あなたが男か女か確かめたかったというか……。
私はクリス様のお姿で確認したいけれど、クリス様は今日もきっちりとした服を着込んでいた。
これは、あれか、直に触らないと分かりそうもないかも……。さりげなく倒れたふりをしてクリス様に触れるしかないでしょう!
私の邪な考えにクリス様は悩ましげな表情で私を見つめて口を開いた。
「……アーシア様はお気をつけられた方がよろしいかと……」
「何のことでしょうか?」
私は自分の考えが見透かされたのではとかなり焦りつつ訊ねてみた。でもクリス様の様子が腹黒お兄様や最近のユリアン様の様子に近い雰囲気に変わったことに気がついた。
――あれ? 私って、なんかクリス様の地雷を踏んだ?
クリス様はなおも私をじっと眺めていた。
――え? そんなに見なくても今日の私は完璧な令嬢姿でしてよ? きゅっとくびれたウエストは侍女達に感嘆の溜息をついておりましたし、胸元はちゃんと上げて寄せましたよ? だから谷間も綺麗に見えている筈です。それはそれはとても芸術的な作品に仕上がっていることを自信を持って宣言いたします。
「このような奥まったところに高位のご令嬢が男性と二人きり。それも未婚のご令嬢がこんな風に無防備に男性と二人きりになるものではありませんよ?」
「……男性?」
まさかと言うべきか、やはり、と言うべきなのか、クリス様は男性? でもね。クリス様はまるで捕食者のような眼で私を射抜いているのよ。……あれ? 私は何かいけないことになってる?
「(大事な)アーシアを頼んだよ(貴様になぞ託すのはやはり心配だ)」
「勿論、心得えております。ルークお義兄さん」
「……(貴様に)兄呼ばわりをされる言われは、まだ無いようだが? (いやこれからもな)」
――隣で見ていると何だか二人の内心がだだ漏れのような気がします。
私は強張りきった笑みのままユリアン様を促して馬車に乗り込んだ。
――それより、私は気になるのよ。クリス様の性別。早く行って確かめたいわ。
子爵家の中でも名門であるレイン家のガーデンパーティは盛況だった。正式な社交イベントではないもののデビューしている名門子息や令嬢方も参加して華やかな雰囲気を醸し出していた。
――流石にガブちゃんは参加してないみたい。まあ、お兄様ルートとか言ってたし。お兄様はここにこられないからね。それよりも確認したいのは……。
ユリアン様にエスコートされて子爵家の中庭に着くとそこは素晴らしい花々の庭だった。クリス様は私達に気がつくと直ぐに挨拶にいらした。
「ユリアン様、アーシア様。我が家のパーティにお出でていただけて光栄です」
そういうとクリス様は洗練された優雅な礼をなさったのでこちらも礼を返した。
「本日はお招きいただいて……」
今日の私は令嬢のドレス姿だから淑女の礼をしても全然おかしくないわ。今日はガーデンパーティ用に動きやすいデザインだけどね。
でも、やっぱりコルセットが何気に苦しい! キツイ! 特に今日は侍女に思いっきり締め上げられた。うう、ここのところずっと男装していたから、どうにも苦しい。
今日のドレスは白を基調としたものでフリルとレースを贅沢に使った逸品。お母さまとお兄様御用達のお店よ。リボンも素敵で可憐な出来映え。鏡で見ると我ながら芸術的な作品に仕上がっています。うちの使用人の技術は卓越しているわ。素晴らしい出来栄えよね! でも今日の頭はドリルに近いけど。小ドリルを沢山盛った頭になってるわ。
そんな完璧な令嬢姿なのにクリス様からの視線は痛いくらいだったの。
――ええ? 今日の私は完璧な令嬢姿の筈ですよ? 男装ではふぉざいません。服装コードには何ら問題は無いと思いますわ。あ、ひょっとして、もしや、……クリス様は男性の方がお好みだったのかしら? それは忌々しき問題ですわね。
「……どうそ、お楽しみください。今日は様々な花で趣向を凝らせております」
クリス様はふいと視線を逸らせて、他の方々の挨拶に向かった。
でも私達もユリアン様の知り合いの方々に囲まれて挨拶することに忙しく、私はクリス様の性別を確かめるチャンスはこなかった。
やっと一通り挨拶を終えると私はクリス様を探した。そして、クリス様を見つけるとじっとその姿を観察してみた。客人の中を確認するように歩くクリス様は女性のような線の細さの美貌の持ち主で肩をまでのふわふわのストロベリーブロンドの髪は光を受けて一層煌いている。クリス様もそこだけスポットライトが当たってるような美形。
――一体どちらなのかしら? クリス様の性別次第ではここが異世界なのか乙女ゲームの『ゆるハー』の中かどうか分かるのよね。
私はやや伏せた視線の先でクリス様の動向を窺い続けた。その内、クリス様はゆっくりと人々の中を外れて何処かに向かっているようだった。私もその後に続いた。
いつの間にか庭奥の薔薇園まで来ていて、そこは迷路のような造りになっていた。私はそれに何故か既視感があって、つい周囲に気を取られて、いつの間にかクリス様を見失ってしまった。私は足を止めて周囲を見遣った。
――ああ、これって見覚えがあるような気が……。
「アーシア様。お一人では危険ですよ。我が家もセキュリティには十分気をつけておりますが、ご令嬢が付き添いもなく歩かれるのはあまり感心しませんね」
それは私の真後ろから聞こえてきたのだった。私は驚いて思わず飛び上がりそうになった。そして、後ろを振り返ってるとクリス様がいらっしゃった。
「ご、ごめんなさい。つい……」
「つい?」
クリス様はその幼げながらセクシーな面立ちに怪訝そうな表情を浮かべていた。
――ええ、あなたが男か女か確かめたかったというか……。
私はクリス様のお姿で確認したいけれど、クリス様は今日もきっちりとした服を着込んでいた。
これは、あれか、直に触らないと分かりそうもないかも……。さりげなく倒れたふりをしてクリス様に触れるしかないでしょう!
私の邪な考えにクリス様は悩ましげな表情で私を見つめて口を開いた。
「……アーシア様はお気をつけられた方がよろしいかと……」
「何のことでしょうか?」
私は自分の考えが見透かされたのではとかなり焦りつつ訊ねてみた。でもクリス様の様子が腹黒お兄様や最近のユリアン様の様子に近い雰囲気に変わったことに気がついた。
――あれ? 私って、なんかクリス様の地雷を踏んだ?
クリス様はなおも私をじっと眺めていた。
――え? そんなに見なくても今日の私は完璧な令嬢姿でしてよ? きゅっとくびれたウエストは侍女達に感嘆の溜息をついておりましたし、胸元はちゃんと上げて寄せましたよ? だから谷間も綺麗に見えている筈です。それはそれはとても芸術的な作品に仕上がっていることを自信を持って宣言いたします。
「このような奥まったところに高位のご令嬢が男性と二人きり。それも未婚のご令嬢がこんな風に無防備に男性と二人きりになるものではありませんよ?」
「……男性?」
まさかと言うべきか、やはり、と言うべきなのか、クリス様は男性? でもね。クリス様はまるで捕食者のような眼で私を射抜いているのよ。……あれ? 私は何かいけないことになってる?
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