上 下
16 / 49

十六 許されない想い in剣術大会

しおりを挟む
「騒ぎを起こした者達をさっさと連れていけ」

 ユリアンは他の者達にそう指示をすると私の腕を掴んできたの。――まあ、ユリアンから触られるのって初めてかも。

「あなた方を来賓席までお連れしましょう」

「もしかして、そこに王太子様が……」

 私がこっそり耳打ちするとユリアンが眉を顰めてしまった。

「どこでそれを?」

「あ、それは……」

 某世界の乙女ゲームの知識ですとは口が裂けても言えない。だって言ってもどうせ信じて貰えなくて頭がおかしくなったと思われるだけだものね。

    私の掴まれた腕にジョーゼットも手を重ねてきた。

「私がそうアーシアにここに来たいとお願いしましたの。だから、ユリアン様、アーシアを咎めないでください……」

 ジョーゼットの言葉をユリアンは誤解してくれたようだった。ジョーゼットから聞いたとでも思ってくれたみたい。



 無言のユリアンに促されて、剣術の試合会場に着いた。そこでは王太子様を迎えた御前試合に代わっていたのだった。

「王太子様がいらしてたのね。ところでユリアンの出番はいつなの?」

「……君は私を応援してくれるのか?」

    ユリアンが振り返って、少し驚いたという感じで私を見てきた。

「勿論よ!」

 ウキウキして私が勢い込んで答えるとユリアンはとても嬉しそうだった。

    ――あ、でも仲良くなると後が辛いわね。こんなこと言っては駄目だったのね。でも、やっぱり、私は昔からユリアンが一番なの。それは向こうの遠山明日香で『ゆるハー』をやってた頃からね。



 私達の訪れで、急遽貴賓室にある観覧席に用意されていた王太子様の後ろの席が整えられた。ここからだとジョーゼットは周囲からよく見えないし、王太子様とも話せるからいい場所ね。

「おや、ジョーゼットとそれと君は確か……」

「ええ、殿下。モードレットが娘アーシアでございます。先日のお茶会ではお目に掛かれて嬉しゅうございますわ」

 すると私の姿を王太子様はまじまじとご覧になられる。だからね。ジョーゼットと浮気をした間男じゃありません。  やっぱり、こちらはズボン履く女性はいないものね。平民だって、農作業もエプロンスカート。ズボンの方がいいと思うの。何れは異世界チートでズボン革命でもしようかしら?

 そんな、おかしなことを考えてたけれど私の前では再会したジョーゼットと王太子様の二人は微笑みを交わしていた。ジョーゼットは嬉しそうにしていたし、王太子様も同じく。仲の良いお二人を見ているとこちらも和んでしまうわね。羨ましい。いつか自分も……。

「ライル卿は次は決勝だ」

「勝てば一年生で優勝。素晴らしい。流石」

 口々に周囲からユリアンを褒める言葉が聞こえてきた。王太子様も耳にされて満足そうだった。

「ユリアンは既に優秀なのはもう知っている。ここには他の優秀な人材を見に来たんだが……」

「恐れ入ります」

 苦笑交じりの言葉にユリアンは恭しく頭を垂れていた。どうやらユリアンの順番が回ってきたようだった。

「ご武運を」

 万感の想いを込めて貴賓室を出ていこうとするユリアンに声をかけた。ユリアンはその端正な顔に微笑みを浮かべた。

「君のために、勝利を捧げよう」

 そして、私の手を取ると手の甲にそっと唇を寄せたのよ! まるでお姫様のようよ。見た目は男同士だけど気にしないわ。だって、やっぱりユリアンは素敵。今だけはこの想いをありったけ込めて応援するわよ! 三年後のことはまた考えるの。

 試合会場はユリアンの姿が現れると歓声が響き渡った。

「ユリアン様~。素敵!」

「こっち向いて~」

 などと黄色い声援が上がっている。

 うう。ユリアンは確かに昔から人気だった。お茶会でも他のご令嬢の果敢なアタック現場を目撃したわ。でも、その都度邪魔をしていたの。正しく昔の私は悪役令嬢ね。でも、今は……。

「ユリアン!」

 つい、私はユリアンに見てもらいたくて、貴賓室のガラス張りにへばりついて大声を出して手を振った。ユリアンも気が付いてくれて振り返してくれた。それが、他の人にだったかもしれないけれど自分の方向だったのでいいの。自分に向けてだと思うことにするの。

「はは、君もそんな格好だけど。やはり中身は乙女なんだね」

「も、申し訳ございません」

 王太子様のそんな言葉に私は我に返るとガラスから離れて元の場所に戻った。ここからは少し見えにくいけどジョーゼットの隣だしね。


 試合は勿論、ユリアンの圧勝だった。閉会式では王太子様からの好評まで受けていた。その後は片づけや打ち上げがあるみたいで話はできず仕舞いだったけど私は満足して帰途についた。

 だが、プリムラ学園の剣術大会の打ち上げのときに、謎のムチ使いの男子生徒の話題で一部では盛り上がっていたとか。そして、その話を聞いてユリアンが少し青ざめていたとかまでは私の耳に入ることは無かったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

完結 お飾り正妃も都合よい側妃もお断りします!

音爽(ネソウ)
恋愛
正妃サハンナと側妃アルメス、互いに支え合い国の為に働く……なんて言うのは幻想だ。 頭の緩い正妃は遊び惚け、側妃にばかりしわ寄せがくる。 都合良く働くだけの側妃は疑問をもちはじめた、だがやがて心労が重なり不慮の事故で儚くなった。 「ああどうして私は幸せになれなかったのだろう」 断末魔に涙した彼女は……

どうせ結末は変わらないのだと開き直ってみましたら

風見ゆうみ
恋愛
「もう、無理です!」 伯爵令嬢である私、アンナ・ディストリーは屋根裏部屋で叫びました。 男の子がほしかったのに生まれたのが私だったという理由で家族から嫌われていた私は、密かに好きな人だった伯爵令息であるエイン様の元に嫁いだその日に、エイン様と実の姉のミルーナに殺されてしまいます。 それからはなぜか、殺されては子どもの頃に巻き戻るを繰り返し、今回で11回目の人生です。 何をやっても同じ結末なら抗うことはやめて、開き直って生きていきましょう。 そう考えた私は、姉の機嫌を損ねないように目立たずに生きていくことをやめ、学園生活を楽しむことに。 学期末のテストで1位になったことで、姉の怒りを買ってしまい、なんと婚約を解消させられることに! これで死なずにすむのでは!? ウキウキしていた私の前に元婚約者のエイン様が現れ―― あなたへの愛情なんてとっくに消え去っているんですが?

三度目の結婚

hana
恋愛
「お前とは離婚させてもらう」そう言ったのは夫のレイモンド。彼は使用人のサラのことが好きなようで、彼女を選ぶらしい。離婚に承諾をした私は彼の家を去り実家に帰るが……

他人の人生押し付けられたけど自由に生きます

鳥類
ファンタジー
『辛い人生なんて冗談じゃ無いわ! 楽に生きたいの!』 開いた扉の向こうから聞こえた怒声、訳のわからないままに奪われた私のカード、そして押し付けられた黒いカード…。 よくわからないまま試練の多い人生を押し付けられた私が、うすらぼんやり残る前世の記憶とともに、それなりに努力しながら生きていく話。 ※注意事項※ 幼児虐待表現があります。ご不快に感じる方は開くのをおやめください。

生真面目君主と、わけあり令嬢

たつみ
恋愛
公爵令嬢のジョゼフィーネは、生まれながらに「ざっくり」前世の記憶がある。 日本という国で「引きこもり」&「ハイパーネガティブ」な生き方をしていたのだ。 そんな彼女も、今世では、幼馴染みの王太子と、密かに婚姻を誓い合っている。 が、ある日、彼が、彼女を妃ではなく愛妾にしようと考えていると知ってしまう。 ハイパーネガティブに拍車がかかる中、彼女は、政略的な婚姻をすることに。 相手は、幼い頃から恐ろしい国だと聞かされていた隣国の次期国王! ひと回り以上も年上の次期国王は、彼女を見て、こう言った。 「今日から、お前は、俺の嫁だ」     ◇◇◇◇◇ 設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 それを踏まえて、お読み頂ければと思います、なにとぞ。 R-Kingdom_6 他サイトでも掲載しています。

私の婚約者と姉が密会中に消えました…裏切者は、このまま居なくなってくれて構いません。

coco
恋愛
私の婚約者と姉は、私を裏切り今日も密会して居る。 でも、ついにその罰を受ける日がやって来たようです…。

寵妃にすべてを奪われ下賜された先は毒薔薇の貴公子でしたが、何故か愛されてしまいました!

ユウ
恋愛
エリーゼは、王妃になる予定だった。 故郷を失い後ろ盾を失くし代わりに王妃として選ばれたのは後から妃候補となった侯爵令嬢だった。 聖女の資格を持ち国に貢献した暁に正妃となりエリーゼは側妃となったが夜の渡りもなく周りから冷遇される日々を送っていた。 日陰の日々を送る中、婚約者であり唯一の理解者にも忘れされる中。 長らく魔物の侵略を受けていた東の大陸を取り戻したことでとある騎士に妃を下賜することとなったのだが、選ばれたのはエリーゼだった。 下賜される相手は冷たく人をよせつけず、猛毒を持つ薔薇の貴公子と呼ばれる男だった。 用済みになったエリーゼは殺されるのかと思ったが… 「私は貴女以外に妻を持つ気はない」 愛されることはないと思っていたのに何故か甘い言葉に甘い笑顔を向けられてしまう。 その頃、すべてを手に入れた側妃から正妃となった聖女に不幸が訪れるのだった。

さっさと離婚したらどうですか?

杉本凪咲
恋愛
完璧な私を疎んだ妹は、ある日私を階段から突き落とした。 しかしそれが転機となり、私に幸運が舞い込んでくる……

処理中です...