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五 学園生活の始まり

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 それから彼女とお話をしたけれど彼女のような美人は見ているだけで癒される感じがする。このまま、良い感じでお友達になりたい。なんたって、私はまだデビュー前だったし、高位令嬢だったから気軽にお茶する友人もなかなかね。え? 我儘ムチ打ち令嬢だったから友人がいないですって? うるさいわよぅ。

 でも、なんだかこの出会いってでき過ぎている気がする。もしや、あのゲームって、続編にガールズ編なんてあったかしら?






    そんなこんなで、楽しい学園ライフは始まろうとしたけど実は入学式までにしたいことがあったの。でも、薔薇園での出会いから公爵令嬢のジョーゼットとずっと一緒にいることに。それこそ朝の食事からどこでも。それに彼女は私と違って幼少期から王宮に出入りしていたからか先生から先輩などにも顔見知りがいるので、常に人に囲まれるので一緒にいると私まで……。こっそり出かけることができない。

 まあ、彼女はとても可愛いし、私も無下にもできず、ずるずるとそのまま日が過ぎてしまった。



 ……え? したかったことって? それはね、お隣の学園にいる筈のこのゲームのヒロインと私の婚約者ユリアンの動向を探りたかったの。二人の電撃的な出会いの場面がそろそろある。……あっちの学園の庭園でそれは起きる。だから、そのイベントを確かめたかったの。そうすればこの世界がゲームなのか本当に存在する異世界なのか分かるかなと思ってね。

 ……け、決して二人の邪魔をしようとか思ってない、ないんだからね? べ、別に、ユリアンが他の女の子と良い仲になったって……なったって……。……くすん。





 そんな中、もうすぐ入学式というある日私は先生に呼ばれてしまった。

 この花嫁学校にも入学の際に試験がある。その前に厳しい書類選考があるので書類が受理された時点で入学は許されるのだが、自分なりに試験は頑張ったので、結果は満足いくものだったと思う。でもそのせいでどうやら私は入学式の新入生代表の言葉を先生に頼まれてしまった。

 だけど一応前世の記憶を思い出したお陰で世知に長けてしまった私は先生方に王太子妃候補であるジョーゼットをそれとなく勧めてみる。記憶を思い出してなかったら絶対こんなことはしなかっただろう。我儘な侯爵令嬢だった私は自分にスポットライトが当たっていないと気が済まないタイプだったものね。

 私のその申し出に先生方は驚いたようだけど、社交界というか人生の機微を知っていると感じていただいたようで、先生は私ににっこりと微笑み返してくれた。

「……あなたの申し出はもっともだと思いますよ。公爵令嬢は素晴らしい方です。小さい頃から存じてあげておりますから、けれど私どもも真っ直ぐな気性のあの方にそれが分かったときに、酷くご不快に思われることもね」

 それ以上は先生も語尾を濁していらした。私達はお互いの動向を探りあっていた。室内にはしばし沈黙と緊張が満ちてしまった。私は額を冷たい汗が流れたように感じた。

 ――それは、私がするということなんですか? 先生。別に彼女が一番でいいんじゃない? 今後の展開を考えると私はあまり目立ちたくないんです。だって、取り違えが発覚して世間にも騒がれて、家族からまるでゴミのように捨てられるのが分かっているから、せめてそれまでは静かに平穏に暮らしたい。

 そんな私の願いも虚しく、気が付けば新入生代表は私に決まってしまっていた。足取り重く寮まで戻ると談話室では既にジョーゼットを中心にサロンが出来上がっていた。

「アーシア、先生方のお話は何でしたの?」

 彼女とはもうお互いに名前を呼び合う仲。ジョーゼットは可憐な微笑みを浮かべて私に話しかけた。私は少々げんなりしつつそれに返した。

「……新入生代表の挨拶を頼まれたのよ。辞退したかったけどダメだったわ」

「まあ! アーシアったら、流石ね! でも先生方を困らせるのはいけなくてよ」

 彼女はそう言うと人差し指を唇に当ててウインクをした。――その姿は大変可愛らしい。

 ……うーん。でもその方が先生方にもいいと思ったんだけどねぇ。

「楽しみだわ! 凛々しいアーシアの晴れの舞台が見られるんですものね」

 ジョーゼットは可愛くはしゃいでいた。それにつられて周囲の令嬢たちも好意的な雰囲気になった。

 ――でも、既に彼女たちは熾烈な王太子妃のお気に入り順位の争いを水面下で行っているのよ。怖いよう。え? 私? 勿論、早々に戦線離脱しているに決まってる。三年後には庶民オブ庶民になるから。ああ、それも大富豪の。ビバ! 憧れのビバリーヒルズな生活! でも、どんなのか知らないけど……。

 そもそも彼女達は私を警戒していたんだけどね。何故なら地位的には私がジョーゼットの次に高い。私がお気に入りになると彼女らは私を押し除ける訳にはいかないから。でもなんだか二人でいると遠巻きにじっとりした視線を感じることがある。一部のご令嬢は何かを勘違いしている気がする。先日は長い詩文を送られてきたんだよね……。薔薇の姫君と騎士様を称えるとかなんとか……。

 私はジョーゼットの言葉に溜息交じりで返した。

「……凛々しいって、式は私も式服を着るのよ」

 制服は数種類あって、式典用はどちらかというと正式なドレスでそれも白いフルレングス丈。私はそれを思い出して少々げんなりした。歩くの大変だもの。普段用は向こうの世界の某ブランドに似た風の黄色と茶色のチェックのエプロンドレスなんてのもあるけど。超お嬢様校だけあって服のバリエーションも様々。それこそコスチュームプレイができる。

「あら、そんなのつまらないわ。……そうね、私が先生方にお願いしようかしら」

 ……なんですと? 私はドレスを着るのが面倒くさいからついこの格好でいるだけで、服装倒錯者でも性倒錯者でもありませんって! 普通なの! 普通がいいの! ドレスは好きだけど自分で着るのは難しいだけなの。もう二度とゴシックロリータドレス風コスチュームでムチなど持ちませんって……。






 どうやら私の願いは聞き入れられたようで幸いなことに私も皆と同じ式服で式に出席することが出来た。日本で見たことのある王室の方々が着ていたローブデコルテ。うう、こんなの肩や胸が出ているから体が冷えて仕方ない。ご令嬢方は大変ですよ。やっぱり私もタキシードが良かったかも。絶対、それは白だね! そうそう、それに仮面とかしてさ。ああ、モノクルでもイイ。マントは必須アイテムなのよね。ついでにグライダーとかで空を飛んだりしてね。

 ここではそれは誰にも理解されそうにないので、私は脳内で一人で空想に浸っていた。そうこうしている内に入学式当日になってしまった。



 講堂には新入生の保護者達も出席している。最初に話したときには大反対だった父も王太子妃候補の令嬢と知り合って楽しい社交生活を送っていることを手紙で知らせていると渋々了承してくれた。

 そして、私が新入生代表挨拶ということを知り、ママンは上機嫌になっているよう。周囲の社交界の知人からも褒められて両親は嬉しそうだった。その様子を遠目にみて私もほっと胸をな撫でおろした。三年後には捨てられるとは分かっていても喜んでくれると嬉しい。――今まで育ててもらった恩があるので、それまで少しでも喜んでくれたら嬉しいな。

 私は生徒と保護者の間を通りながら、顔を上げてしずしずと歩いた。壇上から見渡すと緊張もしたが、そもそも人数が少ないのであまり緊張しなかった。

 この学園は超お嬢様とあって本来は伯爵家以下の入学できない。それも十六歳からだから社交界にデビューした方などは、ご婚姻が決まると退学されるため、一年から三年まで集めても総勢二十人足らず。 でも実質ここにはこの国の女性のトップレディ達が占めているのよね。何気に凄い。

 私は前世でも経験しなかった壇上での景色を楽しんだ。自然と口元が緩んでいた。そして皆を見渡すとゆっくりと新入生代表として言葉を紡いだ。

「本日、善きこの日、伝統あるこの学園に私たちは入学することができました。これからの幾年か、一緒に学び、時には笑い、時には涙することもあるでしょう。それでも私は、私達たちはどんなときもこの学び舎でできた級友と手を携えて、素晴らしいこの生活を送ることを私は誓いたいと思います。そして、それはここを去った後もずっと……」

 ――そう、私の人生だもん。どんなことがあっても私が良いと思える道を探そう。今度こそね! 遠山明日香でできなかったことをね。そんな自分の思いを込めて。
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