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一 テンプレな出だしで
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――それは私が十五歳の冬。
巷で流行の病気に罹り、生死の境を彷徨うことになった私は朦朧としたまま自分の寝台の天蓋を見ていてあることを思い出してしまった――。
その甦った記憶にある私は日本というところで就活中の女子大生だったのだけどふとしたことで病気に罹り、その最後の記憶も病院の天井だったのだ。
そして、ここは私が学生時代にプレイしたことのある乙女ゲームの「許されないあなたと出会えてハッピーエンド」の世界に似ていた。そのゲームの名前は略して『ゆるハー』と呼ばれていた。
『ゆるハー』って、ツッコミどころ満載な題名と略した名前もどんなのよ? というのにとても似つかわしいものだったような気がする程内容も結構評判が悪かったように思う。それもよくあるある。
そして、今の私はゲームのプレイヤー的なヒロインポジションではなく、どうやらプレイヤーのライバル役にあたる侯爵令嬢である。俗にいうと悪役令嬢ってやつ? これもよくあるある。
――でもね、確かこのキャラは主人公と産院で取り違えられていて、一般庶民の娘だったというベタな役回りなのよね。これもネット小説とかにも掃いて捨てるくらいある。あるある。
……でも、そうなると私は貴族どころかなんとビックリなことに庶民の娘らしい。でもね、庶民と言っても実はヒロインが大富豪の家という設定。成金のヒロインが学園で貴族のお坊ちゃまを落とすというゲーム内容。
詳しく思い出そうとするけど靄のかかったような感じであまり思い出せない。設定集までは買わなかったしね。
私は病み上がりの怠い身体で寝台に横たわったまま、そのゲームの内容を大まかに思い出そうとした。
『ゆるハー』の世界ではプレイヤーの扮するヒロインが学校に通い、攻略メンバーと恋に落ちて、三年後の十八歳に学園を卒業するときに選んだ男性とのエンドが決まるというものだった。
そして卒業の時には、庶民の筈のヒロインが病院で侯爵家の赤子との取り違えていたということが判明する。ヒロインのライバルである私は侯爵家を追い出されて、ヒロインが侯爵家へと迎え入れられることになる。俗に言う放逐パターン。でも、死亡エンドとか悲惨なエンドとかでは無かったようだから、まあ良い方かなあ。そもそも全部のエンドは確認して無かったのよね。ゲームの途中で機械が動かなくなったの。データ保存中によくバグったこともあったしね。どうやら攻略者間のデータの相性の関係でおかしくなっていたらしい。
私は少し溜息をつきつつ、ごろんと寝返りをうって室内を見渡した。流石は侯爵家の寝台は広くてフカフカ。それに白いレースを沢山使った上品で乙女な部屋。勿論、私の中では今まで侯爵令嬢のアーシア・モードレットだった記憶もある。でも今のこの身体のメインの思考は前の遠山明日香の方が占めていた。
それから『ゆるハー』というか目下の最大の関心ごとである攻略対象者達はどうだったかを思い出そうとした。でも、日本での私はいくつもそういったゲームをしていたのでいろいろなゲームの記憶が混じって思い出そうとすればするほど曖昧になってしまった。
えーっと、そもそもメインの攻略者はどんなだっけ? ……ああ、そうだった。これもよくあるある、幼馴染の貴族令息が婚約者だったんだわ。
私はゲームのスチルとこれまでのことを思い出していた。
メイン攻略者であり私の婚約者でもある伯爵子息のユリアン・ライルはこれも王道な外見の金髪碧眼のイケメン。だけど彼は学園に入学するとヒロイン役と運命の出会いとやらをすることになっている。
ゲームでの彼の攻略ルートでは婚約者のいる相手との道ならぬ恋に悶えるはずが、本来の婚約者同士だったということで最後は大ハッピーエンドを迎えることになる。勿論ゲーム内のライバル役で、取り違えられていた私は追い出されて、行った先の富豪の家でも我が儘で持て余し気味であると一文だけ説明されていただけで、その後の事はよく分からないし、覚えていない。まあ、ライバルだったし主人公のハッピーエンドの他はどうでもいいんだろうなあという感じだったよね。
……でもそういうことなら、私って大富豪の娘エンドですか? なら、ノープロブレム! アイム、ウエルカム、大富豪! このルートはオッケーね! いや、むしろ願ったりかなったりかも!
――金さえあればなんでもできる! そうですよね! え? 違うって? そんな異論は認めませんよ? いつの世もお金の力はそれなりに結構使えるじゃない?
あの『ゆるハー』のゲームの設定はゲームの中では良くあるもの。もう二番煎じというか三番煎じというところ。出涸らし過ぎたお茶もいいとこかな?
その中でも酷かったのがキャラの描き分けがイマイチだったのよねぇ。良く似た色合いとかで間違えそうになるし、顔立ちも似ていて誰が誰だか分からないこともあって……。だから私はゲームをやり込むことを止めたような気がする。いつもならスチルのフルコンプを目指すのだけど。ああ、でもこんなことなら最後までやっておけば良かったかも。エンドは余り覚えてないから。逆ハー落ちがあるとかまで覚えていないし。
でもまあ、私はヒロインのライバル役の一人ではあるけれど、死ぬとかいう悲惨なバッドエンドというほどでもないからいいかな。
……だけど、とりあえずこれから私はここで生きていくなら、やっぱり快適な生活がいいよね!
できれば、心地よく過ごしたい。もともと前世とやらは一般庶民だったから、いっそ富豪の元に行くほうが、生活的には問題ないかもね。ううん。それがいいかも。いっそ、お貴族様の生活の方がぞっとする。四六時中、使用人と言う名の他人に監視されるのよ。うっかりうたた寝もできないじゃない。って、今がそうなのよね。気が抜けないったら……。
できれば、自分は冬なら炬燵に蜜柑でぬくぬくほっこりしたいし、夏なら半裸でアイス咥えての生活をもう一度味わいたい。でも庶民にもどればそれもできるかも。
巷で流行の病気に罹り、生死の境を彷徨うことになった私は朦朧としたまま自分の寝台の天蓋を見ていてあることを思い出してしまった――。
その甦った記憶にある私は日本というところで就活中の女子大生だったのだけどふとしたことで病気に罹り、その最後の記憶も病院の天井だったのだ。
そして、ここは私が学生時代にプレイしたことのある乙女ゲームの「許されないあなたと出会えてハッピーエンド」の世界に似ていた。そのゲームの名前は略して『ゆるハー』と呼ばれていた。
『ゆるハー』って、ツッコミどころ満載な題名と略した名前もどんなのよ? というのにとても似つかわしいものだったような気がする程内容も結構評判が悪かったように思う。それもよくあるある。
そして、今の私はゲームのプレイヤー的なヒロインポジションではなく、どうやらプレイヤーのライバル役にあたる侯爵令嬢である。俗にいうと悪役令嬢ってやつ? これもよくあるある。
――でもね、確かこのキャラは主人公と産院で取り違えられていて、一般庶民の娘だったというベタな役回りなのよね。これもネット小説とかにも掃いて捨てるくらいある。あるある。
……でも、そうなると私は貴族どころかなんとビックリなことに庶民の娘らしい。でもね、庶民と言っても実はヒロインが大富豪の家という設定。成金のヒロインが学園で貴族のお坊ちゃまを落とすというゲーム内容。
詳しく思い出そうとするけど靄のかかったような感じであまり思い出せない。設定集までは買わなかったしね。
私は病み上がりの怠い身体で寝台に横たわったまま、そのゲームの内容を大まかに思い出そうとした。
『ゆるハー』の世界ではプレイヤーの扮するヒロインが学校に通い、攻略メンバーと恋に落ちて、三年後の十八歳に学園を卒業するときに選んだ男性とのエンドが決まるというものだった。
そして卒業の時には、庶民の筈のヒロインが病院で侯爵家の赤子との取り違えていたということが判明する。ヒロインのライバルである私は侯爵家を追い出されて、ヒロインが侯爵家へと迎え入れられることになる。俗に言う放逐パターン。でも、死亡エンドとか悲惨なエンドとかでは無かったようだから、まあ良い方かなあ。そもそも全部のエンドは確認して無かったのよね。ゲームの途中で機械が動かなくなったの。データ保存中によくバグったこともあったしね。どうやら攻略者間のデータの相性の関係でおかしくなっていたらしい。
私は少し溜息をつきつつ、ごろんと寝返りをうって室内を見渡した。流石は侯爵家の寝台は広くてフカフカ。それに白いレースを沢山使った上品で乙女な部屋。勿論、私の中では今まで侯爵令嬢のアーシア・モードレットだった記憶もある。でも今のこの身体のメインの思考は前の遠山明日香の方が占めていた。
それから『ゆるハー』というか目下の最大の関心ごとである攻略対象者達はどうだったかを思い出そうとした。でも、日本での私はいくつもそういったゲームをしていたのでいろいろなゲームの記憶が混じって思い出そうとすればするほど曖昧になってしまった。
えーっと、そもそもメインの攻略者はどんなだっけ? ……ああ、そうだった。これもよくあるある、幼馴染の貴族令息が婚約者だったんだわ。
私はゲームのスチルとこれまでのことを思い出していた。
メイン攻略者であり私の婚約者でもある伯爵子息のユリアン・ライルはこれも王道な外見の金髪碧眼のイケメン。だけど彼は学園に入学するとヒロイン役と運命の出会いとやらをすることになっている。
ゲームでの彼の攻略ルートでは婚約者のいる相手との道ならぬ恋に悶えるはずが、本来の婚約者同士だったということで最後は大ハッピーエンドを迎えることになる。勿論ゲーム内のライバル役で、取り違えられていた私は追い出されて、行った先の富豪の家でも我が儘で持て余し気味であると一文だけ説明されていただけで、その後の事はよく分からないし、覚えていない。まあ、ライバルだったし主人公のハッピーエンドの他はどうでもいいんだろうなあという感じだったよね。
……でもそういうことなら、私って大富豪の娘エンドですか? なら、ノープロブレム! アイム、ウエルカム、大富豪! このルートはオッケーね! いや、むしろ願ったりかなったりかも!
――金さえあればなんでもできる! そうですよね! え? 違うって? そんな異論は認めませんよ? いつの世もお金の力はそれなりに結構使えるじゃない?
あの『ゆるハー』のゲームの設定はゲームの中では良くあるもの。もう二番煎じというか三番煎じというところ。出涸らし過ぎたお茶もいいとこかな?
その中でも酷かったのがキャラの描き分けがイマイチだったのよねぇ。良く似た色合いとかで間違えそうになるし、顔立ちも似ていて誰が誰だか分からないこともあって……。だから私はゲームをやり込むことを止めたような気がする。いつもならスチルのフルコンプを目指すのだけど。ああ、でもこんなことなら最後までやっておけば良かったかも。エンドは余り覚えてないから。逆ハー落ちがあるとかまで覚えていないし。
でもまあ、私はヒロインのライバル役の一人ではあるけれど、死ぬとかいう悲惨なバッドエンドというほどでもないからいいかな。
……だけど、とりあえずこれから私はここで生きていくなら、やっぱり快適な生活がいいよね!
できれば、心地よく過ごしたい。もともと前世とやらは一般庶民だったから、いっそ富豪の元に行くほうが、生活的には問題ないかもね。ううん。それがいいかも。いっそ、お貴族様の生活の方がぞっとする。四六時中、使用人と言う名の他人に監視されるのよ。うっかりうたた寝もできないじゃない。って、今がそうなのよね。気が抜けないったら……。
できれば、自分は冬なら炬燵に蜜柑でぬくぬくほっこりしたいし、夏なら半裸でアイス咥えての生活をもう一度味わいたい。でも庶民にもどればそれもできるかも。
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