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〜鍛冶職人が奏でる音〜

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 「ここが俺の鍛冶屋だ。国にいる間はいくらでも使って泊まっていっていいぞ」
 「それはありがたい」

 ダマールが扉を開けると――
 「親方~~!!」
 中から突然ダマールに飛び込んくる奴らがいた。

 「おお! トットとチッチか」
 「「親方~~」」
 「どうした?」

 「親方が帰ってこないから心配してたんだよオラ達は!」
 「そうよ,ちょっと行ってくるわって言って一ヶ月以上も帰って来ないなんて心配するでしょうよ」

 「まあ帰って来たからいいじゃねえか」
 「親方こちらの方々は?」

 「お客さんだ。しばらく家に泊まると思うから頼むぞ」

 「はじめましてトットです」
 「チッチです」
 「二人は双子のドワーフで俺の弟子なんだ。トットは男,チッチは女だ」

 「カナデです」
 「クロエじゃ」
 「ロイだぜ。よろしく」

 「カナデ達は俺達ドワーフにとって救世主で,俺達ドワーフの恩人だ。今から大事な仕事に取り掛かるから今来てる依頼の仕事は全部断ってくれ。これから来る仕事もだ」

 「親方~~! そんな~~! それは大変ですって!」
 「生活出来なくなっちゃうよ~~」
 「大丈夫だ国王からも言われているしちゃんとお金をもらっている」

 「そんな大変な仕事なんですか?」
 「今まで挑戦した事もない依頼になっていくだろう。まあとりあえず中に入ろう」
 「熱っ!!」

 中に入ると熱気に包まれた店内で,様々な武具が置かれていた,奥には鍛冶の仕事をすると思われる場所が見えていた。

 「そういやドラゴンの素材を持ってるよな? どうだ? 防具を作ってやるが,どうする??」
 「ん~どうする?」
 「ドラゴンの装備なんてかっこいいじゃんか! オイラは欲しいぜ」

 「クロエはどうする?」
 「余に防具なんて不要じゃからな。可愛いのにしてくれるならよいぞ」

 「よし! 任せろ。いい防具作ってやる。それにしてもカナデが持っていたピアノってのをよく見せてもらってもいいか?」

 「クロエ出してもらえるか?」
 「わかったのじゃ」

 「触ってもいいか?」
 「大丈夫だよ」
 ダマールピアノのあちこちを興味深く観察している。

 「親方――これはなんですか?」
 「俺達が作ろうとしている代物だよ。伝説のゴードンの遺作らしい」
 「「え!?」」

 「カナデ,これとは違うものが作りたいとか言っていたな。どんなやつなんだ?」
 「それならこっちに似ているから見てくれ」
 俺はヴァイオリンをダマールに渡した。

 「これを作るのか?」
 「同じのとか大きいのとか小さいのか色々作って欲しいんだ」
 「正直いうが,想像すら出来ねぇ仕事だ」

 「それとピアノってのと,こいつの材質は木だろ?」
 「ああそうだよ」

 「こんな上等で綺麗な木なんて見たことがねぇ」
 「この為だけに育てたりしてる木だったりするからな」

 「触って分かったが,ピアノに使われてる木の魔力と生命力が並大抵じゃない。きっとだが,これはエルフの里にある世界樹が使われていると思う……」

 「世界樹??」
 「ああ,この世界の自然の全ての源だと言われてる大きな大樹だ。エルフはその世界樹を守る番人としてずっと世界樹を守りつづけている種族だ。きっとだが世界樹が材質に使われている」

 「つまりどういう事だ??」
 「世界樹がないとそもそも作る事が出来ないって事だ。技術があってその辺にある木を使って作ったとしても,良い物が作れる訳がねぇ。だからエルフの里に行って,世界樹をエルフから譲ってきてもらってほしい」

 「そんな簡単に譲ってくれるものなのか?」
 「いや! 無理じゃな。エルフはそもそも他の種族と親交すら持たない。世界樹を守っているエルフが人族に譲るとは到底思えない」

 「さすけはどうやって手に入れたんだ??」
 「分からない。でもこれは世界樹しか考えられないと思う」

 「エルフの里を目指すとして……エルフの里ってどこにあるんだ?」

 「ここドワーフの国の真逆の先にある」
 「え!? めちゃくちゃ遠いって事?」

 「ああ。普通に行ったら三ヶ月以上はかかると思う」

 「なんだそれ!! 無理だよそんなん!!」
 「とにかく今日はゆっくりしていけ。その後考えりゃあいい」

 「そうするよダマール」
 「やっとゆっくり出来るの」
 「なあなあどっか飯屋行こうぜ」

 「二階の空いている部屋を適当に使ってくれ,俺達はさっそく防具作りを始める」
 ダマール達は奥の仕事部屋へと入っていく。

 「ロイは出かけるのか?」
 「カナデは出かけないのか?」
 「俺はちょっとここに残るよ」
 「そうなのか? じゃあオイラも残るかな」

 俺はダマール達が仕事している音を店内で聞いていた。
 鍛冶職人なんて現代日本にはほとんどいない職業だから少し興味が湧いた。

 しばらくすると,クロエをロイは飽きたのか,店内の武具を見ていた。
 「クロエ……ピアノ出してくてるか??」
 「なんじゃ!? 何か弾いてくれるのか?」

 「ああ。早く頼む」
 「分かったのじゃ」
 ピアノの前に俺は座り,音が耳に残っている間に今まで腑に落ちていなかった楽曲を演奏する。

 「♪~,♫♪♫♫♪♪♪♫」
 ヘンデル作曲『調子の良い鍛冶屋』
 ピアノが出来る前のチェンバロ組曲で,ピアノで申し訳ないが弾かせてもらう。

 俺はこのヘンデルの音楽がイマイチ理解出来ていなかった。日本刀を作る工房を訪れたり,鍛冶職人と呼ばれる人達の仕事を見学した事があるが全く腑に落ちなかった。
 しかし,ダマール達の仕事している音を聴いて,きっとヘンデルはこういった音を聴いてこの曲を作ったのだと俺は確信した。

 ダマール達が叩く音がとても心地が良かったのだ。きっと1700年代に生きたヘンデルもこんな音を聴いていたんだと俺は思う。
 初めて俺はこの曲を理解し,演奏する。

 「なあクロエ,カナデってやっぱり凄い奴なのか?」
 「ロイよ,この音を聴いて何も感じないのか? カナデは音を鳴らしたらきっと世界で一番上手い。天才じゃと余は思う」

 仕事をしていた,ダマールとチッチとトットが演奏を聴きに来た。
 俺は弾き終える。

 「カナデそれがピアノってやつのか?」
 「そうだよ」

 「親方,オラ達の実力であれを作れるですか?」
 「凄かった私感動しちゃった」

 「そうじゃろそうじゃろ! カナデは凄い奴なのじゃ!」
 「俺は様々な種類の楽器を作って,皆で音楽を演奏したいんだ。もっと良いそして楽しい音楽を作る事が出来るようになる」

 「なるほどな……今更だが,大仕事になりそうだ」
 「トットとチッチ続きをやるぞ」
 「「はい親方」」

 俺達は二階に上がり,二階にあるキッチンを使わせてもらい,ライムに食事を作ってもらう事にした。
 仕事が一段落したのか,ダマール達が下から上がってきてキッチンに勢揃いする。

 「なんだ? 食事を作ってくれたのか?」
 「うちのスライムは優秀なんでね! 一緒に食べよう」
 「「美味しそう」」
 「ダマールよ。酒持っとらんのか?」
 「ドワーフは酒と共に生きる種族だぞ,あるに決まってるだろ」

 「ガハハハハハ! ほらクロエもっと飲め飲め!」
 「ダマールも飲むのじゃ。カンパーイ!!」

 「親方~お酒はもうその辺で」
 「いやいや! まだまだいくぞー!」
 「おおおお!」
 クロエとダマールは完全に出来上がっていた。

 「カナデ。オイラは先に寝るけどいいか?」
 「ロイ逃げるのか?」
 「どうせ朝まで続くだろ? オイラは疲れたから寝る」
 結局俺が付き合う羽目になった。

 俺は酒が弱いからドワーフの強い酒を飲んだら,眠くなりいつの間にか寝てしまった。
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