上 下
16 / 56

〜クルクルカールの金髪少女〜

しおりを挟む
 俺達は数日とにかく進めるだけ進んでいた。
 今日もクルル山脈へ向かっている道中で突然――

 「おおおおおおおおおおおお!!」
 どこからか,人が叫ぶ声が聞こえた。

 「おいカナデあっちの方でなんか声がするぞ」
 「クロエ,先に行って様子を見てきてくれないか?」
 「余がか!? しょうがないの」
 空を飛んでクロエが向かっていく。

 「人が襲われてたら助けてやれ~~!!」
 俺は大きな声でクロエに叫んだ。

 「とにかく追いかけるぞ。行くぞロイ」
 「カナデ走るの遅いんだから無理すんなよ」
 ロイにそう言われる。ロイより走るのが遅いのは事実なんだ……

 俺が息を切らしながら,ロイの背中を追いかけると,甲冑を着た人が何人かそれに倒れている人が何人か居る中でクロエが佇んでいる姿が見えた。

 「はあはあ……それで? クロエどういう状況?」
 「なんか魔物に襲われておったのでな,助けたのじゃ!」

 「それで? この人達は一体誰なんだ?」
 「ん~分からないのじゃ」

 すると馬車の中から一人の女性が降りてきた。今まで会った人間の中で最も華やかな衣装に包まれた姿で,クルクルカールの金髪美少女が降りてきた。

 「私達を助けてくれてありがとうございます」
 深々と頭を下げる。

 「お嬢様,そのように簡単に頭を下げては――」
 「いいんです! 私達の命の恩人ですよ?」
 「しかしですね……」

 「クルクルの姉ちゃんきっと貴族だぜ」
 「ロイの馬鹿! そんな事を口に出さなくても分かるんだよ」
 「その貴族がこんな所で何をしてたんじゃ?」

 「ええ……後で詳しくお話させて頂きます。それよりもまずは守ってくれた騎士の手当をしてもよろしいでしょうか?」
 そう言って彼女は騎士達に手当を始めた。

 「クロエ,回復魔法とか使えないのか?」
 「ん~そういう魔法は苦手なんじゃ……」
 「そうなのか……」

 俺はヴァイオリンを取り出し,音楽を奏でる。
 傷を治す事はないが,音楽には心や神経を落ち着かせる効果があると言われているから俺は少しでも為になればと思いヴァイオリンを弾いた。

 「カナデの音楽は余の心を落ち着かせる。ちょいと試してみるか」
 クロエが両手をかざし呪文を唱えると,辺りが白い温かい光に包まれだした。

 すると怪我をしていた,騎士達の傷が治みるみるうちに治っていく。

 「おおお傷が治っていく」
 騎士達が声を上げた。

 何故だか俺の疲れも吹き飛んでいた。

 「クロエ魔法使ったのか?」
 「ちょっと試しに回復魔法を使ったみのじゃ! ハッハッハやれば出来るもんじゃな」
 倒れていた騎士達は起き上がる。全員無事だったみたいだ。

 一同が揃って俺達に頭を下げる。
 「助けて頂いただけではなく,回復魔法まで掛けてくださり感謝致します」
 「良いのじゃ良いのじゃ」

 「私の名前はスカーレット・マルガレータと申します。海沿いに位置するチェスターという街の領主の娘。爵位は子爵になります」

 「カナデと言います」
 「クロエじゃ」
 「ロイってんだ」

 「それでカナデさん,誠に勝手なんですが,私達は王都へ向かおうとしていたんですが,こんな事になってしまいました。騎士の皆さんも疲弊しており,私達の街に戻ろうと思っているんですが,その道中の護衛をしていただけませんか? 勿論街に到着すれば,今回のお礼も含めた相応のお礼をさせて頂きますので」

 「ん~……」
 正直あんまり貴族とかそういった人達とは関わりたくはないんだが……

 「おお! 酒か? 酒くれるのか?」
 「オイラは貴族飯食いたいぞ! 貴族飯」
 この二人はすでにやる気満々だった。それに貴族飯ってなんだよ!

 「わっかりました。受けましょう」
 「ありがとうございます。それではこちらの馬車にお乗り下さい」

 「出発致しますよ」
 俺達は馬車の中に通され,チェスターという街に向かって出発する。

 「なんで王都を目指していたんですか?」
 「それはですね……私の十八歳の誕生日会での披露会で集まる沢山の貴族達を楽しませる余興を探そうと思っていたんです」

 「なるほど……でも王都向かう途中で魔物に襲われて,それどころではないと」
 「そうだと思っていたんですが,カナデさんどうか,誕生日会で先程やっていた音楽を披露してもらえませんか?」

 「え!?」
 「私達は,王都に今話題になっている吟遊詩人を探しに行ったんです。ですけど先程のカナデさんの音を聞いてこれだ! と思ったんです」

 「まあ確かにカナデの音楽を聴いたらそうなるじゃろ」
 「確かにな。他の事は全てダメダメだけど,音楽は本当にすげーよな」

 「二人してなんだよ! それでも……俺はあまり演奏したくないです」
 「なんでじゃ! いいじゃないか。報酬もでるじゃろきっと」
 「クルクル姉ちゃん困ってるんだから手伝ってやれよ~」

 権力者と仲良くなったり,繋がりを持って良いことなんて何一つないと俺は経験してる。
 「誕生日会はそこまで華やかにやらないといけないんですか?」

 「貴族の間では,特に成人の誕生日会はとても重要です。自分達の財力や武力,もしくは,斬新性を披露する事で,貴族としての 矜持きょうじを示す場となっています。他の貴族達に舐められないように,対等に見てもらえるように,そして私のような女性は結婚相手に見初められるために必要な場となっています」

 「それに私の家は最近貴族になった新興貴族で,今回の誕生日会を失敗する訳にはいかないんです。良い家柄の結婚相手を見つけてさらに貴族として安定させないといけないんです」

 「政略結婚って事ですか?」
 「そういう事ですね。でもその為に誕生日会で上手くやらないといけないんです。力を貸しては頂けませんか?」
 深々と頭を下げられた。

 「カナデ,クルクル姉ちゃんの事を助けよやれよ」

 ライムがバッグの中でゴソゴソ動き出した。
 「なんだよライム。ライムも手伝えってか?」
 ライムがひょこっと俺に手紙を出した。

 それはさすけさんの手紙だった。
 「音楽を広めてほしい……音楽を楽しめと?」

 ライムがそうだと言わんばかりに動いた。
 確かに音楽は特にクラシックは地球では貴族が発展させた歴史がある。
 だから今回の貴族の前で演奏する事によって興味を持ってもらう事で,音楽が発展する可能性は大いにあるけど……

 「何をカナデ迷っておるのじゃ。乗りかかった船なんじゃから力を貸してやるのじゃ」    

 「ん~~~~~~~~~~~~~~~~~~~。よし分かった手伝うよ」
 「本当ですか? ありがとうございます」

 「良かったなクルクル姉ちゃん」
 「ちなみにロイ。スカーレットさんだ! クルクル姉ちゃんじゃない。むしろスカーレット様と俺達は呼ばないと行けない立場だぞ」

 「んだよ! いいじゃんか」
 「別に構いませんよ」
 「そうはいってもですね……」
 まあ言っても仕方ないかと俺は諦めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!

まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。 そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。 その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する! 底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる! 第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

処理中です...