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〜ココナツ村とりんご畑〜

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 道中をしばらく歩いていると,何やら先でモンスターが見える。
 「クロエあれ見えるか?」
 「あれはきっとオークじゃな」
 「魔物か??」
 「そうじゃな。人族にとっては割と天敵だと思ったがの」

 近づいてみると,一人の男性が三体のオークに襲われていた。
 「おい! あれ誰か襲われてるぞ,クロエ助けてあげて」
 「え!? なんじゃ! わかったわかった」

 クロエは一瞬にしてオークを殲滅した。助けた男性は腰を抜かしていた。
 「大丈夫ですか?」
 「ああ。大丈夫だありがとう。本当に助かった……死んだと思ったよ」
 「お主一人で何をしてんじゃ?」

 「王都に向かっている途中だったんですが,見ての通りオークに襲われて……」
 「誰かと一緒じゃなかったんですか? 一人だとかなり危険では?」

 「そうなんですが,個人的な事で動いていたもので……娘が今度結婚するんですが,盛大に祝ってやりたくて,王都でお金になるようなものを運んでいたんです。ですがこの通り全て台無しになってしまいました」

 後ろに目をやると,壊れてしまった荷馬車と積んでいた荷物が駄目になっていた。
 「それでも命があっただけ良かったの。余とカナデが通らなかったらお主は死んでたおったぞ」
 「本当に助かりました」

 「ありがとうございます。私は村に戻ろうと思いますが,良かったら村まで送ってはいただけませんか? 勿論お礼をさせて頂きます」
 「カナデどうするのじゃ?」

 「もしここで別れて,また襲われてもなんか嫌だし,俺達が村まで送り届けますよ」
 「それはありがたい。私はジンと言います」

 「俺はカナデ,こっちはクロエ,そしてこいつはライムって言います」
 「スライムが従魔とは珍しいですね」
 「中々役に立つんですよこれが!」
 挨拶を交わした俺達はジンを村まで送り届ける事となった。

 「村までは遠いんですか?」
 「今日中には着くと思いますよ」
 「それは良かったです。じゃあ早速向かいましょうか」

 ジンの話を聞くと村は果物の産地として有名らしく,果実酒がとっても美味しいそうだ。
 「おお! そいつは楽しみじゃの」
 「クロエあんまり飲みすぎるなよ。面倒くさいから」

 「何を言っておるのじゃ! 飲まないでどうするのじゃ」
 「そうなんだけどさ。飲んで潰れたクロエを運ぶの面倒くさいんだよ」
 「よいではないか。それにカナデの音楽が楽しいのがいけないのじゃ」

 そう言われたら俺は言い返せなかった。嬉しいと思ってしまったからだ。
 程なくしてジンが住んでいる村が見えてきた。

 「ここが自慢のココナツ村です。何もないところですが,いい所なんです。私の家にご案内しますよ」
 村の様子を見ると,のどかで何にも縛られないような場所だった。

 「ジンさんこの村はいい所ですね本当に」
 「そうかい? ありがとう」
 綺麗な景色を見ると,演奏家として心が刺激される。

 「余も気に入ったぞジン! 果実酒がより楽しみになったぞ」
 「特産物の果物ってなんなんですか?」

 「あっちを見てください! あれです」
 言われた方を見ると,沢山の木々があり,赤い果実が実っていた。

 「もしかしてりんごですか?」
 「そうですカナデさん。この村はりんごが特産品なんです」
 「りんごとな。食べたことがないんだが,美味しいのか?」
 「それは勿論。せっかくですから一つ食べて下さい」

 ジンさんは近くにあったりんご木からりんごを取ってクロエに差し出す。
 「皮は剥かんのか??」
 「皮も食べられます」
 「ほう。そうなのか」

 匂いを嗅いで,クロエをりんごを生でそのまま かじる。
 「うむ! 美味しいぞ! リンゴとやら」
 俺も一つもらって齧った。想像してたより遥かに甘く美味しかった。

 「俺が知ってるリンゴより美味しいです」
 「そう言ってもらえると嬉しいです。特産として育ててる 甲斐かいがあります」
 俺達はジンの家へと案内された。

 「ここが我が家です。ゆっくりしていって下さい」
 ドアを開けると中から女性が勢いよく飛び出してきた。

 「お父さんどこ行ってたの?? どうしたのその傷は!?!?」
 「ソフィ……すまない。ちょっと王都を目指していたんだが,オークに襲われてな。だけどこの人達に救われたんだ」

 「カナデと言います」 
 「余はクロエじゃよろしく」 

 「父を助けてくださってありがとうございます。私はソフィと言います。皆さん中へ入って下さい」 

 中へ入ると中央にはテーブルが置かれ、横にはキッチンがあり、ふくよかな女性がいい匂いを漂わせながら何かを作っていた。 

 「あなた大丈夫でしたか!?!?」
 「サンドラ心配かけてすまない! 荷馬車は駄目になってしまった」
 「いいんですよ……無事で本当に良かったです」

 「食事を作ったので,カナデさんもクロエさんも食べていって下さい」
 「それは良いのじゃ!!」
 「ご馳走になります」

 テーブルの上にはライデンで作られた料理とは違い,家庭的な料理が並べられた。
 俺とクロエは料理を口へと運ぶ。

 「美味しい」
 「美味しいのじゃ」
 「良かったです喜んでもらって」

 「カナデさん達はあそこで何をしてたんですか?」
 「今は旅をしている道中なんですよ。クルル山脈を目指していて」
 「クルル山脈ですか…….」
 「知ってるんですか??」

 「いえそんなには……ただ名前だけは知っている程度です」

 「二人共今日は是非私の家に泊まっていって下さい」
 「いいんですか?」
 「勿論です。命の恩人ですから,サンドラもソフィもいいだろ?」

 「ええ勿論です」
 「いいわよ」
 「ゆっくりしていって下さい」

 「それではお世話になります」
 「ありがたいのじゃ」

 俺達はたらふくサンドラさんの料理を堪能した。
 「ジンさん村を少し見学してきていいですか??」
 「ええ勿論です! ソフィ案内してあげなさい」
 「え!? 分かったよ。じゃあ一緒に行きましょうか」

 ソフィさんに連れられて,家を出る。
 「何もない村で,りんごしかない村だけど,いい所なのよ」
 「ソフィさん,結婚するってジンさんから聞きました」

 「はい! 二日後に結婚式をあげるんです。村から出るのは寂しいけど……」
 「相手はどんな方なんですか??」
 「王都で小さい商店をしている人です。だから結婚したら王都に行かないといけないんです」

 「私はこの村のいつもりんごの匂いがするのが好きなんです。なんか落ち着くし,元気づけてくれる気がするでしょ?」
 確かに言われると,微かにりんごの匂いがする。

 「そうじゃの。りんごの匂いはいい匂いなんじゃ」
 「クロエちゃんもそう思うでしょ!?」
 「ああ勿論じゃ」

 村自体何か見て回ろうとするような特別なものは特にはなかった。ただただ散歩になってしまったが,沢山のりんごの木があるこの村にとって,りんごとこの村は切っても切り離せない存在で,生活の一部で全てなんだと感じた。
 村に着いたのが夕方頃だったこともあって,あっという間に日が暮れていった。

 俺達はジンさんの家へと戻る。
 「おかえり! どうでした??」
 「良かったですとても」
 「とってもいい匂いがする村なのじゃ」

 「お二人はあっちの奥の部屋を自由に使って下さい」
 「ありがとうございます! 疲れたんで,先に休ませてもらいますね」

 「カナデ!? もう寝るのか??」
 「たまには早く寝ろよ!」

 「余は酒が飲みたいんじゃ!」
 「ハッハッハ! それじゃあ前祝いって事で飲みますか?」
 ドンッと机の上に出された大きな樽。

 「おお! これが果実酒か??」
 「そうです。りんご酒です。一緒に飲みましょう」
 「飲もう飲もう」

 俺も一緒にりんご酒を飲むことにした。アルコールがそこまで感じる酒ではなく,リンゴの匂いと味がアクセントになる美味しい酒だった。

 「ん~美味しいのじゃ」
 そういってクロエはりんご酒をガバガバ水のようにあおっている。
 つられて俺もいつも以上に酒を飲んでしまった。

 「おい~カナデ!! ほらもっと飲まんか~~」
 「もういいだろ……俺はあんまり飲めないんだよ」
 「カナデさんの分も私が飲みましょう」
 「ジン。ほらのめい」

 クロエはジンさんのジョッキに並々りんご酒を注ぐ。それを一気に飲み干すジンさん。

 「娘のソフィの結婚式に何かプレゼントしたかったんだがなーーー!!」
 「なんでオークに出くわしたかなーーーー!!」
 ジンさんが急に大声で話した。

 「ほらほらあなた,もうその辺で終わり!! ごめんなさいね」
 「全然いいですよ」
 サンドラさんがジンさんを担いで,部屋へと入っていく。

 「ジンの奴,娘の事が大好きなんじゃの~」
 「一人娘っぽいしそうなんじゃないか?」

 「クロエちょっと外に行くぞ」
 「カナデどこに行くのじゃ??」
 「まあまあ来いって」
 俺はクロエとライムも連れて外へと行く。

 村のリンゴの木々の中へと入っていく。
 「クロエ,ピアノ出してくれ!」
 「なんか弾いてくれるのか??」
 「まあそうだな」
 クロエにピアノに出してもらい,俺はピアノを弾き始める。

 「ライム……この演奏覚えられるか??」
 何度も俺は同じ演奏をした。するとライムはあっという間に演奏を覚えていった。

 「やはりカナデの音楽は素晴らしいの」
 「クロエ,ソフィさんの結婚式でやってあげたい事があるんだけど??」
 「ほう?? どんな事じゃ??」
 俺は結婚式でしたい事を話した。

 「ほうほう! それはいいな。よし余も手伝うぞ」
 「ライムも手伝ってくれるか??」
 ライムはむみょむにょと動いて,肯定してくれているようだった。

 ジンさんの家に戻り,眠りについた。
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