魔剣⚔葛根刀！〜漢方の力で世界を救うファンタジー〜

処方解説 甘麦大棗湯、芍薬甘草湯

【処方解説　甘麦大棗湯】

　甘麦大棗湯は精神の高ぶりを鎮めてくれる漢方です。

　小児の夜泣きやパニック障害など、錯乱状態やいわゆるヒステリーのような症状によく用いられます。

　その構成生薬は名前の通り甘草、小麦、大棗の三つなのですが、甘草はお菓子などに用いられる甘味料で、小麦はパンになるあの小麦で、大棗はフルーツのナツメを干したものです。

　つまり全部食料品なんですね。

「そんなもん組み合わせたところで薬としての効果はあるの？」

　なんて思われるかもしれませんが、少なくとも甘草と大棗に関しては多くの有用な成分が抽出されており、様々な薬理作用を持つことが科学的に示されています。

　論文はそりゃもうこの場に書ききれないくらいたくさんで、その中には鎮静作用、抗ストレス作用、睡眠時間延長作用など甘麦大棗湯の効果を支持するものも多くあります。

　また小麦に関しては漢方的に心と肝に良い生薬（養肝補心）とされていて、前回触れた通り心と肝は精神をつかさどる器官なのでそこに働きかけて改善してくれます。

　そういったものの組み合わせなので食料品もどきと侮らず、気持ちを落ち着かせてくれる薬という認識を持っていただければと思います。


【処方解説　芍薬甘草湯】

　芍薬甘草湯は漢方に詳しくない医師でもよく使う漢方薬ナンバーワンだと思います。

　思います、というのは少々いい加減ですが、本当にそれくらい幅広い医師から処方されます。というのもこの芍薬甘草湯、こむら返りによく効くんですね。

　こむら返りという単語を聞いたことがない人もいるかもしれませんが、要は『つる』ということです。夜中に足がつって悶絶、という経験をしたことがある人は多いのではないでしょうか。

　芍薬甘草湯は筋肉の痙攣や緊張を和らげて痛みを抑えてくれるので、こむら返りにはまさにもってこいの漢方です。予防効果もあるので『ここ最近夜中によく足がつるんだよね』という方は寝る前にしばらく飲んでいただくと発症を抑えられます。

　また、こむら返りでなくとも筋肉の痙攣や緊張を伴う痛みであれば効果が期待できるので、消化管の痙攣や月経痛、一部の腰痛や肩こりなどに対して痛み止めのように使用されることもあります。

　芍薬甘草湯といえばこむら返りと思っている方も多いですが、実はかなり応用範囲の広い漢方なんですね。

　その超優秀な方剤の中身はなんと芍薬と甘草の二種類だけ。

　漢方的には両者とも緩急止痛（急な痛みを和らげる）の作用があり、しかも組み合わせると作用が増強されます。

　超単純構成なのですが、効果は非常に高く即効性もあります。たくさん入っていればよく効くわけではないという良い例ですね。


【処方解説アドバンス】

・芍薬甘草湯も甘麦大棗湯も甘草の量が比較的多い方剤。偽アルドステロン症には注意が必要。

・筋肉の痙攣は肝の不調（肝血虚）によって起こるとされ、芍薬甘草湯は肝を平らかにする薬でもある。

・こむら返りといえば芍薬甘草湯、というのは半ば常識にすらなっているが、疎経活血湯そけいかっけつとうが使われることもある。芍薬甘草湯の無効例や甘草の量を減らしたい場合などに良い。