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31デュラハン1

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(何あれ……誘ってるのかしら?)

 私は白馬にまたがった金髪碧眼の騎士を見て、そんなことを考えた。

 子供の頃、女の子なら誰もが一度は想像したことのある光景が私の目の前にある。自分はお姫様で、それを守る騎士と恋をするのだ。

 騎士は甘いマスクで私に優しく微笑みかけていた。

 その表情がふわふわのマシュマロのように私の心を包み、口溶けの良いチョコレートのように蕩けさせた。

 白馬に乗ったイケメン騎士は、もはやメスを誘っているとしか思えない。

「はじめまして。デュラハンのエレオといいます」

 その人は優雅な動作で頭を下げた。

 木漏れ日が金髪を柔らかく照らしている。世の中にこれよりも美しい光景があるだろうか。

 と、私がウットリしていたのはここまでで、直後に恐怖の悲鳴を上げることになった。

 なぜなら、その騎士の首がボトリと落ちたからだ。

「……キャアアァア!!」

 突然の生首ショーに、私は大きな悲鳴を上げてしまった。



 それはそうだろう。素敵なおとぎ話が一変、ホラー映画に変わってしまったのだ。

 しかし突然死したと思われた騎士の腕は素早く動き、落ちた頭をキャッチした。

 そして頭をクルリと回してこちらに向け、先ほどと同じ甘い笑顔を私に見せた。

「失礼、ビックリさせてしまったね。でもこの通り、デュラハンは首が取れても平気だから安心してほしい」

 その人は自分の首をポンポンと宙に投げてみせた。

 デュラハン。

 見るのは初めてだが、首が取れても大丈夫な種族ということだろう。

 というか、切り離されている状態がデフォルトということだろうか。

「ごめんなさい、私が前もって説明しておくべきだったわね」

 そう謝ってきたのはケンタウロスの賢者ケイロンさんの奥さん、カリクローさんだ。

 私たちは今、ケイロンさんとカリクローさんが経営している学校兼自宅に来ている。

 その校庭でカリクローさんからエレオさんのことを紹介されたところだった。

「い、いえ、すいません。私が物を知らなさすぎるから……」

 私は頭を下げて謝った。悲鳴を上げたのは失礼だったかもしれない。

 そんな私にエレオさんはまた微笑んでから、首を横に振ってくれた。

 いや、首を横に振ったというか、手で生首を左右に回したのだが。

「カリクローさんから記憶喪失の話は聞いているから気にしなくていいよ。それに、僕が女性に上げられるのはいつも黄色い声援ばかりだからね。あんな悲鳴を上げられたのは久しぶりで、むしろ新鮮だったよ」

 エレオさんはそう言って柔らかな金髪をかき上げた。

(……ん?)

 私はそのセリフと仕草におや、と思いカリクローさんを横目に見た。

 カリクローさんは困ったような苦笑を返してくれた。

「エレオさんは舞台役者をされているの。こう見えて花形スターなのよ」

 『こう見えて』というのは失礼な気もするが、エレオさんには都合の悪い部分は聞こえないらしい。

 満足そうにうなずいた。

「花形スターなんて言われると照れるけどね。まぁ事実だ。クウさんもよかったら僕のファンクラブに入るといい。会員にはチケットの優先販売もあるから」

 エレオさんは私に一枚のカードを手渡してきた。

 そこには劇団の名前とファンクラブの本部住所が書かれている。

「はぁ……どうも」

(確かにすごいイケメンたけど、なんか苦手な人かもしれない)

 私はカードを受け取りながら、そういう印象を抱いた。

 ちょっとナルシー入ってる。

(めんどくさいというか、うっとうしいというか……)

 そんなひどいことを思われているとは露とも思わないエレオさんは、キラキラした笑顔で手を差し出してきた。

「握手してあげよう」

「あ、ありがとうございます……」

 拒否するのもどうかと思うので、私はその手をそっと握り返した。

「なんならサインも……」

「依頼したいお仕事はどういったものですか?」

 早めに話を進めたいと思った私は、手を離すとすぐにそう切り出した。

 今日ここでエレオさんと会っているのは、カリクローさんの紹介で仕事を受けるためだ。

 なんでも私でなければ難しい仕事があるという話だった。

 サインをさり気なくスルーされたエレオさんは、やはり全く気にした様子もなくにこやかに話をしてくれた。

「ユニコーンを隷属させて欲しいんだ」

「ユニコーン、ですか」

 そのモンスターの名前は私も知っている。角が一本生えた白い馬だろう。

 何となくだが、美しくて神秘的なイメージがある。

 ただし、今のところこの世界に来て出会ったことはない。

「隷属させてから、どうするんです?」

「決まってるじゃないか。乗るんだよ」

「えっと……乗ると、何かいいことがあるんですか?」

「カッコいい!!」

「…………」

 私は何と言ったら良いものか分からずカリクローさんを見たが、苦笑して首を振られるだけだった。

 その雰囲気がやはりエレオさんには伝わらないようで、胸を張って言葉を足してきた。

「白馬に乗った僕がカッコいいのはみんな知ってる!でもね、それがユニコーンだったらもっとカッコいいと思わないかい!?」

(……もしかしたらそうなのかも知れないけど、それを自分で言う人ってどうなの?)

 私は心の中でそうツッコんだものの、口には出せなかった。

「あの……別に舞台で使うとかでもないんですね?」

 私の質問に、エレオさんはハッとした顔を見せた。

「君……天才か!?確かにユニコーンに乗った僕が舞台に現れれば、大人気間違いなしだ!!失神する女の子も出るかもしれない……別料金を払おう。たまに貸し出してくれるかい?」

 私はこの規格外のイケメンにあきれてしまった。

 エレオさんは純粋に『ユニコーンに乗った自分はカッコいい』という気持ちだけで、結構な面倒ごとに取り組もうとしているわけだ。

(子供か)

 そう思ったものの、やはり初対面の人にそこまでツッコめはしない。私は別のことを口にした。

「隷属に成功したらそれはいいですけど……このお仕事、私じゃないとダメな理由は何です?」

 私はカリクローさんの方を向いて尋ねた。

 今回は『私でないと難しい仕事』だと聞いている。

 カリクローさんは少し眉根を寄せて笑った。

「それはね、ユニコーンが清らかな乙女を好むからなのよ」

「清らかな……」

 つまり、それはアレだろう。経験がない女性、ということか。

「ユニコーンは処女が好きなんだ」

 エレオさんはわざと言葉を濁したカリクローさんを丸無視し、普通にその単語を口にした。

 カリクローさんはまた苦笑いして説明を補足してくれる。

「ユニコーンはすごく獰猛な上に足も速いから逃げられやすいモンスターなんだけど、なぜか清らかな乙女の前でだけは大人しいの。乙女が座ってると、膝枕で寝てしまうこともあるらしいわ」

 なんだそのすけべモンスターは。

(そういえば元いた世界には、若い女の子が膝枕で耳かきしてくれるお店があるって聞いたことがあるな。ユニコーンはそういうお店に来る男性と同じか……)

 そう思うと、神秘的な一角白馬が急に俗っぽいおっさんな感じがしてきた。

「ほら、クウちゃん前に男の人とお付き合いしたことがないって言ってたでしょ?召喚士で清らかな乙女って、なかなかいないから」

 そういえば女子会でそんな話もしていた。

 年齢=彼氏いない歴というと悲しい感じがするが、清らかな乙女と言われると嫌な気はしない。

 それに、そもそも召喚士は数が少ないのだ。しかも処女でないといけないとなると、確かにこの仕事を受けられる人材はそういないだろう。

「大体のことは分かりました。じゃあ、この仕事受けさせてもらいます」

「本当かい!?ありがとう、嬉しいよ!!」

 エレオさんは本当に嬉しかったようで、女性ウケする甘いマスクを眩しいほどに輝かせてくれた。

 私はその笑顔に一瞬ドキッとしたのだが、その甘いマスクは首の上ではなく手に抱えられている。

(……このイケメン笑顔で落ちない私は、まだこの異世界に慣れきってないっていうことなのかな?)

 これはこういう種族なのだと分かってなお、生首の持つ迫力は半端なかった。


****************


「うーん……迷っちゃったかな?」

 私の頭のすぐ後ろで、エレオさんがそうつぶやいた。

 その距離感と甘ったるい声音に、私の背筋はゾクリとしてしまう。

 私とエレオさんは白馬にまたがり、森の中を進んでいる。この森の先にユニコーンの群れがよくいるという話だ。

 なんだかんだ言っても、イケメン騎士との白馬二人乗りはやはりドキドキする。

(私が今やってることって、ファンクラブの人たちからしたら夢のような体験なんだろうな)

 イケメン人気俳優との濃密な時間。オークションに権利を出したら高値で売れそうだ。

 が、私のドキドキタイムはまた生首によって遮られてしまった。

「ちょっと上から見てみよう」

 エレオさんはそう言うと、自分の頭を両手で掴んで空高く放り投げた。

 ここまではもう私も驚きはしなかったが、さらに予想外のことが起こった。

 エレオさんの生首は空中で浮いたまま静止し、その場でグルグルと回って周囲の状況を確認し始めたのだ。

「ええっ!?デュラハンの首って浮くんですか!?」

 驚く私に、エレオさんは空高くから教えてくれた。

「そうだよ。デュラハンは生まれつき空間魔法と念動力を身につけている種族なんだ。空間魔法で次元に干渉してるから頭と胴が離れても大丈夫だし、それを念動力で動かすことができる。っていうか、念動力がなかったらずっと抱えてないといけないから大変だよ」

「なるほど……確かにそれは不便ですね」

 デュラハンは生首を抱えた種族だと認識していたが、空飛ぶ生首の種族という認識が正しいのかもしれない。

(でも待てよ……ということは、デュラハンの顔は体との位置関係に縛られず、好きな場所に配置することができるわけだよね。じゃあ……アノ時に……普通では無理な責め方もできるわけで……)

 私はふとそのことに気づき、頭の中では様々な妄想が駆け巡った。

 例えば胴体は後ろから、頭は前から責めるなんてことも可能なわけだ。

 多分客観的に見ればかなりホラーな画を妄想してしまっているが、ムラムラの方が勝っている私にはドキドキのピンク色に見える。

(デュラハンとなら……あ、あんな事もできるな……そんな事も……こんな事も……ああっ、そういえばこういう事だって可能だ!)

 私は耳まで赤くになり、一人吐息を荒くしてしまった。

 エレオさんの顔が近くになくてよかった。

(頭を飛ばせるだけで、ものすごくバリエーションが増えるな……あれ?空間魔法で生首を切り離してるってことは、もしかして首以外の体も切り離せる?それならもう、無限のバリエーションが……)

 私はそう思い至り、エレオさんに尋ねてみた。

「あの……空間魔法で首以外も切り離して飛ばせるんですか?」

「いや、残念ながら普通のデュラハンにそれは無理だね。空間魔法はとにかく扱いが難しいんだ。首が切り離せてるだけでも奇跡の種族とか言われてるよ。だからこの……」

 宙に浮いた生首のセリフに合わせて馬上の体が動き、私の腰に下がった格納筒を指先でつついた。

「この格納筒なんかも作るのがすごく難しいらしい。これも次元に干渉する、空間魔法の魔道具だからね」

 そうか。確かに格納筒もどこかの異次元空間に使役モンスターたちを格納している。

 しかもこの格納筒はモンスターの死骸を異次元空間に送るという特殊能力がある。よほどのレアアイテムと思って間違いなさそうだ。

(やっぱり頭以外は無理か……いや、頭だけでもかなり色々なことが……)

 また妄想を開始しかけた私へ、エレオさんの声が降ってきた。

「いたいた、ユニコーン。やっぱりこっちの方向で合ってたみたいだ」

「よ、よかった。もう近くですか?」

「うん、そうだけど……あぁ……これはマズイな」

「?」

 エレオさんの頭が降りてきて、また首の上に置かれた。

 そして私のすぐそばで困ったような唸り声が上がる。

「う~ん……」

「どうしたんですか?」

「喧嘩が始まりそうなんだ」
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みんなの感想(5件)

ミョンニョン

雑学面白いので頑張ってください
新たな扉は開かれなさそうです
ガンバレ~

墨笑
2024.07.31 墨笑

💪

解除
アリキチ
2024.07.30 アリキチ

初めまして。
1話から一気に全話読みました。
テンポよく話が進みするする読めました。
キャラも個性豊かで物語にはなを添えていてとても面白いです。
雑学もとても好きな分野なので楽しみました。
毎日投稿大変でしょうけど頑張って下さい。

墨笑
2024.07.30 墨笑

ありがとうございます。
ぶっちゃけ雑学はうざいと思う方が多いかなと思っていたので嬉しいです。

解除
ミョンニョン

面白いでも貧乳派なのでお色気シーンがわからない悲しいな

墨笑
2024.07.30 墨笑

心の目を開くのです……
巨であれ貧であれ、爆であれまな板であれ、そこに貴賤はないのです……

解除

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