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第八章【東方大地】

8-22 真なる激突

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魔剣士「さてと…、どのみちこうなる運命だったってことだな」

両腕から魔力を発し、全身から黄金のオーラを放つ。
そして、白姫とテイルに自分から離れているよう促した。

アサシン「俺と戦うことを選ぶというのは、拾った命をまた無駄に散らすということになるが」
魔剣士「奇跡的に俺は二回死んで、二回とも生き返ったんでね。二度あることは三度ある、お前と戦っても死なないんじゃないかっていう算段よ」
アサシン「三度目の正直、という言葉を知らないか」
魔剣士「ことわざって矛盾的なモンも多いけどな、俺は俺を信じるまでだ」
アサシン「信じたところで、意味はない」
魔剣士「信じなくちゃ、行動は出来ないだろが。お前だって、自分を信じてるからその欲のままに行動をしてるんだろ?」
アサシン「そういうことではない。その信じるということは、現時点で意味のないことだと言ったんだ」
魔剣士「あ、何……?」
アサシン「…」

返事をした瞬間、目の前にいたはずのアサシンは、何故か背後に移動しており――。

魔剣士「……へ?」

刹那、腰に鈍痛。床には血が滴り落ちる。

魔剣士「あいでぇぇぇえっ!?」

気づけば、腰に裂傷を負っていた。
どうやら瞬時にして"切り抜け"をされたらしく、これがもし容赦のない首や頭、心臓を狙ったものだったとしたら、既に自分は息絶えていただろう。

魔剣士「また…見えなかった……っ!」
アサシン「これは警告だ。これがどんな意味を持つのか分かるはずだ」
魔剣士「……殺す気になったら殺せるってか、クソアサシン…!」
アサシン「まだ強気な姿勢を崩さないのは誉めてやろう」
魔剣士「ククッ、本当に俺は余裕だぜ!」
アサシン「強がっているだけに見えるが」
魔剣士「フン、考えようによっては今の一撃は三度目の死の淵だったよーなもんだろ?」
アサシン「ほう」
魔剣士「だけど、俺はまだ生きている。これはやっぱり二度あることは三度あるってことだよなぁ?」
アサシン「なるほど、確かに一理はある」
魔剣士「もうここまで来れば、俺は死なないって解釈でいいんじゃねーのか…ってね!」

"ボンッ!!"
剣に火炎を装填し、刃をアサシンに向ける。

アサシン「…なら、幾重にも死の淵を見せてやるのも面白い」
魔剣士「んっ…?」
アサシン「…」

突如、"ふわり"と一陣の風が舞う。
すると、再びアサシンは魔剣士の背後に縮地による移動をしていた。

魔剣士「……へっ」

気づく頃にはすでに遅く、"風"が吹き終えた時、魔剣士の全身のあちこちに鋭い痛みが幾重にもなって走った。

魔剣士「ぬおぉぉああっ!!?」

左肩、右腕、額、左腕、右脚、左腕、右つま先、左頬――……。

白姫「魔剣士っ!!」
テイル「魔剣士、ちょっとっ!?」
猛竜騎士「……!」

切り傷の数は百も越える勢いだった。
アサシンが本気だったなら、既に意識は闇の中だったはずだ。

アサシン「……これがお前の命を奪えた数だ」
魔剣士「が…ふっ……!」
アサシン「まだ戦おうと言うのか」
魔剣士「あ、当たり前だ…!ま、まだ俺は生きている!すっげぇいてぇけど、死なないってことはよ、俺は無敵っつーことだろ!!」

それでも強気の姿勢は崩すことはない。強がりとはいえ、精神面で負けるわけにはいかないのだ。

アサシン「精神面で折れぬところは認めてやろう」
魔剣士「こりゃ何百回も死の淵を彷徨ったってことだしよ、"不死身"かもしれねぇな…!ハハハッ……」

ふと、何も考えず放った"不死身"という言葉。魔剣士にとっては、何気ない一言だったかもしれないが、これにアサシンは強く反応を示した。

アサシン「……何?」
魔剣士「ん…?」
アサシン「今、何と言った」
魔剣士「あ?」
アサシン「不死身、だと……?」

"……ゴッ!!"

不死身という一言のあと、アサシンの静寂さが失われ、全身から"殺戮の気配"が部屋を包んだ。
猛竜騎士も喰らった、息の詰まるような死の気配。目の前にいた魔剣士は勿論のこと、部屋にいた全員があまりの緊張に動けなくなったのだった。

魔剣士「あ…え……?」
アサシン「その言葉、俺の前で二度と使うな」
魔剣士「な…に……?」
アサシン「俺に似合わない行動を起こさせる程、不快なことはない」
魔剣士「どういう…意味だ……!?」
アサシン「もう一度言う。この話をするな」
魔剣士「だから、どうしてだと……!」
アサシン「三度目だ」

更に、アサシンを取り巻くオーラは強くなる。
それだけで本当に死が訪れそうな、最強最悪の気配。
魔剣士はその言葉が本気だと分かり、しゃべることも恐怖し、必死になって腕を振り、"分かった"というポーズでそれを伝えた。

アサシン「それで良い」

魔剣士のそれを見たアサシンは気力を引っ込め、室内から一気にその気配は消失する。
すると、魔剣士の後ろのほうに居た白姫とテイルは安堵したのか、その場に崩れ落ちてしまったのだった。

魔剣士「白姫、テイル!?」
猛竜騎士「……大丈夫だ、どうやら気を失っただけのようだ」
魔剣士「そ、そうか……」
猛竜騎士(戦闘勘や知識のあるテイルはともかく、まさか察知能力の低い白姫を気絶させるほどの気とは……)

もしかすると、彼の眼の奥に見た"内なる殺意"を知ったことで彼女も気絶したのかもしれないが、猛竜騎士はある発想を思いつく。

猛竜騎士「……アサシン」
アサシン「何だ」
猛竜騎士「どうして、"この話題"にそこまでの怒りを覚える?」
アサシン「…」

"ぴくり"と反応する。

魔剣士「オッサン、おい!?」
猛竜騎士「安心しろ」
魔剣士「あ、安心しろってな!?」
猛竜騎士「但し、準備はしていろ」
魔剣士「は?」
猛竜騎士「失敗すれば、終わりだぞ」
魔剣士「な、何……?」
猛竜騎士「察しろ。言葉はなくとも、分かるはずだ」
魔剣士「ん、んんっ……?」

ポンと魔剣士の肩を叩くと、一歩前に出て、アサシンの前に立つ。

猛竜騎士「さてと、アサシン。その若さや不死身に反応する意味。それを教えてくれないか」
アサシン「……どうやら、この世から消え失せたいらしいな」

また、圧迫する殺戮の気は室内に水を注ぐようにして展開し、一呼吸すら楽につけないほど苦しい空間を作り上げる。

猛竜騎士「……アサシンッ、お前の目的はセントラルへの復讐と魔剣士が欲しいことだと分かったが、腑に落ちん!」

しかし、猛竜騎士はその話題を止めることはない。

アサシン「次の言葉はないぞ」
猛竜騎士「ハハハッ、何が言葉は無いだ。お前のクソみてぇな若さに対する反応を見るに、ガキの遠吠えにしか聞こえないぜ……?」
アサシン「……致し方ない」
猛竜騎士(来るっ…!)

見逃すことはなかった。アサシンと対峙し、魔剣士が斬られる時にも何度か見てきた時に覚えた、アサシンが動く前に訪れる"癖"である。
それは、ほんのわずかな、歴戦の戦士にしか分からない程の一瞬の間。

アサシン「…」

空気を吐く、最初のワンテンポ。

猛竜騎士(おしゃべりが過ぎたな、アサシンッ!!)

アサシンが魔剣士への行動、確実に仕留める時に狙うのはそう、頭部か心の蔵―――!

猛竜騎士「……ッ!!!」

"ふわりっ……"
一陣の風が舞う。それは、既にアサシンの攻撃が終わった証拠。目に追えぬのなら、その前に動けば良い。両腕で、頭部と胸を腕で防御の型を作るだけ……。

猛竜騎士(頼むぞ……!)

アサシンは、既に猛竜騎士の背後に立っていた。
風が止む時、その読みが正解でなかったなら、訪れるは死。

猛竜騎士「……っ!」

―――そして、風が止む。

猛竜騎士(どう…だ……!)
猛竜騎士(…)
猛竜騎士(…………ぐおっ!!?)

"グシュッ、シュバッ…!"
肉が切り裂かれる音が響き、血が吹き出し、強烈な痛みが襲う。アサシンの短剣は、残忍かつ正確に猛竜騎士の頭部と胸中、心臓を捉えていた。とどのつまり、実際に切り裂かれたのは……!

猛竜騎士「甘いぞ、アサシン……!」
アサシン「……なるほど、面白い」

それぞれをガードした、両腕――!

猛竜騎士(あとは……!)

アサシンが見せる、この隙。
それを突いて、魔剣士が行動をできれば良い。散々促した言葉だったが、それを理解してくれただろうか。サっと振り向く猛竜騎士、するとアサシンの後ろには"魔剣士が剣を振り下ろし"ていた姿が見えた。

魔剣士「…ッ!」
猛竜騎士(よしっ……!)

だが、ギリギリまでそれを悟らせず、相手にとことん隙を生ませなければならない。
猛竜騎士は「アサシン!」と叫び、奥義竜突を放つ。背後、前面、どちらかの攻撃はさすがのアサシンでも避けきることは出来ず。

アサシン「……なるほど」

両腕に仕込んでいた短剣で、それぞれをガードしたのだった。

魔剣士「なっ…!!」
猛竜騎士「にっ……!!」
アサシン「中々どうして、面白い攻撃だとは思うがな」

二人の攻撃を防いだまま、短剣に風魔力を込めて剣先に小さい竜巻を作り出すと、そのまま押し出し、魔剣士と猛竜騎士は激しく空中へと飛んだ。

魔剣士「ぬぁっ!」
猛竜騎士「ぐぅっ!」

それぞれガードで威力は抑えたが、アサシンは既に動く。最初に狙われたのは魔剣士だった。

アサシン「特別だ。動きが見える範囲で動いてやろう」
魔剣士「…うぁっ!?」

吹き飛ばされた魔剣士に"追いついた"アサシンは、耳元で囁かれた驚きに剣を横軸に振込んだが空を切る。直後、背中に回り込まれて蹴り飛ばされ、床を滑って壁へと強く背中を打った。

魔剣士「ごほっ…!」

続いてアサシンは短剣を構え、離れた猛竜騎士に狙いを定める。すると、猛竜騎士は既に起き上がり"無属性"の魔力を全身に込め、奥義"猛竜突"を放つ寸前だった。

アサシン「……ほう、力比べといこうか」
猛竜騎士「そんなちゃっちぃ短剣で、俺に勝てるなんて思うんじゃねぇぞコラァ!」

"タンッ…!"
床をける音、互いに縮地。瞬時、中央にて激突。
アサシンは剣先に風属性、猛竜騎士は肉体的にパワーアップして物理でアタックし、"ゴォッ!!"という爆音とともに衝撃波が響く。

猛竜騎士「ぬぅぅぅうっ!!」
アサシン「ほぉ、確かに物理勝負は得意なようだ」

激突はしたが、まさか、猛竜騎士の一撃は短剣一つに止められる。

猛竜騎士「……な、何っ!?何で俺の槍がそんな短剣で!?」
アサシン「技量の差を知っているか?」

物理同士のぶつかり合いにおいて、腕力よりも武器に左右されることは少なくない。
小さいナイフで強大な斧と打ち合うのは有り得ないし、この激突も短剣で打ち合うのはバカの所業だ。そこをカバーするのが技術ということになる。
そのため、アサシンは刃に先ほどと同じ"小さい竜巻"を起こし、猛竜騎士の槍をぶつかり合う前に"風の力"で押して疑似的に物理技のように見せかけていた。

猛竜騎士「か、風魔法によるものか……!」

無造作たる魔力との勝負には、勝てるわけがない。
次の瞬間、再び竜巻に吹き飛ばされ、猛竜騎士は宙を舞う。体勢を整えて着地をするが、その頃にはアサシンは目の前で短剣を刺し込みに突き出していた。

猛竜騎士「ぐぬっ!」

"ガキィンッ!"
槍の柄でそれを受け止め、短剣を弾く。

アサシン「む……」
猛竜騎士「うぉりゃあっ!!」

隙を与えないように脚力集中、肉体強化を施して蹴りを繰り出す。

"……ガシッ!"
左わき腹に放った蹴りは、片腕で止められる。しかし、これが好機。

魔剣士「っしゃあああっ!!」

片腕しか使えないのなら、両脇から攻めれば良い。
いつの間にか起き上がっていた魔剣士は、右手に火炎装填剣、左腕に具現化した氷結の剣。属性を込めて、勢いよく振りかざす。

アサシン「惜しかったな」
魔剣士「うっ…!?」

振りかざした腕が"逆だった"なら、一撃が入っていたかもしれない。
アサシンが使えないのは左腕。
魔剣士の右側の斬撃は片手剣による物理込みのため、彼が動かせる右腕により防御。左側は"氷魔力"による生成された剣だったため、寸でのところで炎魔力を展開され融解された。

魔剣士「くそっ…がっ……!」

しかも、猛竜騎士の掴まれた左足は炎魔力によって燃え上がる。

猛竜騎士「ぬぁぁああっ!!……だ、だがっ!!!」

激しい痛みが襲うが、猛竜騎士は掴まれたままの脚を軸にして、アサシンの頭部に回し蹴りを放った。

アサシン「攻撃の欲は立派なものだが」

氷の壁を作りだし、その蹴りを防ぐ。ビキビキという音が聞こえたが、それは猛竜騎士の脚の骨の音だった。

猛竜騎士「いっ……!」

魔剣士「……オッサンッ!」
魔剣士「ぬっ……、ぬぁぁあああっ!!」

氷壁を展開した隙を見て、その背中に剣を突き入れようとするが、刺さる前に更に氷壁が具現化し、"ガキャン!"と軽快な金属音が鳴った。

魔剣士「嘘だろっ!?」
アサシン「……どれ、一旦距離を置くか」
魔剣士「!」
猛竜騎士「…ッ!」

攻撃を受けつつ、カウンター気味にアサシンが繰り出したのは、いつか魔剣士が受けた脚に風魔力を込めて相手を飛ばす"旋風"。とはいえ、その威力はテイルのものと格段に違うものだったが。

魔剣士「ぐあぁっ!」
猛竜騎士「ごほっ……!」

二人は反発する磁石のように弾かれ、広い王室の両端まで吹き飛ばされた。

魔剣士「いっつぅぅーっ……!んだよ、これ……!」
猛竜騎士「分かってはいたが、ここまでの…差が……!」

圧倒的な強さ。決して届かぬ刃。未来は、未だ、見えない。

アサシン「さぁ、次はどうするのか見せてくれ」

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