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続章【夢の後先】
禁断の血脈(後編)
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フランメ「そうだ…。親父が、生きていたって……」
幼い頃に伝えた、親父の死。
それは嘘だったのなら、フランメが追い続けた親父の存在は今。彼が、生きているのなら……。
オルデン「……世界は、狭い」
フランメ「はい?」
オルデンは、すっかり暗くなった外を見つめ、窓の淵を指先で触れながら言った。
オルデン「お前は世界を冒険して2年。世界踏破し、簡単だったといったな」
フランメ「い、言ったけども…それがどうしたんだよ」
オルデン「なぁに、その通りだと思ってな」
フランメ「んっ…何?」
オルデン「世界はそのようなものだ。広いが、狭い。狭く、苦しいものだ」
フランメ「苦しいって……」
思いつめたようなセリフに、フランメは沈黙気味に話を聴く。
オルデン「世界を救ったお前の親父にとって、この世界は狭すぎた。居場所を無くした真の英雄は、俺という仮の英雄に世界を託し、次の世界に旅立った。アイツも、お前が産まれたことは知らない筈でな……」
ロッキングチェアから立ち上がると、壁に掛けた火魔石のランプを灯す。淡い光が、部屋を包んだ。
フランメ「つ、次の世界に旅立った?どういうことだ?」
オルデン「……新世界ともいうべき場所。ここではない、別の"大陸"と呼ばれる世界だ」
フランメ「大陸?大地じゃなくてか?」
オルデン「そうだ。よく、聞け…………」
オルデンは、知り得る限りの新世界の話をした。
今は離れて暮らしているマスターセージというオルデンの嫁は、研究者でありその存在を知っていた。
―――大陸とは。
この星の極北と極南の頂点に存在する、強力な魔力の歪みから生まれた扉の先にある"新世界"のことである。
かつて氷山帝国に住む錬金術師の一人も、その世界からこの世界に訪れ、セージを育てた。
情報を知った父親は、強靭な肉体をもって世界を救った仲間の一人と共に扉の中へと姿を消したのだ。
オルデン「……だが、うらまないで欲しい」
決して、彼が愛した人々を捨てたわけじゃない。
この世界が、真の英雄という存在を望まなかった。
バーサーカーという存在が、この世界に留まることは神が許さなかったとしか言えないのだから。
フランメ「……父さんが…、親父が、別の…世界に…」
オルデン「今日の話は信じられることばかりじゃない。唐突過ぎたが、これは……」
いつか話すべき話だった。
今だからこそ、話をした。
そして、それを聞いたフランメは静かにテーブルの席へと腰掛ける。
フランメ「全部、本当なんだっていうのは…口調で分かるよ。ジイちゃんは嘘つくよーな人じゃないし……」
オルデン「嘘ではないが、あまりにも現実味はない。この瞬間も、目を閉じれば……」
全ての思い出が沸々と蘇る。
アイツらと出会った頃。まだ、兄貴と、師匠と、親父と、そう呼ばれるアイツらが帰ってくるような気さえする。そんなことは、もう無いはずなのに。
フランメ「……なぁ、爺ちゃん」
オルデン「ん…?」
フランメ「爺ちゃん、何で…俺に本当のことを…教えたんだ……?」
オルデン「……冒険を終えて、お前の決断を聞くためだ」
フランメ「決断?」
オルデン「お前が冒険者となった理由は、何だ」
フランメ「え、そりゃあ……」
両親の姿を追うため。
子供っぽいといえばその為だが、見えなかった両親の影を追うことが、最初の目標だった。
オルデン「両親の影は、世界を冒険しても見えなかった。しかし、俺の話を聞いてどう思った」
「どう思ったって……」
そう尋ねられたら、少し考えたあとで、答えは一つ。
フランメ「見えなかった物が、見えるっていえば良いのかな……」
あらゆる衝撃の言葉に、親の姿がハッキリと見えた。
オルデン「……そうだな。お前は、両親に会いたいと…そう願っているんだろう?」
フランメ「な、なんかその言い方は恥ずかしいけども……」
間違いではない。
というか、その為に世界を旅してきたのだから言い訳できるはずもない。
オルデン「母親に会いたいか」
フランメ「母さんって…、世界を統一してるセントラルの女王様なんだろ?本当なのか?」
オルデン「俺が騎士団長だったことも、お前の力も、他の国で歓迎気味だったことも、全てが証拠だ」
フランメ「それはそうかもしれねえけど、やっぱり現実味は無いよな……」
今日まで親は死んだと思い、生きてきたのに。世界を治める女王が母親だなんて。それに、そうだったとしても自分に会う資格なんか……。
オルデン「旅立つ前に、顔くらいは見せてやるといい」
フランメ「……旅立つ前って?」
オルデン「お前はこの世界に収まる器じゃないことは知っているからな」
フランメ「ちょっ…、そ、それって!」
オルデン「覚悟は無いのか?」
フランメ「い、いや!ンなことはないけど、そうじゃないけど!」
はっきりとは言わなかったけど、嫌でも分かる。
フランメ「俺が、新世界に旅立てって言ってるんだろ!?」
オルデン「……それを、考えているはずだろう」
新世界の話を聞いてから、からだの疼きが止まらなかったけども。
フランメ「で、でも……!でもさぁ……!!」
旅立ちたいとは思う。
しかし、フランメの心は複雑極まりないものだった。
フランメ(いや、だってさ……!!)
年老いたオルデンを置いて、新世界へ旅立つことなんて。母親だって、自分を愛しているか分からないし。父親だって、俺の存在を知らないし。そもそも会えるとしても、何を話せばいいか分からないし。何もかも、分からないし!!興奮、混乱するフランメ。だが、それをオルデンのシンプルな言葉が落ち着かせた。
オルデン「……お前は、自分に似た顔の子供が"貴方の子供です"と尋ねてきて無碍に追い返したりするか?それがどこかで覚えのある相手だったとして…だ……」
それは、追い返すはずがない。自分だったら、まず話を聞いて……。
フランメ「……あっ?」
オルデン「ハハ、そういうことだ」
フランメ「俺がそうだったとしたら……って」
オルデン「お前は本当に両親に似ている。どちらの良い血を、よく引きついだようだ」
フランメ「俺、似てるの?」
母さんと、父さんに。
オルデン「顔つきはどちらにもそっくりだ。親父は、笑って泣いて、抱きしめるかもしれないな」
フランメ「そ、そんな単純?」
オルデン「お前も単純だろうが」
フランメ「悪口じゃん!?」
オルデン「フフッ、それでどうしたいんだ。お前の気持ちが、一番大事なんだよ」
フランメ「そ、そりゃ…。俺は、色々あるけど、本心を訊かれたら……」
―――行ってみたいと、思う。
呟くように言った。
オルデン「フフン、やっぱりか!なら色々準備せにゃならないな!」
フランメ「い、いやいや!でも俺は爺ちゃんの今後とか、母さんが会いたくないかもしれないって気持ちもあるし!」
オルデン「誰が子を恨み、忌む母がいる。それに、お前の母親はそういう奴じゃない。絶対だ」
フランメ「爺ちゃん……」
オルデン「大きくなったお前の姿を、母親に見せてやれ。そして、旅立ちの決意を伝えろ」
フランメ「……いいのかよ」
オルデン「ダメな理由は無い。……スマートに、格好よく、男なら決断することだな」
にかりと笑い、ウィンクする。
この時、フランメの目には皺の多い爺の姿が、まるで知らない若かった頃の強さ溢れた男の姿に見えたのだった。
フランメ「……決断か」
オルデン「今からでは夜遅い。明日、俺が話しをつける。母親に、会わせてやるからな」
フランメ「そんな急に!?」
オルデン「男なら、だぞ?」
フランメ「……はいはい、分かりましたよ!」
覚悟を決め、決断しろ。
あまりにも早すぎる展開だったが、フランメはオルデンに押され承諾する。
しかし、この時のフランメは決断しても(どう話したもんか…)と、まだ知らぬ母親との会話に、一晩中眠ることが出来なかったのだった。
―――そして時間は過ぎる。
次の日の、午前10時。
フランメとオルデンは、セントラル城下町に入り、平和の広場を抜けた先にある"セントラル王城"に足を運んだ。
………
…
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