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第九章【セントラル】

9-56 経験値

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魔剣士「何…!な、何をしてんだよお前らっ!!?」

殴り合い、殺し合いをする人の間に割って入り、それを阻止する。しかし、吹き飛ばしても彼らはすぐに起き上がり、魔剣士にまで襲い掛かってきた。

魔剣士「ちっ、なんだってんだ!」

剣で切り裂くわけにはいかず、掌底を使って顔面を弾き、気絶させる。
リヒトは魔剣士の後ろについて、これはまさかと雨の水とも取れない冷や汗を流す。

魔剣士「どうした!これは一体何が起きてる!?」
リヒト「まさかとは思いますが、これは集団の幻惑魔法では……」
魔剣士「ンだと!?」
リヒト「正気を失った瞳、聞き分けのない行動。しかし痛みはあるようです…」

殴り合いをしている人々の顔は、苦痛に歪む。この症状は、ブリレイの幻惑と類似していた。

魔剣士「どういうことだ!?ブリレイが何か仕掛けてたのか!?」
リヒト「……ゴメンなさい。恐らく、僕のせいです…っ」
魔剣士「何したんだ…?」
リヒト「きっと王城に仕掛けられた大規模な対闇魔法陣を破壊すると、ブリレイの最期の魔力で全てに幻惑が掛かるよう仕組まれていたんです……」

大雨の中、がくりと肩を落として強く握りしめた拳をバシャリ!と地面に叩きつけた。

魔剣士「ど、どうにかならないのか!」
リヒト「規模は…分かりますか。空に飛んで、一回確認をしましょう!」
魔剣士「白姫はオッサンたちに任せるとして…行くぞ!」
リヒト「は、はいっ…!」

二人は足場を展開し、高く飛ぶ。
前も見えないような土砂降りの中で、何とか目を凝らして確認したのは良いが、それは見たくもなかった最悪の光景だった。

魔剣士「広場…だけじゃない…………」

広場に入りきらなかった人々も、街角でも、そこら中で殴り合いと殺し合いが行われていた。更に目を疑ったのは、何でもない恐怖する人が、殴ろうとする人と目を合わせた瞬間から暴力的になったこと。これは、感染しているということである。

リヒト「か、感染だって…!?」
魔剣士「そしたらどうなるってんだ!?」
リヒト「広場の殺し合いが、全世界に広がることになります…!早く何とかしないと、ブリレイの望んだ戦う世界になってしまう!」
魔剣士「おいおい…、な…何とかならないのか……!」
リヒト「正気に戻すには、気絶させても幻惑が宿り続ける限り意味をなしません!ち、治療方法を考えると…えっと……」
魔剣士「何か方法があったら考えてくれ!」

空に浮かんだまま、二人は殺し合う国民たちを見下ろす。
時折、魔剣士たち目がけて"矢やナイフ"が飛んでくることもあったが、対処をしつつ、リヒトは治癒方法について目いっぱいの方法を考えた。

リヒト「……幻惑を飛ばすくらいの何かを行ったのなら、もしかしたら…」
魔剣士「何かって、何だ!?」
リヒト「幻惑はあくまでも人の心に宿る物です。その幻惑を吹き飛ばすくらいの驚きや、痛みがあればもしかしたら……」
魔剣士「驚きや痛み!?」
リヒト「ですが、この人数を驚かせるのは無理です。だとしたら、世界に感染する前に殺すしか……!」

罪なき人々を、白姫を応援し賛同してくれた全ての民を、今ここで殺す他は無いというのか。

魔剣士「ば、馬鹿を言うなッ!!こいつらは何も悪いことをしちゃいない!」
リヒト「だとしても、これを抑えなければ世界中が殺し合いをしてしまいます!」
魔剣士「――…ッ!!」

最早、この最悪の手段しかないのだろうか。魔剣士は必死に何かの方法を考えた。

魔剣士(……どちらでもない選択肢がある筈だ。何か、何か、何かが!)

今までの戦いと、自分の持てる力を全て出し切って、これを乗り切る案が――…。

魔剣士(待てよ……)

この時、魔剣士の頭に何かが降りる。経験から見出した能力と感覚が、身体の芯をバチリと鳴らした。

魔剣士(感知…。そうか、もしかしたら……。いや、だけど……)

魔剣士は、決断を迫られた。思いついた"技"は、鋭くなった感知を経て発動は間違いなく出来る。しかし、この策は覚悟が必要になるものだった。思わず、真下を向く。すると、下の壇上脇で白姫と目が合った。戦いの中で一番悲しむのは白姫のはずなのに、彼女は目をそらさず、悲しむ表情よりも戦う顔。最期まで戦いの行く末を見守るといった言葉が嘘のないように、魔剣士を信じ続けていた。

魔剣士「し、白姫……」

彼女の自慢の黒髪は、雨と戦いに跳ねた泥に塗れ、今日のために準備した衣装も、何もかも汚れていた。そんな戦いの中でも、命を削り合った二人だから、魔剣士と白姫は瞳で通じ合うことが出来たのだろう。

魔剣士(白姫……!)
白姫(魔剣士……)

互いの声が聴こえた。

魔剣士(お前に…伝えたいことがあるんだ)
白姫(どうしたの…?)
魔剣士(この状況を打破できる方法を見つけた。だけど、それには覚悟がいる…。正直、俺は弱い人間なんだ……)
白姫(覚悟……)
魔剣士(その言葉は言いたくない。これで分かってほしい)
白姫(…)

雨の音が遠くなる。二人の会話は続く。

魔剣士(お前の望むことが、俺の幸せだ。お前が、セントラルを救いたいって言葉をもう1度だけ聞かせてほしい)
白姫(それを言ったら…どうなるの……?)
魔剣士(俺がセントラルを救う。それだけだ)
白姫(…っ)

嘘だとすぐに分かる。魔剣士はいっつも先に手足が出る。それを、自分に対して覚悟を決めたいとか、弱い人間とか、こんな場でそんな弱音を吐く人間じゃないと分かっていた。

白姫(魔剣士…。私の幸せもね、魔剣士が望むことが一番の幸せなんだよ……)
魔剣士(……あぁ)
白姫(馬鹿だよね。みんなに迷惑かけて、こんなことになるなんて……)
魔剣士(お前は悪くない。悪いのはハイルとブリレイ、それに従った騎士団と兵士たち…みんなの責任だ)
白姫(本当に魔剣士は…こんな時まで優しいね……)

雨の音が消える。戦いの音も、悲鳴も、何もかもが遠くなった。二人の会話だけが、二人の耳を鳴らす。

魔剣士(頼む。一言"セントラルを救いたい、世界を救いたい"と言ってほしい)

白姫にも答えは分かってる。だけど、魔剣士の言い方は、まるで、心に痛みを背負うような言い方にしか聞こえなかった。

白姫(救う手段は…もう思いついているんだよね。それ以外の答えは…無いんだよね…)
魔剣士(他にも手段はあるかもしれない。だけど、この瞬間にも犠牲者は増えて行っているんだ。考える時間は…無い……)
白姫(…っ)
魔剣士(頼む。お前の一言さえあれば……)
白姫(……っ)

―――白姫は一瞬、悩んだ。
彼の覚悟は、魔剣士にとっても、自分にとっても、必ず辛いものになると思ったから。

魔剣士(……白姫ッ!!)

強く、呼びかけた。迷いは、その言葉で吹き飛ぶ。

白姫(魔剣士……!)
魔剣士(あぁ、答えを聞かせてくれ)
白姫(みんなを…救って……!)
魔剣士(……あぁ!)
白姫(ま、魔剣士!)

心の世界を飛び出し、強い雨音と戦いの音が、再び耳に響き始める。

魔剣士「…リヒトォ!」
リヒト「はい!」
魔剣士「猛竜騎士のオッサンに、よろしくって一言だけ伝えてくれるか!」
リヒト「どういうことですか!?」
魔剣士「きっとそれで通じるはずだ!すぐに頼んだぞ!!」

そう言った魔剣士は、リヒトよりも更に高く飛び、姿が遠く、小さくなった。リヒトは追いかけるべきか迷ったが、今は言われたことを伝えるため、戦い続ける猛竜騎士らの傍に降りて、それを伝えた。

リヒト「猛竜騎士さん!」
猛竜騎士「えーと…君は確かリヒトだったな!ここに来るまでに、リッターに教えられたよ!」
リヒト「はい!覚えていただき恐縮なんですが…魔剣士さんから伝言を!」
猛竜騎士「何だ!?」
リヒト「"よろしく"頼むと、一言だけ……!」
猛竜騎士「よろしく…頼む……?」
リヒト「はい……」

何ことか分からず、猛竜騎士は首を傾げる。
だが、次の爆音とともに"空"へ現れたそれを見て、猛竜騎士は全てを理解した。

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突然の【CM】失礼致します。
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http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/916072263/

魔界の金貸しゲルドベーゼ
「魔界の金貸しに弟子入りすることになった」
上記新連載「1~2日間隔の更新」をモットーに、新作を開始しました。

~あらすじ~
魔界と人間界の戦争が終結して10年の月日が流れた。
人間界から魔界へ夢を見て訪れたフェルト・キュールは、いつものように酒場で酒を飲んでいた。
しかし、そこへ現れた謎の男「ベーゼ」と出会ったことで、フェルトの人生は一変する。
彼の正体は、魔族からも「邪悪」と呼ばれる魔界の金貸しであった。

どうして…、彼が邪悪と呼ばれているのか。

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そう、その出会いがフェルトの人生を大きく狂わす。
まさか、彼と共に金貸しをすることになるなんて、誰も予想はしなかったのだから。
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