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第九章【セントラル】

9-29 全員の予想外(2)

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「……フランメさん」

魔剣士「…あ?」

どこかで聞いたことのある声。魔剣士は振り返ると、そこに立っていたのは。

ブリレイ「フランメさん、お久しぶりです」
魔剣士「……ブリレイ!?」

ザワつく身体。裏切りをしているかもしれない張本人が、目の前に、動揺し剣を向けてしまった。

ブリレイ「お、おぉっと……」
魔剣士「……っ!」

驚いた表情を見せたブリレイに、慌てて魔剣士も剣を納める。
ブレイダーも彼の存在に気づくと、「やれやれ…」と一旦、構えていた剣を納刀した。

ブリレイ「こ、込み入った状況でした…か……?」
魔剣士「……アンタのせいで余計な。ろくに顔も見せないで、どうして今のタイミングで現れるんだよ…」
ブリレイ「あ…、そ、それは申し訳ありませんでした!色々ありまして……」
魔剣士「色々ねぇ……」

「申し訳ない」と何度か頭を下げ、ブリレイはブレイダーに近寄った。

ブリレイ「そうだ、ブレイダーさん!フランメさんは僕の知り合いでして……」
ブレイダー「君と知り合いだったとはね。……危うく殺しかけちゃったよ」
ブリレイ「え、えぇ…。それでこの状況は?」
ブレイダー「君に言われた通り、僕の新たなチカラのために…バンシィを利用しようと思ってたんだ。それなのに、そこのフランメが邪魔をしてね」

じろりと魔剣士を睨む。バンシィはギクリとした表情で、魔剣士の背中に隠れた。

魔剣士「……どういう了見か、詳しく説明してもらおうか。どうやら、ブリレイも絡んでるようだしな…?」
ブリレイ「え、あ…その……ですね……」

ばつが悪そうに、ブリレイは口を開く。

ブリレイ「実はですね、新しい力の会得のため…強き魔術者の魔力を得ることで次のステージに立てるのではないかという仮説をたてたんです」
魔剣士「何?」
ブリレイ「その血、魔力をドレインすることでその……」
魔剣士「ブレイダーの闇魔力のレベルを上げることが出来るとか、そういう話かオイ」
ブリレイ「えっ?ブ、ブレイダーさんが闇魔法の会得者だとご存じで?」
魔剣士「……知ってるさ。そいつから直接聞いたからな」
ブリレイ「ブレイダーさんが?」
ブレイダー「それを知って尚、僕に挑もうとするんだから大したものだなって思ったけどね」

偉そうな口ぶりで、フンと鼻息を荒くさせる。

魔剣士「それよりブリレイ、あんたまさか…バンシィの殺しを推奨したわけじゃねーだろうな……」
ブリレイ「そ、そんなことは!僕はあくまで仮理論として、ブレイダーさんが仰っていた"次の段階"に上がるとすれば、新たな魔力の強い血脈を手に入れれば可能性があると!」
魔剣士「ちっ…!あぁ…そういうことかよ……!」

恐らく、バンシィはブレイダーを討つことで全てが終わるものと行動を起こし、一方でブレイダーは敵となったバンシィを"強い魔力"として殺そうとした。
互いの利が合致した状況が今だということだ。

魔剣士(……この状況はどうするべきか。ブレイダーとの戦いを起こすことは意味がなくはないが、一旦退くべきなのか)

またチャンスを失うのか。そう思った時、ブレイダーはこちらへと近づいてきた。

ブレイダー「うーん、一旦は退こうと思ったけど、やっぱり面倒くさいんだよなぁ」
魔剣士「ん…」
ブレイダー「妹だからって手を抜いて遊んでた部分があるけど、後々になるのは嫌だし。やっぱり先に殺しときたいな」
魔剣士「何…!?」

―――否。
先に手を出そうとしたのは、ブレイダーであった。

ブレイダー「ねー、ブリレイさん。君の知り合いだっていうけど、殺しても問題ないかな?」

首を傾げ、ブリレイに質問を投げる。本人は少し困った様子で、魔剣士にコンタクトをうった。

ブリレイ(……魔剣士さん、貴方の実力では今の戦いをすることに問題はありますか)
魔剣士(俺はやれる。お前が言った通り、問題は王が逃げなければいいということだけだ)

一度納刀した剣を握り、"戦える"とアピールを行う。

ブリレイ「ふむ、それではブレイダーさん」
ブレイダー「何?」
ブリレイ「行動を起こしていただいたのに恐縮ですが、まだ急がないほうがいいかとも思います」

魔剣士(何ッ!?)

アピールを無視されたことに、魔剣士は驚く。彼の考えがあってこそだろうが、今討たない理由はないはずなのに。

ブレイダー「どうして?今、ここで二人を殺して魔力のドレインなんかできるんじゃないの?イメージ的には、吸収するってことだけはすぐ出来るよ?」
ブリレイ「それはそうなのですが、まだデメリットについての結論が出ていません。現在、どのような反応をするか不明なので…急がないほうがいいかと思います」
ブレイダー「そんなの、やってみたらいいだけじゃないの?」
ブリレイ「忘れてはいないでしょう。貴方も、簡易会得法にも全身を駆け巡る激痛があって命を落としかけていますよね。それを繰り返した時、二度目はないかもしれません」
ブレイダー「うーん…」
ブリレイ「魔法学の中でも闇魔法は未知数ですので、今はまだ抑えてください。時期が来た時に、またお話ししますから」
ブレイダー「……まだ死にたくないし、君がそういうなら受け入れるしかないかな」

"はぁ"とため息をついて、ブレイダーは地下室の出口へと向かった。

魔剣士「ど、どこ行くんだテメェ!」
ブレイダー「……ん?僕はそろそろクロイツ騎士団の象徴としてトップに立たないといけないからね。君も出席するんでしょ?」
魔剣士「そういや…そうだったな……」
ブレイダー「僕は先に行ってるよ。バイバーイ」

何とも切り替えの早い、ハッキリしている男だ。出口から階段を上って消えて行くブレイダーを見て、魔剣士はまた戦えなかったことに苛立ちを覚えたが、何故かブレイダーはひょっこりと扉からまた姿を現した。

ブレイダー「あー…、そうだブリレイ。ちょっと言いたいことがあったの忘れてたよ」
ブリレイ「如何なさいました?」
ブレイダー「凄くの気のせいだと思うんだけど、ちょーっとさ、もしかしたらなんだけど……」
ブリレイ「はい」
ブレイダー「あのさー……」

この次、ブレイダーが発した言葉は魔剣士にとって"有利"のつくものとなる。
また、それに対するブリレイの応答は、セージが残したメッセージと繋がる"最高"にして"最低"の情報になるのだった。

ブレイダー「僕さぁ、ちょっと前に"闇魔力"を感知した気がするんだよね。僕以外に、術者って…いないんだよね……?」
ブリレイ「は、はい……?」
魔剣士(…ッ!)
バンシィ(あっ……)

多分、あの時の。宿でバンシィに放った強い魔力を感知されたと気付く。

ブリレイ「や、闇魔力の感知というのは……、有り得ないとは思いますが…。現時点において、象徴たるブレイダーさんの他には……」
ブレイダー「そうだよね。おっかしぃなぁ、僕の感覚に凄く似てて、気のせいでもないと思うんだけど…………」
ブリレイ「いつお気づきになられたのですか?」
ブレイダー「ちょっと前だよ。昨日くらいの話で……、妙に強い闇の魔力を感じたんだ」
ブリレイ「……いえ、気のせいではないでしょうか。僕は感じませんでしたが…」
ブレイダー「気のせいなわけないと思うって言ってるでしょ…。でも、君がそういうなら…うーん……」

―――その言葉を聞き逃さなかった。

魔剣士(――…ッ!?)

―――確かに言った。

魔剣士(僕は…、感じません……でした……?)

何気ない一言。しかし、強い疑いを持っていたからこそ、セージの手紙を受け取っていたからこそ、それに気付くことが出来た。

魔剣士(……待て、待て!つーことは、セージの言いたかったことって…)

見えてきた真実。セージが「気付けなかった」ことの意味。

魔剣士(ブリレイが……)

闇魔術師であることだったのかもしれない――…!

魔剣士(だ、だけど待て!…闇魔法?そんな素振りは無いし、感覚すらも掴めなかった。ただの言葉のアヤかもしれないのは…、だが、まだ分からないキーワードが……!)

残るキーワードは"瞳"ということ。
"あの男"の意味はブリレイ、"気付けなかった"ことは闇魔法の会得者であることとしたら。残るキーワード"瞳"の意味は。

魔剣士(……そういやオッサンも何か言ってたな。確か、ブリレイのような男を派遣するものかと疑っていたはず…、それが幻惑魔法でかけられていたらとか…疑って……)

―――"グン!"とそれは来た。
ブリレイ自身で自然たる動作で気付かなかったことだろうが、彼が"ある行動"をとっていたことを思い出す。

魔剣士(―――ッ!)

あの時、目の前で起きた、ウェイトレスを救った際に起きた"幻惑"の秘術。
だが、今なら。同じ闇魔法の術者で、イメージによる操作が可能だとしたら。
……そうだとしたら!

魔剣士(まさ…か………)

彼が今まで見せた動作の中に、"眼鏡"を外すという何てことない行為があった。

魔剣士(瞳って……)

―――彼の瞳。
ブリレイの瞳である。

魔剣士(瞳に闇魔法!?だとしたら、幻惑魔法をイメージでかけられる意味も分かる!いや、多分…そうじゃないのか……!?)

幻惑が視界にも及ぶ魔法だというのなら、瞳術のような、眼球から発せられる闇魔法があるのではないかと、魔剣士はついに真意に迫った。

………


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――同時刻、氷山帝国。
集中治療室で7時間にも及ぶ回復蘇生術を受けたセージは、予想以上の回復を見せていた。
それは著しい技術の発展がある氷山帝国であったこととか、背景としては様々なものがあったが、運よくセージは片目を義眼としただけで命に別状はなかった。

セージ「……ブリッツ」
ブリッツ「は、はいっ!」

セージは、治療院、入院棟の特等室にて微かな声で、側近たるブリッツの名を呼んだ。

ブリッツ「お気づきになられましたか、セージ様ッ!!」
セージ「……片目が見えないわ。視界がおかしいみたい」
ブリッツ「うっ…!そ、それは…、その……」

言葉に詰まる。

セージ「……冗談よ。何が起こったのかくらい、分かってるから」

動じることなく、セージは自身の義眼に指で触れて、ガラス玉となった瞳を撫でた。

ブリッツ「セージ様、それで……」
セージ「うん?」
ブリッツ「あの時、セージ様が残した言葉。それはしっかりと、魔剣士様ご一行に向けて魔梟を飛翔させました。今頃は、既に情報が届いているものと思われます」
セージ「……そう。ありがとう、ブリッツ」
ブリッツ「いえ、とんでもないです。し、しかし……」
セージ「どうしたの?」
ブリッツ「あの、恥ずかしいお話しになるのですが……。実はあの時の断片的な言葉で、全てを察することが出来ませんでした」
セージ「つまり…?」
ブリッツ「断片的に頂いたお言葉をそのまま添付したため、魔剣士様ご一行には詳細が伝わっていない…、理解をして頂けない可能性が…ありまして……」
セージ「あぁ、そういうことね……」

セージは"ふふっ"と笑いながら「大丈夫よ」と呟いた。

ブリッツ「そ、そうでしょうか……」
セージ「…当たり前じゃない。きっと大丈夫。それに気づかないほど、猛竜騎士はもちろん、魔剣士クンも、伊達に経験を積んでいないんだから。……それとごめんなさい、また少しだけ休むわね。すぐに現場に復帰するから、ちょっとだけ…休ませてね……」
ブリッツ「あ、いえ!自分はこれで失礼します!」

目を閉じたセージに、ブリッツは慌てて部屋をあとにする。
そして、セージは一人、伝えきれなかった真実をそっと思い浮かべながら、きっと彼らなら大丈夫と、小さく呟いた。

セージ(……どうやって入手したのかは定かじゃないけど、彼の瞳に宿る魔法こそ闇魔法に違いない。私はすっかり術に嵌ってた……。そうじゃなかったら、私が彼をセントラルへ送り出すなんて有り得なかった。一体、ブリレイの目的は……)

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