上 下
23 / 62

23:弟の報告

しおりを挟む

 兄さんの報告を聞いた後、今度は僕が調査したことを報告した。まぁ、兄さんの話のように刺激的なものはないが。

「まずヘレナ嬢。ここは伯爵共々問題ない」

ティナとヘレナ嬢は割と懇意にしていたようだし、スヴェント伯爵も娘のことはノータッチだ。特に娘を婚約者に推すという行動も今までなかったからここはこれ以上調べなくても大丈夫だろう。領地の管理に関してもやり手ではあるがあくどいことは一切していないようだ。

「ソフィア嬢はね…ソフィア嬢に限っては白だけど…ランタラ侯爵がティナとは関係ないところでグレーかな」

ソフィア嬢は王太子妃になることを決定事項のように押し付けられ育ってきたためそれを信じ貫いているようだ、が。正義感が甚だ強く誰かを痛めつけたりはできない性格だ。ティナのことも何だかんだ気にかけていたようだし彼女自身は悪い人ではない。

ソフィア嬢が階段から落ちた時はティナを排除できるチャンスだと思ったのだろう、ランタラ侯爵はそれを利用しようと乗っただけだと思う。
ただし、ティナのこととは関係なく病院経営に関することで怪しい噂が出てきた。この辺りは陛下に指示を仰いだ方が良さそうだ。

「エルヴィ嬢はダメ。あれはダメ。レフトラ伯爵もダメ。真っ黒」
「海での件はここか?」
「うん、間違いなく」

大人しそうな顔してとんでもなかった。一番最初にティナの命を奪おうとしたのはこの女だ。
どうして気がついたのかは知らないがそこにユーリアが近づき結託した。二年間の私文書偽造のやり取りに関してもエルヴィ嬢が関わっている。ティナを利用し、あわよくばソフィア嬢が命に関わる状態になっていたとしたら…有利なのは自分だと思ったのだろう。そう上手くはいかなかったが。

「ティナに手を出したレフトラ伯爵家の私兵を探してる」
「いけそうか?」
「絶対にぶち込んでやる」

そう冷たく言い放つと兄さんも頷いた。レフトラ伯爵に関しては国の政治に関わることだからこちらも陛下の耳に入れておくとする、と言ってももう気づいているだろうが。

「シルキア伯爵には会った?」
「いや、会ってないな」
「何か考えがあったんだと思うんだよねぇ…」

最愛の娘を一切信用せずに屋敷から放りだした。あの伯爵と夫人がそんなことするなんてとても考えられなかった。ティナを追放するというのはただのポーズだったのだろうけど…何も知らないティナ本人は相当傷ついていると思う。

そこでコンコン、と扉がノックされて兄さんの護衛であるトピアスが入ってきた。
…トピアス、本当に頑張ったな、と心の中で褒め称えた。僕だったら…うん、ショックでもうお婿にいけないかも。

「殿下、シルキア伯爵の執事が先ほど来られ手紙を渡して帰られました」
「手紙?」

兄さんは急いで封を開けて読むと僕にもそれを寄越した。手紙には一連の騒動に関する形式的な謝罪と屋敷の近況が淡々と述べられているだけだ。

「…メイドを全員クビにした?温厚な伯爵にしてはずいぶん思い切ったね」
「害虫が入り込んだか、害虫になったかだな」
「ふーん…となるとティナの命が危険にさらされるのを危惧してたってことだね」

一丸となってカルミ子爵の命を奪ったような連中だ。何を仕掛けてくるかわからなかったのだろう。シルキア伯爵の妻であるメリヤ夫人はカルミ子爵の妻、ミンナ夫人の姉であるしユーリアを養子に迎えた時から何かわかっていたのかもしれない。もしもの時のためにティナを逃がす準備をしていたのだろう。
イヴァロンという管理がまだ行き届いていない田舎に行かせたことでティナは問題点を目の当たりにし改善しようと動いている。ユーリアの件が片付けば退学、追放という汚名を返上できるし、イヴァロンが変わっていけば領地管理ができる才能がある令嬢だと評価がプラスに傾く。シルキア伯爵がそこまで見込んでいたかどうかはわからないが…。

「まぁ問題は…ティナがユーリアのことをすっかり忘れてるってことだよね」
「今やあの女のことは何っにも考えてないな。ティナは今、アレクシや村のことで頭がいっぱいだ」

いつも本ばかり読んで退屈そうにしていた彼女は今、人が変わったように生き生きとしている。何というか…本来のティナ自身を見ているようで僕は前よりもっと惹き付けられている。

「蒸し返す意味あんのかなとも思う。ティナも楽しそうだし僕らも会いに行きやすいしもう止めとく?」
「うーん……いやいや、待て待て!」
「うん?」

大事なことに気がついたのか兄さんが慌てだした。うーん、残念。

「このままいったら俺ヘレナ嬢かソフィア嬢と婚約になるだろうが!」
「チッ 気づいたか」

僕が子供の頃からティナに惹かれていたことは兄さんも気づいてたはずだ。だからといって僕のために婚約者候補から外すというようなことはしなかったが、兄さんがティナにも僕にも抜け道を作ってくれていたことは確かだ。その証拠に僕がティナに近づいても甘えても嫌な顔ひとつ見せなかった。…兄さんが本当のところどう思っているかはわからないが。
 
「僕は遠慮しないよ?」
「む」
「これからは全力でいくから」
「…わかってる」

兄さんは僕と違って優しい…優しすぎる。だからこそ厄介だと、僕は思う。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら推しに捨てられる婚約者でした、それでも推しの幸せを祈ります

みゅー
恋愛
 私このシーンや会話の内容を知っている。でも何故? と、思い出そうとするが目眩がし気分が悪くなってしまった、そして前世で読んだ小説の世界に転生したと気づく主人公のサファイア。ところが最推しの公爵令息には最愛の女性がいて、自分とは結ばれないと知り……  それでも主人公は健気には推しの幸せを願う。そんな切ない話を書きたくて書きました。 ハッピーエンドです。

モブに転生したので前世の好みで選んだモブに求婚しても良いよね?

狗沙萌稚
恋愛
乙女ゲーム大好き!漫画大好き!な普通の平凡の女子大生、水野幸子はなんと大好きだった乙女ゲームの世界に転生?! 悪役令嬢だったらどうしよう〜!! ……あっ、ただのモブですか。 いや、良いんですけどね…婚約破棄とか断罪されたりとか嫌だから……。 じゃあヒロインでも悪役令嬢でもないなら 乙女ゲームのキャラとは関係無いモブ君にアタックしても良いですよね?

幽霊じゃありません!足だってありますから‼

かな
恋愛
私はトバルズ国の公爵令嬢アーリス・イソラ。8歳の時に木の根に引っかかって頭をぶつけたことにより、前世に流行った乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまったことに気づいた。だが、婚約破棄しても国外追放か修道院行きという緩い断罪だった為、自立する為のスキルを学びつつ、国外追放後のスローライフを夢見ていた。 断罪イベントを終えた数日後、目覚めたら幽霊と騒がれてしまい困惑することに…。えっ?私、生きてますけど ※ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください(*・ω・)*_ _)ペコリ ※遅筆なので、ゆっくり更新になるかもしれません。

どうやら私(オタク)は乙女ゲームの主人公の親友令嬢に転生したらしい

海亜
恋愛
大交通事故が起きその犠牲者の1人となった私(オタク)。 その後、私は赤ちゃんー璃杏ーに転生する。 赤ちゃんライフを満喫する私だが生まれた場所は公爵家。 だから、礼儀作法・音楽レッスン・ダンスレッスン・勉強・魔法講座!?と様々な習い事がもっさりある。 私のHPは限界です!! なのになのに!!5歳の誕生日パーティの日あることがきっかけで、大人気乙女ゲーム『恋は泡のように』通称『恋泡』の主人公の親友令嬢に転生したことが判明する。 しかも、親友令嬢には小さい頃からいろんな悲劇にあっているなんとも言えないキャラなのだ! でも、そんな未来私(オタクでかなりの人見知りと口下手)が変えてみせる!! そして、あわよくば最後までできなかった乙女ゲームを鑑賞したい!!・・・・うへへ だけど・・・・・・主人公・悪役令嬢・攻略対象の性格が少し違うような? ♔♕♖♗♘♙♚♛♜♝♞♟ 皆さんに楽しんでいただけるように頑張りたいと思います! この作品をよろしくお願いします!m(_ _)m

転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています

平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。 生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。 絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。 しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?

【完結】スクールカースト最下位の嫌われ令嬢に転生したけど、家族に溺愛されてます。

永倉伊織
恋愛
エリカ・ウルツァイトハート男爵令嬢は、学園のトイレでクラスメイトから水をぶっかけられた事で前世の記憶を思い出す。 前世で日本人の春山絵里香だった頃の記憶を持ってしても、スクールカースト最下位からの脱出は困難と判断したエリカは 自分の価値を高めて苛めるより仲良くした方が得だと周囲に分かって貰う為に、日本人の頃の記憶を頼りにお菓子作りを始める。 そして、エリカのお菓子作りがエリカを溺愛する家族と、王子達を巻き込んで騒動を起こす?! 嫌われ令嬢エリカのサクセスお菓子物語、ここに開幕!

悪役令嬢に転生したら溺愛された。(なぜだろうか)

どくりんご
恋愛
 公爵令嬢ソフィア・スイートには前世の記憶がある。  ある日この世界が乙女ゲームの世界ということに気づく。しかも自分が悪役令嬢!?  悪役令嬢みたいな結末は嫌だ……って、え!?  王子様は何故か溺愛!?なんかのバグ!?恥ずかしい台詞をペラペラと言うのはやめてください!推しにそんなことを言われると照れちゃいます!  でも、シナリオは変えられるみたいだから王子様と幸せになります!  強い悪役令嬢がさらに強い王子様や家族に溺愛されるお話。 HOT1/10 1位ありがとうございます!(*´∇`*) 恋愛24h1/10 4位ありがとうございます!(*´∇`*)

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

処理中です...