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終:婚約者候補
しおりを挟むはーやれやれ、終わった終わったみたいなノリでそのままお茶に誘われた。応接室にはめちゃくちゃリラックスしたロイヴァス一家が寛いでいる。…いや、何か私ここに居て良いんだろうか。
(早くアレクシの所に戻りたい…)
何かもうそんな姿見せて良いんですか?と聞きたくなるほど普通の家族だ。私の頭の中にはこたつに入ってテレビを見ているロイヴァス一家が浮かんでいる。…まぁ考えてみれば私も本当は雲の上の存在である王子様二人に随分な態度で接しているのだが。
「それでリクハルド。どうするのだ?」
「何が?」
「来年はお前も二十才になる。王立学校の卒業パーティーまでにはさすがに婚約者を決めねばなるまい」
そうだ。王子様の慣例としては卒業パーティーで婚約者のお披露目というのがある。正式な婚姻はまだ先だとしてもそろそろきちんと決めなければならないだろう。
「あら、クリスティナさんがお嫁に来てくれるのよね?想い合ってるんでしょう?」
「え、ええ!?」
「ちょっと待ってよ。ティナと兄さんとの婚約は白紙でしょ。僕だってティナが良いんだけど」
「あら、スレヴィもクリスティナさんが好きなのね」
勝手に人の気持ちを決めないでほしい!しかも人の結婚がかかってるというのになんつー軽々しい会話だよ。こうして見るとスレヴィ様は王妃様に似たんだな、性格も。
「でもティナは、王太子妃なんか退屈だろう…」
「ティナの気持ちじゃなくて兄さんの気持ちはどうなの?」
そう問われリクハルド様が言い淀んだ。優しい人だから自分の気持ちか私の気持ちか選べないのだろう。リクハルド様らしいが。
「ちょっと待ちなさい」
そこで王妃様の凛とした声が響いた。皆して王妃様に目を向けると先ほどまでと打って変わって厳しい顔をしている。何事かと息を飲んだ。
「リクハルド、あなたはずっとクリスティナさんを婚約者にしたいと言っていたから私はてっきり二人は想い合ってるものだと思ってたのよ」
「え、いや、それは…」
「クリスティナさんを見ていると全然そんな感じじゃないじゃない。スレヴィもよ。あなたたち二人とも揃いも揃ってまだクリスティナさんを落とせてないの?」
「……」
「子供の頃からの友人だというのに好いた女性一人振り向かせられないとはなんて情けない息子たちなの!?」
あ、何かややこしい感じになってきた。これどうにかしてほしい!と国王様を見るが目を逸らされた。ここに国王様と王妃様の力関係がはっきりした。
「あー…なら僕たち二人がティナの婚約者候補ってのはどう?」
「は?スレヴィ様、何を」
スレヴィ様の変な提案になぜか王妃様が感心して頷いている。いや、一般人なのに王子様二人が婚約者候補とかおかしいから。そんなの誰も納得しないだろ。
「そうね…それか二人で愛でちゃうって方法もあるわよ。法律変えちゃう?」
「王妃様まで何めちゃくちゃ言ってるんですか!?」
思わず王妃様に突っ込みを入れてしまったじゃないか!リクハルド様何とかしろ!と視線を向けるが二人でか…とかぶつぶつ呟いている。そんな非常識な話を真に受けないで助けろ!そう思っていると国王様がパンパン、と手を叩いた。
「うむ、ではスレヴィの言う通り当面リクハルドとスレヴィをクリスティナ嬢の婚約者候補とすることでいいな」
「え、ちょっそんな簡単に、」
「そうね、先にクリスティナさんを落とした方が勝ちね」
落ちなかったらどうするんですか?などと聞くことはできなかった。国王様と王妃様はこれで一件落着とでもいうようにイチャイチャしながら応接室を出ていった。
「ちょっと!どうするんですか、これ!」
「うん?陛下の言う通り僕たちがティナの婚約者候補で決まりだよ。ティナはどっちかのお嫁さんだね」
「リクハルド様!」
何にも言ってくれなかったリクハルド様をキッと睨むとたじろいだ。何今この状況でクッキーに手を伸ばそうとしてるんだ!
「いや、なんかすまん…」
「結局将来王族!いやぁー!!」
「大丈夫だよ。堅苦しいのはどんどん変えていこうと思ってるし」
そんなの何の慰めにもならない!今回イヴァロンに行ったことで私にはこのきらびやかな世界が本当に肌に合っていないということがわかったのに!
「まぁもう陛下が決定してしまったしな。別にティナは今まで通り普通に過ごしてていいぞ?すぐにどうのこうのという事もないし」
「そうそう。あ、でも体の相性ってのは大事だし何なら今から順番に試しとく?」
「その発言盛大なセクハラですからね!?」
兄は行動で、弟は言葉でセクハラしてくるなんてなんちゅう兄弟じゃ!
「もう知らん!イヴァロンに帰ります!」
「あ、俺も行く」
「はぁ?それなら僕も」
「付いてくんなーっ!!」
私の叫び声が王城に虚しくこだまする。
伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!
なのに、なのに!…結局お嬢様から逃れられない運命みたいです ―――
【end】
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