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後日談
ハルム王子の恋騒動④
しおりを挟む結局お茶会ではあの後、レナーテ王女とメリッサがハルム王子に関する昔話で盛り上がりミルシェ王女の話を十分に聞くことはできなかった。
しばらくはギマールにいるからいつでも遊びに来て、とは告げたもののミルシェの性格からすると遠慮して来ることはなさそうだ。
(一度きちんと招待するのがいいかな…)
そんなことを考えながらキッチンで子供たちのミルクの準備をして部屋に戻る。
「イサーク、エミリア。今日も笑顔で良い子だね」
「あう~あ~♪」
「あ~ぅ♪」
「あら、レネ来てたのね」
「姉さん」
扉を開けるとふかふかのマットの上で双子をあやしているレネの姿が見えた。子供たちはレネに必死に語りかけているようでとても微笑ましい。
「今日は部活動もないし課題も少なかったから二人に会いに来たんだ。あ、もちろん門限までには戻るよ」
「そう。お兄ちゃんが来てくれて二人とも嬉しいわね」
そう話しかけるとまるでそうだと言うように手足をバタバタ動かし二人ともご機嫌だ。
エミリアを抱き上げレネに託し、アンジェルはイサークを抱き二人してソファに腰かけミルクを与える。
「ミルクだよ。嬉しいね~」
「あぃ」
無条件で可愛がってくれるレネに子供たちも嬉しそうだ。
ギマールにいるうちはこうして何度も会えるがジラルディエールに戻ったりペルランに行くとなるとまたしばらく会えないのだ。会えるうちにたくさん会っておこうとレネもルシアナも頻繁に訪ねて来てくれる。
子供たちも人見知りせずに色々な人に興味を持っているし、この辺りの性格はティトに似ているのかな…と嬉しく思う。
(あ、そういえば…)
楽しそうにミルクをあげているレネを見ているとあることに気がついた。
「ねぇ、モルスクのミルシェ王女と面識はある?」
「ミルシェ王女?いや、クラスも違うし話したことはないよ。図書館でたまに見かけるけど」
レネとミルシェ王女やメリッサは同級生だ。学校内での様子がわかるかもしれないと思い至る。
「そう。だったらメリッサ嬢はどう?」
「メリッサ?メリッサ・ハルトマン侯爵令嬢のこと?」
「ええ」
その名前を聞くとレネはうーん、と少し嫌そうに顔を顰めた。あまり良い反応ではない。
「まぁとにかく存在が派手だよね。彼女ハルム様とも仲が良いんでしょ?」
「有名なの?」
「うん、よく聞くよ。あ、でも別に本人が言ってるわけではなさそうだけど」
彼女自身が言いふらしているわけではなくて周りの取り巻きがいつも騒いでいる印象なのだとか。
「その二人がどうかしたの?」
「ミルシェ王女とメリッサ嬢は仲が良いのかと思って」
「ええ?うーん…ないと思うよ。一緒にいるの見たことないし」
「……そう」
とするとやはり、ミルシェ王女のこの間の反応は「メリッサと親しくはない」という気持ちの表れだったのだろう。
「レネにお願いがあるんだけど」
「うん、何?」
「学校内でミルシェ王女のことそれとなく見ておいてほしいの」
「…わかった。任せて」
何か意図があると気がついたのだろう、レネが神妙な顔でうなずく。
するとミルクを飲み終え満足したエミリアが手を伸ばしレネの頭をポンポンと撫でた。
「あ~♪」
「あれ。褒めてくれてるの?」
「あぃ」
「ふふ…」
真面目な顔をしていたレネの顔が一気に緩む。イサークもレネによじ登ろうとしているし喜びが充満しているような温かい空間だ。
(ミルシェ王女もこうして遊びに来てくれると良いのだけど)
つかの間でもここに来ることで笑顔になれたら良い、そう思う。
「エミリア様!イサーク様!遊びにきたよ!」
「あ、ルーシーも来たよ!よかったね」
レネやルシアナだけでなく何だかんだとハルムやファースも双子たちに会いに度々やってくる。それはやはり二人が幸せな気持ちにしてくれるからだろう。
「イサーク、エミリア。あなたたちはすごいわね」
そう声をかけるとわかってるのかわかってないのか二人ともニコッと笑う。小さいながらも人の心を癒してくれる二人がとても頼もしい存在に思えた。
***
その夜居間ではティトとアンジェルが久しぶりに二人きりの晩酌を楽しんでいた。
レネとルシアナが日中ずっと相手をしてくれていたおかげか子供たちは遊び疲れてぐっすり眠っている。この様子なら今日は夜泣きもなさそうだ。
「あ、そういやこの間の茶会はどうだったんだ?」
「そうですね…少し気になることがありました」
「気になること?」
アンジェルはあの日あったこととレネに聞いたことを併せてすべてティトに伝えた。こういったことで隠し事はしない、それが二人のルールだ。
「ふーん…ハルトマン侯爵家の令嬢か」
「ミルシェ王女を任せていると言っていましたが事実あれは嫌がらせに近いと思います。レナーテ王女は何も知らない感じでしたが…」
周りの令嬢が勝手にやっているのかメリッサが指示しているのかそこまではわからないが、意図的にミルシェを孤立させようとしている感じだ。
レネに聞いた限りでは仲が良いという事実もないし、学内でも同じようなことをしている可能性は高い。
アンジェルもクレール王太子の婚約者だった頃は何度となく経験してきたことだし、ジラルディエールでも同じようなことをブランカにされた。
アンジェルにしてみればティトを愛していたから乗り越えられたが、ミルシェはどちらかというとハルムに良い印象さえない。今は辛い思いしか抱いてないだろう。
「一回探りいれてみるわ」
「はい。学校でのことはレネにもお願いしたので酷いことにはならないとは思うのですが」
ワインを飲みながらポリポリとナッツをかじるティトはうーん、と唸る。
「しかしハルムが会わないことにはどうにもならないんだよなぁ。アイツは何をもじもじしてんだか」
「最初に泣かせてしまったことを気に病んでいるのかもしれませんね」
最悪の第一印象を与えてしまっただけにハルムもどうアクションを起こせばいいのか悩んでいるのかもしれない。何かきっかけになるようなことがあれば良いのだが。
「ハルム王子がどんなに素晴らしい方かしっかり売り込んできたので少しでも印象が変われば良いんですけど」
「アイツはもうアンジェルに頭が上がらないな」
「もう、そんなことありませんよ。セルトン領ではどれだけお世話になったことか…」
思ったことをすぐ口にしてしまう辛辣な人ではあるが正義感や使命感が強く、いい加減な事はしない。味方になればこれ程頼もしい人はいないと思う。
「ふーん、やけに褒めるな」
「ええ?」
「めっちゃ妬ける」
むすっとしたティトがアンジェルの腰をグッと引き寄せ一気に距離が縮まる。至近距離でじーっと見つめられるとトクンと胸が鳴った。
「慰めて」
「…もう」
自分から目を閉じたティトにクスリと笑うとアンジェルはその唇に軽く口づける。
それでは足りなかったのか今度はティトの方から口づけられ、歯止めが聞かなくなったのか徐々に深い絡みになっていく。
「ん…ふ、ティト様、」
子供たちが気になってチラリと扉の方に目を向けると見なくて良いとでも言うようにティトの方を向かされる。
「子供たちも親が仲良くしてる方が嬉しいだろ」
「でも…」
「危なくなったら魔力使うしこっち集中して」
「ぁ…」
床の上に優しく押し倒され甘く見つめられるともうティトのことしか考えられなくなってくる。
ティトの唇と手の平に翻弄されだんだんと熱くなる身体に声を出さないようにと口を手で塞いだと同時ピタ、とティトの動きが止まった。
「……?」
「……はぁ。察知能力が高すぎるわ…」
「っ!?」
そのひと言に子供たちが眠る部屋の方にバッと視線を送る。
「い、いつの間に…」
さっきまでは確かに眠っていたのに少し開いた扉の向こうからジーッとこちらを見つめている二人にティトがガクッと崩れ落ちた。
「くっそ…久しぶりのイチャイチャムードが…」
「えーっと…寝かしつけてきますね」
項垂れて泣きそうになっているティトを見ると少し可哀想な気持ちになるが、気まずさを隠すようにアンジェルは立ち上がり二人の元に向かう。
今度ファースに一晩子守り頼むか…と呟いたティトに「はい」とも「いいえ」とも言えずアンジェルは苦笑したのだった。
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