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もふもふブランチ
しおりを挟むテレシア王女の生誕パーティーの翌日、カナリー宮の一室には異様な光景が広がっていた。それもそのはず、もふもふ(3)+人間(3)が一堂に会し遅めの朝食をとっているのだ。
昨夜アドルフィトが偵察から戻ってきた時アンジェルはすでに奥の寝室に連れ込まれていた。今朝顔を合わせた時、人に偵察に行かせておいて自分はいちゃいちゃとは何事か、とティトは散々文句を言われていたが本人はどこ吹く風。アンジェルが謝るとあなたのせいじゃない、と言われるのもお約束になってしまった。
そして今日から新月期間に入り鳥獣に変身したティトたちをハルムとファースが訪ねて来て今に至る。
『で、昨日のヴィオレットに関する報告は』
『追ったところ、この近くにある高級宿に宿泊していました。護衛や使用人の数からしてもしばらくギマールに滞在するのではないかと。両親が来ている様子はなかったですね』
グリズリー・ティトがフクロウ・アドルフィトに尋ねると追跡して見てきたことを報告した。昨夜は誰かが訪ねてきた様子もないし使用人に当たり散らした後ふて寝したらしい。そこまで監視するのか、と少しドキッとした。
「ということは近々この辺りで行われるパーティーに総当たりするつもりか」
『昨日のことで警戒しているだろうからどうするかはわからんな』
「…昨日ヴィオレットに何かしたのですか?」
昨日アンジェルはハルムと対峙した後ヴィオレットのことを詳しく聞かなかった。何となく聞くのが恐かったのもある。
『いや、調子に乗ってたから軽くやっつけただけだ。尻尾巻いて逃げてったけど』
「ヴィオレットが…」
パーティーでヴィオレットが逃げて帰るなんて初めてのことではないだろうか。周りにちやほやされてご満悦で帰ってくるのが常だったから少し驚いてしまう。本人もかなり屈辱だっただろう。
複雑な気持ちで膝の上に乗っているモルモット・ルシアナを撫でるとペロッと手を舐められた。向かいに座るファースがルシアナをガン見しているが本人は目も合わせようとしない。ファースは猫だけでなく可愛いものが好きらしい。
「こちらも何か手を打った方がよろしいですか?」
『いや、放っておいていい。別にヴィオレットがどうなろうが知ったこっちゃない』
『昨日は我々の視界に入ってうざかっただけですしね』
かつてヴィオレットがここまでぞんざいに扱われるのを見たことがなく少し戸惑っているとハルムに鼻で笑われた。
「フン、嬉しそうだな。復讐できて嬉し、んがっ!?」
『お前、もう黙っとけ。ややこしい』
ティトが手元にあったパンをハルムの口の中に投げ入れた。それを見たファースがため息を吐いて首を横に振る。主の言動に呆れているらしい。
「今まで自分を痛めつけてきた相手が痛い目を見る。胸がすくのは当たり前の感情であって悪い事でも恥ずかしい事でもありません」
『お前、人間性も部下に負けてるぞ』
「恐縮です」
悔しそうに涙目で口をもごもごさせてパンを咀嚼しているハルムに苦笑する。
『とりあえず私は今日も張り込みに行ってきます。誰と繋がってるのかわかるかもしれませんし』
『そうだな。任せた』
「気をつけてくださいね」
アドルフィトはフクロウに変身する新月期間中に偵察に出ることが多いのだという。今までそうだったのであればアンジェルが口を出すことではないがやはり心配になる。アドルフィトはふわっと飛んでアンジェルの側に着地するとその頭を手に擦りつけた。
「ふわぁ!かわっ…」
初めてアドルフィトから接触されて思わず感動したアンジェルはその頭を優しく撫でる。ふわふわの毛並みにうっとりしてしまう。またもやファースからの視線が痛い。
『こらーっ!お前たちアンジェルに群がるな!』
『たまには私も撫でられたいんです。ちょっとぐらい良いじゃないですか!』
『アンジェル、僕も僕も!』
『ダメだ!』
ひょいっと腰を持ち上げられティトに片腕で抱えられる。ティトのグリズリー期間、もはやここがアンジェルの定位置となってしまった。とにかく、とアンジェルを取り合い脱線しかけた話をティトが軌道修正する。
『新月の期間が終わったらすぐペルランに戻るわ』
「え、もう!?」
ということは三日後にはギマールを発つということだ。もっと長く滞在すると思っていたのだろう、ハルムががっかりしている。ギマールに来てからも移動が多かったので実際にティトとハルムが顔を合わせる時間はそんなになかった。
「こちらで何かお手伝いできることはありますか?」
ファースがそう尋ねるがティトは首を横に振った。
『元々レネに会いに来ただけだから。もしセルトン侯爵家がギマールの貴族と怪しい繋がりがあればその時はまた連絡する』
「わかった」
「今度こそ弟さんに会えると良いですね」
「ありがとうございます」
ファースの気遣いに礼を言うとアンジェルはそっと目を伏せた。
(レネ…いったいどこにいるの?)
会えなくとも元気でいてくれればそれでいい、そう思うが心のどこかで一抹の不安を感じる。
気がつけばあの生け贄の儀式から二ヶ月が過ぎようとしていた――
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