上 下
6 / 16

天の川に再会を願って

しおりを挟む
 今日は七夕。でもその1日も終わりを告げようとしている。就寝準備を済ませ、布団に寝転がる。くつろぎモード。隣の布団には睦月の恋人の如月。ふと、七夕がどんな物語か気になった。


 隣の布団で枕を抱きながらスマホをいじる如月に声をかける。


「ねぇ、七夕ってどんな物語?」
「そんなことも知らないんですかぁ……」如月はスマホから目を離し、睦月の方へ体を向け、話し始めた。


「夜空に煌めく美しい天の川。その川のほとりでは天の神の娘、織り姫が美しいはたを織っていましたぁ~~」ふむふむ。


「織り姫の織る布は5色に光輝き、季節が変われば彩りまで変わるほどそれはそれは美しいものでしたぁ」織り姫すごい!


「天の神はそんな娘が自慢で溺愛していましたが、織り姫ははたを織るのが好き過ぎて、自分の髪や服を気にかけません」ほぉ。


「そんな娘を持つ天の神は言いました。『織り姫もいい年頃だ。はた織ってばかりじゃ結婚できない!! 行き遅れる!! そうだ! 結婚させよう!! 織り姫に相応しい、イケメンを連れてこよう!!』と」如月は手を胸元に当て、感情を込めて話す。


「絶対違うでしょ……」アホらしくて目が濁る。


「天の神はあちこちを探しましたが、イケメンは見つかりません。それに織り姫はあの見た目。高望みしすぎです」ご苦労だな、天の神。


「天の神は天の川の岸辺を歩いていると、牛の世話をする若い男と出会いました」彦星だな!


「若者は彦星といい、牛に餌をやったり、畑を耕したり、休む間もなく仕事をし続ける、ブラック企業で働く社畜でした」おぃいいぃい!! 彦星!!


「『あーーもう、こいつで良くね? もう探すの無理なんですけど。毎日真面目に働いてるし、良いでしょ』天の神はイケメンを探すのに疲れ、織り姫の結婚相手に彦星を選びました」如月は顎に親指と人差し指を当て、顔を傾け話す。


「100%そんな選び方してないでしょ!!」如月の頭を職員室のスリッパで叩く。
「痛っ!!! 何するんですかぁ!!」如月は叩かれたところを押さえ、話を続ける。


「織り姫と彦星はお互い一目惚れし、なんだかんだ仲の良い夫婦になりましたが、お互いを溺愛し過ぎて、仕事を放棄し、ニートになりました」


「ニートですか……」
「ニートです。仕事してないんで」うーん。


「はた織り機には埃がかぶり、牛は餌がもらえずどんどん痩せました。まぁ、ある意味、彦星は社畜から解放された訳です」
「そうなのか……?」訝しげに如月を見る。


「『お前らそろそろ仕事をしろぉおぉおぉお!!!』天の神はキレました。2人は『自宅警備員なんで』と言うだけで、いちゃいちゃしてばかり。仕事をしません」如月は手のひらを上にあげ、やれやれと、頭を左右に振る。


「完全にニートじゃん」
「ニートなんですって」本当に合ってんの? これ。


「織り姫がはたを織らなくなってしまったので、空の神さまの服はもちろん、天の神の服もボロボロで汚れ、臭くなりました。彦星も仕事を辞めたので、畑の作物は枯れ、牛は病気になりました」あーー……。


「『服くさいとかマジで無理だから!! もうお前ら二度と会うな!! そして働き、服を作れ!! くさい!!』と天の神はキレました」
「どんだけくさいの天の神」


「天の神は織り姫を天の川の西へ、彦星を天の川の東へ無理やり引き離しました。こうして2人は天の川を挟み、姿を見ることも出来なくなってしまいました」如月はそっと手を伸ばし、睦月の頭を撫でた。


「それからというもの、彦星に依存していた織り姫はメンヘラ化し、泣き叫ぶ毎日。彦星は彦星で、ニートの良さを知ってしまい、引きこもりに」
「いやいやいや~~もう絶対違うもん」布団をぱんぱんと叩く。


「天の神は言いました。『お前らが以前みたいにちゃんと働くなら1年に1回会ってもいいよ』これは現状に疲れた天の神の妥協」
「違う違う違う!!! 絶対違う!!」如月の頬を引っ張る。
「いだだだだだ!! いだい゛!! 離して!!」如月の頬から手を離す。


「2人は心を入れ替え、社畜のように働きました。そう、一年に一度、7月7日に会える日を楽しみにしてーー」如月は睦月の目を見つめる。しばらく見つめ合い、如月は話を続けた。


「やがて待ちに待った7月7日。夜になると織り姫と彦星は天の川を渡り、一年に一度の再会を果たすのでした。めでたしめでたし」


「……ん」如月は睦月の頬に手を触れ、顔を近づけた。そして優しく唇を重ねる。再会を果たした、織り姫と彦星のような、甘いキス。


「これ、話合ってるの?」
「流れは合ってると思うけど?」見つめ合い、お互い、笑みを溢す。




 ーー短冊に願いを。



 この想い、届きますように。







 あとがき。
 人物構成は自身の小説『如月さん、拾いましたっ!』メインキャラ抜粋。お笑いファイト用執筆。

 企画用は文字制限があり、削らざるを得ない部分があったため本編に掲載したものは加筆と編集を加えたものだ。(おまけとして掲載)

 如月のスマホをいじる姿は本編では見られない、短編企画ならではの姿となった。(本編では如月の性格に合わせたものに編集)


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

空を切り取った物語

本棚に住む猫(アメジストの猫又)
ライト文芸
──────── その空模様は、知られていて知られていない。誰も知らないかつての木とは違っていて、そうである。 その切り取った短い出来事には、伝えきれないモノ。拾いきれないのにも関わらず、一時(ひととき)のモノになるそれは、空のように変化するのだろう。 ──────── こちらは、言わば別作の《想いの樹木(Leaf Memories 〜想いの樹木〜)》の原材のようなものです。 別のアプリで、台本として活躍している物語をここでも輝かせたいという、自分の子供のような存在の作品達を投稿するものです。 何故、この短い台本達を〖空〗と名付けたかというのは、この短い物語たちはすぐに変わってしまう空のように、「一時の物」という読み手の中ではその物語はすぐに消えてしまう様な存在です。 ですが、空というものは忘れられる存在なのにも関わらず、忘れられない存在にもなり得ます。 また、写真のようにその空を切り取るということも出来ます。 難しく書きましたが、簡単に言うと《同じ空はこれからも無い。人の気持ちや想いのように、出来事が生まれて消えて忘れてしまう。 そんな出来事をカメラのように切り取ったモノがこの台本。》 全然難しいままですみません! でも、私の作る台本は「忘れられる」「忘れられない」「日常的にそこにある」そんな作品です。 誰かの心に生きる。写真のように切り取られたそんな物語を作っていければと、思っています。 注意事項 台本なので、どこかで借りて発信したいという時は、コメントで教えてください。 台本は、男女兼用ですので一人称や二人称、語尾、多少のアレンジや言い換え等々…変更可能なので、自分が言いやすいように感じたままで演じてもらえればと思います! 演じていただく事について、《蛇足》と《作者の独り言》と最初の「─」の間にある言葉は読まないでくださいね 「─」の間のは見出しのような、タイトルのようなものなので、気にしないでください 1番禁じているのは、自分が作ったのだと偽る事です。 皆さんがそんな事をしないと私は信じておりますが、こういったものは言っておかないと、注意喚起や何か起こった時、そして皆さんを守る事も考えて言っております。 更新日は、1ヶ月の中で第一・第三・第五の水曜日と金曜日に投稿いたします。 時間は17時に投稿いたしますので、よろしくお願いいたします。

僕の目の前の魔法少女がつかまえられません!

兵藤晴佳
ライト文芸
「ああ、君、魔法使いだったんだっけ?」というのが結構当たり前になっている日本で、その割合が他所より多い所に引っ越してきた佐々四十三(さっさ しとみ)17歳。  ところ変われば品も水も変わるもので、魔法使いたちとの付き合い方もちょっと違う。  不思議な力を持っているけど、デリケートにできていて、しかも妙にプライドが高い人々は、独自の文化と学校生活を持っていた。  魔法高校と普通高校の間には、見えない溝がある。それを埋めようと努力する人々もいるというのに、表に出てこない人々の心ない行動は、危機のレベルをどんどん上げていく……。 (『小説家になろう』様『魔法少女が学園探偵の相棒になります!』、『カクヨム』様の同名小説との重複掲載です)

鬼と柊

はるた
ライト文芸
逢魔が時に人間と鬼の世界が繋がることがあるらしい。

バレー部入部物語〜それぞれの断髪

S.H.L
青春
バレーボール強豪校に入学した女の子たちの断髪物語

希望が丘駅前商店街~黒猫のスキャット~

白い黒猫
ライト文芸
ここは東京郊外松平市にある希望が丘駅前商店街、通称【ゆうYOU ミラーじゅ希望ヶ丘】。 国会議員の重光幸太郎先生の膝元であるこの土地にある商店街はパワフルで個性的な人が多く明るく元気な街。 その商店街にあるJazzBar『黒猫』にバイトすることになった小野大輔。優しいマスターとママ、シッカリしたマネージャーのいる職場は楽しく快適。しかし……何か色々不思議な場所だった。~透明人間の憂鬱~と同じ店が舞台のお話です。 ※ 鏡野ゆうさんの『政治家の嫁は秘書様』に出てくる商店街が物語を飛び出し、仲良し作家さんの活動スポットとなってしまいました。その為に商店街には他の作家さんが書かれたキャラクターが生活しており、この物語においても様々な形で登場しています。鏡野ゆうさん及び、登場する作家さんの許可を得て創作させて頂いております。 コラボ作品はコチラとなっております。 【政治家の嫁は秘書様】  https://www.alphapolis.co.jp/novel/210140744/354151981 【希望が丘駅前商店街 in 『居酒屋とうてつ』とその周辺の人々 】  https://www.alphapolis.co.jp/novel/274274583/188152339 【日々是好日、希望が丘駅前商店街-神神飯店エソ、オソオセヨ(にいらっしゃいませ)】  https://www.alphapolis.co.jp/novel/177101198/505152232 【希望が丘駅前商店街~看板娘は招き猫?喫茶トムトム元気に開店中~】  https://ncode.syosetu.com/n7423cb/ 【希望が丘駅前商店街 ―姉さん。篠宮酒店は、今日も平常運転です。―】  https://www.alphapolis.co.jp/novel/172101828/491152376  【Blue Mallowへようこそ~希望が丘駅前商店街】  https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/427152271 【希望が丘駅前商店街~透明人間の憂鬱~】  https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/427152271 【希望が丘駅前商店街~黒猫のスキャット~】  https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/813152283

氷の貴婦人

恋愛
ソフィは幸せな結婚を目の前に控えていた。弾んでいた心を打ち砕かれたのは、結婚相手のアトレーと姉がベッドに居る姿を見た時だった。 呆然としたまま結婚式の日を迎え、その日から彼女の心は壊れていく。 感情が麻痺してしまい、すべてがかすみ越しの出来事に思える。そして、あんなに好きだったアトレーを見ると吐き気をもよおすようになった。 毒の強めなお話で、大人向けテイストです。

田沼 茅冴(たぬま ちさ)が描く実質的最大幸福社会

AT限定
ライト文芸
「この世は『なんちゃって実力主義社会』だ」と、半ば人生を諦めている大学2年生・荻原 訓(おぎわら さとる)。 金と時間に追われ、睡眠もままらない日々を過ごす中、同じ語学クラスの新井 奏依(あらい かなえ)に声を掛けられたことで、彼の運命は更に狂い出す……。

三度目の庄司

西原衣都
ライト文芸
庄司有希の家族は複雑だ。 小学校に入学する前、両親が離婚した。 中学校に入学する前、両親が再婚した。 両親は別れたりくっついたりしている。同じ相手と再婚したのだ。 名字が大西から庄司に変わるのは二回目だ。 有希が高校三年生時、両親の関係が再びあやしくなってきた。もしかしたら、また大西になって、また庄司になるかもしれない。うんざりした有希はそんな両親に抗議すべく家出を決行した。 健全な家出だ。そこでよく知ってるのに、知らない男の子と一夏を過ごすことになった。有希はその子と話すうち、この境遇をどうでもよくなってしまった。彼も同じ境遇を引き受けた子供だったから。

処理中です...