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番外編 もしも2人の精神が入れ替わったら?!(4)

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 職場体験とは一体……。


 急遽持ってこられた簡易的な椅子が睦月のデスクの近くに置かれる。ここに座るらしい。とりあえず腰掛ける。


「これ、誰でも出来る簡単なもの。これをこれにファイリングするだけ!! 如月にも出来る!!」ファイルと書類が渡され、受け取る。
「は、はぁ?」


 見てもなんの書類がさっぱり分からないし、読もうとも思わない。このファイル、どうやって開けるの? 書類の穴を刺すとこ(?)塞がっていて、全然開かないんだけど!!! 


 カチャカチャカチャ


 開かない!!!!


 ファイリングするとはなんなのか、開かないものにファイルするとは一体!!! 上からテープで重ねて貼ればこれもファイリング?!?!


 書類をまとめてホッチキスで留め、挟まっている書類の1番上にテープで貼り付けた。見た目はファイリングされているように見える。


 おけ!!! 出来た!!! 次はどうすれば?!?! とりあえず休憩かな?!?!


「ふぁあ~~……」眠たくて、肘をついて欠伸をする。
「終わったの?!」睦月がこちらを見るので、ファイルを渡す。


「えぇ、まぁ」


 バサ。書類の重さでテープが剥がれ、貼り付けてあった書類が床に落ちた。


「ん? なんか落ちた」睦月は床に落ちた書類を拾った。
「なんで全部ホッチキスで1つに留まってるの?!?! ファイリングは?!?!」ジロリと睨まれる。

「え……刺すとこが開かなかったので、貼るために留めました」気まずくて、目線を逸らす。
「開け方が分からないなら聞こうよ!!! ホウレンソウだってばぁ~~ホウレンソウ!!!」苛ついたように注意してくる睦月に私も腹が立つ。


 なんかホウレンソウとかよく分からないし、めんどっちぃな、社会人生活。



 適性がないと判断され、ただ、自分のやるべきことをするだけになった。脚を組み、膝の上でノートパソコンを打つが、周りが気になり、集中出来ない。


 手が止まる。


 隣に座る睦月を見ると溜まった仕事を着々と捌いている。真剣な眼差しで、真面目に仕事へ取り組むひたむきな姿勢はシンプルに胸きゅんする。


 普段の私生活とは違う一面。


「なに?」睦月がこっちを見た。
「あ……いや、別に」仕事をしている男の顔。邪魔は出来ない。


 そもそもここに居ること自体、邪魔な気がしてくる。完全に部外者だ。一緒にいたいとは言ったが、仕事の邪魔はしたくないし、苛つかせることも避けたい。


「少し席を外します」私は朝と同じことを言い、席を立つ。
「如月?」軽く笑い、手を振って経理課を出た。


 身体も戻ったし、帰っちゃおうかなぁ~~。


 睦月さんは心配して、ここまで来てくれたと言うのになんて自己中な発想。でもここに居てもやることもなければ、執筆も出来ない。


 ノートパソコンを抱え、エレベーターに乗り、ふらふらっと外へ出る。何も言わずに出て来ちゃった。暑いけど、外で待とうかな。スマホを見る。終業まであと2時間ほど。これくらいなら待てる。


 近くにある、カフェテラスへ移動し、ノートパソコンを広げ、待つ。頼んだアイスティーの氷が、暑さでからんと溶けた。


 なんだか、今日は疲れた。働いたなんて、言えるほど何もしてはいないが、会社に勤めるという大変さを実感。テーブルに顔を伏せる。朝早くから動いていたせいか、自然に瞼が落ちた。


 *


 席外すって……。どこ行くの?


 いつもなら、恥ずかしいくらい取り乱してでも『どこにも行かないで』と引き止めていたかもしれない。


 仕事のスイッチが入っているせいか、咄嗟に何か声をかけることも出来ず、微笑んで手を振り、去っていく如月の背中をただ、見つめた。


 まだ自分の仕事は終わっていない。これが終わるまではこの場を離れられない。モヤモヤしたものが心に広がる。隣から鳴っていたキーボードを叩く音はもう聞こえない。


 ボールペンを握る手に、力が入る。


 ケンカした訳ではない。さっきまでそこにあったものが消える不安は今も忘れられない。如月に深く依存していく俺はとても弱い。


 集中し、残った仕事を一気に片付ける。


「終わった……」デスクの上を綺麗に片付け、明日へ備える。
「神谷。少し早いけど、俺、先帰るね」カバンを片手に席から立ち上がった。

「はぁ~~あ、相思相愛で羨ましいよ。早く帰れ。お疲れ」
「また明日~~お疲れー」神谷に手を振り、退社する。


 ーー早く如月の元へ。


 ん? 待って、行き先聞いてないし!!! 如月は俺がどこにいても探し出せるとでも思ってるの?!?! そんな訳ないでしょ!!! でも探し出す!!! これは俺の使命!!! とりあえず外行こ!!! 待ってるかも!!!


 オフィスビルの外で待っている訳でもなく。はぁ、とため息が出る。


 如月がどこに居るか分からない。ただそれだけで胸に込み上げてくる不安。急にその場を動けなくなる。


 とん。背中を叩かれ、振り返る。元カノ蒼。


「何?」眉を顰め、訊く。
「何もぉ、つめたぁ~~い。睦月くんの恋人、あっち」蒼はカフェテラスを指差した。
「ありがと……」蒼に対し不信感しかない。

「何かしたりもうしませんよぉ~~。私、今からデートだから。じゃあね、睦月く~~ん」そう告げると、蒼は軽い足取りで、歩いて行った。


 どこに居るのか目星がついている訳でもないので、教えてもらったカフェテラスへ向かう。人が混み合うカフェテラス。どんなに混んでいても、一瞬で、如月のことは見つけられる。


 俺の特技。


 ほら、見つけたよ。


 日陰になっているテラス席で顔を伏せ、すぅすぅと、眠っている俺の大切な人。こんなところで寝たら熱中症になるっての。


「如月、起きて」とんとん。肩を叩く。
「ん~~…あ……睦月さん…お仕事終わったの?」


「ん……」キーボードの跡が頬に付いている。赤くついた跡を消すように、指先で如月の頬を擦る。


「終わったよ。お待たせ。一緒に帰ろう?」座っている如月の後ろから抱きしめた。
「なんですかぁ? ちょっと~~」嬉しそうに微笑む如月の頬へ、ついでに口付けする。


 ちゅ。


「あ~~キスまでして」如月は口付けされた頬を手で押さえた。
「通常運転だと思いますけどぉ~~」


 さっきまであった胸いっぱいの不安はもうない。貴方の行動の全てに、感情が振り回される。でも、愛しい。


「帰りますって~~」如月は椅子を後ろに下げ、席を立った。
「ねぇ、なんで戻ることが出来たのかな?」家に向かい歩きながら話す。


「え? う~~ん……深くキスしたから?」


 まぁ確かに。軽くキスしただけじゃ、元に戻らなかったなぁ。もう一度、深くキスしたら、また入れ替わってしまうのかな?


「また……その深くキス……したら入れ替わったりするのかな?」如月を見つめる。
「私に聞かれても」眉を下げ、困ったように笑う如月にドキっとする。


「たとえまた入れ替わったとしても、また深くキスすれば良いだけじゃないですか?」


 困ったように笑ったかと思うと、次は目を細め妖しく笑う。俺のことを表情豊かなんて言うけど、如月も表情豊かだよ。


「それはそうだね」
「帰ったら入れ替わるか試してみます?」
「別に帰ってからじゃなくても俺は良いけど?」



 しばらく見つめ合う。



 如月の手を引っ張り電柱の影に引き寄せる。



「……何言って…ちょーーっん」



 日が沈み、薄暗くなってきた帰り道。住宅街からは楽しげな家族団欒の声が聞こえる。人影のない帰り道で交わす甘くとろけるような親密なキス。



「ーーはぁっ……もう~~」
「でも、入れ替わらなかったね」赤く染まった如月の頬に触れる。
「え? そうですね? ってなんか睦月さんグイグイ来ますね?」吐息を感じる距離まで顔を近づける。

「ぇえ? だってすごく不安になったんだも~~ん。埋め合わせしてよ、俺の気持ち」
「はぁ? 家帰ったらにしてくださいよ」肩を両手で押され、離される。

「やだぁ!!! 今する!!! 今したい!!!」如月の頬を両手挟み、引き寄せる。
「ちょっ!! なっ!!! 待っ!!! ~~~~っ!!」


 唇を長く押し付け、離す。あとは家に帰ってからにしよ。


「ねぇ、如月。俺、入れ替わったことで、もっと如月のこと好きになったよ」

「それは私も同じですよ」


 お互い顔を見合わせ、頬の緩んだ、だらしない笑みを浮かべた。指先を絡め合い、満足したように再び帰路についた。






 ーーその後 睦月の場合 オフィスにて。



「お前!!!」肩を掴まれ、振り向く。知らない男。
「なんですか?」迷惑そうに相手を見つめる。


「よくも『つまらない、書き直せ』なんて企画書に書いたな!!!!」


 ーー根に持たれていた。


「はぁ? 書いてないですよ」なんのこと?
「書いたから言ってるんだろうが!! こっちはお前のせいで」


 なんかグダグダ文句を言われている。しかしなんの話か全然分からなければ、この男のことも知らない。


「知らないですって~~。次は面白い企画書けばぁ」


 付き纏われないように早足で通り抜ける。


「おはようございますぅ、佐野さん! 今日はあの服じゃないんですね~~似合ってたのにぃ」いつもコーヒーアピする子。面倒だな。

「この前コーヒー飲んでくれて嬉しかったです~~今度ランチ行きません?」


 俺が、この女性に気があるとでも思っているのかのように近寄ってくる。無論、コーヒーを受け取った記憶はない。


「コーヒー要らない!! ランチも結構です!!!」キッパリとお断りする。なんだか社内の女子の視線をいつもより感じる。


「か、神谷ぁ~~俺なんかしたっけ??」
「社内の女子に笑顔を振り撒いてた。ランチを誘われたら、また今後って微笑んだり。あの微笑みキャラは流石にキモかったな~~」


 はぁあぁあぁあ?!?!


 え? 何? コーヒーといい、ランチといい!!! 企画書のやつもまさか如月が?!?! 何してんの!!!! マジで!!!


 少しだけ仕事がしにくくなった睦月であった。






 ーー如月の場合


「あぁあぁぁあぁあ!!!! 全身が痛い!!!」


 全身から感じる筋肉痛。何を一体、どうしたらこんな風になるというのか!!! 特に下半身の筋肉痛は歩く気が失せる。


 何故こんなに筋肉痛に?! 睦月さんは私の身体で何をしたの?!?!(※エレベーターを使わず、登り降りは階段を使用し、社内で如月を探しまくった)


「ふくらはぎと腿がぁああぁああ!!! でもアレを確認せねば!!!」


 洋室へ行き、小さな本棚の前にしゃがみ込む。一冊、一冊本を取り出し、あるものを探す。


「あった……」ちょっとえっちなメンズアイドル写真集。


 貰い物であることには変わりはないが、見ていないとは言っていない。ナニかする訳ではないが、時には刺激を受けたくて、見ることはある。日々、研究。


 写真集のページを捲る。


「……………」


 額に肉。おフランスのようなヒゲが顔に描かれている。なんだこれ。次のページを捲る。偉人の落書きのように全ての写真に永遠と描かれた顔への落書き。イラ。


 メキ


 如月は写真集を握り潰し、ゴミ箱へ捨てたのであった。








 あとがき。


 いつも『如月さん、拾いましたっ!』をご愛読頂き、ありがとうございます!!


 たくさんのブクマ、イイネ、ラッパ(?)本当に本当に嬉しいです。励みになります、ありがとうございます。


 夏だし、ちょっと不思議な体験的な変わりものを書きたくて、このような形になりました。


 如月さんはあと少しだけお盆を過ごし、秋へ。


 お盆へ入る前に夏期休暇を書き始めたはずなのに、いつのまにかリアルのカレンダーが追いついてしまいましたね。


 少しでも夏らしさを感じて頂けたら幸いです。


 長くなってすみません。


 読んでいて、少しでも笑みが溢れるような小説になるように、日々、精進していきたいと思います。


 本当にブクマやイイネ、ラッパ、ありがとうございます!!! 力になります!!


 今後も、『如月さん、拾いましたっ!』をよろしくお願いします!!



 霜月。


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