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22話(7)

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「朝ごはん食べなきゃね」如月にベッドから体を起こされた。
「そうだね……」ベッドの下に落ちた服を拾い、着替える。

 2人で着替えを済ませて、ベッドから立ち上がる。昨日の情事と朝のやつを引きずっているせいか、膝がガクッとなり、その場にへたり込んだ。情けない。

「大丈夫ですか?」心配そうに見てくる。
「うん、まぁ」差し伸べられた手を掴み、立ち上がる。

 そのまま指を絡め、手を繋いだ、階段を降り、一階へ向かう。廊下で小春に会い「おはようございます」と挨拶し、頭を下げた。

「……睦月ちゃん喘ぎ声が大きい」
「いやぁあぁあぁあぁあぁあ!!!!」恥ずかしくて両手で顔を隠す。

「すみませんすみませんすみませんすみませんすみませんぁあぁあぁあぁあぁあ!!!」土下座して何度も頭を下げる。

「いや、私が悪いの。布団要るかな? って2階に行こうとしたり、朝ごはんだよって伝えようとして、近づいたらなんかお盛んだったというか……」

「いやぁあぁあぁあぁぁあぁあ!!!」廊下に頭をぶつける。じんじん。痛い。

「千早の時もシてたでしょ」そういう問題じゃねぇええぇえ!!
「千早ちゃんはもっと声静かだった気が……」ぇえぇえぇえぇ!!!

「俺ってそんなに声が……」頭を上げ、2人を見る。
「あーーまぁわりと?」小春と如月は顔を見合わせた。

「可愛いから出していいんだよ」如月は艶やかに微笑んだ。

 はず……。少し俯く。恥ずかしくて体の前で指先を触る。他の人にも聞かれてたらどうしよう。そもそも如月の実家でえっちする方が間違ってる!!!(今更)気をつけなきゃ!!

 如月に再び手を繋がれ、リビングに入った。なんとなくみんなの視線が気になる。聞いてないよね? 辺りを見回す。それにしても朝食がない。


 『朝ごはんだよ』とは?!?!


「小春お姉さん……朝ごはんとは……」もしかして……。
「『朝ごはんだよ、早く作って』だけど」小春は真顔で答えた。イラ。
「あは……そうですかぁ」薄く微笑む。

 俺は家政婦かぁあぁあぁああぁあ!!! 如月の手を離し、イライラしながらキッチンへ向かう。なんで? なんで誰も作らないの? 普段誰が作ってるの? 意味わからんし!!

「うわぁああぁあぁあぁあ!!!」ボウルに卵と牛乳を入れかき混ぜる。

 荒々しく卵と牛乳を混ぜていると「何か手伝いましょうか?」と如月が肩に顎を乗せてきた。どき。混ぜていた手が止まる。

「しめじ手でさいて……っん…ぁっ」ちゅ。首筋にキスされ、軽く甘噛みされる。こんなとこで何して。鼓動が早くなる。

「ふふ。少し頬赤いよ? しめじさくね」肩から如月のぬくもりが消える。隣に立ち、しめじをさき始めた。

 そういえば今日は夏祭りがある。折角のイベント。如月と一緒に行って楽しみたい。甘噛みされた首筋を手で押さえ、口を開く。

「今日の夜、一緒にお祭り行かない?」如月の方を見る。
「いいですね、行きたいです。卯月さんも誘いませんか?」卯月ね、卯月。少し顔が曇る。

 ……2人で行きたい。

 卯月も呼ぶかぁ。明日とかじゃダメかな。2人きりでデートがしたい気持ちから、すぐに『いいよ』と言えなくなり、黙ってしまう。

「はいはい、2人で行きましょうね」察してくれたのか、頭をぐしゃっと撫でられた。
「お祭り行くの?」リビングから義母が訊く。

「あ……はい。夜にでも……」玉ねぎ、ベーコン、ほうれん草を切りながら答える。
「じゃあ浴衣出してあげようか?」義母がキッチンへ来た。手を止め、義母を見る。

「良いんですか?」浴衣着たい!
「少し古いけどね」嬉しくて、口元に笑みが溢れる。
「ありがとうございます!!」楽しみ!

 浴衣のために頑張って朝食作っちゃお!!! フライパンに具材を入れ、塩コショウで炒める。

「まだ手伝えることありますか?」如月が訊く。
「ありがとう。あとは任せて」食パンを平らに潰しながら、如月にウインクをした。


 ーー作ること1時間


 めっちゃ時間かかったけど『食パンDEキッシュ』完成。見た目は悪いけどいいでしょう。もう冷蔵庫に材料はないし、これが限界。オーブンから取り出し、リビングのテーブルへ運ぶ。

「出来上がるの遅!! 食べづら!! 切ってよ!!」俺に作らせておいて小春が文句を言ってくる。
「ぇえ……もうあとは自分でやってよ……」渋々、キッチンから包丁を持ってくる。

 なんていうか、我ながら如月家にすごく馴染んでる気がする。少しは仲良くなれたかな? よきよき。このまま末長く、お付き合いしていこう。型からキッシュを取り出し、食べやすい大きさにカットした。


 如月家の皆さんと朝食を済ませる。そして当たり前のように1人で片付ける。もう、諦め。泊まっているのだから、これぐらいはやろう、そう思ったけど、やっぱりちょっと違う気がする。

 洗い物を終えると、義母が声を掛けてきた。

「浴衣合わせてみない?」

 お義母さんに案内され、如月と和室へ向かう。お義母さんは古い大きな着物箪笥たんすから浴衣を何枚か取り出した。

「弥生も着るでしょ?」母は淡い茶絣ちゃがすりの浴衣を如月へ渡した。
「うん。グレーの帯がいいなぁ」如月は浴衣を受け取り、Tシャツの上から羽織った。

 なんていうか大人。淡い茶色の生地。かすったように、ところどころ白い線のような模様が入っている。そんなハイセンスな浴衣、俺着れないんですけど!!!

「睦月くんはどれにする?」この家には如月しかメンズは居ないのに、浴衣がいっぱいあるなぁ、なんて思いつつ、並べられた浴衣をひとつずつ手に取って見る。


 無難に無地? 無地は二十代後半の人が着るやつ? それとも縞模様? これは40代の人が着るやつ? あえて同じ絣柄? そんなハイセンスオシャレスト俺にはなれない!! 無理!!! そして何色を選ぶべき?!? 黒? 青藍? 濃紺? 生成? 選択肢が多すぎる!!! うわぁあぁあぁぁああ!! 分からん!! どれを選んでいいか全く分からぁああぁぁん!!!


「わ…分からん……」ばた。睦月は考え過ぎて、浴衣を握りしめ、その場に倒れた。

「どんだけ悩んでるんですか」クスクス笑いながら、如月に体を起こされた。
「選んで……俺に1番似合うやつ……」もう一度浴衣を一枚一枚見ていく。

「薄墨」
「薄墨」親子で同じこと言ってるし。

「薄墨色の浴衣にしましょう」義母が薄い黒色の浴衣を広げ、肩に掛けてきた。立ち上がり、袖を通す。義母に軽く帯を締めてもらう。似合うかなぁ?

「いい!!!(抱きたい)」如月は目を瞑り、拳を握って力強く言った。
「そ、そう?」訝しげに如月を見る。頬が赤くなっている。

「俺、この浴衣にします。色々出してくださり、ありがとうございます」お礼に広げた浴衣を畳んでいく。

「睦月くんは畳むのも綺麗だね。ありがとう」義母は一枚一枚、丁寧に包み紙で包み、浴衣を箪笥へ仕舞った。
「いえ、そんな……」気恥ずかしくて、目線を落とす。

「弥生とダメになったら、ぜひうちの娘の婿に来て」義母が急に真面目な顔つきになり、戸惑う。
「ダメになんかなりませんから」後ろから如月に抱きしめられる。お義母さんの前で恥ずかしいんだけど。

「はいはい、ちゃんと大切にしなさいよ。今日着る浴衣はハンガーに掛けておいてね」義母は浴衣を仕舞い終えると、和室から出て行った。



 和室に2人きり。後ろから抱きしめる私の顔を、睦月が首を横に向け、じぃっと見つめてくる。

「如月、和服似合うね」私の頬に睦月の手が触れた。
「小説家ですから」親指が唇に触れ、下唇をなぞっていく。
「なにそれ~~」睦月は穏やかに笑い、如月の頬を軽く押し、口付けした。

 笑顔からのキス。かわいい!! 照れる!! なんだか最近全てが可愛く思えて仕方がない。これは愛情を注ぐって決めたから?! それほど睦月さんを好きになってしまったのか?! 好き過ぎるのは間違いない!!!

 薄く染まった頬を手の甲で隠す。突然睦月が立ち上がり、こちらを見て、目をキッと見開いた。え? 何?

「いちゃいちゃを自粛しよう!!!」えっ。

 はぁぁあぁあぁあぁあ?!?! 似たようなこと(?)睦月さんに強いたことはあるけど、今とは状況が違う!! なんで自粛?! そんなの出来る訳ない!!

「理由は……?」睦月は浴衣を脱ぎながら答えた。
「ここ、如月の実家だから!!!」

 うわぁ、しょうもない理由……。泣きそうになる目元を押さえる。私は今すぐにでもいちゃいちゃしたいのに。そんな自粛やめて頂きたい。

 それに睦月さんが自粛出来るとも思えない。どうせなら少し遊んでやろう。

「分かりました。でも私は自粛しません」睦月にハンガーを渡す。
「はぁ?」怪訝な顔でこちらを見ている。
「私の実家ですし? 私がする必要はないですからね」浴衣を脱ぎ、ハンガーにかける。

「俺だけ自粛して如月が自粛しないっておかしくない?!」眉を顰め訊いてくる。
「おかしくないし」目を逸らす。

 睦月の手を引っ張り、和室を出る。とりあえず自室へ行こう。面白くなってきた!!!

「どこいくの?!」引っ張られるまま着いてくる。
「私の部屋」それを訊き、睦月の足が止まる。
「行かない!!! いちゃいちゃしちゃうから!!」ふぅん?

「いいよ、リビングでも」意地悪く笑い、リビングへ行き先を変える。
「何?! なんかこわい!!」

 それでも手を繋がれて一緒に来てくれる睦月さんに自粛は無理だね、きっと。
 リビングへ着く。ソファに2人で腰掛ける。辺りを見回す。人は居ない。みんな自分の部屋かな。リモコンでテレビを付ける。

 座っている睦月の肩を後ろから抱く。警戒したようにこちらを見てくる。これは許容範囲らしい。ふむふむ。反対の手でTシャツの下に手を入れる。

「ちょっとぉ!! 俺自粛してるんで!! そういうのNGだから!!」Tシャツの裾を押さえられた。む。手が入れられない。ハーフパンツの上に手を移動させる。

「っん…き~~さ~~ら~~ぎぃ~~!!! 俺今日はシない!!」手を掴まれ、投げ捨てられた。
「え? なに? しない? 何を?」思わず訊き返す。

 睦月は少し俯くと、目を瞑り、頬を赤らめ、言った。

「俺、今日はえっちしない!!!!」
「はぁあぁあぁあぁあぁあぁあ?!?!」

 今日、浴衣だよ?! 夏祭り後の浴衣えっちしないの?! こんなレアえっちをしないだと?!?! 頭おかしいんじゃないの?!?! こんなのあり得ないでしょ!!! 絶対浴衣えっちする!!!!

「今日は絶対えっちします」睦月を真剣に見つめる。
「はぁあぁあぁああぁあぁあぁ?!?!」

「今日はシなければいけないんです」如月は手を組み、立ち上がり、目を閉じて何かを祈るような表情をした。

 睦月は立ち上がり、Tシャツの裾を両手でギュッと掴み、俯いて、顔を紅潮させながら、叫んだ。

「俺、ぜーーったい、今日はシないからぁっ!!!」

 ーー対立する2人の意思。なんだか睦月は辛そう?! 果たして貫き通せるのはどっちなのか?!





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