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21話(3)
しおりを挟むーー動物園
ってここ、旭のさんと来たところと同じ動物園だし。いいの? ここで。そう思いながら、睦月と手を繋ぎ、動物園へ入る。前回来た時と、感覚は違う。とてもドキドキする。
それにしても、まぁ、暑い。直射日光がキツい。かんかん照り。帽子がなかったら、燃えるように暑かったと思う。
「如月! カピバラ!!」カピバラを指差して、喜んでいる。
(いやぁ、睦月さんこの炎天下の中、めっちゃ元気~~)
「ほんとですね~~」カピバラも日陰で休んでいる。暑いもんね。
「馬!!! あっ!! ヤギ!!! ヤギ餌やれるって!!! 餌あげよう!!」手を引かれるまま、餌やりに並ぶ。
「う、うん」餌を受け取った。
近!! こ、こわい!!! しかもヤギじゃないし!! ヒツジだし!! 大きい!! しゃがんでヒツジに近付くが、餌があげられない。やっぱりここでつまずく。
「餌あげよ~~っと」
比べるのは失礼だが、旭と違い、睦月さんは先陣切って動物に餌をあげる。隣でずっとそれを眺める。笑って動物へ餌をあげる姿は見ていて癒される。
「如月はあげないの?」餌を差し出してきた。
「んーーあげようかな」受け取り、ヒツジにあげる。
食べてる。ちょっと怖いけど、睦月さんが隣に居るから大丈夫。
「あっちレッサーパンダいるんだって!!」
「はいはい」
いやぁ、もう、暑くて限界なんですけど。手を引かれるまま、レッサーパンダを見に行く。どの動物を見に行っても日陰でぐったりしている。暑いもんね。ハンディファンで風を寄越しても、熱風。
「睦月さん、暑くないの?」思わず聞いてしまう。
「暑いけど。楽しいし」睦月はキャップを取り、前髪を掻き上げた。今のいいなぁ。
「私、暑くてぐったりです」汗でTシャツが体に張り付く。もうベトベト。
「全然動物園周ってないけど!!」腕時計を見る。1時間程度。
(この猛暑の中、1時間以上外はキツいです。睦月さん……)
「涼しいところ行きたいです」胸元のTシャツを掴み、はたはた動かす。熱出ていけ。
「あっちに水路と噴水があって、水遊び開放してた!」でもそれ外~~。
「行こうかな」
笑顔が絶えない睦月を見ると、「違うところへ行きたい」なんて言い出せるはずもなく。誘われるがまま、水路へ向かう。
水路は足首ほどしか水がない。浅くて、安全なせいか、たくさんの子どもが水遊びをしている。私も入ろうかな。スポーツサンダルを脱ぎ、水路に足を入れる。
「冷たい」気持ちいい。水路の淵に腰を掛ける。休憩。
「俺も入ろうかな?」スニーカーを脱ぎ、隣に来た。
「冷たいよ」こういうまったりなら、暑さも悪くない。
「冷たぁい」ばしゃ。
水が気持ち良いのか、笑いながら足で水を蹴り上げている。無邪気に遊ぶ姿が可愛くて、見ていると笑みが溢れる。
今日ずっと笑ってるね。睦月さんが楽しいなら、私は暑くても構わないよ。はぁ、キスしたい。え? こんなところで? う~~ん。悩む。睦月の顔を見る。
「どうした?」目を細め、微笑まれた。
「いや……べ、べつに……」向けられた笑顔に思わず顔を背ける。この暑さなら頬が赤く染まっても分からないだろう。
はぁ。なんか顔見れない。今日はいつ見ても全部笑顔で返ってくる。その笑顔にキスしたい。いや、しよう。多分喜んでくれるし。
そして、これは大阪のリベンジ!! 手を繋ぐのは上手くいかなかったけど、キスなら得意分野のはず!!
如月弥生、今度は絶対に成功させてみせる!!!
キスはアレだな、そんな難しく考えなくていい! 隣に座ってるし、ちょっと顔を近づけて、唇に触れればオーケーだ!! 簡単!! よし!! やるぞ!!
顔を近づけた。
「わっ!! びっくりしたぁ~~なに? どうしたの?」目を見開いてこちらを見ている。
失敗した。(意識すると失敗するタイプ)
「あ、いや~~……近寄りたくなっただけ~~」キスしたいって言えば良かった……。
「え? そ、そう?」警戒している。テイク2しなきゃ。ふふ。
睦月の頬に優しく触れる。汗で少しベタつく。手を滑らせ、顎に添え、軽く上を向かせる。ちゅ。口付けした。
「如月?!」あはっ。顔赤くなってる~~。
「私に同じようなことスパでしたくせに~~」
両手で口元を押さえ、照れている。大成功。今日は上手くいった。嬉しくて、足をバタバタさせ、水で遊ぶ。
「~~~~っ嬉しいデス」私が頑張ると睦月さんがデレる。これは良いな。
「睦月さん、アイス食べましょ。アイス」水路から足を引き、濡れたままサンダルを履いた。
「……ひとつのアイス一緒に食べてくれるの?」睦月は横目で訊く。
「ぇえ? いいけど?」手を繋ぎ、アイスが売られているキッチンカーへ向かった。
「睦月さん何味が良いんですか?」さっぱりした味がいい。
「レモンで」賛成~~っ!!
アイスを購入し、ベンチに座る。ひとつのカップアイスを2人で食べる。スプーンはひとつ。ふふ。なんか良き。アイスを掬ったスプーンが私の口元に来る。
「はい、あ~~ん」
「ん」
私も『あーーん』してあげたいんだけど。本人はやりたいようなので、運ばれるまま、アイスを食べる。そろそろ水分、摂ったほうがいいなぁ。買ってこよう。今日は現金持ってきた!!
「睦月さん、お茶買ってきます」ベンチから立ち上がる。
「分かったぁ~~一緒に行こうか?」心配そうに見てくる。
「へーきへーき。アイス食べて待ってて」
睦月の頭を撫でる。軽い足取りで売店へと向かった。
………あれ? 売店ってどこだっけ?
*
アイスのスプーンを口に咥え、スマホを見る。如月がベンチを離れてから30分。モタモタして遅れて戻るのは想像出来る。あと10分だけ待つ。それでも来なかったら探しに行く。
「まだかなぁ~~売店に行かせる必要ってあったかな?」腕を組み、考える。
自販機で良くね? この前座ってたベンチと場所違うけど、如月は売店までたどり着けるの? そんなことを疑う。俺は行けるけどね。余裕で。
「はい、売店へ出発してから40分経ちましたぁ~~」マジで何やってんの。
如月迷子フラグ。やだよ? 放送で呼び出しとかさ。勘弁してよ? 如月さぁぁああんっ!! とりあえず、売店へ行ってみる。
はい、居ない~~。売店まで辿り着けなかった説。でも聞き込みはしておこう。もしかしたら売店で買ったは良いが帰り道が分からなくなった説もあり得る。レジの店員に声をかける。
「白いハットを被った、背の高い…ええと~~切れ長の目の人見ませんでしたか?」我ながら説明下手。
「あぁ! 来ました! 目鼻立ちが綺麗な人ですよね! たこ焼き買うって言ってました」たこ焼き……。
「ありがとうございます」再びキッチンカーのところへ戻り、たこ焼き屋を探す。あ、白いハット。
……如月……いや、あれは……似てるけど……如月……じゃない!! そして、会ってはいけない!!! 逃げよう!!!
キャップを深く被り、背中を向ける。ガッ。肩を掴まれた。だらだらだら。嫌な汗が大量に出る。恐る恐る後ろを振り向く。
「ハローー、睦月ちゃん。なんで逃げようとしてるの?」
「あは……こんにちわ~~……」ひきつった営業スマイルを向ける。
やっぱり如月の姉(※15話参照)!! いやぁあぁあぁあぁあ!!!
「はは……逃げようなんて、とんでもございません……ご、ご無沙汰です~~はは……」逃げたい。
「こんのクソ暑い中、動物園来てるの?」アンタもだろ!
「えぇ、まぁ……ではこの辺で……」再び背中を向ける。
「待てよ~~弥生と来てるんじゃないの?」肩を離してもらえない。
来てるけど、来てるけど、あなたの可愛い弟は迷子なんですってばぁあぁあぁあ!!
「来てますけどぉ……その……えっとぉ~~」はっきり言って良いものか。悩む。
「何? 睦月ちゃん迷子なの?」俺じゃねぇ!!
「まっさかぁ~~徹夜で動物園のマップを頭に叩き込んだ俺が迷子になるとでも?」思わずアイスのカップを握り潰す。
「……お疲れ。迷子は弥生の方か」小春は遠い目をした。
「か……彼氏さん…と…デートですか……?」おどおど。
「こんのガキ!! 1人で来て何が悪い!!!!」首に腕が回り、締められる。
「あーーっ!! 苦しい!!! やめて!!! やめてくださぁい!! 義理姉さん!!!」締められている腕を叩く。
「誰が義理姉さんだ!!! うちに嫁にくるつもりか?! 私はまだお前を認めてない!!!」がーーん!
「ほら!! 如月……(この人も如月か!)弥生さんのこと探さないと!!」首に回された腕が緩んだ。
「それは、そうだね。手伝う」ぇえーー。
「弥生はどこに行ったの?」小春は睦月の顔を見た。
「売店へ行くって言ってから帰ってこなくなった……」はぁ。ため息が出る。
小春は少し考えて、口を開いた。
「……弥生の1番好きな動物、知ってる?」
「え?」
「そこに居るんじゃないかなぁ」小春は、どこかへ向かい、歩き出す。
し、知らない。そんな動物いるなんて聞いてない。むしろ動物苦手かと思ってた!! この動物園に好きな動物が居るの? なんの動物?! なんで言ってくれないの?! もぉっ!
小春の後ろを黙って着いていった。
*
売店の場所が分からない。んーー。よく考えたらこの前のベンチと場所違う。どこから来たのかも、もうわかんにゃい。しばらく周囲を彷徨う。
『にゃんにゃん王国』という看板が目に入る。にゃんこ、あはぁ~~。いいなぁ。会いたい。入ろう。あ、涼しい。
ねこいっぱい!!! かわいいぃいぃい!! はぁはぁはぁ……実家は猫いるけど、一人暮らしになってから、しばらくご無沙汰!! 飼いたいけど、自分のお世話もまともに出来ないのに、ペットは飼えない!!
「自由に触っていいんですか?」係員に確認する。
「どうぞ~~」はぁはぁはぁ。どの子にしよう。
あぁ、帽子のつば邪魔。ねこ見えない。指輪も外そう。ねこに失礼。腕時計もやめよう。帽子及び、アクセサリーは全て鞄にしまっていく。
あ、睦月さん。どうしよ。ちょっとだけだから。ちょっとだけ。ちょっとにゃんにゃんしたら戻るから。私の恋人ならそれぐらい待てるよね。猫たちへ目線を向ける。
はぁ~~っ迷う~~っ!! みんなかわいい~~っ!!! にゃんこにゃんこにゃんこ!! しばらく涼みたいし、穏やかで人懐っこい、甘えん坊な子がいいなぁ。
きょろきょろ。ふむふむ。
よし、ラガマフィンちゃんにしよう。後ろからそっと近づく。指先で優しく撫でる。頬なでなで。んふ。かわゆ。顎の下なでなで。かわゆ。あはぁん。甘えん坊。かわゆ。はぁはぁあぁぁあぁあっ。
壁に背中をつけ、床へ座った。鞄から本を取り出し、しおりの挟まっているページを開き、片手で物語の続きを読み始める。視線を本からラガマフィンへ移した。
「おいで。一緒にのんびり過ごそう」
ラガマフィンは如月を見つめた。しなやかな指先で心地のよいところばかり撫でてくれる如月が恋しくて、そばに寄る。すりすり。ごろん。
「甘えん坊さん」
「にゃぁ~~」
読みかけの本を床へ置く。両膝をつき、後ろからラガマフィンの両脇に片手を入れ、ゆっくりと持ち上げる。もう片方の手でお尻を支えながら抱き上げ、そっと、膝の上に乗せた。
再び、本を片手で持ち、読み始める。
猫と一緒に読書する。私の穏やかなひととき。
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