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5話(3)如月に触れてみたい?! 気づかないうちに芽生える恋心?!

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 俺は遊園地へ来てから、不自然なほど、星奈と2人きりにされている気がする。


 お化け屋敷に入っている最中、星奈から腕にくっつかれ、小さな胸を一生懸命、当てられたり、後ろから抱きつかれたりした。正直、星奈が卯月と同い年のこともあり、何をされても妹のようにしか感じない。


 俺は如月のように、好きでもない人と手を繋げるほど、優しい人間ではない。悪いな、と思いつつ少しだけ星奈とは距離を取る。


 当遊園地、名物、アルゴルドラゴン。今並んでいるジェットコースターだ。傾斜角度が80度あるジェットコースターは物凄い勢いで落ちるだろう。


 既に1時間近く並んでいる。時間など気にせず、中学生の2人はスマホに夢中だ。
 自分の前に並ぶ、如月に声をかけた。


「ジェットコースターは乗れるタイプ?」如月は声をかけられ、片手で読んでいた小説を閉じ、少し振り返った。

「高いところはわりと平気です」いい加減、卯月と手を離せ。
「じゃあ、ジェットコースターは大丈夫だね」

「これだけ激しそうなものには乗ったことないので不安ですよ」如月は少し目線を落とし答えた。


 あと、おおよそ20分くらいでジェットコースターに乗れそうだ。久しぶりの絶叫アトラクションに胸が高鳴る。


「次だね! 楽しみぃ~~」卯月が嬉しそうにしている。
「私は睦月さんと乗ります」星奈が言い切った。


 段々露骨にアピールされている気がする。如月が星奈の行動に時折、考えるような表情をするのが少し気になる。


 コースターに乗り込み、安全バーを下ろし、脚と腰を固定した。上半身は割とフリーだ。全員分の安全バーの確認が終わると、コースターは揺れながら発進した。


「レールが軋んでいます! 大丈夫でしょうか? これ、止まったりしませんかね? 結構揺れますね! ああああ振動が伝わります!!!」如月が左右を確認しながら饒舌になる。

「如月怖いの? 大丈夫だよ、ちょっと落ちるだけだって」卯月が励ました。


 コースターは80度の傾斜を少しずつ上がり、最高地点を目指す。ここから急降下すると考えるだけでワクワクが止まらない。


 最高地点まできたコースターは急降下する。車両が反転しながら、爽快にかけ抜けていく。無重力のような浮遊感だ。


「きゃあーーーー!!!!」後ろから卯月の叫ぶ声が聞こえる。楽しんでいてなにより。


 およそ3分弱でジェットコースターは終わった。物足りない、もっと乗りたい。そんな欲が駆け巡る。そんな俺とは反対に如月は青い顔をしていた。


「これに乗り続ければ新たな境地を切り開くことが出来るのだろうか」右手で額を抑えながら如月は言う。
「そうだねーー! 次あれ乗ろう!」卯月は如月を引っ張った。


 正直、もうやめとけばと言いたいところだ。俺自身はまだまだ乗りたかったので、このまま付き合わせることにした。


 卯月と星奈に付き合い、絶叫マシンをひとつずつ制覇していく。2回目のアルゴルドラゴンを乗り終わったところで如月がダウンした。


「これが切り開いた結果だというのか」口元を押さえながら如月は言った。
「吐くなよ」フラフラする如月の左腕を自分に回し、担いだ。

「俺ら、あの日陰のベンチで休むわ」ベンチを指差して、卯月に伝える。
「オッケー、残り制覇してくるね」卯月にウィンクをされた。どういうこと?


 如月をベンチに下ろし、自販機で水を買う。乾いた喉に水を流し込む。自販機ってこんなに高かっただろうか。異常な値段に、思わずもう一本買おうとした手を止める。


 飲みかけの水だけを持って、如月のところへ向かった。


「少し飲んだら?」水を渡す。
「ありがとうございます。空いてますけど……」キャップを開けながら如月は呟く。
「俺が飲んだ!!」

「……アイスはダメなのにこれは良いんですね」どういう意味?
「違う味が混ざるのイヤだもん~~」
「あっそ……」


 相当辛いのか如月はベンチに横になり、目を閉じて右手を額に置く。少しでも良くなればと思い、パンフレットで如月の顔を扇いだ。


「膝枕してほしいです」パンフレットの隙間から如月と目が合った。
「え」
「してくれるんでしょ?」なんでする前提なの。


 頭が高い方が楽かもしれない。そう思い、如月の頭をそっと持ち、自分の太ももに乗せる。如月が再び目を閉じるのを確認し、またパンフレットで扇ぐ。


 日陰になっていることもあり、気持ち良さそう。


 こんな至近距離で顔をゆっくり見るのは初めてかもしれない。まつ毛が長く、綺麗だ。肌もシワがなく、つやつやしていて、年齢を感じさせない。
 

 ーー触れてみたい。


 って何を考えているんだ。俺はバカか。
 こんなことやってるから変なことを考えるんだ。きっとそうだ。自分に言い聞かせ、落ち着かせる。


「なんですか?」視線を感じたのか、薄目を開けて如月が俺を見た。
「如月は好きでもないやつと手を繋げるの?」バカ! 何を言ってるんだ、俺は!

「はぁ? そんな訳ないじゃないですか。卯月さんのことは好きですよ。あーー大丈夫ですよ。流石に27も年下相手に手は出さないですって」少し回復したのかさっきよりも顔色が良く見える。

「お化け屋敷でナンパもしたんだろ?」如月は俺の質問に目を丸くした。
「性にはわりと開放的ですよ」如月は額から手を離し、睦月を見つめた。

「どういう意味?」扇ぐ手を止めて訊く。
「さぁ?」如月は見つめながら左手で俺の右手に触れた。


 普段ならやめろとでも言っていたかもしれない。妖艶な切れ長の瞳に惹きつけられ、返す言葉が出なければ、触られた手を離すこともできなかった。


 人間は欲望に忠実だ。
 左手で如月の頭を触ってみる。あたたかく、熱を感じた。耳元まで指を流し、髪の毛を掬えば、耳には自分とお揃いのピアスが見える。


 卯月から『ピアスのプレゼントはどこに居ても自分の存在を感じて欲しい』だよ、とおちょくられたことを思い出す。


 これ以上はダメだ。引き返せなくなる。如月相手にドキドキして体温が上がるのを感じる。この見つめ合う沈黙で、俺自身がどうかなってしまいそうだ。


「俺をエロいで見るな!」精一杯の言葉だった。
「何言ってるんですか~~先にみてきたのは睦月さんでしょう」如月は起き上がりながら笑った。いつもの如月だ。少し安堵する。

「違うわ!」さっきは一体なんだったのか、少しずつ落ち着きを取り戻していく。

「お兄ちゃ~~ん、ゆっくり出来た?」卯月が遠くから呼ぶ。
「もう、大丈夫だよ。何か乗る?」卯月に訊いた。

「観覧車乗る!」そろそろ疲れてきたし、確かに頃合いかもしれない。
「行こうか」ベンチから立ち上がり観覧車へ向かった。

「お兄ちゃん、少し顔赤いね?」小さい声でニヤニヤしながら卯月が言う。
「赤くないわ!」顔を横に向けて誤魔化した。

「星奈といた時はそんな顔してなかったよ~~? 何があったのかなぁ? 教えてよぉ兄ちゃ~~ん」からかうように肘で押してくる。
「何もないっての!」隣に並ぶ卯月を早足で抜き去る。

「何があったの?」星奈が如月に訊く。
「なにもありませんよ。吐きそうだったので、介抱してもらいました」如月は星奈の頭を撫でる。

「さ、行きましょう」三人は遠くなる睦月の背中を追いかけた。


 日も少しずつ落ち始める。観覧車はライトアップされ、煌びやかだ。


 子供のお守りも疲れた。景色でも眺めながらゆっくり乗りたいところである。かといって如月で2人で乗るのは、先ほどのことがあり、少し気が引ける。


 俺は至って健康な成人男性である。柔らかそうな女性のシルエットを見れば性的欲求を感じる。学生生活では彼女もいたし、求めるがままに快感を得たこともあった。


 なのに、気がつけば視線が勝手に如月を追う。思えば如月ばかり見ている気がする。目が合うと、その瞳に吸い込まれそうになり、一瞬で逸らしてしまう自分がいる。
 

 如月は目が合うたびに優しく微笑んでくれるというのに。


 新たな境地を切り開いてしまったのは俺の方なのかもしれない。


 いや、あり得ない。そんなことは認めない。これは吊り橋効果だ。冷静になれ。


 気持ちにきつく蓋をし、観覧車の列に並んだ。
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