歌え!シエラ・クロウ

くぼう無学

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シエラのゆくえ

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 山小屋から、ルイスとマークが飛び出して来た。そして勢いそのままに、エズメとジェシカの所までやって来る。
「どうしたの! 何かあったの!」
 エズメがマークの腕をつかむ。
「おお、エズメか。出たぞ、ホントに出た」
「出たって、なに、幽霊?」
 マークは山小屋をふり返って、
「そうだよ。幽霊だよ。幽霊さがしで、本当に幽霊が出やがった」
 それを聞いたジェシカ、両手で口を覆って、
「ルイスも見た?」
 はあはあと荒い息を整えながら ルイス、
「僕も見た。二階で見た。この目で見た」
 エズメとジェシカが顔を見合わせて、
「えーっ!」
 荒れ果てた山小屋は、その中で幽霊の存在が明らかとなって、よりいっそう不気味さを増していた。エズメはマークの背中に隠れて、なるべく山小屋の方を見ないようにして、
「ねえ マーク、どんなだった? どんな幽霊だった?」
 あごに手を置いて、上を見るマーク。
「どんなだったか。そうだな、とにかく白いやつだった。一瞬の事で ハッキリとは覚えてないが、ふわふわと浮かんでいて、いきなり俺たちの方へ近づいて来た」
「やだー、怖いー」
 ジェシカが耳をふさぐ。
 ルイスは真剣な顔で地面を見つめて、
「驚いたな。幽霊って、本当に存在したんだ」
 いきなりエズメが頭を抱えて、
「これじゃ怖くてもうこの山には来られないじゃない」と嘆いた所で、その動きをピタリと止めて、
「シエラは?」
 マークの太い眉が上がる。
「シエラ?」
「そうよ、シエラよ。彼女はどこ?」
「うん? あれ? そういえば、どこだ? おいルイス、お前 知らねえか?」
 ルイスはみんなの顔を数えるようにして、
「あれ? ホントだ、いない。さっきまで僕の後ろにいたんだけど」
 エズメが地面を踏み鳴らして、
「やだー、もう何やってんのよー、一緒に行動していたんじゃないのー!」
「おいルイス、俺たちが二階へ上がった時、あいつ いたか?」
「たぶん、いたと思う。あれ? いなかったかな?」
 エズメは二人のほっぺたを同時にツネる。
「痛てて」
「おい なにしやがる」
「ちょっと ちょっと しっかりしてよ あんたたち。まさかシエラをあの中に置き去りにして来たんじゃないでしょうねえ」
 マークとルイスは顔を合わせる。
「置き去り? うーん、いなくなった? うーん」
 ルイスは何度も首をかしげる。
 しびれを切らしたエズメが二人の背中を強く押して行って、
「もういっぺんあの中に入って来なさい二人とも! まったく、自分たちが逃げるのに必死で 女の子をその場に置いて来るなんて サイテーよ」
 マークが頭を掻きながら、山小屋の方へと向かうが、その足取りは重い。
「そうは言うけどよ お前、あの中には幽霊がいるんだぜ」
「シエラもいるの! ったく、あの子が幽霊に襲われたらどうするの。早く助けに行って」
 しぶしぶ二人は山小屋へ戻って、もう一度建物の中の探索を始める。まずは一階、大声でシエラの名前を呼んで、あちこちの部屋を見て回って、そこから二人は二手に分かれて、建物の中をぐるっと一周して、また入口で合流する。いくらシエラの名前を呼んでみても、いっこうに返事は返らない。残るはあと二階、さっき幽霊が出た二階、二人は真剣な顔を突き合わせて、うんとうなずき合ってから、そろりそろりと階段を上がって行く。
 そーっと二階へ顔を出して、あちこちに目を動かして、
「いないね」
「ああ、いない」
 さっき見た時のまま、散らかり放題の二階。イスの上にボロボロのフランス人形が置いてある。二人はシエラの名前を呼んで、今度は二階の探索を始める。
「シエラー、どこー?」
「おーい、隠れてないで、出て来いよ」
 二階は部屋数が少なく、見る所も少なかった。マークが窓から顔を出して、遠くを見て、下を見る。エズメとジェシカの顔が上がった。
「いたー?」
 首を横に振って、
「いない。どこを探しても見つからない」
「そんなわけないでしょう、もっとちゃんと探して」
 エズメが両腕を突き上げる。
 それからも二人は山小屋の中をぐるぐる回って、倒れた家具を起こしてみたり、天井裏へ首を突っ込んでみたり、した所で、やはりシエラはどこにもいなかった。
 四人は外で立ち話を始めた。
「これだけ探しても見つからないって事はよ」とマーク、ゆっくりと腕を組んで、
「やっぱりシエラはこの中にいないんだよ」
 ジェシカは青い顔をして、みんなの顔を見る。
「いないって、どういうこと? それじゃ、シエラはどこへ行ったの?」
「もしかしたらさ」とルイス、ピンと人差し指を立てて、
「もう家に帰っちゃった、て事はないかな。ほら、僕らと一緒に山小屋から飛び出して来たけど、そのまま向こうの方角、サウスヒルの方角から走って帰っちゃったとか」
 エズメは顔をしかめて、
「あたしらに内緒で?」
 そこで深く唸るマーク、
「あいつは、そんな事をするヤツじゃねえけど、みんなに黙って帰るようなヤツじゃねえけど、もしかして幽霊を見てパニックになったんじゃねえか? 俺らだって取り乱して逃げ出して来たわけだし、気が動転して、そのまま家へ帰っちまったとか。
 あの山小屋の中にいないって事は、あとはそれくらいしか考えられない。
 なあ ジェシカ。お前、シエラの家へ行ってみてくれないか? 俺らはもう少し近くを探すから」
「ええ、分かったわ。エズメも、行こ」
「うん、いいけど。でもシエラってさ、確かロード邸に住んでいるって言っていたよね」
「そうだよ」とルイス。
「あそこの人って、確かジェニファー・ロードさんって人だけど、気難しくて有名だから、シエラの事を話したら、ややこしい事になりそう」
 それを聞いたマーク、ちっと舌打ちをして、
「なにもかも正直に言うやつがあるか。シエラが帰っているかどうか、それだけ確かめればいい」
「それもそうね。じゃ、あまり遅くならないうちに、行ってくるわ。ジェシカ、行こ」
「うん」
 山を駆け下りて行く二人、その姿を見送って マーク、
「参ったな、こりゃ。ルイス、これは大ごとになるぞ。幽霊さがしをしていて、シエラが行方不明になっちまった。俺ら、相当怒られる」
 ルイスはマークの肩に手を置いて、
「次は、山小屋の近くを探索してみよう。もしかしたら、木の陰や、岩の後ろに、シエラはじっとうずくまっているかもしれない。幽霊を見た恐怖から、ふるえが止まらなくて声が出せないのかもしれない。
 それでも見つからなかったら、とにかく、エズメたちを待とう。彼女らの連絡を待って、それでもし、シエラが家にいないのであれば、その時は、町の人に正直に話そう。怒られたってもう仕方がないよ。町のみんなでシエラを探そう」
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