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パラメのイラ立ち
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「気に入らないわね!」
聖歌隊のリーダー、パラメ・ドレイクは、ぷりっぷりでレモネードを飲み干した。
「なんであたしがあんな屈辱を受けなければならないのよ! ったくもう!」
教会の親善会が催されているホールでは、今や、華やかな衣装を召した婦人たちと、修道服に身を包んだ少女たちとが、和やかなムードで親善を深めていた。
長椅子を移動させてできた床のスペースに、大きな丸テーブルを三つ置いて、その上に白いテーブルクロスを被せると、後は美味しそうなパンケーキやレモネード、プディングなどが並べられた。
ちょうどその一つを飲み干したのが、パラメだった。
「ちょっと、聞いているの! エイミー、グレース」
ぎょろ目のエイミーは、忌々しそうにパンケーキを頬ばった。
「聞いていますとも。元はと言えば、ぜーんぶソフィが悪いんですよ! なのにどうしてあたしたちがこんな目に遭わなければならないのですか!」
パラメたちが怒るのも無理はなかった。なぜなら彼女たちは、今の今までヒルトン先生にお灸をすえられていたからだ。
彼女たちがソフィにいたずらをして、ソフィがラスタルまで行ってしまった、その悪事はどうしてか先生の耳に入っていた。
「エイミーなんかまだいいわ。そらグレースを見てみなさい可哀そうに、ちょっと口答えしたものだから、あんたより五発も多くムチが入ったのよ」
まるっ鼻のグレースは、じんじん痛むお尻をかばって、絶妙な歩き方をしていた。
「いたわ! ソフィよ! あんな隅っこでまあお澄ましした顔をしちゃってさ。見てなさいエイミー、グレース。あたしがあんたたちの仇をとってあげるから!」
ソフィは、にぎやかな親善会を遠くから眺めるように、ホールの片隅にぽつんと立っていた。その表情は、いつもの通り色が無く、退屈そうで、他の者から一線を引いて立っていた。
そこへ怒りに満ちたパラメたちがやって来たとあって、ソフィの表情はより一層暗くなった。
「あらあら大スターさん、まあどうなすったの? そんな隅っこで一人寂しくお佇みになって、何か不愉快な思いでもなすったのかしら?」
パラメは大きく腕を組んで、ソフィの正面に立った。
後からやって来たエイミーとグレースは、ソフィの左右をふさぐ形で立ち止まった。
「あたしは懸命よ? あなたが軽いジョークを本気になすって、勝手にラスタルまで歩いていった、その一部始終を先生に告げ口なさったって、この通り親善会を大いに楽しんでいるのですもの」
告げ口? ソフィは首を傾げた。
「なんとか言ったらどうなの? じっさい卑怯じゃない、陰でコソコソするような真似をして」
パラメの笑顔は引き攣っていた。
その顔を見てソフィは、ははんと心に言った。
パラメたちのいたずらの件、それを先生へ報告したのは、リューイッヒだった。
「さあ、なんとか言いなさいよ。あたしたちには何も言えなくて、後で先生に泣きつくわけ? 卑怯だわ。もっと正々堂々とおなりなさいよ」
「正々堂々?」
ソフィの冷静な目が上がった。
「偽りの買い物を人に頼む事は、正々堂々かしら?」
パラメの眉毛がひくりと動いた。
「あれは、あんまりにもあなたが暇そうにしていたから、あたしたちはちょっとあなたと遊んであげただけの事よ。だってあなたに買い出しなんか頼めるわけがないじゃない、ほんのジョークよジョーク。それを偽りだなんて、まあ深刻にお受け取りになすって、あなた一々オーバーだわ。それをよりによって先生に告げ口するだなんて、そんな波風を立てる人が一人でも聖歌隊にいると、あたしたちの調和が乱れるわ」
ソフィは目を閉じて、肩で息を入れた。
「それなら、先生にこう伝えて。聖歌隊に波風を立てるソフィは、メイトリアール教会に相応しくない、今すぐに聖歌隊から彼女を外してって。わたしは結構よ。誰かさんみたいに、人を蹴落としてまで聖歌隊にしがみつきたいとは思わないもの」
それを聞いたパラメは、頭に血が上った。
「おだまりなさい! あんた何様のつもりよ! いっつも反抗的で、人を軽蔑して、歌の練習だって満足に来やしない、そんな怠け者が、どうして我が崇高な聖歌隊の顔でいられるのよ! あたしたちがどれだけ歯を食いしばって、厳しいレッスンを受けてきたと思っているのよ!」
それまでにぎやかだったホールが、しんと静まり返った。
「土下座でもなんでもして、いまあなたが言ったこと、訂正しなさい!」
感情的になって床に指を差すパラメと、氷のような冷たい目を上げたソフィ、この二人は一触即発の空気に包まれた。エイミーとグレースは、あまりの恐ろしい展開に、一歩後ろへ下がった。
と、ちょうどその時、
「ソフィ? あらどこにいるのかしら、ソフィ?」
まるで自分の犬の名でも呼ぶように、ヒルトン先生がホールに入って来た。少女たちは二人の様子を見守りながら、わらわらと道をあけた。
「ああ、いたわね。まああなたそんな隅の方で何をしているの? あなたに大切なお客さまがお見えよ? さあ早くこちらへいらっしゃい」
先生はパラメの背中を押し退けて、ソフィの手を取ると、そのままさっさと会場を後にした。ソフィは先生に引かれながら、ちらりとパラメを振り返った。そこにはハンカチを噛みしめて悔しがるパラメの姿があった。
「何よ! 何よ何よ何よ! いっつも先生ったら、ふた言目にはソフィソフィって。聖歌隊のリーダーは、このあたしなのよ! なのにどうしてもっとあたしに目をかけてくれないのよ!
エイミー、グレース、むしゃくしゃするわ! あんたたちあっちへ行ってなさい!」
聖歌隊のリーダー、パラメ・ドレイクは、ぷりっぷりでレモネードを飲み干した。
「なんであたしがあんな屈辱を受けなければならないのよ! ったくもう!」
教会の親善会が催されているホールでは、今や、華やかな衣装を召した婦人たちと、修道服に身を包んだ少女たちとが、和やかなムードで親善を深めていた。
長椅子を移動させてできた床のスペースに、大きな丸テーブルを三つ置いて、その上に白いテーブルクロスを被せると、後は美味しそうなパンケーキやレモネード、プディングなどが並べられた。
ちょうどその一つを飲み干したのが、パラメだった。
「ちょっと、聞いているの! エイミー、グレース」
ぎょろ目のエイミーは、忌々しそうにパンケーキを頬ばった。
「聞いていますとも。元はと言えば、ぜーんぶソフィが悪いんですよ! なのにどうしてあたしたちがこんな目に遭わなければならないのですか!」
パラメたちが怒るのも無理はなかった。なぜなら彼女たちは、今の今までヒルトン先生にお灸をすえられていたからだ。
彼女たちがソフィにいたずらをして、ソフィがラスタルまで行ってしまった、その悪事はどうしてか先生の耳に入っていた。
「エイミーなんかまだいいわ。そらグレースを見てみなさい可哀そうに、ちょっと口答えしたものだから、あんたより五発も多くムチが入ったのよ」
まるっ鼻のグレースは、じんじん痛むお尻をかばって、絶妙な歩き方をしていた。
「いたわ! ソフィよ! あんな隅っこでまあお澄ましした顔をしちゃってさ。見てなさいエイミー、グレース。あたしがあんたたちの仇をとってあげるから!」
ソフィは、にぎやかな親善会を遠くから眺めるように、ホールの片隅にぽつんと立っていた。その表情は、いつもの通り色が無く、退屈そうで、他の者から一線を引いて立っていた。
そこへ怒りに満ちたパラメたちがやって来たとあって、ソフィの表情はより一層暗くなった。
「あらあら大スターさん、まあどうなすったの? そんな隅っこで一人寂しくお佇みになって、何か不愉快な思いでもなすったのかしら?」
パラメは大きく腕を組んで、ソフィの正面に立った。
後からやって来たエイミーとグレースは、ソフィの左右をふさぐ形で立ち止まった。
「あたしは懸命よ? あなたが軽いジョークを本気になすって、勝手にラスタルまで歩いていった、その一部始終を先生に告げ口なさったって、この通り親善会を大いに楽しんでいるのですもの」
告げ口? ソフィは首を傾げた。
「なんとか言ったらどうなの? じっさい卑怯じゃない、陰でコソコソするような真似をして」
パラメの笑顔は引き攣っていた。
その顔を見てソフィは、ははんと心に言った。
パラメたちのいたずらの件、それを先生へ報告したのは、リューイッヒだった。
「さあ、なんとか言いなさいよ。あたしたちには何も言えなくて、後で先生に泣きつくわけ? 卑怯だわ。もっと正々堂々とおなりなさいよ」
「正々堂々?」
ソフィの冷静な目が上がった。
「偽りの買い物を人に頼む事は、正々堂々かしら?」
パラメの眉毛がひくりと動いた。
「あれは、あんまりにもあなたが暇そうにしていたから、あたしたちはちょっとあなたと遊んであげただけの事よ。だってあなたに買い出しなんか頼めるわけがないじゃない、ほんのジョークよジョーク。それを偽りだなんて、まあ深刻にお受け取りになすって、あなた一々オーバーだわ。それをよりによって先生に告げ口するだなんて、そんな波風を立てる人が一人でも聖歌隊にいると、あたしたちの調和が乱れるわ」
ソフィは目を閉じて、肩で息を入れた。
「それなら、先生にこう伝えて。聖歌隊に波風を立てるソフィは、メイトリアール教会に相応しくない、今すぐに聖歌隊から彼女を外してって。わたしは結構よ。誰かさんみたいに、人を蹴落としてまで聖歌隊にしがみつきたいとは思わないもの」
それを聞いたパラメは、頭に血が上った。
「おだまりなさい! あんた何様のつもりよ! いっつも反抗的で、人を軽蔑して、歌の練習だって満足に来やしない、そんな怠け者が、どうして我が崇高な聖歌隊の顔でいられるのよ! あたしたちがどれだけ歯を食いしばって、厳しいレッスンを受けてきたと思っているのよ!」
それまでにぎやかだったホールが、しんと静まり返った。
「土下座でもなんでもして、いまあなたが言ったこと、訂正しなさい!」
感情的になって床に指を差すパラメと、氷のような冷たい目を上げたソフィ、この二人は一触即発の空気に包まれた。エイミーとグレースは、あまりの恐ろしい展開に、一歩後ろへ下がった。
と、ちょうどその時、
「ソフィ? あらどこにいるのかしら、ソフィ?」
まるで自分の犬の名でも呼ぶように、ヒルトン先生がホールに入って来た。少女たちは二人の様子を見守りながら、わらわらと道をあけた。
「ああ、いたわね。まああなたそんな隅の方で何をしているの? あなたに大切なお客さまがお見えよ? さあ早くこちらへいらっしゃい」
先生はパラメの背中を押し退けて、ソフィの手を取ると、そのままさっさと会場を後にした。ソフィは先生に引かれながら、ちらりとパラメを振り返った。そこにはハンカチを噛みしめて悔しがるパラメの姿があった。
「何よ! 何よ何よ何よ! いっつも先生ったら、ふた言目にはソフィソフィって。聖歌隊のリーダーは、このあたしなのよ! なのにどうしてもっとあたしに目をかけてくれないのよ!
エイミー、グレース、むしゃくしゃするわ! あんたたちあっちへ行ってなさい!」
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