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年下のお灸
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あの頃、私も、若かった。
どうしようもなく、幼かった。
私はしょっちゅう、へんな事を言って、母を困らせた。いま思っても恥ずかしいくらい、間違った事を言って、母を困らせた。
そうした時、母はどうしたか。そうした時、母は私を叱るというよりか、やさしい気持ちになって、テーブルの上を片づけて、いいですかと言って、その考えがどうして間違っているのか、説法を始めた。私は、「あーまたやってしまった」と、頭を抱えるのが常だった。
そんな母の話の中で、いまだに私の記憶に残っている、エピソードというものがある。
それが、原発の話だ。
原発、それは、原子力発電所である事は言うまでもないが、近年、この発電所によって、日本という国が大きく揺れた。その余震は、いまだに落ち着かない様子である。当時の母は、この原発について、いち早く警鐘を鳴らしていた一人だった。というのも、当時県内にも、原子力発電所の誘致が進められていたからだ。
母は、あからさまに嫌悪していた。冷静さを保とうとしながらも、めまいにも似た興奮がおさえきれない、子供の目からも、それがはっきりとわかった。
そして、原発に何らかの大事故が起きて、即時避難しなければならない、半径二〇キロメートル圏内に、自分の家が含まれなかった事を知って、私、ついうっかり「良かった」と言ってしまった。
母の顔色が変わった。
「自分さえ良ければ良いというものではない」
私はまた、へんな事を言ってしまった。
「自分さえ良ければ良い、そのような考えでは、いつか社会は分断する」
それから数十年の年月が経ち、その年月の中で、母は死んで行った。その子供はといえば、今ではいい大人になって、あちこちで一人前の口をきいている。けれどもやっぱり、懲りもせず、時折へんな事を口走る。そんな時には、いつも、私の頭の中に母の声が聞こえて来るのだ。
「自分さえ良ければ良いというものではない」
今となっては、だいぶ年下の女性から、お灸をすえられるのである。
どうしようもなく、幼かった。
私はしょっちゅう、へんな事を言って、母を困らせた。いま思っても恥ずかしいくらい、間違った事を言って、母を困らせた。
そうした時、母はどうしたか。そうした時、母は私を叱るというよりか、やさしい気持ちになって、テーブルの上を片づけて、いいですかと言って、その考えがどうして間違っているのか、説法を始めた。私は、「あーまたやってしまった」と、頭を抱えるのが常だった。
そんな母の話の中で、いまだに私の記憶に残っている、エピソードというものがある。
それが、原発の話だ。
原発、それは、原子力発電所である事は言うまでもないが、近年、この発電所によって、日本という国が大きく揺れた。その余震は、いまだに落ち着かない様子である。当時の母は、この原発について、いち早く警鐘を鳴らしていた一人だった。というのも、当時県内にも、原子力発電所の誘致が進められていたからだ。
母は、あからさまに嫌悪していた。冷静さを保とうとしながらも、めまいにも似た興奮がおさえきれない、子供の目からも、それがはっきりとわかった。
そして、原発に何らかの大事故が起きて、即時避難しなければならない、半径二〇キロメートル圏内に、自分の家が含まれなかった事を知って、私、ついうっかり「良かった」と言ってしまった。
母の顔色が変わった。
「自分さえ良ければ良いというものではない」
私はまた、へんな事を言ってしまった。
「自分さえ良ければ良い、そのような考えでは、いつか社会は分断する」
それから数十年の年月が経ち、その年月の中で、母は死んで行った。その子供はといえば、今ではいい大人になって、あちこちで一人前の口をきいている。けれどもやっぱり、懲りもせず、時折へんな事を口走る。そんな時には、いつも、私の頭の中に母の声が聞こえて来るのだ。
「自分さえ良ければ良いというものではない」
今となっては、だいぶ年下の女性から、お灸をすえられるのである。
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