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8. 勇気を出して
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この日の午後の授業は、体育。
「昼休みのあとの体育って、キツいよね」
体操服に着替えたわたしは、ナナちゃんとミサキちゃんと一緒に体育館へとやって来た。
「確かにキツいけど。あたし、授業で大好きなバスケができるのはすっごく嬉しい~っ!」
女子バスケ部に所属しているミサキちゃんのテンションが、一気に高くなる。
体育の授業では、先週からバスケットボールに取り組んでいて。今日は、先週の続きをするらしい。
全体で準備運動をしたあと、コートを半分ずつ分けて男女別々にさっそく練習開始。
体育館には、ダンダンと床にボールを叩きつける音が響き渡る。
わたしは運動オンチなうえに、球技全般が大の苦手。
だから、ミサキちゃんには悪いけど。正直、バスケはあまり好きじゃないんだよね。
しばらく、先週同様にドリブルやパスの練習をして。その次は、シュートの練習。
ひとりずつ順番に、3回続けてリングに向かってボールを投げるのだけど。
「次、水瀬咲来!」
「はい!」
赤いジャージ姿の体育の先生に名前を呼ばれ、わたしは所定の位置に立ってボールを構える。
その途端、バクバクと胸の鼓動が速まる。
ああ、ついにわたしの順番が来ちゃったよ。
わたしよりも先にシュートした子たちはみんな、3回挑んでそのうち最低1回はシュートが決まっていた。
だから……もしわたしだけ一度もシュートが決まらなかったら、どうしよう。
そんな不安な気持ちが増すなか……。
──ピッ!
ボールを投げる合図のホイッスルが鳴り、わたしは意を決してボールを放つ。
だけど、ボールがリングまで届かなかったり。
バンッ!
バックボードに、ボールが当たってしまったり。
ボールが変なところへと飛んでいってしまったりと、3回とも物の見事にシュートが決まらなかった。
ああ、ダメだったなあ。
肩を落としながら、とぼとぼとわたしはドリブルの練習へと戻る。
「次、水瀬聖来!」
「はいっ!」
次は聖来の番らしく、体育館のすみっこでドリブルの練習をしながらわたしは、視線を聖来へと向ける。
シュッ! スパッ!
聖来は、こちらが思わず見惚れてしまうくらいの綺麗なフォームで、次々とシュートを決めていく。
姉のわたしと違って、3回とも全て決めちゃうなんて。我が妹ながら、すごい。
「キャーッ! 聖来ちゃん、すごーい」
「かっこいい~」
聖来といつも一緒にいる取り巻きの女の子たちが、声をあげる。
「双子なのに、さっきの咲来ちゃんとは大違いだよね」
「ほんとね~」
わたしのほうを見てクスクスと笑う取り巻きの女の子に、わたしの頬は一瞬で熱くなる。
でも、笑われても仕方ない。あの子たちの言うとおりだから。
聖来とは、同じ両親から生まれた姉妹なのに。
聖来は可愛くて、勉強も運動もできるのに……どうしてわたしだけ、こんなにも出来ないんだろう。
もしかして、生まれてくるとき聖来に良いところを全部持っていかれちゃったのかな?
ついそんなふうに考えてしまうくらい、わたしたちの差は歴然だ。
けど、落ち込んでいたらダメだ。『いつも前向きで、笑顔でいなさい』って、おばあちゃんが言ってたから。
ふと祖母の口癖を思い出したわたしが、何気なく視線を遠くに向けたとき。
男の子が使っているほうのコートに、いつの間にかギャラリーができているのに気づいた。
どうやら、男の子たちはいま試合形式で練習をしているみたい。
「キャーッ!」
「頑張ってえ」
休憩中の女の子たちが試合を観ながら、黄色い声援を送っている。
いま試合をしている男の子たちのなかに、わたしは紫苑くんの姿を見つけた。
ちょうど紫苑くんにボールが渡ったところで、彼はドリブルを始めた。
そういえば、紫苑くんがバスケするところを見るのは初めてかも。
紫苑くんはディフェンスを交わし、軽やかにドリブルをして同じチームの子にパスを出す。
「うわあ、すごい」
気づけばわたしは、紫苑くんから目が離せなくなっていた。
ボールを追いかける紫苑くんの横顔はいつも以上に真剣で、見ていて胸がドキドキする。
そしてボールは再び、紫苑くんへとまわされた。
紫苑くんはドリブルをしながらゴール下まで行き、シュタッとジャンプする。
紫苑くんの手から離れたボールは、リングに触れることなく、きれいに吸い込まれていった。
「かっこいい……」
わたしは、無意識に声がこぼれてしまう。
紫苑くんって勉強だけでなく、スポーツも得意なんだ。
わたしも紫苑くんみたいに、あんなふうにかっこよくシュートを決めてみたいな。
そんなことをひとり思っていると。
「……誰がかっこいいって?」
「っ!」
後ろから突然声がして振り返ると、ニヤニヤ顔のミサキちゃんとナナちゃんが立っていた。
「咲来ちゃんもしかして今、滝川くんのことを見てたの?」
「……えっと」
ナナちゃんに図星を突かれ、わたしは頬がかっと熱くなる。
「ああっ。咲来ちゃん、顔真っ赤! 可愛い~」
「もしかして、当たり!?」
ミサキちゃんたちにからかわれるように言われ、いつの日か図書室で紫苑くんにも同じようなことを言われたことを思い出した。
──『すぐに顔赤くなっちゃって。咲来って素直で、ほんとに可愛いね』
そのときの紫苑くんの笑顔を思い出して、胸がドキッと跳ねた。
「じ、実は、あの……紫苑くんがさっきシュートを決めてるのを見て、かっこいいなって思って」
「ああ、確かに。滝川くん、すごかったよね」
「バスケ部の人にも負けないくらい、上手だった!」
ウンウンと、わたしの話に頷いてくれるふたり。
「それで、わたしも紫苑くんみたいに、シュートを決められるようになりたいって思って……」
気づいたらわたしは、聖来みたいに笑ったりすることなく、自分の話をちゃんと聞いてくれるナナちゃんたちに本音をぶつけていた。
「ほら、わたし……さっきの練習で、一度もシュートが決まらなかったから」
そういえば、ミサキちゃんはバスケ部で。
さっきのシュート練習のときも、3回ボールを投げてその3回とも全てシュートが決まっていたな。さすがバスケ部って感じで、すごかった。
わたしはちらっと、ミサキちゃんのほうに視線をやる。
次の体育の授業で、シュートがちゃんとできるようになったか確認のテストをするって、さっき先生が言っていた。
このままじゃきっと、わたしは不合格だから。バスケ部のミサキちゃんに、シュートのコツとか聞いてみたい。
そして、できれば練習にも付き合ってもらえたら……。
だけど、最近ふたりに声をかけてもらえるようになって。一緒に過ごす時間が増えてきたのに。
こんな余計なことを言ったら、面倒なヤツとか思われちゃうかな? そこまでの仲じゃないのにって思われて、わたしから離れていっちゃうかな?
汗が背中を伝い、痛いくらいに鼓動が高鳴る。
……だけど、このままじゃきっと何も変わらない。
聖来の取り巻きの子たちに笑われたまま終わるのは嫌だし。バスケのシュートだって、上手くできるようになりたい。
それに、ずっと苦手だった球技やバスケを、これからは少しでも好きになりたいって思うから。
面倒な頼み事をして、嫌われたらって思うと怖いけど……勇気を出して。
「あっ、あの……ミサキちゃん!」
「ん? なに?」
高鳴る胸を、わたしは体操服の上から手でそっと押さえる。
「えっと、その……良かったらわたしに、バスケを教えてもらえないかな?」
思いのほか大きな声が出てしまい、ミサキちゃんが目を見開く。
「次の体育のテストでわたし、ちゃんとシュートができるようになりたいの。だから……」
思えば、紫苑くん以外のクラスメイトに、初めてこんなお願いごとをしてしまった。
「咲来ちゃん……」
ミサキちゃんの声が、わずかに低くなった。
もし断られたら、どうしようって思うけど。そのときは、ひとりで練習すれば良いだけのこと。
ミサキちゃんの顔を見るのが怖くて、うつむいてしまいそうになる顔をわたしは何とか上げる。
「……いいよ」
「えっ?」
「いいよ。あたしで良ければ、いくらでも教える。一緒にシュートの練習しよ?」
「良いの!?」
「うん。だって、あたしたち……友達でしょ?」
「友達……」
ミサキちゃんの口から出た『友達』という言葉に、目頭がじわっと熱くなる。
「もう~! 咲来ちゃんが、やけに深刻な顔してるから。何を言われるんだろうって、つい身構えちゃったじゃん~」
ミサキちゃんが、わたしの肩をバシッと叩く。
「痛いよー。ていうかわたし、そんな深刻な顔してた?」
「うん。こーんな顔になってたよ」
ナナちゃんが、ちょっとオーバー気味に眉を寄せてみせる。それがおかしくて、わたしは吹き出してしまった。
「ふふ、そっか。わたし……余計なことを言って、もしミサキちゃんたちに嫌われたらどうしようって思ってたから」
「こんなことで、いちいち嫌いになったりしないよ。ねえ、ナナ?」
「うん。それとも咲来ちゃんは、ナナたちがこの前数学の応用問題の解き方を聞いたとき、ナナたちのこと面倒だなって思ったり、嫌いになったりした?」
「ううん! そんなことない!」
わたしは、首をブンブンと繰り返し横に振る。
「でしょう。咲来ちゃんは、ちょっと気にしすぎなんだよ。リラックスリラックス!」
「友達に、遠慮なんていらないんだから」
ふたりの言葉に、胸の奥のほうが温かくなる。
「ありがとう。ナナちゃん、ミサキちゃん!」
「そうだ。バスケの確認テストと期末テストが終わったら、3人で遊びに行かない?」
「おっ、いいねえ」
ナナちゃんの提案に、ミサキちゃんが乗る。
友達から遊びに誘われるなんて、中学生になってからは初めてのことで、わたしは胸がいっぱいになる。
「ねえ、咲来ちゃんは?」
「わたしも、みんなと行きたい!」
「だったら、決まりだね~」
「よーし。それじゃあゴールリング使わせてもらえるか先生に聞いて、さっそくシュートの練習しようか」
学校生活も、少しずつ風向きが良くなっているように感じる。
これからバスケのシュートの練習も、期末テストの勉強も頑張って。
ナナちゃんやミサキちゃんと、良い関係になれたように。お母さんや聖来との関係も、今よりも良くなるといいなって思う。
「昼休みのあとの体育って、キツいよね」
体操服に着替えたわたしは、ナナちゃんとミサキちゃんと一緒に体育館へとやって来た。
「確かにキツいけど。あたし、授業で大好きなバスケができるのはすっごく嬉しい~っ!」
女子バスケ部に所属しているミサキちゃんのテンションが、一気に高くなる。
体育の授業では、先週からバスケットボールに取り組んでいて。今日は、先週の続きをするらしい。
全体で準備運動をしたあと、コートを半分ずつ分けて男女別々にさっそく練習開始。
体育館には、ダンダンと床にボールを叩きつける音が響き渡る。
わたしは運動オンチなうえに、球技全般が大の苦手。
だから、ミサキちゃんには悪いけど。正直、バスケはあまり好きじゃないんだよね。
しばらく、先週同様にドリブルやパスの練習をして。その次は、シュートの練習。
ひとりずつ順番に、3回続けてリングに向かってボールを投げるのだけど。
「次、水瀬咲来!」
「はい!」
赤いジャージ姿の体育の先生に名前を呼ばれ、わたしは所定の位置に立ってボールを構える。
その途端、バクバクと胸の鼓動が速まる。
ああ、ついにわたしの順番が来ちゃったよ。
わたしよりも先にシュートした子たちはみんな、3回挑んでそのうち最低1回はシュートが決まっていた。
だから……もしわたしだけ一度もシュートが決まらなかったら、どうしよう。
そんな不安な気持ちが増すなか……。
──ピッ!
ボールを投げる合図のホイッスルが鳴り、わたしは意を決してボールを放つ。
だけど、ボールがリングまで届かなかったり。
バンッ!
バックボードに、ボールが当たってしまったり。
ボールが変なところへと飛んでいってしまったりと、3回とも物の見事にシュートが決まらなかった。
ああ、ダメだったなあ。
肩を落としながら、とぼとぼとわたしはドリブルの練習へと戻る。
「次、水瀬聖来!」
「はいっ!」
次は聖来の番らしく、体育館のすみっこでドリブルの練習をしながらわたしは、視線を聖来へと向ける。
シュッ! スパッ!
聖来は、こちらが思わず見惚れてしまうくらいの綺麗なフォームで、次々とシュートを決めていく。
姉のわたしと違って、3回とも全て決めちゃうなんて。我が妹ながら、すごい。
「キャーッ! 聖来ちゃん、すごーい」
「かっこいい~」
聖来といつも一緒にいる取り巻きの女の子たちが、声をあげる。
「双子なのに、さっきの咲来ちゃんとは大違いだよね」
「ほんとね~」
わたしのほうを見てクスクスと笑う取り巻きの女の子に、わたしの頬は一瞬で熱くなる。
でも、笑われても仕方ない。あの子たちの言うとおりだから。
聖来とは、同じ両親から生まれた姉妹なのに。
聖来は可愛くて、勉強も運動もできるのに……どうしてわたしだけ、こんなにも出来ないんだろう。
もしかして、生まれてくるとき聖来に良いところを全部持っていかれちゃったのかな?
ついそんなふうに考えてしまうくらい、わたしたちの差は歴然だ。
けど、落ち込んでいたらダメだ。『いつも前向きで、笑顔でいなさい』って、おばあちゃんが言ってたから。
ふと祖母の口癖を思い出したわたしが、何気なく視線を遠くに向けたとき。
男の子が使っているほうのコートに、いつの間にかギャラリーができているのに気づいた。
どうやら、男の子たちはいま試合形式で練習をしているみたい。
「キャーッ!」
「頑張ってえ」
休憩中の女の子たちが試合を観ながら、黄色い声援を送っている。
いま試合をしている男の子たちのなかに、わたしは紫苑くんの姿を見つけた。
ちょうど紫苑くんにボールが渡ったところで、彼はドリブルを始めた。
そういえば、紫苑くんがバスケするところを見るのは初めてかも。
紫苑くんはディフェンスを交わし、軽やかにドリブルをして同じチームの子にパスを出す。
「うわあ、すごい」
気づけばわたしは、紫苑くんから目が離せなくなっていた。
ボールを追いかける紫苑くんの横顔はいつも以上に真剣で、見ていて胸がドキドキする。
そしてボールは再び、紫苑くんへとまわされた。
紫苑くんはドリブルをしながらゴール下まで行き、シュタッとジャンプする。
紫苑くんの手から離れたボールは、リングに触れることなく、きれいに吸い込まれていった。
「かっこいい……」
わたしは、無意識に声がこぼれてしまう。
紫苑くんって勉強だけでなく、スポーツも得意なんだ。
わたしも紫苑くんみたいに、あんなふうにかっこよくシュートを決めてみたいな。
そんなことをひとり思っていると。
「……誰がかっこいいって?」
「っ!」
後ろから突然声がして振り返ると、ニヤニヤ顔のミサキちゃんとナナちゃんが立っていた。
「咲来ちゃんもしかして今、滝川くんのことを見てたの?」
「……えっと」
ナナちゃんに図星を突かれ、わたしは頬がかっと熱くなる。
「ああっ。咲来ちゃん、顔真っ赤! 可愛い~」
「もしかして、当たり!?」
ミサキちゃんたちにからかわれるように言われ、いつの日か図書室で紫苑くんにも同じようなことを言われたことを思い出した。
──『すぐに顔赤くなっちゃって。咲来って素直で、ほんとに可愛いね』
そのときの紫苑くんの笑顔を思い出して、胸がドキッと跳ねた。
「じ、実は、あの……紫苑くんがさっきシュートを決めてるのを見て、かっこいいなって思って」
「ああ、確かに。滝川くん、すごかったよね」
「バスケ部の人にも負けないくらい、上手だった!」
ウンウンと、わたしの話に頷いてくれるふたり。
「それで、わたしも紫苑くんみたいに、シュートを決められるようになりたいって思って……」
気づいたらわたしは、聖来みたいに笑ったりすることなく、自分の話をちゃんと聞いてくれるナナちゃんたちに本音をぶつけていた。
「ほら、わたし……さっきの練習で、一度もシュートが決まらなかったから」
そういえば、ミサキちゃんはバスケ部で。
さっきのシュート練習のときも、3回ボールを投げてその3回とも全てシュートが決まっていたな。さすがバスケ部って感じで、すごかった。
わたしはちらっと、ミサキちゃんのほうに視線をやる。
次の体育の授業で、シュートがちゃんとできるようになったか確認のテストをするって、さっき先生が言っていた。
このままじゃきっと、わたしは不合格だから。バスケ部のミサキちゃんに、シュートのコツとか聞いてみたい。
そして、できれば練習にも付き合ってもらえたら……。
だけど、最近ふたりに声をかけてもらえるようになって。一緒に過ごす時間が増えてきたのに。
こんな余計なことを言ったら、面倒なヤツとか思われちゃうかな? そこまでの仲じゃないのにって思われて、わたしから離れていっちゃうかな?
汗が背中を伝い、痛いくらいに鼓動が高鳴る。
……だけど、このままじゃきっと何も変わらない。
聖来の取り巻きの子たちに笑われたまま終わるのは嫌だし。バスケのシュートだって、上手くできるようになりたい。
それに、ずっと苦手だった球技やバスケを、これからは少しでも好きになりたいって思うから。
面倒な頼み事をして、嫌われたらって思うと怖いけど……勇気を出して。
「あっ、あの……ミサキちゃん!」
「ん? なに?」
高鳴る胸を、わたしは体操服の上から手でそっと押さえる。
「えっと、その……良かったらわたしに、バスケを教えてもらえないかな?」
思いのほか大きな声が出てしまい、ミサキちゃんが目を見開く。
「次の体育のテストでわたし、ちゃんとシュートができるようになりたいの。だから……」
思えば、紫苑くん以外のクラスメイトに、初めてこんなお願いごとをしてしまった。
「咲来ちゃん……」
ミサキちゃんの声が、わずかに低くなった。
もし断られたら、どうしようって思うけど。そのときは、ひとりで練習すれば良いだけのこと。
ミサキちゃんの顔を見るのが怖くて、うつむいてしまいそうになる顔をわたしは何とか上げる。
「……いいよ」
「えっ?」
「いいよ。あたしで良ければ、いくらでも教える。一緒にシュートの練習しよ?」
「良いの!?」
「うん。だって、あたしたち……友達でしょ?」
「友達……」
ミサキちゃんの口から出た『友達』という言葉に、目頭がじわっと熱くなる。
「もう~! 咲来ちゃんが、やけに深刻な顔してるから。何を言われるんだろうって、つい身構えちゃったじゃん~」
ミサキちゃんが、わたしの肩をバシッと叩く。
「痛いよー。ていうかわたし、そんな深刻な顔してた?」
「うん。こーんな顔になってたよ」
ナナちゃんが、ちょっとオーバー気味に眉を寄せてみせる。それがおかしくて、わたしは吹き出してしまった。
「ふふ、そっか。わたし……余計なことを言って、もしミサキちゃんたちに嫌われたらどうしようって思ってたから」
「こんなことで、いちいち嫌いになったりしないよ。ねえ、ナナ?」
「うん。それとも咲来ちゃんは、ナナたちがこの前数学の応用問題の解き方を聞いたとき、ナナたちのこと面倒だなって思ったり、嫌いになったりした?」
「ううん! そんなことない!」
わたしは、首をブンブンと繰り返し横に振る。
「でしょう。咲来ちゃんは、ちょっと気にしすぎなんだよ。リラックスリラックス!」
「友達に、遠慮なんていらないんだから」
ふたりの言葉に、胸の奥のほうが温かくなる。
「ありがとう。ナナちゃん、ミサキちゃん!」
「そうだ。バスケの確認テストと期末テストが終わったら、3人で遊びに行かない?」
「おっ、いいねえ」
ナナちゃんの提案に、ミサキちゃんが乗る。
友達から遊びに誘われるなんて、中学生になってからは初めてのことで、わたしは胸がいっぱいになる。
「ねえ、咲来ちゃんは?」
「わたしも、みんなと行きたい!」
「だったら、決まりだね~」
「よーし。それじゃあゴールリング使わせてもらえるか先生に聞いて、さっそくシュートの練習しようか」
学校生活も、少しずつ風向きが良くなっているように感じる。
これからバスケのシュートの練習も、期末テストの勉強も頑張って。
ナナちゃんやミサキちゃんと、良い関係になれたように。お母さんや聖来との関係も、今よりも良くなるといいなって思う。
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