幼なじみの告白。

藤永ゆいか

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1. 冷たい幼なじみ

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あの子は、わたしのことをどう思っているのだろう。

夕焼け空の下。ふわりと吹いた風で、校庭の花壇のマーガレットが静かに揺れる。


お母さんから昔、聞いたことがあるけれど。確か、マーガレットの花言葉は『恋占い』だったっけ。
そのことがふと、頭の中を過ぎった。


白、赤、黄色……。
花壇に植えられている色とりどりのマーガレットのなかで、わたしは白いものを1輪手に取ると。


「好き、嫌い、好き、嫌い……」

グラウンドのそばの階段に座り、花びらを1枚ずつ順番にちぎっていく。


わたし、仲田なかた千紗ちさには今、好きな人がいる。


相手が自分のことをどう思っているのか知りたくなり、恋占いをしてみることにしたわたし。


『好き、嫌い、好き、嫌い』と繰り返し言いながら花びらを1枚ずつちぎっていき、最後の1枚が『好き』で終わったら、相手も自分に好意を寄せてくれていることになるのだけど。


「好き、嫌い……」


花びらはあと、数枚。願わくば、どうか『好き』で終わって欲しい……!


「好き、嫌い……えっ!」

「……おい、千紗。そんなとこで何やってんの?」

「ひゃあっ!」

突然後ろから誰かに肩を叩かれ、わたしは変な声が出てしまった。


「さっ、さく!?」

後ろを振り返ると、すぐそばに立っていたのは幼なじみの安東あんどう朔だった。


朔は、切れ長の瞳が印象的で、アイドル顔負けのルックスをしている。相変わらず、いつ見てもかっこいい。


「もっ、もう~! 朔ったら、いきなりびっくりするじゃない!」

花占いの最中に、意中の相手が突然自分の前に現れて、心臓が飛び出るかと思った。


「は? そんなに驚くことか?! ていうか千紗、その花は……?」

「えっ!?」


わたしは、持っていたマーガレットの花をとっさに背中に隠した。

まさか『朔が私のことを好きかどうか気になったので、花占いをしてました』なんて、本人に言えるわけがない。


「えーっと、あの。マッ、マーガレットの花が、きれいだなぁと思って見てただけだよ」

「ふーん? そうなんだ。まぁ別に俺は、千紗が何をしてようとどうでも良いけど」

そう言うと、朔はくるりとわたしから背を向けて歩き始める。


『別に俺は、千紗が何をしていようとどうでも良いけど』……か。


相変わらず冷たいなぁ。

マーガレットを持つ手に、無意識に力がこもる。


好きな人にそんなふうに言われると、さすがに傷つくんだけどな。


ただでさえさっきの花占いで、最後の花びらが『嫌い』で終わって落ち込んでいるというのに。


ひたすら前を歩いていく朔と、その場に立ち止まったままのわたしの距離が、どんどん開いていく。

わたしと朔の心の距離も、これくらい長く開いているのかな?

一度もこちらを振り返ることなく歩く朔の後ろ姿が、だんだんと小さくなっていく。


「……なぁ、千紗」

一度も足を止めることなくひたすら歩いていた朔が、ふいにこちらを振り返った。


「なっ、何?」

朔が黙って真っ直ぐ、わたしを見てくる。


「どうしたの? 朔」

「お前、まだ帰んないの?」

「え?」

「暗くなって来たけど……」


朔が、空に向かって人差し指を立てる。


朔につられて見上げた空は、いつの間にか藍色に染まり始めていた。


「もうとっくに下校時間過ぎてるし、辺りも暗いし。お前ひとりじゃ心配だから、その……」


朔が、がしがしと頭を掻く。


「俺と……一緒に帰る?」

「えっ!?」


まさか、朔がわたしにそんなことを言ってくれるなんて意外だった。

中学生になって朔がサッカー部に入部してからは、ふたりで一緒に帰ったことはなかったから。

どうしよう。すっごく嬉しい……!


「もし嫌だったら……別に良いけど」


朔が、ふいっと顔をそらす。


「いっ、嫌なんかじゃないよ! わたし、朔と一緒に帰りたい」

「そっか。良かった」

朔が、ふわっと微笑む。


うわ。朔の笑った顔、久しぶりに見たかもしれない。

歳のわりに大人びている朔だけど、笑顔はまだあどけなくて可愛い。


「それじゃあ千紗、早くこっち来いよ。さっさと来ないと置いてくぞ」

こちらに顔を向けていた朔が、前を向く。


「あっ、待ってよ朔」


わたしは、慌てて朔の元へと駆け出す。

こうしてわたしは、中学生になって初めて朔と一緒に帰ることになったのだった。
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