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王の思惑と揺れる運命

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タケルは、王から届いた手紙をじっと見つめた。手紙には、ただ「私用」とだけ書かれている。それが何を意味するのか、タケルにはわからなかった。

「私用って、どういうことだ?」彼は手紙を握りしめ、小さくつぶやいた。

これまで、王からの命令や依頼は常に明確で、国や村に関わる重要な内容ばかりだった。それが今回は「私用」という、あまりにも曖昧な言葉。だが、タケルはその不明瞭さに不安よりも好奇心を感じていた。困難を楽しむ性格の彼にとって、予測できない出来事はむしろ歓迎すべきものだった。

「ま、行ってみればわかるだろう。」タケルは軽く肩をすくめ、旅立つ準備を進めた。

翌朝、村の広場には出発するタケルを見送るために、村人たちが集まっていた。その中にリリスの姿もあった。彼女は少し離れた場所から、タケルの背中を見つめている。何か言いたげな表情を浮かべていたが、その言葉は結局口に出ることはなかった。

リリスには心に抱えている重い秘密があった。彼女の両親が国を追放された理由。それは、両親がリリスには決して伝えないと決めた、深い闇のような秘密だった。タケルはそのことを知らないが、彼が王都に向かうことで、いずれその真相にたどり着くことになるだろう。

「タケル、無事に戻ってきてね。」リリスは、心の中でそうつぶやいたが、声には出さなかった。

タケルは彼女に笑顔を向ける。「大丈夫さ。すぐ戻るから、心配しないでくれ。」

リリスは微笑み返すが、その瞳にはわずかな不安が宿っていた。彼女の表情に一瞬、タケルの心に違和感がよぎるが、すぐに旅立つ決意を固める。手紙に書かれていた「私用」が気になるが、タケルにとっては大きな問題ではない。むしろ、その不確定な内容に興味を持っていた。

「今度はどんな問題を解決することになるんだろう?」タケルは少しワクワクしながら馬に乗り、村を出発した。

王都への道中、タケルはさまざまなことを考えた。リリスの不安そうな顔、そして彼女の両親にまつわる謎。彼自身もその真相には触れていないが、リリスがその秘密を知らないことに違和感を覚えていた。何か大きな問題が隠されているような気がしてならなかった。

だが、今のタケルの優先事項は、王に呼ばれた理由を解明することだ。「私用」として呼ばれたこの旅が、単なる個人的な要件でないことは明らかだった。王がタケルを個人的に招くというのは、何か裏がある。王が彼を必要とする理由があるのだ。

そして、王宮に到着したタケルを待っていたのは、予想をはるかに超える展開だった。王は彼を真剣な表情で迎え、そして第一王女エリザベートの婿になってほしいと切り出した。

「えっ…?」タケルは一瞬、言葉を失った。

「エリザベートは、お前に一目惚れしているのだ。」王は、まるで当然のように話し続ける。

タケルは王の言葉に呆然としながらも、すぐにその意図を察した。これは単なる縁談の話ではない。王は、タケルの知恵と行動力を利用し、王国の未来を左右する計画を立てているのだ。

「タケル、お前は分かっているだろう。」王は静かに語りかけた。「私の娘、エリザベートは、お前に一目惚れしている。それだけではない。お前が王国にとってどれだけの存在になり得るかも、私は知っている。」

タケルは慎重に言葉を選んで答えた。「…光栄ですが、これは、私が理解しているような単純な縁談ではないのでは?」

王はタケルの目をじっと見つめ、深いため息をついた。「そうだ。その通りだ。エリザベートとの結婚は王家のためだけのものではない。王国の未来、そしてお前の力が必要なのだ。」

タケルは王の言葉に内心で戦慄を覚えた。「では、第一王子アレクシスはどうされるのですか?」タケルはあえて、その核心に触れた。

すると、王の表情が曇り、声が低くなった。「アレクシスは…頼りない。彼は王としての資質に欠けている。私がこの国をお前に託したいと思うのは、そのためだ。」

王の言葉に、タケルはある疑念を抱いた。「ですが、アレクシス殿下は、リリスとそのご両親の追放に関与しているのではありませんか?」タケルはリリスの両親の件について直球で尋ねた。

王は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに険しい顔に変わり、声を潜めた。「…そうだ。その通りだ。アレクシスはリリスの両親を追放するよう仕向けた張本人だ。だが、それは私の意に反して行われたことだ。私には何も知らせず、陰で策を練っていた。」

タケルは王の声に怒りと後悔の色を感じ取った。「なぜ、そんなことを…?」


王は拳を強く握りしめ、声を震わせた。

「アレクシスは…リリスに特別な感情を抱いていた。そして、彼女を手に入れるために、両親を追放するという卑劣な手段を取ったんだ!」

その言葉には怒りと失望がにじんでいた。「だが、彼は感情に支配され、自分の行動がどれだけ愚かで危険かも理解できない。そんな判断力のない者に、この国の未来を任せるわけにはいかない!」

タケルは王の言葉を聞きながら、胸に重くのしかかる衝撃を感じた。アレクシスの歪んだ執着心が、リリスとその家族に対するすべての悲劇の原因だったのだ。王自身がその事実を知り、今なお苦悩と怒りを抱え続けていることが、タケルにははっきりと伝わってきた。ずっと王の心の中でくすぶっていた怒りが、ようやく言葉となり、表に出たのだ。

「私は、見て見ぬふりをしていたかもしれないが、もう限界だ!」王は声を張り上げ、目を強く閉じた。「アレクシスには、王位に就く資格がない。彼が国を滅ぼす前に、この手で何とかしなければならないんだ…」

タケルは、その深い苦悩と決意を感じ取りながら、目の前に広がる王国の複雑な陰謀に巻き込まれつつあることを実感した。

「お前には、この王国を立て直す力がある。私は、それを信じている。」

王は真剣な目でタケルを見つめた。「だからこそ、エリザベートと結婚し、この国を導いてほしい。アレクシスには、もう期待はできない。」

タケルはその言葉に息をのんだ。「ですが、私はリリスとその家族を守るつもりです。そのために、王宮で何が起きていたのかを、もっと知りたいと思っています。」

王は一瞬目を伏せたが、再び顔を上げ、力強い声で言った。「その覚悟があるなら、お前はこの国を救うことができるだろう。リリスの家族の真実も、お前が解き明かすことになる。」

タケルは王の強い決意を感じ取りながら、自分自身の使命を再確認した。陰謀が渦巻く王宮で、リリスとその家族を守りつつ、この国の未来をどう切り開くべきか。その重い決断が、タケルの胸に静かにのしかかっていた。

そんなタケルが広大な王宮の廊下を歩いていると、目の前に現れたのは、リラックスした表情の女神だった。女神は王のそばで微笑んでいる。神殿に住む彼女だが、どうやら暇を持て余しているらしく、昼間は王妃の体を借りて楽しんでいるようだった。

「タケル…久しぶりね。」女神は優雅に話しかけた。

「えっ!?」タケルは驚き、立ち止まる。

「転生してからずっと見守っていましたよ。」女神は微笑みながら続けた。王宮内で見かける女神と、実際の王妃とは明らかに違う雰囲気だが、タケルはその状況に少し戸惑いながらも、女神の言葉を受け止めた。

女神の話によると、王にはちょっとした秘密があるらしい。夜になると、女神は王妃に体を返し、王は「大人の時間を楽しみたい」と、毎晩特別な薬を飲んでいるのだとか。女神は「そんな夜の相手なんてごめんだわ」とばかりに、昼間だけ王妃の体を借りて過ごしているそうだ。彼女はその間、宮廷生活を楽しみ、まるで「昼だけ王妃」として振る舞っている。それが、王宮内で密かにささやかれるちょっとした裏話になっているのだ。

タケルはこの奇妙な状況に微笑みを浮かべ、「なるほど、王宮には色々な事情があるようだな。」と感心した。王妃の昼と夜での性格の違いについては、さすがに触れずにいたが、その背後にある秘密に興味津々だった。

この奇妙な出会いと女神の話を経て、タケルは王宮の裏に潜む複雑な事情を改めて感じ取り、慎重に行動することを決意した。だが、心の中で静かに警戒心が芽生える。王の秘話を聞いたことで、表向きの王宮の姿と裏側に隠れた力関係が思った以上に複雑であることを悟ったのだ。

「さて、これからどう動くべきか…」

タケルが考え込んでいると、ふと背後から聞こえる足音に気づく。現れたのは、アレクシスの側近であるダリウスだった。彼はいつものようにうっすらと笑みを浮かべながら、タケルに近づいてくる。

「タケル殿、アレクシス様がお会いしたいとのことです。」

ダリウスの言葉に、タケルは一瞬だけ目を細めた。まさにアレクシスが動き始めるタイミングであることに気付く。リリスとの過去に執着するアレクシスの企みに、タケルはその真意を探るため、タケルは作戦を考えた。

「分かった、案内してくれ。」

タケルはわざと引っかかったふりをして、ダリウスに従うことにした。彼の直感が、これが次の大きな展開の始まりであると告げていた。そして案内された先に待っていたのは、リリスの兄だった。この出会いが何を意味するのか、タケルの胸中に新たな疑念と覚悟が渦巻き始める。
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