嘘もメイクもやめられない!

蒼獅

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影の力が動くとき、崩壊の旋律が始まる

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いつもと同じ朝だった。
窓から差し込む柔らかな光、クラスメイトの何気ない笑い声、教師の穏やかな声――それは、普段通りの一日を装っていた。

でも、サクラには違って見えた。
昨日、学校でノゾミに写真を見せたときのことが頭から離れない。

あの瞬間、ノゾミは明らかに動揺していた。目を見開き、一瞬口を開きかけたが、何も言わなかった。その沈黙が返ってサクラには鮮明に残っている。そして今日、ノゾミは平然とした笑顔を浮かべている。

(あの顔…。本当に平気だったの?)

サクラはその答えを見つけられないまま、机に伏せた。ノゾミの取り巻きたちの笑い声が遠く聞こえる中、昨日の彼女の様子が頭をぐるぐると巡る。

サクラは席に着くと、机に視線を落とした。誰とも目を合わせたくない。教室の反対側では、ノゾミが取り巻きたちと楽しそうに話している。まるで昨日の出来事なんて何でもないことのように。

――何でもないはずがない。

心の中でつぶやいてみても、ノゾミの堂々とした態度が不安を煽る。どんな報復をされるかわからない――そう思うと、サクラはじっとしているしかなかった。

休み時間になり、ノゾミがゆっくりとサクラの方に歩いてきた。周りの空気が変わる。サクラは机の端を握りしめた。

「おはよう、サクラ。」

明るい声。でもその裏には、冷たく鋭い光が隠れている。サクラは息を詰め、顔を上げられなかった。

「昨日の写真?ありがとね。あれ、良い記念になりそうだし。」

ノゾミは笑みを浮かべたまま机に手を置き、サクラの顔をのぞき込む。その視線は氷のようだった。サクラは何も言い返せず、ただ小さくうなずくしかなかった。

「ふふっ、じゃあね。」

ノゾミが背を向けて去っていく。取り巻きたちの笑い声が耳に残る中、サクラは深い息を吐き出した。汗ばんだ手を見て、自分が震えていることに気づいた。

(どうしてこんなに堂々としていられるの?)

その背中を見つめながら、サクラの胸に重くのしかかる不安は、ますます膨らんでいった。

学校が終わり、サクラは重い足取りで家路についた。
玄関の扉を開けると、リビングから漂う重苦しい空気がサクラを包み込む。

「ただいま。」

そう声をかけても、母親は返事をしなかった。険しい顔でソファに座り、じっと床を見つめている。サクラはなるべく静かに階段を上ろうとした。

「待ちなさい!」

母親の怒鳴り声が背中を貫いた。振り返ると、母親が立ち上がり、怒りの目を向けている。

「あんた、何してくれたのよ!」

驚くサクラに、母親はさらに言葉を浴びせる。

「お父さんが子会社に飛ばされるって言われたのよ!私だってパートを解雇されたの!全部あんたのせいよ!」

サクラは息をのんだ。どうしてこんなことを言われなければならないのか、全くわからなかった。

「サクラ、あんた同級生に何かしたの?パート先の店長が言ってたんだけど、あんたの同級生の親がすごく偉い人らしくて、私、クビになっちゃったのよ。」

母親の声は怒りで震えていた。その言葉の一つ一つが、まるで鋭い刃となり、サクラの心を切り裂いていく。

そして、母親の最後の一言が、とどめを刺した。

「…あんたなんか、生むんじゃなかった。」

「顔も見たくないから、家から出て行って…」

その瞬間、サクラの胸の中で何かが壊れた。母親の言葉が深く刺さり、抜けることなく彼女の心を締め付ける。

音が遠くに聞こえ、視界がぼやけ始めた。立っていることさえ辛く、足元がぐらつく。涙を流す余裕すらなく、ただ無表情でその場を後にした。

サクラは気づけば外に出ていた。どこへ行こうとしているのか、自分でもわからない。ただ、足が勝手に前へ進む。暗い夜道が続き、行き先のない不安と悲しみが押し寄せる中、彼女はただ歩き続けるしかなかった。

冷たい風が頬を刺し、涙が止まらない。目の前がぼやけて、街灯の光さえも遠く感じられた。

(私なんて…。生まれてこなければよかった。)

頭の中で母親の言葉が繰り返される。サクラは足を止め、スマホを握りしめた。誰かに助けを求めたい。でも、それは迷惑なんじゃないか――そんな考えが頭をよぎる。

「…助けて。」

小さくつぶやいたその声は、誰にも届かない。ただ震える手だけが、スマホを掴んでいた。

ポケットの中でスマホが震えた。「リュウ先生」の名前が表示されている。サクラは躊躇いながらも通話ボタンを押した。

「先生…。」

涙声でそう言うと、静かな声が返ってきた。

「サクラ、大丈夫か?今、どこにいる?」

その優しい声に、サクラは抑えていたものが一気に溢れ出した。

「先生…助けてください。」

泣きながらそう言うと、リュウ先生は落ち着いた声で言った。

「今から住所を送る。ここまで来られるか?待ってるから。」

その言葉が、サクラの胸の中にほんの少しだけ灯をともした。

送られてきた住所を頼りに歩き続けると、古い日本家屋が目の前に現れた。玄関を開けた瞬間、懐かしい線香の香りが鼻をくすぐる。

「ようこそ。ここでゆっくりしていきなさい。」

優しい声で出迎えてくれたのは、リュウ先生のおばあちゃんだった。温かいお茶と饅頭が差し出された瞬間、サクラは胸の奥にじんわりと広がるものを感じた。さっきまで凍りついていた心が、少しずつ解けていくようだった。それは久しぶりに触れた人の温もりだった。

サクラは手のひらに伝わる湯呑みの熱さを感じながら、ゆっくりと心を落ち着かせた。

リュウ先生にサクラは家であったことを全て話そうと決意した。泣かないように話そうと頑張ったサクラだったが衝撃的な言葉を言われたことの痛みは心の奥深くに刺さっていたことを改めて気づいた。

「…あんたなんか生むんじゃなかった」

その言葉を言われたことをリュウ先生に話した瞬間、サクラはどうしようもない切なさで胸がいっぱいになった。

辛そうなサクラを見て、おばあちゃんは優しくギュッと抱きしめた。

「いい子だから、大丈夫よ。1人じゃないから…」

おばあちゃんにギュッとされた瞬間、サクラの抑えていた感情が一気に溢れ出した。声を上げて泣き出すサクラを、祖母は何も言わず抱きしめ続けた。

少し落ち着いたサクラにリュウ先生がこれからの話をした。まずサクラの母親を呼び出して話をすると言ったのだが、その席にサクラも同席するように…という内容だった。

「今日は、ここに泊まっていくといい。」

「明日、サクラの母親と話をしてから、今後の対応を決めよう。」

リュウ先生は常に冷静だった。サクラが家のことはノゾミの両親が手回しをしたのだと確信しているかのようだった。サクラは信頼できる先生と心温まる場所とおばあちゃんがいてくれることで安心した。

「リュウ先生、生徒と同じ家でも大丈夫なのですか?」

少し心配になったサクラに、リュウ先生は微笑みながら言った。

「さすがに、まずいな。俺は自分の家に戻るから大丈夫だ」

少し笑いながらそう話し、ゆっくり休むように言った。
そしておばあちゃんに布団を準備してもらったサクラは布団に横たわりながら、天井を見つめた。

おばあちゃんに渡された上下の服…これはリュウ先生のかな?って思いながら眠りについた。

翌朝、目が覚めると制服が綺麗な状態でハンガーにかけられ、どこからか味噌汁のいい香りがした。

「おはようございます。」

「おはよう、眠れたかしら?」

おばあちゃんはサクラに優しく声をかけた。ご飯と漬物、焼き魚に味噌汁が食卓台に並んでいた。3人分?

「サクラ…おはよう。」

リュウ先生が挨拶した瞬間、サクラは驚いた。一緒に朝ごはんを食べるなんて思っても見なかったからだ。
おばあちゃんの話だと毎朝、ご飯を食べに来るということのようだった。

リュウ先生は普段、整髪剤で髪を整え、伊達メガネをかけている。今日はそのどちらもない姿だった。そんな姿を見てサクラは少しドキドキした。

「先生、メガネかけなくても大丈夫なの?」

サクラが何気に聴いたらリュウ先生が笑いながら言った。

「俺、視力かなりいいんだよね。」

サラサラした髪はいつも整髪剤で整えてから伊達メガネをして、教師をするのがリュウ先生の装いのようだ。
サクラは何か自分だけの秘密ができたようで嬉しかった。

そんな嬉しく、ときめくサクラだが、この日の放課後、母親との話し合いで自分の人生が大きく変わろうとしていることをこの時、まだ知らなかった。

「サクラ。お母さんには連絡したから、放課後に生徒指導室で話し合いだからな。」

サクラの表情が少し険しく、どこか心配そうな表情になった。

「俺がいるから大丈夫。絶対に1人にはしない。」

「少し怖いけど、先生がいるから大丈夫」

サクラは自分に言い聞かせた。怖いけれど、このまま逃げるわけにはいかない。
放課後のことを考えると…サクラは不安でいっぱいになった。

放課後の話し合いまで時間があるのに、時計の針がやけに早く進んでいるように感じ流のであった。


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