嘘もメイクもやめられない!

蒼獅

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「待ち伏せのウラ垢⁉ 誰かが私を見ている…」

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いつもと同じ朝が始まるはずだった──」

昨夜、サクラのスマホにふと目に入ったコメントが頭から離れない。

「サクラ、先輩と仲良しなんだね。でも、ネットで噂されてるよ?サクラって、先輩に媚びてるんじゃないかってさ。」

「…この子、ほんとにこんなにかわいいの?なんか裏あるんじゃない?」

誰がこんなことを書いたのか、どうしてそんな噂が広まったのか、胸の奥でモヤモヤが渦を巻いていた。SNSで作り上げた「ウソのわたし」が少しずつ現実に影響を及ぼしているような、怖さを感じずにはいられない。

「みんな、私をどう思っているんだろう…?」

不安を抱えたまま学校へ向かうと、教室に入って「おはよう!」と声をかけた瞬間、いつもと違う雰囲気が漂っていた。クラスメイトたちが一瞬で静まり返り、サクラの挨拶にほとんど反応がない。

(何かした…?私、何か悪いことでも?)

困惑しつつも席についたサクラをよそに、クラスメイトのノゾミが小声で他の子たちと話している。その話の内容が「サクラってさ、先輩に取り入ってるんじゃない?」や「裏アカのこと、知ってる?」と聞こえてくる。

サクラは動揺を隠しながらも自分の胸の中に芽生える不安を感じていた。昨夜のSNSのコメントが、クラスメイトたちの間で噂として広がっていることを実感した瞬間だった。

放課後、サクラは文化祭の準備の一環でノゾミたちと買い出しに行くことになった。指定された待ち合わせ場所に向かうと、しばらくしても誰も来ない。しびれを切らして電話をかけても、ノゾミも他のクラスメイトも出ない。

「ここで1人で待つのは…少し怖いな。」

待ち合わせ場所を立ち去ろうとしたとき、背後から声が聞こえた。

「SNSで人気のサクラちゃんだよね?」

振り向くと、そこには20代前半の男たちが3人立っていた。サクラの脳裏に、「逃げなきゃ」という言葉が駆け巡るも、体は硬直し動けない。彼らが次々と不穏な言葉を投げかけ、サクラの腕を掴んで引っ張り始めたとき、背後から低い声が響いた。

「お前ら…何やってるんだ?」

一瞬にして男たちの表情が変わる。彼女を助けに現れたのは、どこか見覚えのあるような、でも信じられないほど威圧感のある男性だった。

「リュウさん、ここで何を?」

男たちは一斉にその人物に挨拶し、口を閉ざした。

リュウは、ひとりの男に視線を向けたまま、冷ややかに言い放った。

「その子は俺の女だ。それ以上近づいたら…ただじゃ済まない。」

男たちは一瞬で逃げ去り、サクラはその場に立ち尽くしていた。サクラの頭の中では、助けてくれたこの「リュウさん」が担任のリュウ先生だとは気づけないまま、その場をあとにした。

翌朝、教室で

サクラは重い足取りで登校した。教室に入ると、いつも通り明るく振る舞っているが、リュウは昨日のことを思い出しながら彼女を見ていた。サクラが心の奥に抱える何かを感じ取ったリュウは、自らの過去を重ね合わせずにはいられなかった。

かつて、リュウの大切な友人が、自分の抱える問題に誰も気づかないまま、命を絶った。家族も学校も、リュウの友人の叫びを見過ごしていた。友人の家族が訴訟を起こしたときも、誰も責任を取ろうとしなかった。その出来事は、リュウの中に「守れたはずの命を守れなかった」という強い後悔と決意を生み出し、それ以来、彼は生徒の異変を見逃さない教師であろうと心に誓ったのだった。

(サクラをあの子と同じにするわけにはいかない…)

リュウは冷静を装いながらも、サクラの異変を見逃すまいと、心の中で強く決意していた。

サクラは自分の席に座り、心の中で昨日の出来事を何度も反芻していた。男たちに声をかけられ、腕を掴まれた恐怖がまだ体に残っている。助けてくれた男性のことを思い出すたび、少しだけ安堵するものの、クラスメイトたちの視線や小さな笑い声が気になって仕方ない。

「…何か変だよね、みんな。」

サクラが小さくつぶやいたその瞬間、リュウが教室に入ってきた。彼はサクラの様子に気づくと、席についている彼女に近づき、低い声で話しかけた。

「サクラ、放課後に少し話せるか?」

サクラは驚いたように顔を上げたが、リュウのまっすぐな視線にうなずくことしかできなかった。先生からそんな風に声をかけられることは初めてだったし、何か注意されるのかと少し不安に思った。

放課後、生徒指導室で

サクラは指定された生徒指導室の前で立ち止まった。深く深呼吸をして気持ちを整え、ドアをノックした。中からリュウ先生の声が聞こえ、サクラは扉を開けて指導室に入った。室内にはほのかにタバコの匂いと、優しい香水の香りが漂っていた。

リュウ先生は机から離れ、立ち上がると香水の香りがふわりと漂った。

「昨日のこと…あれ、かなり怖かっただろうけど、話してくれるか?」と、落ち着いた声で尋ねる。

サクラは一瞬、驚きに目を見開きながら、「えっ…昨日助けてくれた人って、先生だったんですか?」と戸惑いの表情を浮かべる。

リュウ先生は少し笑みを浮かべて、「だから、そっけない態度だったんだな?」と返した。

サクラは戸惑いながらも、ゆっくりと口を開く。「…私、よくわからないんです。どうしてあんなことが起きたのか。SNSには何も投稿してないのに、服装とか待ち合わせの場所まで全部知られてて…それに、誰も来なかったんです…」

話しているうちにサクラの声は震えていった。リュウ先生はその様子を黙って見守りながらも、心の奥に湧き上がる怒りを必死に抑えていた。



「サクラ、今の時代、SNSはすごい影響力を持っている。それを扱うには、ある程度の覚悟が必要なんだ。でも、悪い奴らも多い。だから自分を守る知恵を持っていなきゃいけない。」

サクラはその言葉に、胸が少し締めつけられるように感じた。自分が「誰かに見られている」という不安がさらに強まる。

リュウはそんな彼女を見つめ、ふと、過去の自分と友人を思い出した。あの時、もっと周囲が真剣に耳を傾けていれば、友人の命は救われていたかもしれない。

「サクラ、これからは俺に何でも話してほしい。…落とさなくてもいい命を、俺は守りたい。」

サクラはその言葉の意味を考えながら、リュウの真剣な顔を見つめた。彼の目に何か深い決意が宿っているようで、自分が少しだけ救われた気がした。

サクラはリュウ先生の言葉に少し安心したものの、不安は完全には消えなかった。

「先生、私…どうしてこんなことになってるのか、全然わからないんです。」

リュウは彼女の肩に手を置き、少しだけ視線を落として言った。

「サクラ、お前は優しいからな。人を信じることも悪いことじゃない。でも、これからは自分を守るためにも、見極める目を持つ必要がある。お前にはその強さがあるはずだ。」

サクラはその言葉に励まされ、少しだけ自分に自信が湧いてきた。

「はい…ありがとうございます、先生。」

教室を出るサクラの後ろ姿を見つめながら、リュウは心の中で誓っていた。自分が守れなかったものを、今度こそ助けてみせると。

次の日の朝

いつもと変わらない朝が始まるはずだったが、サクラの心にはまだ不安が渦巻いていた。それでも、教室に入ると明るく「おはよう!」と声をかけた。だが、返ってくる返事はどこかよそよそしい。

サクラはいつもの席に座り、周囲の視線を感じながらも気にしないふりをした。しかし、隣の席に座るノゾミがスマホを手に取り、意地悪そうに笑いながら話しかけてきた。

「サクラ、見たよ。昨日のあれ、本当だったんだね。」

サクラは驚き、言葉を失った。ノゾミのスマホ画面に写っていたのは、昨日、知らない男性たちに声をかけられた瞬間の写真だった。どうやって撮られたのかもわからないまま、サクラはただその画面を見つめた。

「…これ、誰が撮ったの?」

ノゾミは笑みを浮かべたまま肩をすくめ、「さぁね。でも、なんか楽しそうだったよね?」とあざけるように言った。その笑顔の裏に潜む悪意に気づき、サクラは言葉が出なかった。

放課後、再びリュウ先生のもとへ

サクラは授業が終わるとすぐにリュウのもとへ向かった。リュウはサクラが事情を説明すると、表情を一変させ、彼女を守る決意を再び強めた。

「サクラ、これ以上のことが起きないよう、俺が見ている。だが、お前も…強くならなきゃいけないぞ。」

サクラはその言葉に励まされ、心の中で何かが変わり始めるのを感じていた。リュウが隣にいる限り、自分も変わることができるかもしれない。

その日の夜、サクラは家に戻りながらリュウ先生の言葉を思い返していた。「強くなれ」という言葉は心に響いたものの、どうやって自分を変えていけば良いのかわからず、不安がぬぐえなかった。

スマホを手に取り、SNSを見てみると、さらに心が沈んでいく。「サクラって、先輩にすり寄ってるんじゃない?」「裏があるんじゃない?」そんな言葉が飛び交うコメントが増え、自分がどんどん追い詰められていくように感じた。恐る恐る、リュウ先生にも話したいけれど、また迷惑をかけるのではないかとためらってしまう。


翌日、学校に行くと教室でノゾミがサクラの噂話をしているのが耳に入ってきた。サクラは耐えきれず、クラスから抜け出そうとしたその時、リュウ先生が現れる。リュウ先生はサクラに声をかけ、彼女を保健室へと連れ出す。

そこでリュウ先生は自身の過去を少しだけサクラに話し、「人に頼ることも強さの一つだ」と言い、サクラの心に少しずつ変化が生まれていく…。

生徒指導室でリュウ先生が話し出すと、サクラは意外にも自分が聞き手に回る形になった。先生の話は短いが重みがあり、次第にサクラの心に響いていく。

「俺にも、ある友人がいたんだ。自分の悩みを抱えて、周りに気づかれないまま…命を落としてしまった。学校や家庭は彼が抱える問題に気づきながらも、本気で向き合おうとしなかったんだ」

リュウ先生の話を聞きながら、サクラは胸が締めつけられる思いがした。自分の抱えている悩みやSNSでの自分への攻撃に対して、まさに周りが無関心で、真剣に向き合う人が少ないと感じていたからだ。

「サクラ、お前は逃げずにここに来ている。それがまず強い証拠だ。だが、さらに自分を守る方法も学んでいかないといけない」

サクラはゆっくりとうなずき、「どうすればいいんだろう…」と、声にならない問いが頭をよぎる。

リュウ先生はそんなサクラの表情を見て、優しく言った。「まずは周りにしっかりと目を向けること。少しの勇気でも、助けを求める手を伸ばすこと。それを怖がるなよ」

その言葉に、サクラは少しだけ背筋を伸ばすような気持ちになった。彼女の中に、少しずつだが、自分にできることが見えてきた気がした。

その帰り道、サクラはもう1度スマホを開き、SNSに書き込まれている噂や誹謗中傷に目を通した。そこには悪意に満ちた言葉が並んでいたが、どこか以前よりも落ち着いた気持ちで見られる自分がいた。

そして、サクラは小さく決意を固めた。「私も、ちゃんと自分を守れるようにならなきゃ…」

学校生活は、サクラにとってまだ試練の場が続くだろう。しかし、リュウ先生の言葉が、彼女の中に希望の小さな種を植えたのだ。

それから数日後、サクラはついにノゾミに直接「SNSで書き込んでるのって…あなた?」と問いかける決意をする。そのとき、思いがけない展開がサクラを待ち受けていた。

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