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第3話 学びの時間だ!

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 スイゼスたちと出会ってから十数日、薄いベッドに寝転がると、頭の中で今日の情報の整理することにした。

 警戒されないように長時間の説明を受けられないから、情報が途切れ途切れにやってきて結構大変なんだ。大学にいた頃より真面目に頭を働かせてる気がする。

 仲間たちによると、俺たちが働いているリグド・テランは大国で、周辺国全てと敵対している国家らしい。

 スイゼスたちの多くは、ここから南方にある自由都市同盟ロジスタルスの出身者だ。都市国家が集まって構成されており、人種も様々。

 リグド・テランとも過去に何度か交戦している。現在はそれほどでもないようだけど小競り合いが続いているそうだ。

 彼らがここを脱走しようというのも理解できる話だよな。
 俺たちが採掘している赤光晶は兵器に使用されている。

 つまり、自分の家族や友人を殺すために働かされているようなもんなんだ。
 そんなの認められるはずがないだろう。
 俺も話を聞いてるうちに、この国に対して怒りが沸いてきていた。
 主に今の状況と彼らの境遇のせいで。

 本当なら情報はニュートラルに受け取りたいけど、一方からの話しかを聞いていない以上、そんなことは不可能なんだけど難しいな。

 そして本日のメインディッシュ。

 赤光晶を含んだ物質は触れた者の意志によって硬くなったり、柔らかくなったりするってこと。混ぜ合わせた合金がロボの装甲に使われていて、操者を守ってくれる。

 でも接触している時だけだから、搭乗してない時は装甲も弱くなる。
 それでも金属自体の硬さはあるにはあるけど、少しだけ心もとない。

 赤光晶の影響は当然人体にもある。

 旧式手術を受けた者は血管を通して全身を巡っているから、影響が出てくるのは当然。手術を受けた記憶はないけど、俺の身体にも影響があるのは確かだった。

 鉱山で鍛えられたと思った鋼鉄のような俺の肉体は、実の所、自らの想像力によって硬くなっていたに過ぎなかったのだ。

 腹は割れてないけど、自分の努力の成果だと思っていただけにがっかりだ。

 その証拠に想像力を駆使すると、自慢のボデーはふにゃふにゃと柔らかくなってしまった。おかげで耐久力が上がって機人の加速にも耐えられるそうだから、文句は言えないんだけどさ。

 さて、そろそろ眠るかな。
 操者は休むのも仕事だからな。
 これって一度は言われてみたいセリフだよな。



 ————————————————



 目が覚めるとなんだか辺りが騒々しい。
 もしかして俺たちの計画がばれたのか。

 一瞬そう思ったけど、そういう訳じゃないらしい。
 食堂に入ると、大きな声と一緒に熱気が伝わってきた。

「お前らも飯食ったら見に行ってみろよ。さっき発見された赤光晶は質が半端じゃねえぞ。大きさも今までの比じゃねえ。見えてる部分だけでも最高記録を超えてたぞ」

 これまでの最高記録はおよそ300cmくらい。
 普段はおとなしい奴も一緒になって喜ぶくらいの記録らしい。
 それだけのサイズなら特別ボーナスも間違いない。

 でも全員が喜んでいるわけじゃない。
 スイゼスたちは表情を取り繕っているけど、内心穏やかじゃないはずだ。
 短い付き合いだけどそれくらいは分かる。

 これだけ巨大なサイズならどんな兵器にでも使用できるに違いない。
 もしかしたら戦略級兵器にもなるのでは、なんて考えてしまう。
 ふとスイゼスと目が合うと、首をクイッと小さく揺らした。
 これはちょっとツラ貸せやの合図だ。
 まあ、協議が必要だよな。

 その日の休憩時間、俺たちはいつものように休憩室の一角に集まっていた。

「まず間違いなくここの警備は強化されるだろう。作戦の前倒しが必要だ」
「いや、あのデカブツの搬送を待てばいいんじゃないか? そうすれば警備は元に戻るだろう」
「その可能性はないとは言えない。けど奴らの上層部は他にもデカブツが眠っていると考えるかもしれない。そうなると警備は継続的に強化されて脱走は絶望的だ」

 新入りの俺は話を聞くだけで協議には参加しない。
 彼らの方が状況を正確に掴んでいるだろうし。

 だからといって、いつまでも暢気に後ろを付いて行くだけじゃ駄目なのは分かってる。彼らから学んで、これからの判断材料を増やすんだ。

 結局、短い時間で結論は出なかった。
 とりあえずそれぞれが持ち帰って作業に戻っていくことになった。
 でも作戦を実行するなら急がないといけない。

 その日の午後、飯を食い終えると俺はデカブツと対面することになった。
 岩肌から突出する赤光晶。
 サツマイモみたい形で横向きに突き刺さっている。
 まだ全貌は見えていないけど、みんなが興奮するのはよく分かる。

「はぁ、こりゃまた随分とデカいな」
「俺はここに来て、もう七年以上になるがここまでのもんは初めてだ」

 俺の独り言に先輩労働者が反応する。例の仲間じゃないけど、親切にしてくれてるし、言葉の習得で世話になった一人だ。でもなんだか以前より距離を感じてしまう。

 きっとそれは俺がここを離れる決意をしたから。少しだけセンチメンタルになる俺をよそに先輩は話を続けている。

「大きさもそうだし、質も随分いい感じだ。俺の手元にありゃ、飛び上がって喜びたいくらいさ。この先一生働かなくてもいいほどの代物だからな」
「そりゃ、いいっすね。やっぱアレに使うんすかね?」

 僅かに視線を入口の方に向けた。薄暗い通路を抜けた先には装甲機人の姿がある。

「さあな。まあどんなに質の良い赤光晶でも、その分操者に求められる資質も高くなるからな。あんなん扱えるなんて、それこそ、レグナリアにいるあの女くらいじゃねーか? 一般兵士にとっちゃ宝の持ち腐れさ。どうせなら、発電所に使ってくれた方が俺としては嬉しいね。これだけデカけりゃ余裕だろうし、なんでもできそうだ。まっ、どうせ俺達には縁のないことだけどな」
「まあ、そうっすね」

 先輩は豪快に笑って作業に戻っていく。
 俺も怪しまれないようにそれに続く。
 それから二時間後、俺は体調不良になって倒れた。

「大したことはない。ただの疲労だね。ちょっと休んだら、次の作業に参加してから眠るんだよ」
「うす」

 医務室を出て再び職場に戻る。
 別に病気になったわけじゃない。
 仮病だ。

 ただ作業時間をずらす必要があったんだ。
 目的はもう一人の操者の話を聞くため。

 決定した明日の作戦に向けて、操縦経験のある人物から話を聞くためだ。
 本来であればもっと時間に余裕があったはず。
 それが一夜漬けになってしまうとは。

 つい不安になってしまう。

 それを加速させるのが目の前にいる人物だ。

「君がケンセイ君? 僕はロイドだ、よろしく頼むよ」

 このロイドという青年がもう一人の操者。
 童顔だけど二十六歳と年上。

 大人しそうな見た目とは裏腹に傭兵としての活動経験があり、装甲機人の操縦経験も豊富。

 ど素人の俺とは違い、戦力になることが期待されている。
 その分緊張度合いも段違いなんだろう。
 腹が痛いのか、何度もさすっているのが目に付く。

 俺はロイドさんから基礎的な事のレクチャーを受け始めた。
 機人の操縦方法の他にも無線機の設定方法なんかも教わった。

 実物がないから練習できないけど、緊張感があるせいか、するする頭の中に入ってくる感じがする。

 その時、カンカンカンとリズミカルに岩を削る音が聞こえてくた。
 俺たちは即座に会話を中断して、作業に戻って監視をやり過ごす。
 俺への教育は作業中に行われているから、監視の目を盗んでやる必要がある。

 ついつい話に集中してしまうので、仲間たちが音で作業に戻れって知らせてくれるんだ。

「ふぅ、行ったか」
「つい話に夢中になっちゃいましたね」
「だね。それよりもう戻った方が良い。ひと眠りしたら作戦開始だからね。体調管理だけはしっかりしとくんだよ」

 俺は一人作業を終えると、飯を食って寝室に向かった。
 本来であればもう少し先の時期に決行する予定だと聞いていた。

 外はまだ寒い時期なので、薄着のままで飛び出したら、死んでしまうリスクもある。それでも今やらなければ二度とチャンスがないのならやるしかないい。

「うす、任せてください」

 寝室に戻り、毛布をかぶって最後の確認をする。

 三人いる敵イステル・アルファの操者は俺たち同様に交替で勤務している。
 一人が監視、一人が待機という名の休憩、一人が睡眠だ。
 もちろん他にも監視の目はあるけど、より大きな問題が装甲機人の存在だろう。

 俺たちが二機を抑えようとしても、二人は起きているわけだから最低でも一人はどうにかしなくちゃならない。飯に下剤でもいれてトイレに篭もらせることができればいいけど、俺たちがどうにかできるものでもないから頭を悩ませていたらしい。

 ところが一年くらい前にやってきた敵操者の一人が、とんでもない酒飲みだったという。二日酔いのまま出勤してくることもしばしば。

 他の操者よりも階級が上なのか、これまでも注意されることなく過ごしている。
 そのせいか、やりたい放題で、コイツだけは理不尽な暴力を振るってくる。

 とはいえ、二日酔い野郎の存在があるからこそ隙が生まれているのも事実。
 コイツが待機任務の時を狙って計画を発動させるんだ。
 かなりの酔っ払いなので作戦成功の見込みは結構あると思う。

 ただ、こちらにも不安要素はある。

 一番の問題点はやっぱり俺だろう。
 言葉の習熟は順調だと思ってるけど、まだまだ完璧とは言い難い。
 細かなニュアンスが伝わっていない可能性も否定できない。

 ロイドさんとは作業グループも寝室も違ったから、ついこないだまで面識すらなかった。直前になって漸く少しだけ話せるようになったくらいで、具体的なアドバイスを貰える時間が充分にあったとは言い難いし、連携なんて全く想定していない。

 そうだとしても俺の心の中では、失敗するんじゃないかっていう心配よりも、装甲機人に乗れる喜びの方が勝っていると思う。

 ああ、早く明日になんねえかな。
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